132話 悪夢再び、黒き希望
「何としてもこいつの進行を阻止しろ!!」
騎士団とテレンの竜騎士兵達は魔法、投擲槍、爆弾等のあらゆる攻撃をジンマに命中させるが何事もなかったかのようにジンマはイスフェシア皇国に進み続ける。
あの巨人を倒すにはオゼットが持つオメガ・アイギスをぶつけて光にする以外方法がない。しかしそのオゼットは行方不明のままであり、その方法が使えない状況である。
モーレアはジンマに鬼火を纏った拳をぶつけるがびくともしない。オゼットの情報では物理攻撃と魔法攻撃は効かないが魔法の効果は通用するということだ。鬼火による火傷は追っているとは思うがそれで倒せるとは思っていない。しかしどうやってこいつを倒せというのだ。
「『ローゼス・ストーム』!!」
「『爆炎斬』!!」
モーレアとガイルの攻撃は効かず、ジンマは5人にハエたたきをするように手を地面に叩いた
ズドンッ!!
地面に手形が残る。5人は叩かれる前に防御力を強化する魔法を使用したことで何とか死なずに済んだ……が、もうこれ以上は戦う気力が残っていない状態である。
ふとモーレアは目をつぶったときにマリー様の笑顔が頭の中に横切る。あの人の笑顔を取り戻すためにも、イスフェシア皇国を守るためにも、友であったウインチェルのバカな行いを止めるためにも……まだ倒れるわけにはいかない!
ゆっくりと深呼吸して剣を握りしめる。たとえ攻撃が効かないとしてもあいつの動きを止めるまたは鈍くさせることはできるはずだ。
「おらぁぁぁぁぁぁ!!」
剣で斬るというよりも剣をぶつけるという表現が正しいのか、モーレアはジンマの足に向けてフルスイングする。ジンマの片足は一瞬だけ宙に浮いた。それを見たガイルも諦めずにもう片方の足にタックルする少しだけ仰け反ったがびくともしない。
「ダメなの!?」
「諦めんなよ。オカマ野郎!!」
ボーマはガイル続けてタックルをすると体制を崩してジンマは地面に倒れる。
「『ストレイトチェーン』!!」
ナリタは魔法の鎖でジンマを拘束する。ジンマは鎖を壊そうと暴れるがサンソンは魔力で鎖が壊れないように瞬時に回復させる。
「絶対に逃がさん!!」
「ヴォォォォォォォォォォ!!」
「うるせぇ!」
モーレアはジンマの顔面を殴る。攻撃が効かないのは承知の上だが殴らずにはいられない。
一方、イスフェシア城にいるミーア、ラルマ、ラーシャの3人はジンマの雄叫びを聞いてあの森で何が起こっているのかを予想する。本当なら協力したいが子供という理由で部屋から出ることを禁止されている。
しかし3人は居ても立っても居られずにここから出ようと作戦を立てる。
「二人共、いくよ!」
「「ラジャー!!」」
ラーシャはネズミ型の眷属を召喚して部屋の外に放つ。それを見たメイドは絶叫しその声を聞いた城の防衛をしている騎士達が集まってくる。子ども達のいたずらだと思った騎士は注意するために扉を開ける。
「『サイキックホールド』!!」
念力で騎士達の動きを止め、開いた扉から全力で走って部屋から出る。3人は別々に行動し攪乱させながら城の外へ向かう。
そして城から離れた場所で合流する。イスフェシア城から北西にある高山を登りミーアは双眼鏡でカタカリ大草原を見ると騎士達が魔物の大群と戦っているところがよく見える。
「ねえミーアちゃん。オゼットさんの魔力は探知できる?」
「ううん。今まではどこにいるかわからないけど魔力は探知できたんだ……けど魔力すら探知できなくなってる。召喚した魔物や勇者召喚の儀式で召喚した転移者は必ず魔力は探知できるってうーちゃん言ってたし」
