14話 眠りの女皇と凱旋
イスフェシア城に着いてIMSPを解除し、すぐに医務室に向かう。そこにはウインチェル、モーレア、そしてベッドで寝ているマリーの姿があった。ウインチェルにマリーの容態を聞くが、テレン聖教皇国で気を失ってからまだ目が覚めていないらしい。
後から医務室に銀髪で白衣を着た女性が入って来る。彼女はここの医務室を担当している魔導医師、アルメリア・ラムケット。元々は裏ギルドの暗殺部隊の一員だったが組織に裏切られて殺されそうになっている所をモーレアに助けられ、今ではこの城の魔導医師として働いている。
魔導医師とは回復魔法に特化した医者の事である。
「貴方が異世界から来た勇者様?」
「初めまして、オゼットです。」
「アルメリア・ラムケットよ。カタナリ大草原での戦いを見させてもらったけど凄かったわね。1時間も掛からずに戦争を終わらせるなんて」
「ウインチェルが作ったこのIMSPのおかげですよ」
そう言ってIMSPをアルメリアに見せる。彼女はIMSPを見ると、こんなので戦争を終わらせられるのかと不思議そうな顔をしていた。
「それでアルメリアさん。マリー様の容態はどうなのですか?」
「命に別状はないわ。恐らく過去の記憶を思い出した時に膨大な情報が脳に負担を掛け、意識を失ったのだと思うの。だから安静にしていれば問題なく目が覚めるわ」
良かったとオゼットはホッとする。モーレアは何やらそわそわしていたが、少しして真剣な表情でアルメリアに質問する。
「なぁ、アルメリア。この御方は本当にマリー様なのか?」
モーレアの発言で場の空気が重く感じる。彼女は一ヶ月前に仮面の男に誘拐されたが、ミーアとラルマが山の奥で発見し、医務室に運んで治療したがミーア達や過去の記憶が思い出せない記憶喪失になっている事がわかった。
そして先程の仮面の男を見た時に何かを思い出し、頭を痛くして倒れたれる。その時に彼女はオゼットの事を翼と呼んだ。この人がマリー・イスフェシアならオゼットを本名で言えるはずはないとモーレアは言う。
オゼットも彼女はもしかしたら真理じゃないかと疑問には思っていた。
「……実のところを言えば本当に不思議でしょうがないのよね。体も血液も全く同じで、性格も私達が知っているマリー様なのだから」
「じゃあお前、わかっていたんだな?」
「確証はなかったけどね。でもモーレアが言うように知らないはずの知識を知っていたから、もしかしたら偽物じゃないかと思っていたわ」
目の前で眠っている人は本当に誰なのか?モーレア達は考え込む。
「アルメリアさんに質問をしますがミーア達が彼女を発見してこの医務室に運ばれた時、どんな服装をしていましたか?」
「確か…Yシャツに、見たこともない黒い服を着ていたわ。燕尾服みたいな感じのやつ」
「燕尾服だと?まさかあの変態仮面はマリー様を執事か何かにしようとしたのか!?」
「それなら執事ではなくてメイドをさせるのでは?」
アルメリアの話を聞いてオゼットは確信した。目の前にいる女性は真理だと。
「それはスーツですね。俺達がいた世界で仕事をする時などに着る服装です。真理は仕事終わりに買い物をすると親に連絡してそれ以降、連絡が取れなくなったのでその時に仮面の男に攫われたんだと思います」
「では、今ここで眠っている方は貴方の世界にいた?」
「俺が探していた人物、真理です」
オゼットの発言で3人は沈黙してしまう。もしオゼットの言っている事が本当なら、本物のマリー様は何処にいるのか?その真理という人物をどうするか?3人はこれからの方針を考える。
「とりあえず、この話は後にしよう。先にテレンとの同盟関係を正式にしなければならない。オゼットは俺と一緒にテレン聖教皇国に行くぞ。ウインチェル、申し訳ねぇがもう一回フィールド・テレポートで転移してくれねぇか?」
