139話 最強の料理人
人形達はイスフェシア皇国とテレン聖教皇国に分かれて進み続ける。テレンの騎士団は人形達を国に入らせないように確実に殲滅しにワイバーンで焼いていく。
一方、イスフェシアの騎士団も人形達と戦い殲滅するが何度切り捨ても人形は立ち上がって襲い掛かる。それだけでなく人形の数が段々と増えていくのだ。騎士達は段々と疲れ始めて行くが人形達に疲れなど存在しない。長期戦になればなるほど不利になるのである。
「ち、ちくしょう!あの気味の悪い人形は何なんだ!?」
「隊長!このままでは防衛ラインを突破されて国に侵入を許してしまいます!」
「何としても奴らを蹴散らせ!我々の祖国を守れ!!」
騎士達は人形達の猛撃に耐えながらも剣で攻撃を続ける。魔術師達は魔法で攻撃しながら騎士達に肉体強化の魔法を唱えてこの激戦区を持ちこたえさせる。
この人形達は頑丈で矢が刺さらない。騎士達は大砲で豪快に人形を吹っ飛ばして防衛ラインを突破させないように砲弾と魔法の弾幕を張る。
しかし、このままでは砲弾が無くなり魔術師達の魔力も尽きてしまう。
「諦めるな、誇り高きイスフェシアの騎士達よ!!」
何処から声が聞こえ、声の方向を見ると巨大な暗雲が戦場に広がる。
「『カイザー・ボルテックス』」
暗雲から雷がピンポイントに人形達に直撃する。よく見ると料理長のことエルキューレ・ナイン・ピックが腕を組んで浮いており、上空から雷を落としている。
「俺達も忘れちゃ困るぜ!!」
ディズヌフとレバンが率いるソルジェスの傭兵達が馬で駆け抜けて人形達を次々と切っていく。彼らの剣には魔法で強化しおりさっきまで切られても立ち上がっていた人形達はそのまま消滅している。
「ほほう、どうやらあの人形は魔力が込められた攻撃に弱いと思われる。各騎士よ、魔術師達と連携して人形共を殲滅せよ!!」
「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」」」
魔術師達は騎士団の剣に魔力を込める。そしてその剣で刺すと人形は消滅した。確かに効果があるようだ。
防衛ラインに近づいた人形達は確実に減ってきている。このまま殲滅できればと思った時、上空から鉛の雨が降って騎士の鎧を貫く。
料理長は上空でその雨を降らせている“誰か”に向かって剣を投げるとその人物は剣を弾いて地面に着く。
「お久しぶりです」
「ほう、まさか貴様に再び会えるとはな」
目の前にいる人物はモンスターを食材として使う料理人、エビファイ・タルタンソス。コンダート王国の情報では彼は国王によって死んだと聞かされていた……目の前にいるエビファイは確かに本人だが、何処か雰囲気が変わっているというか前回と比べて魔力が高くなっているように感じる。
「死にぞこないが俺の目の前に現れるとは不愉快だ。前回マリー様を襲った件も含めて罰を与えてやろう。生きて帰れると思うなよ?」
「ウインチェルさんから聞いていましたがあの時の小人がこんな別人になるとは……しかしあなたに私は倒せません」
「ほざくな」
料理長はエビファイの真上に雷を落して直撃させる。消し炭になったと思われたがよく見ると直撃したのは丸太だった。
「遅いですよ」
料理長の背後をとったエビファイは両手に持ったサブマシンガンを連射する。そして『リアリティ・デコイ』で分身し先程の鉛の雨を降らす。その雨の正体は分身したエビファイ達が放った弾丸だった。
ダダダダダダダッ!!
