131話 魔物大戦争
そして翌日、王宮の間に真理、モーレア、ガイルの三人が集まり今後の対策を話す。
暗殺部隊にオゼットの行方を探してもらっているが未だ消息不明である。おそらく敵にやられたと判断、彼の捜索の優先順位はさがってしまうがマリー様の救出が最優先となる。
また、アルメリアも捜索しているがまだ見つからないらしい。川に流された可能性も考慮して捜索範囲を広めているがカタカリ大草原を捜索するとなるとやはり時間が掛かる。今後はこの二人がいない状態で現状を打破する必要がある。
モーレアは料理長から取った水晶玉で敵の拠点を特定し、暗殺部隊に偵察しに行かせた。そして暗殺部隊が持っている魔石でウインチェル達がいる森の現状を映像で中継してもらっている。そこには巨大な黒色の樹があり映像越しでもわかる禍々しい魔力が漂っている。
「何だよこれ、こんなの昨日なかっただろ?」
「こんなに大きいならこの城からでも見えるはずなのに……」
「おそらくウインチェルちゃんが認識阻害の結界を張っているかもしれないわね。でもこの場所にマリー様が捕まっている可能性は高いわ」
ガイルはテレンの騎士団と連携してこの黒い樹の突入を提案する。最悪、森の全てを燃やすことになろうともこの黒い樹は存在してはならないと本能が言っているらしい。
モーレアは昨日の敵がもう一度城に襲撃しに来ると予想して防衛部隊が必要だと考える。
敵の狙いは真理を誘拐だ。マリー様は先日、暗殺部隊から赤い月の中にいる魔獣……アームスヴァルトニルを目覚めさせるには転移者が必要だと報告を受けていてマリー様は真理の服を借りることで真理になりすまし敵の目的を遅延させると話していた。
最初は危険だと反対したがマリー様は「友達が間違った方向に行っているのなら止めてあげなければいけません」と言った。そして自分が捕まったとしてもウインチェルの目的は達成できないし、殺害することはないと信じて文字通り体を張って止めに行ったのである。
「マリー様のご厚意を決して無駄にしてはならねぇ。早急に救出し、ウインチェルにきつい罰を与えてやる!!」
三人が話を進めている時、一人の騎士が王宮の間に入る。
「た、大変です!!」
「何だ?」
「カタカリ大草原の森から魔物の大群が出現……いえ、召喚されています!!」
「何!?」
暗殺部隊が中継している映像には何の変化もない。しかし窓から双眼鏡で森の方向を見ると確かに巨大な青い魔法陣から魔物が次々と召喚され、こちらに向かってきている。
「どうなっているんだ……まさか!?」
モーレアは中継している暗殺部隊に連絡を取るが返事がない。この映像はウインチェルが作った偽物の映像だとガイルは確信した。
「彼女の技術ならできなくないわね。ウインチェル……恐ろしい子」
「言っている場合か!直ぐに騎士団を動かせ!一匹たりともこの国に入れさせるな!!」
「真理ちゃん。テレンの人達に連絡してちょうだい!」
「わかりました!二人共、気を付けて!」
モーレアとガイルは外に出て騎士団と共にカタカリ大草原へと向かう。真理は連絡石でハーゲン皇帝に現状を伝えると彼らも騎士団を森へと向かわせた。
カタカリ大草にて大量に召喚された魔物はゆっくりとイスフェシア皇国に向かって行進している。
その数はおよそ1万、イスフェシア皇国の騎士団はモーレアとガイルを先頭に馬を走らせて激突しようとしていた。
「いいかお前ら、絶対に一対一の状況を作るな!騎士と魔術師で連携し複数対一で敵を確実に減らせ!!」
「「「了解!!」」」
「イスフェシア騎士団!突撃!!!」
魔物の拳と騎士団の剣が交わる。魔物の力は人間の力よりも強く、まともに受ければ命の保証はない。しかし騎士団は怯まない。魔術師が魔法で牽制し、翻弄されているところを騎士が剣でその体を貫く。
「油を投げろ!!」
ワイバーンに乗っている魔術師達は後方にいる魔物に魔法で作った油を浴びさせる、その後炎の魔法で後方にいる魔物達を炎上させる。これによって後方と前方にいる魔物達を分断し前方いる魔物を集中的に殲滅させにいく。
