130話 魔界樹
暗殺部隊が王宮の間に辿り着き、マリー様に報告する。マリー様は直ぐにアルメリアの救助を指示した。
正直、ウインチェルがあんな事をするなんて信じられないでいる。だがこの事実を受け入れなければならないと彼女は真理を呼んである頼み事をする。
「わかったわマリー様。行ってきます」
「よろしくお願いします」
真理は護衛の騎士と共にワイバーンである場所へと向かった。そしてマリー様は別の準備をする為にモーレアのところに向かう。
場所は変わり真理はテレン城へと向かう。ハーゲン皇帝に赤い月の件の報告と協力してウインチェルを止めるための相談しに来たのだ。
城を警備している兵士達にマリー様が書いた手紙を渡そうとしたが兵士達は真理の顔を見て敬礼してハーゲン皇帝がいる王宮へと案内する。
王宮へたどり着くとテレンでお馴染みと思えるいつものメンバー……ハンソン、ボーマ、ナリタ、そしてハーゲン皇帝がいる。
「久しいな、柊真理。して何用だ?」
真理はハーゲン皇帝に手紙を渡す。それを読むとハーゲン皇帝は現状を理解する。
「お願いします!私達に力を貸してください!」
「は~~何でお前らっていつも面倒な事を持ってくるんだよ。こっちは帝国のとばっちりをくらうわ、二度も帝国に支配されるわで迷惑してたのによ」
「おいボーマ!失礼だぞ!」
ハンソンはボーマの頭を叩く。ボーマは痛がりながら話を続ける。
「でもよ、逆にお前らのおかげで陛下の命と帝国の支配から二度も救ってくれたし……ここで協力しなきゃ俺達は無能過ぎるよな。皇帝陛下、何卒ご許可を」
「ほぅ、あのめんどくさがりのボーマがそんなことを言うとは……」
「誰がめんどくさがりだよ。ちゃんと仕事はしているぜ」
「まぁお前に言われるまでもない。イスフェシア皇国には膨大な借りがある。柊真理よ、我々テレン聖教皇国はそなた達に協力を惜しまない。共にそなた達の友の野望を阻止しようぞ」
「ありがとうございます!」
真理はハーゲン皇帝に深くお辞儀をして早速、今後の計画の話をした。ハンソンとナリタは騎士団を動かす為に行動する。全ては友の暴走を止める為、この世界の平和の為に……。
そして時は流れて夜、彼女が寝室に戻ろうとしたときに地面に誰かの影が現れる。その影から来須蓮が出て来た。
「柊真理だな?俺と一緒に来てもらう」
「誰?」
「知る必要はない」
蓮は彼女が抵抗される前に峰打ちで気絶させる。彼女を担いで蓮は馬でカタカリ大草原にある森の奥へと向かう。
そこはかつてウインチェルの家があった場所、今は彼女の夢を叶えるための準備としてウインチェルは召喚魔法を唱えている。
「―全てを黒く染める魔界の樹よ。我が力となりてこの世界を壊滅させよ!―いでよ!!魔界樹・ブローユグドラシル!!」
魔法陣からは小さな苗が召喚され凄い速さで成長していく。そして最終的には全長約600mの黒い樹になった。
「待たせたな」
「蓮さん、お疲れ様です。」
蓮は担いだ真理をウインチェルの目の前に置いた。
「これでアームスヴァルトニルが目覚めればもう誰も私の邪魔はできません。この世界の転移者や帝国の者達、犯罪者は全て抹消して犯罪なき……真の平和を手に入れるのです!」
「そうすれば二度と俺達の世界みたいな惨劇は起こらないんだな?」
「その通りです。早速、彼女をアームスヴァルトニルの心臓にして目覚めさせましょう。ククク、彼女もこの世界の救世主になるのですから本望でしょう。それにしてもこの状況でも気絶しているとはいえ寝ているとはいい御身分ですね。いったいどんな寝顔をして…………え?」
ウインチェルは彼女の寝顔を見て驚いた。蓮は不思議そうに尋ねるとウインチェルは怒り出した。