無数の弾丸は料理長が纏った鎧を貫通し料理長は膝をついてしまう。それを見たレバンが援護をしようとするとディズヌフが止めに入る。レバンが何故止めたかを聞くとディズヌフは死にたくなかったら急いで料理長から離れろと近くにいる騎士達にも伝えて距離を取り始めた。
「…………」
「やはりこの異世界の武器は便利ですね、どんな強敵であろうと簡単に処理ができます。さぁあなたも魔物にして私の料理の一品にしてあげますよ」
「図に乗るなよ雑魚が、身の程を知れ」
料理長から凄まじい魔力が放出される。彼は相手の魔法と能力の発動及び効果を無効にし、相手の身体能力や筋肉を自分のステータス以下になるまでダウンさせ、下げた数値分だけパワーアップする“ワンサイド・ナイン・ピック”という能力を持っており、発動中自分は詠唱を唱えなくても中級~上級魔法を発動することができる。
そしてこの能力を応用するとイスフェシア皇国の真下に埋まっている巨大な魔石を対象にすることによって膨大な魔力を手に入れることができるのだ。
「『ナイン・ピック・ディスチャージ』……」
傷付いた体はすごい速さで回復していく。そしてエビファイがいる100m範囲に魔力の粒子が広がる。その粒子がビリビリと光るのを見たレバンはディズヌフが言った言葉を理解し全力で走って退避する。
「『ボルテックス・ノヴァ』」
料理長が指を鳴らすと飛んでいた粒子達は光が強くなって粒子と粒子を繋ぐように電流が走ると粉塵爆発のように一気に爆発した。
100m範囲の爆発で地面には穴が開きその範囲にいたレバンとディズヌと騎士達は人形諸共巻き込まれ瀕死寸前な状態である。
「てめぇ料理長!!俺達も殺す気か!?」
「貴様達が死なないように加減はしたぞ?そしてそのおかげで奴も生きているが……」
エビファイも体がボロボロになりながらも立ち上がってジャックナイフを料理長に投げるが彼の顔面に当たっても刺さらず地面に落ちる。
「!?」
「そう足搔くな見苦しい、貴様も疲れたのであろう?今楽にしてやる」
「くそっ!!」
「言ったであろう。生きて帰れると思うなよと」
エビファイはサブマシンガンで攻撃するも料理長の体には傷一つ付かない。
料理長ゆっくりとエビファイに近づき手元に斧を召喚してエビファイの体を引き裂いた。
エビファイの体は灰になって風で飛ばされていった。
ポンッ!
料理長の体から煙が出ると小人の姿に戻る。レバン達はアイテムや治療魔法で回復しながら戦力を整える。
少しは休憩ができると思ったが奥にはまだまだ人形の軍団がこちらに向かってきている。
「やべえな。今の戦力じゃ勝ち目がねぇぞ!」
「そんな!?さっきまで皆さん元気だったのにここまで追い詰められるなんて……」
「いいや、この状況になったのは100%お前の所為だぞ?」
「え゛っ!?」
料理長はひたすら皆に謝る。そして騎士の一人からイスフェシア皇国の方角から増援らしき軍勢が近づいていると報告を受けるディズヌフは双眼鏡でその方角を見るとケンタウロスやハーピィ等の亜人達が近づいて来ている。エンザントの兵士達のようだ。
「ディズヌフさん、お待たせしました」
「アーリレッド・ポスキャル!久しぶりだな!」
「でもどうして皆さんがここに?」
「モーレア隊長の作戦で私達はあなたが元の姿に戻ったら前に出ろと指示されていまして、それまでは待機していました。そして料理長殿、モーレア隊長から伝言があります」
「?」
「“とっとと城に帰れ”だそうです。あなたが元に戻ったらそう伝えろと言っていました」
料理長はすみませんと謝りながら伝言通りに馬に乗って城へと向かっていった。
ここからはエンザントとソルジェスで協力し目の前の人形の軍勢を相手することになる。
「行くぞ!!」
「「「うおおおおおおおおおおおお!!!!」」」
人形の軍勢に突撃し立ち向かっていく。全ては己の故郷を守るため、その想いに亜人も人間も関係はない。




