140話 少年少女達よ、協力しよう
一方、モーレア達はニヴルヘイム・バハムートの猛撃の中、隙をついて反撃をするが魔竜にはあまり効いていないようだ。おそらくこの黎明の塔から出ている魔力の影響で前回よりも強化されているのだ。
「まったくきついなぁ!」
「弱音を吐かないの!少しずつでもダメージを与えるのよ!」
「わかってらぁ!」
モーレアとガイルは二手に分かれて左右から魔法で攻撃する。すると放った魔法が吸収され魔竜の体は回復していく。
魔竜は翼から雷属性魔法を2人に放った。まともに喰らってしまい思わず膝をつく。
「はぁ?前はこんな能力なかったぞ!?」
「それはそうさ、前回の経験を活かしてこの魔竜には改造をしたからね」
「こぉんのマッドサイエンティストが!」
「ありがとう、褒め言葉として頂くよ!」
ゼルンは魔法陣の中でゆったりとコーヒーを飲んでいる。魔竜の隙をついて彼に攻撃するも魔法陣の周りにはバリアが張ってあり攻撃が通らないでいる。
一方、サンソン、ボーマ、ナリタは下に降りる階段から登ってくる人形達の相手をしていて援護に回れないでいる。
「くそっ!なんて数だ」
「おいサンソン、このままじゃあいつらの援護どころか人形共があの魔竜の援護に回っちまうぜ」
「なにかあの人形達を一掃できる方法はないのかしら」
ナリタは人形を蹴って階段から落とし、ドミノ倒しのように人形達は連鎖的に落ちていく。その後ワイバーンは火球を放ち人形を焼いていく。
しかし人形の数が減っているようには見えないぐらいまだまだいる。
ボーマもナリタの攻撃を参考にして大槌で人形を飛ばしてボウリングのピンのように並んでいる人形達を倒す。
サンソンは2人に強化魔法を使いながら上がってくる人形達を切り捨てていく。
ドカーンッ!!
下のフロアから爆発音が聞こえた。サンソンは誰がやったのかを確認するもボーマもナリタも自分ではないと答える。
そして上から登ってくる何かを確認するとそれは騎士の形をしたスライム……スライムナイツだった。
スライムナイツに続いてミーア、ラルマ、ラーシャが登ってくる。
「みんな!お待たせ!!」
「おいミーア!危ないから城にいろって言ったろ!」
「皆が戦っているのに待っているだけなんてできないよ」
「あたし達だってマリー様を助けたい!それにうーちゃんを止めたいんだもん!」
ミーアと話している間に魔竜は3人を食べようと口を開けるが、モーレアは魔竜の顔面に拳で思いっきり殴る。魔竜は壁まで飛んで行き反撃をしようとするが、脳を揺さぶられた所為でひるんで倒れる。
「何子ども達を食おうとしてんだ?ぶっとばすぞ」
「もうぶっとばしているわよ。全くあなたって何かを守る時の戦いは物凄く強くなるわよね。それが自分の近いところに入ればいるほどに」
「それが俺の騎士としての誇りだからな。「騎士は役職ではない。己の誇りだ」って教えてくれたのはあんただろ?」
モーレアは剣を構える。ミーアは魔竜から不純な魔力が流れ込んでいる事に気づきモーレアに報告する。
「もーちゃん。あの竜は操られているよ!たぶんあそこにいる白い服の人が操っているんだよ。今でも魔力を無理矢理流れ込まされて苦しんでいる……かわいそうに」
「“召喚した”じゃなくて“操っている”か……なるほどな、じゃあ魔竜よりもあのマッドサイエンティストをボコった方が早いって訳だ」
「君達にできるかな?この私に傷をつけることが」
ゼルンが余裕な態度で挑発すると矢が飛んで来てその矢はバリアに当たった瞬間に爆発する。
一瞬びっくりしてしまったがバリアは破られてはいない。そして今の攻撃にはとても見覚えがあるゼルンはご機嫌になる。
階段から登ってきて矢を放ったのはルアール・アリル、触れた物に魔力を込める爆発物へと変化させ自由自在に爆発させる能力を持つ女性で帝国から“ボンバーガール”、“帝国の爆弾魔”と呼ばれている。
「やぁ博士、元気してた?」
「一度死んだけどこの通り元気さ。君も変わりないね」
「まぁね、それにしても博士が敵に回るなんて正直驚いたよ。でもこっちもラピスちゃんを攫われているからね……敵に回るってことはどういう意味かわかっているって解釈でいいんだよね?」
「ああいいとも。お互い存分にやりたいことをしようじゃないか!」
ゼルンの合図と共に魔竜は口から炎を吐く。それを白い鎧を纏った男が前に出て炎を薙ぎ払う。