そう彼が連れて来たのは柊真理ではなくマリー・イスフェシアだったのだ。
アームスヴァルトニルを目覚めさせるにはマリー様か転移者の生贄が必要、しかしウインチェルは彼女を生贄にはしたくないから柊真理を生贄にしようと決めたのだ。しかし蓮にとっては柊真理もマリー・イスフェシアも同じ顔にしか見えず、服も蓮がいた世界の物だったので別人だとは気づけない。
「……やられた」
蓮は今度こそ柊真理の捕獲しに再びイスフェシア城へと向かった。
そしてイスフェシア皇国の正門に辿り着き、警備兵が止めよう入るが強引に突破しに行く。
―絶望タ~イム♪―
「変身!!」
蓮はメシアに変身しイスフェシア城まで走った。その速さに警備兵はついて行けず、距離を放されていく。
このまま城門を突き抜けていこうと走ると上空から魔法の槍がこちらに飛んできた。ギリギリで回避すると城門の上には一人の男が腕を組んで立っている。
「誰の許しを得てこの城に入ろうとしている?その汚らわしい足で入ろうなど不敬にも程がある」
男は城門からジャンプしてそのままメシアのところに飛び蹴りする。メシアはその攻撃を避けようとその場を離れる。男の攻撃は地面を砕いて飛び散った破片を蹴ってメシアに追撃をする。
「くっ!」
「自害しろ。そうすれば今回の不敬を許そう」
「誰だ!?」
「雑魚に名乗る名などない、さっさと死ね」
男はメシアの足元に魔法陣を展開し発動するとメシアの足は凍る。身動きが取れない間に男は近づいて拳を振るった。
「『カオス・インパルス』!!」
メシアも拳で応戦する。拳同士ぶつかり合うとメシアの拳から魔力が消える……いや、消えていくのは魔力だけじゃない、体から力が入らなくなってきている。
「このままではまずい」
「足搔くな!」
男の拳はメシアの顔面へと直撃、メシアはそのまま地面へとめり込んでいく。これでは身動きができない、こんな男がいるなんてウインチェルから聞いてないぞ。
男が止めを刺そうと拳をあげると「待て!」と城門から声が聞える。この国の騎士団隊長モーレア・ミストだ。
「おい、料理長!こいつを殺す前にマリー様の居場所を聞かないとダメだろ!!」
「この雑魚に聞かずともマリー様は必ず我が助けだす。そしてマリー様に危害を加えた者全てに死を与えてやらねば我の気が済まん」
「こいつはともかくウインチェルは殺すなよ。マリー様が悲しむ」
「ぬぅ……」
二人が話している隙にメシアは力を振り絞り懐から魔石を取り出し発動させる。この魔石はウインチェルがいる森まで転移できるいわゆる緊急転移装置だ。
メシアの姿が消えるとモーレアと料理長は動揺した。
「おい、あいつ消えちまったぞ!?」
「貴様が悠長にしているからだ」
「俺の所為かよ!」
「他に誰がいる?あのまま奴を殺しておけばウインチェルの戦力も削れて後は時間の問題に出来たというのに……」
「だーわかったよ!全部俺が悪かったよ!ごめんなさい!!」
モーレアは料理長に頭を下げて謝ると料理長はポケットから小さな水晶玉を取り出した。それは何かとモーレアは尋ねるとこれは先程の戦闘でメシアの背中に同じ小さな石を付け、その石とこの水晶玉が共鳴する事で相手の位置を特定できるらしい。
「最初から逃がすつもりだったのか!じゃあ何で俺に謝らせた!?」
「これで奴が向かった所にマリー様がいる。直ぐに向かいたいところだが……時間切れのようだ」
そう言うとポンッと白い煙が料理長を包み、煙が消えると元の姿に戻る。
「ああ、すみませんすみませんすみません!!モーレアさんに謝らせてごめんなさい!!!」
「はぁ」
もはや怒る気力もなくなったモーレアは料理長から水晶玉を取って城に戻るのであった