「やっぱり、オゼットさんはあの魔物達を召喚している黒幕によって……」
「絶対に違うよ!お兄ちゃんがそう簡単にやられるわけないじゃん!」
ミーアは涙目になりながら魔力探知を続けるがオゼットの魔力は探知できない。ラーシャはミーアの肩を軽く叩き現実を受け入れさせる。しかしミーアは諦めずにオゼットの魔力を探し続ける。
ふとラルマはウインチェルから教えてもらったことを思い出した。転移者を召喚した人物は転移者を自分の目の前に再召喚させる転移召喚という召喚方法があるらしい。
「え、そんな方法知っているなら最初召喚失敗したときにその召喚方法を使えばあたし、お兄ちゃんを探す必要なかったよね?」
「ご、ごめん。僕は召喚魔法を使わないからすっかり忘れていたよ」
ミーアはラルマに蹴りを入れた。その後、気を取り直してその転移召喚の方法を教えてもらい杖で魔法陣を書く。
書いた魔法陣に魔力を込めると青く輝き始める。
「出でよ、お兄ちゃん!!」
光が強くなり思わず3人は目を閉じてしまう。ゆっくりと目を開けるとそこには何もなかった。
転移召喚が失敗したのかとミーアは思ったが特に失敗する要素はなかったとラルマは言う。魔法陣に触れて魔力の痕跡を調べると転移召喚は確かに途中までうまくいっていたが召喚したい該当者を見つけることができず中断しているように見受けられる。つまり、オゼットがこの世界にいない事がわかったということだ。
しかしミーアは諦めずに考える。ラーシャはオゼットのような転移者がそう簡単にやられる事は考えにくいし、もしそうならば敵側にも転移者がいる可能性があると推測できる。違う考え方としてはオゼットを倒したのではなく、以前3人がオゼット達の世界に転移したみたいに別の世界に転移させられたのは考えられないだろうかと言う。
もし別の世界に転移させられたのなら再度、勇者召喚の儀式で召喚できないか試そうとミーアは勇者召喚の儀式の準備を始めた。
「前回は魔力が足りなくてお兄ちゃんを魔法陣から召喚できなかったから二人共、私に力を貸して!」
「もちろんだよ!」
「ええ、私達でオゼットさんを呼びましょう!」
3人は手をつないで魔力を魔法陣に注ぐ。
―闇を切り裂く光の勇者よ。この世界を守るためにその力で未来を照らせー
「『勇者召喚』!!」
魔法陣が輝くと3人の魔力は一気に枯渇し始める。以前はウインチェルに魔力を共有してもらったから召喚は成功できたが今は3人でもウインチェルの魔力量には届かない。このままでは失敗するか、または前回同様に別の場所で召喚されてしまう可能性がある。
必死に魔力を注ぎ込むが魔力を持っていかれた所為で目がかすんでくる。
「このままじゃ……」
「諦めないで、ミーアちゃん!」
「そうだよ、僕たちなら絶対にできるよ!!」
ラーシャは鞄から血の入った瓶を飲み吸血鬼の力を解放する。それに負けずにラルマも魔力を回復するポーションを飲んで魔力を注ぎ込む。
次第に魔法陣は金色に輝き光の球体が現れ始めた。前の召喚ではこの球体は現れなかったのでこのままうまくいけば、3人の目の前でオゼットを召喚ができるかもしれない。
「お願い、帰ってきて……お兄ちゃん!!」
光の球体は人の形へと変わり目を開けられない程の光が3人を包んだ。
光が消えて魔法陣の上には一人の男が立っている。魔力を消費しすぎてとても眠いが3人はその人物を確認する…………が、その人物はオゼットではない。白髪で少しやせ細っている体型の男だ。
ミーアとラルマはオゼットではないとがっかりしてそのまま気絶するが、ラーシャだけはその男を見て涙を流してその男に抱きついたのだった。




