122話 禁術と校長室
一方、イスフェシア皇国では前回コンダート王国で見た赤い月についてマリー様とアルメリアが調べている。赤い月はイスフェシア皇国でも夜になると現れ、モンスターが凶暴化し街に入ってくることもある。
ソルジェスと騎士団は防衛に取り組んでいるが毎日のようにモンスターが暴れこのままでは街に被害が及ぶ。そうなる前にこの赤い月について情報を集めなければ……。
禁術を使える魔術師がこの国にいる可能性も考えてアルメリアが率いる暗殺部隊を使って情報を集めており、マリー様は禁術について止める方法がないかを書庫やウインチェルの部屋にある本で調べている。
そして俺とウインチェルはこの国で魔術を教える学校“オルトカリス学園”に向かう。ウインチェルはその学園長がかつてこの国で一番の魔術師と言われた人物であり、その人物なら赤い月について知っているかもしれないと言う。
彼女は昔、ここの生徒で様々な魔術を勉強し習得した。そして今はイスフェシア城で新しい魔術の研究をしながら時々はここで教師をしている。
生徒達がウインチェルを見ると彼女に集まり魔術についての質問が飛び交う。それに対してウインチェルは一つ一つの質問を丁寧に教えて生徒達の疑問を解決していく。教師としての姿を見た俺は思わず凄いと口が開く。
「では皆さん。私達は用がありますので失礼しますね」
生徒達に手を振って俺達は校長室に入る。
コンコンッ
「入れ」
「失礼します」
扉を開けると目の前には巨大な老人が座っている。彼がこの国で一番の魔術師、ジュネヴァ・フロートだ。
IMSPを起動しなくても周囲にとてつもない魔力が伝わってくる。
校長に会う為にはアポイントメントを取る必要があるがウインチェルは成績優秀な魔術師達を育てこの学校の評判を上げたことから特別にアポイントメント無しで話をすることが出来る。
ウインチェルはジュネヴァに赤い月について質問をする。するとジュネヴァは空間に穴を開けて中から魔導書を取り出した。どうやらジュネヴァも赤い月について調べていたみたいだ。
「あれはイスフェシア皇国に伝わる禁術でモンスターを凶暴化し、世界中のモンスターは人を襲うだろう」
「それだけではありませんよね?」
「厳密にはあの赤い月は月ではない。あれは星一つを破壊するほどのモンスターが眠っている卵だ。仮にあの卵を召喚出来たとしても膨大なエネルギーか何百万の魂を生贄にしなければ復活することは不可能だ」
“何百万の魂を生贄”と聞いてレイブンのことを思い出す。彼の時を止める能力は魔力を使わない代わりに人間やモンスターの魂を消費して発動できる。人やモンスターを殺せばその魂を彼の持つ腕時計に貯めることができると言っていた。まさかあの赤い月もあいつの仕業なのか?
俺は赤い月を止める方法がないか聞くとジュネヴァは現状ではあれを破壊することは不可能だと言う。仮に破壊できる方法があったとしても赤い月まで行く方法がないため打つ手がない。
この惑星から赤い月までどれほどの距離があるのだろうか?確か俺達がいた世界の地球から月まで距離は約38万kmであり、300kmの速度で月に行こうとすると約2ヶ月と聞いたことがある。『タキオンソニック』なら光の速さで走れば約1.2秒で辿り着けるが、当然宇宙空間では走れないので別の方法を考える必要がある。
このままあの赤い月を止める方法が見つからなかったなら俺達に未来がないというのならば、ここで諦めるわけにはいかない。
俺はジュネヴァに頼んで過去に同事象があった際に人類はどうしたのかを調べてほしいと頼んだ。彼が持っている魔導書に記載されているということは過去に何か対処したはずだ。
彼はできる限りのことはすると言い魔導書をウインチェルに渡した。ウインチェルと俺は校長室を出て城の書庫に戻ることにした。
一方、モーレアはソルジェスに向かい、赤い月によって凶暴化するモンスターの防衛対策の会議に出ていた。毎夜にモンスターはカタカリ大草原からイスフェシア皇国の門まで移動し暴れて侵入してくるため、騎士達と傭兵達の疲労が絶えない。
エンザント村の方でもモンスターによる被害が出ている報告があり、討伐しても毎夜モンスターが出現し、襲撃してくるのでキリがないと困っている。
このままではモンスターの襲撃でベリア……いやイスフェシア皇国に住む人々の命が危うくなる。何とかして早急な対策を実施しなければならない。
「イスフェシア騎士団とソルジェスの傭兵、交代制で夜間に出没するモンスター襲撃の防衛戦を続けているが疲労と武器の消耗が激しい。何か案はないかね?例えば魔術師が国中に魔法の防壁を展開するとか」
「それだと魔力が持たないし国中に展開できたとしても脆くて使い物にならないぜ。イスフェシアの勇者が持つ魔力を共有する魔法を使ったとしてもあいつの負担がかなり掛かる。あいつが倒れてしまえばこの国は文字通り“終わり”だ」
「ではモーレアは何か良い案ないのか?」
「そうだなー、いっそこの国を魔法で宙に浮かせれば良いんじゃね?」
「馬鹿かお前は、そんな魔力がある訳ないだろ」
ソルジェス、イスフェシア騎士団、エンザントの亜人達……それぞれ協力し合って対策を練ろうとしても中々に納得のいく案が出てこない。
「……幸いベリアは北の正門以外は高山で囲まれている。エンザント村の民をそちらに避難し正門だけでも魔法で強化するしか今はないだろう」
「そうだな。エンザント村に住む民はイスフェシア城で匿い避難用の住宅の建設を急がせよう。今日の会議はここまでにしよう。次回の会議の予定は追って連絡する」
「では解散」
ディズの解散宣言と共にそれぞれの代表者は自分の持ち場へと帰っていく。