「俺達の祖国を守れ!!突撃!!!」
騎士団の剣は次々と魔物を切り捨てていく。このまま行けば殲滅は容易にできるのだが……。
「ギャオオオオオオオオ!!!」
奥の森から魔物の増援が来ている。おそらくだが黒い樹を焼くか消滅させないと永遠に召喚されるのだろう。
この魔物達は知能が低いためか目の前の騎士団を攻撃しながらイスフェシア皇国に向かう以外の行動をしない。しかし長期戦になればこちらの勝機はなくなっていく。
モーレアは魔物達の群れに突っ込みその怪力で殲滅して活路を開いた。騎士団はそれに続くように進み始める。
「このまま黒い樹を焼け!!」
ワイバーンに乗っていた魔術師達が上空から黒い樹に炎の魔法を放つ。しかしその炎は樹に燃えることがなく消滅する。どうやらこの樹には炎が効かないらしい。
魔術師達は炎系以外の魔法で効くかを試すがどれも効いていない。魔法が弱いからかそれとも魔法に対する体制でもあるのかわからないがだったら直接叩いてやるのみだとモーレアは騎士団に進めと指示し突撃を続ける。
黒い樹が光り始める。何か来ると騎士団に警戒しろと言うとその瞬間に黒い樹から稲妻が走り上空で飛んでいたワイバーンに乗っていた魔術師達が次々と落とされていく。
「怯むな!!」
あの黒い樹に近づくほど魔物達は強くなっていく気がするがその魔物達を切り捨てながらもモーレアは進み続ける。
そして数分後に騎士団と共に黒い樹の目の前までたどり着くと目の前には二体の大型の魔物が黒い樹を守っている。
一対目の魔物は黒い樹に見えない壁を張っていく。これ以上進ませないためにしたとはいえこの魔物達は今までの魔物とは違い知恵があるみたいだ。
もう一体の魔物は自身と相方に防御力をあげる魔法を唱えて皮膚が硬くなっていく。その後二体は騎士団達に巨大な剣で薙ぎ払っていく。
「「「ぐわーっ!!!」」」
巨大な剣を振り回している中、ガギンッ!と一体目の剣をモーレアは剣で受け止めた。しかし半鬼人であるモーレアの怪力でも魔物の一撃は重く、吹き飛ばされてしまう。
「ちきしょう、やりやがったな!!」
モーレアは手から鬼火を出しそのまま自身に纏い一気に魔物に近づいた。反撃をしようと魔物は再び剣を振るが鬼火の鎧は魔物の攻撃を防ぎ、その隙にモーレアは魔物の心臓に目掛けて剣を刺す。
「グモォォォォォ!!」
そして刺した剣を引っこ抜いたらそのままもう一体に目掛けて投げる。魔物は剣を弾いて武器を持たないモーレアに止めを刺そうと縦に剣を振る。モーレアは剣の動きを見て剣の平を裏拳で弾いて右手の拳で魔物の腹を思いっきり殴った。次にモーレアは腹を押さえた魔物の後ろ首を掴んで飛び膝蹴りを顔面に直撃させる。そして魔物の剣を奪い止めの一撃を振るうと魔物はゆっくりとその場に倒れ込んだ。
「手こずらせやがって」
モーレアは黒い樹に鬼火で燃やそうとしたとき、倒れた二体の魔物の地面から影が二体を包んでそのまま影の中へと沈んでいく。そしてその影から先程倒したはずの二体が蘇って現れた。
もう一度倒そうと剣を振り、今度はバラバラにしてその後に鬼火で消し炭にする。しかし地面から現れた影から再び魔物を蘇らせる。
流石にこれ以上の連戦は不利になると思い、モーレアは騎士団達と共に撤退を決意した。
森を抜けてガイルとサンソン達と合流したモーレアは黒い樹での出来事を説明する。いくら魔物を倒したとしても影から魔物が現れる以上、こちらの勝機はどんどんなくなっていく。
「俺の鬼火で黒い樹を燃やすから誰かあの魔物を何とかできねぇか?」
「では、俺とボーマ、ナリタで魔物どもを相手しよう。ガイルとモーレアは黒い樹を燃やしてくれ」
「わかったわ」
作戦を決めて再び森に入ろうとした瞬間、森から雄叫びがカタカリ大草原に響く。その雄叫びは5人にとっては忘れることはない声……そしてその雄叫びの持ち主は森から現れる。
「ヴォォォォォォォォォォ!!!!!!!」
その魔物はこの世界に伝わる古の巨人兵であり、物理攻撃と魔法攻撃は効かない能力がある……ジンマだった。