モーレアは一度冷静になって指示を出す。ウインチェルは魔法陣を展開し準備を整える。
「アルメリアはその女性を頼むわ、目を覚ましたら連絡してくれ」
「わかったわ」
「それでは行きますよ。フィールド・テレポート!」
オゼット達はテレン聖教皇国に転移する。
イスフェシア皇国から北東にある街アーザノイル、この街は元々何処の国にも属さない街だったがデスニア帝国の進軍によって占領され、今はデスニア帝国の支配下にある。
仮面の男はウインチェルの転移魔法によって海のど真ん中に転移させられたが、近くに運航中の船をシージャックし、転移魔法『ゲート』を使ってここまで来た。
街から少し外れた所にある研究所に向かうと研究員達が薬品や魔石の開発、人体実験をしている。ここの主任研究員であるゼルン・オリニックは仮面の男に気付き、挨拶をしに行く。
「これは中佐殿、ご機嫌麗しゅ………なんか、ずぶ濡れになっていますね?」
「ああ、任務の最中に敵の魔術師によって海に転移させられてな。あの女、次に会ったらたっぷりと可愛がってやる」
「ほお!!転移魔法とは珍しい!!そのような魔法を使える魔術師が他国いるとは…是非とも我が研究チームの一員として働いてほしいですな!」
ゼルンは話を聞いて興奮する。仮面の男はこの人のペースで話をすると話しが進まないと思い、要件だけ言う。
「そんなことより博士、例の物は完成したのか?」
「まだ完成はしていないが、試作品は出来ている。そして君に頼みたい事があってこの試作品を魔物に使ってデータを取ってきて欲しいのだよ。」
ゼルンは仮面の男に小さな箱を持たせる。中身を確認するとメモ用紙と空の注射器、白い粉が入っている。
「…わかった。陛下に報告した後にやるよ」
「よろしく頼むよ君が来てから私は毎日が楽しい!!研究も進むし、これも陛下が君を召喚してくれたおかげだよ!本当に、本当に!感謝するよ!!」
「お、おお…そりゃあ良かったぜ…じゃあ俺は行ってくるから仕事頑張ってくれよな」
「任せたまえ!!」
仮面の男は『ゲート』を発動し、デスニア帝国の首都、ディシアに向かう。
オゼットとモーレアはテレン聖教皇国の城に到着し、ハーゲン皇帝に会って同盟関係を正式に結ぶ事に成功、そしてオゼットによって捕虜にされた騎士達を解放する為にウインチェルに通信魔法を飛ばすと数時間後、巨大な黒い扉が現れ、騎士達がぞろぞろと出てくる。カタナリ大草原で凍らせられた騎士達も魔法が解除され、ハンソンが状況を説明し、騎士達は凍えながらも城に帰還する。
その後、オゼット達はイスフェシア城に帰還、モーレアは他のメンバーと騎士団を集結させ、今回の戦争の終結及び勝利を宣言、そしてテレン聖教皇国に同盟を結んだ祝いに食堂でパーティーを開くことにした。
「では諸君、グラスは持ったか?行くぜ~~乾杯!!」
「「乾杯!!」」
全員がワイン(一部の人はジュース)を飲み賑やかに騒ぐ。モーレアは騎士達と飲み比べをし、ガイルは城内にいる約3万人分の料理を作るのは困難だろうと察して調理場で料理長の手伝いをしにいく。ミーアとラルマはデザートを食べながら2人で遊んでいる。
ウインチェルはアルメリアと雑談をしながら今回の戦争に勝利をもたらした主役を探しにいくが、食堂の何処にも見当たらない。もしかしたら先に部屋に戻ったのかと思い、探すのを止めてパーティーを楽しむことにした。
オゼットは食堂を抜け出して、医務室に向かい真理の様子を見に行くが、彼女はまだ目が覚めないみたいだ。
「お前を捜す為に異世界にやって来たがまさか、こんなにも近く、ほとんど一緒にいたなんてな……何か笑っちまうよな。……今まで気付いてやれなくてごめんよ」
彼は寝ている彼女を後にし、涙を流しながら寝室に戻るのであった。
次の投稿は来週以降に投稿させて頂きます。