彼はジャック・ウォーガン、デスニア帝国の騎士で“白騎士”と呼ばれている。
彼の鎧はゼルンによって作られた特殊な魔石を使う事で召喚し、鎧にはマジックパウダーの作用を利用しており人間離れな行動を可能としている。
「させませんよ博士」
「おおジャック君!久しぶりだな。全くウインチェル君に殺されてなきゃ私も君達側に入れたかもしれないのにな……残念だよ」
「直ぐに楽にしてあげますよ」
「お断りするよ、私は今を楽しんでいるからね」
ゼルンはポケットから薬を取り出してそれを飲んだ。体はどんどん大きくムキムキになっていく。
バリアを張っていた魔法陣を壊して前に出る。
「私も今から参戦させてもらうよ」
「はっ、いい度胸してるじゃねぇか!」
モーレアはゼルンを斬り掛かろうとするとゼルンはモーレアの剣の刃を指二本で止め、そのままサッカーボールを蹴るかのように吹っ飛ばす。
「全員で掛かって来なさい。でないと実験のデータが取れないだろう?」
ゼルンと戦う中、魔竜は爪で切り裂こうと襲い掛かる。この魔竜から流れている魔力をどうにかできないかミーアは考えるとラルマはひらめいてガイルに相談する。
「ガイルさんが持つ剣で魔竜の魔力を吸い取ってそのまま何処かに放出することはできますか?」
ガイルが持つ剣、『サキュバス・テンプテーション』は相手の体力と魔力を吸い取って力に変える特殊な魔剣だ。それを使えば魔竜の助けることができるかもしれないとミーアもガイルにお願いをする。
ガイルは2人の提案に乗りラルマのサイコキネシスで魔竜の背中まで飛ばしてもらう。
「大人しくしなさい!」
ガイルは魔竜の背中に剣を刺す。魔力を吸い込むと剣は黒く染まっていき次第にガイルの体を蝕んでいく。
意識を強く保ち必死に剣を握り続ける。
魔力から感じるのは怒り、憎悪、悲しみ。勝手に感情が暴走して頭がおかしくなりそうになる。
「ぐおおおおおお!!!」
「頑張れ!ガっちゃん!!」
次第に魔竜は大人しくなりその場に倒れ込んだ。ガイルはこの負の魔力を放出する為にゼルンに突進する。
「恋慕のぉ……ペンデュラム・バックブリーカー!!!」
ペンデュラム・バックブリーカー、それは相手をお姫様抱っこして(正確には頭部や上半身を片腕で抱え込みながらもう片方の腕で相手の片足を抱えて上方へ持ち上げる)自らの片膝を曲げながら座り込み、同時に相手の背中を膝頭に落してその衝撃でダメージを与える技だ。
フロア中にズシーンッ!!と地響きのような音が広がる。
ゼルンは突然の出来事で理解が追いつかず立ち上がろうとするが、どうやら背骨が折れてうまく起き上がれない。
「うぐぅ!?」
「今だ!」
ミーアは魔竜に近づき魔竜に治療魔法で体を癒した。それを見たボーマは何やってんだと止めに入ろうとするとラルマとラーシャが通せんぼする。
「ごめんね。痛かったし苦しかったでしょ?でももう大丈夫だよ!あなたを拘束する者は誰もいない。あなたはこれから自由だよ!!」
「………………」
魔竜はミーアの言葉を理解したのかゆっくりと壁側に行き、口から火球を吐いて壁を壊す。そして翼を広げて大空へ飛び去っていった。
「ば、馬鹿な。大陸一つを滅ぼすほどの魔竜が……何故だ!?」
「違う!あの子本当は戦いたくなんてなかったんだよ!でも誰かが無理矢理召喚したり命令させるから怒りで我を失っていたんだ」
「最初から悪いことをする召喚獣なんていないよ。召喚士の心掛け次第で召喚獣は善にも悪にもなるんだよ」
ミーアは飛び去った魔竜にバイバイと手を振った後、ゼルンがいるところに振り向く。そして魔法陣を展開して詠唱する。
「希望へと導く金色の騎士よ!その力で未来へと導き、闇を切り裂く光となれ!いでよ、デルニエ・エスポワール!!」
魔法陣から召喚されたのは黄金の鎧を纏った騎士。ゼルンはマジックパウダーの力で即座に回復してガイルを殴り飛ばして召喚された騎士に襲い掛かる。
「たかが召喚獣が増えただけか、我が力で粉々にしてさしあげよう!」
「あの子を無理矢理操っていたおじさんにはわからないと思うから教えてあげるよ。本当の召喚獣の力を!」
騎士の鎧に触れた瞬間、ゼルンの手は塵になって崩れていく。驚いて距離を取ろうとすると騎士は剣を振ってゼルンを一刀両断する。
「この子はね、あらゆる邪悪を振り払えるんだよ」
ミーアの言葉が届いているかはわからないがゼルンは倒れ消滅していった。




