120話 そしてカオスな日常に戻る
今回の料理対決が終わり、モンスター化して暴れた観客達はマリー様とアルメリアの治療魔法によって応急処置をしたおかげで大事にならなかった。
マスルは賞金を手に入れた後はまた旅に出て世界中の料理を学びに行くらしい。
俺達は宿屋の店主に挨拶をしてここまで来たときと同じ方法を使ってイスフェシア皇国に戻った。
城に戻って王宮の間に入ると真理、ウインチェル、ミーア、ラルマ、ラーシャがいる。
「「「お帰りなさい!」」」
「マリー様、長旅お疲れ様でした」
「ただいま、皆」
子ども達が近づき、頭を撫でるマリー様、ただ城に到着してどっと疲れがきたのか立ち眩みをしてしまい、皆心配するが「大丈夫」とマリー様はアルメリアと共に部屋に戻る。
俺はコンダート王国で頼まれたお土産とプレゼントを取り出して子ども達にはぬいぐるみとおもちゃを、ウインチェルにはコンダート王国版カレーのルウ、真理には砂時計をそれぞれに渡す。
「「ありがとう!お兄ちゃん」」
「ありがとうございます」
「ありがとう翼。ところで何で砂時計?」
「気にいるかなと思ったんだが嫌だった?」
「いいえ、大事にするわ」
真理は微笑みながら今回のコンダート王国での出来事を話してと言うと子ども達も聞きたいと言って俺に集まる。俺はコンダート王国で起きた出来事を皆に説明した。
一方、料理長は食堂で今回の料理対決で見たマスルとエビファイの技術と料理をノートにまとめていた。異国の料理人達の技術を学ばせてもらったことで自分はまだまだ成長出来ると確信したからだ。
「やっぱここにいたか」
食堂にモーレアが入ってくると料理長はノートをしまう。
「どうかしましたか?」
「いや~料理長って自分が見たことない料理とか作り方を見たらメモしているだろ?そんでそれをマネできる様に練習してよ。本当に真面目な奴だよ」
「あ、ありがとうございます」
「んでよ。早速料理の練習するんだろ?俺でよければ試食を付き合うぜ」
「それってただモーレアさんが食べたいだけじゃ……」
「まぁな!」
モーレアは笑いながら席に座る。料理長はモーレアにグラスを渡してワインを注ぐ。
「では、様々な料理を作るので覚悟してくださいよ!」
「おうよ!どんどん作ってくれ!」
料理長は厨房に向かいどこか嬉しそうに料理を作るのであった。
そして作ったのは鶏の赤ワイン煮、鶏肉の悪魔風、カニ焼売、オニオン・ランプステーキと料理対決でマスルとエビファイが作った料理だった。
モーレアは早速、料理を一口ずつ食べてナイフとフォークを置く。
「どうですか?」
「正直に言うと俺は別に味覚はいいわけじゃないから美味いかまずいかしかわかんねぇけどよ。俺は料理長の料理は美味いし、食うと元気が出るから好きだぜ」
「ありがとうございます。モーレアさんは優しいですね」
「そうか?そう思っているのは俺だけじゃないみたいだ」
モーレアが指を食堂の入り口に指すとオゼット、真理、ウインチェル、子ども達が立っている。
どうやらこの料理達の匂いにつられてきたみたいだ。
「何か美味しそうな匂いがしたもんでつい来ちゃいました」
「料理長さん、私達にも食べされてください!」
「そうだよ。もーちゃんだけずるい!」
「安心しな!皆の分もたくさんあるよ。な、料理長」
モーレアが料理長にウインクすると料理長は皆を席に案内して作った料理を持ってくる。
皆で料理を食べると幸せそうな顔をして「おいしい」と言うと料理長は照れくさそうに厨房に戻るのであった。
そしてマリー様とアルメリアは部屋に戻り、アルメリアは聴診器でマリー様の鼓動を聞く。
「心拍は問題ありません。ここまで長旅でしたのでゆっくりとお休みください」
「ねぇアルメリア。コンダート王国で見た赤い月のこと覚えています?」
「もちろんです。しかしあれは今回の事件の首謀者であるエビファイとトリックスの仕業でもう解決したのではありませんか?」
「いいえ、あれはイスフェシア皇国に伝わる“禁術”です。あの魔法はこの世界全ての魔物を凶暴化する魔法で彼らが発動することはありえません」
「では他にも協力者がいたということですか?」
マリー様は顔を俯いて悲しそうに言う。
「はい、そしてその協力者はイスフェシア皇国の住人の可能性があります」
「わかりました。明日からギルドと連携して禁術を発動出来そうな人物を探してみます」
「お願いね、アルメリア」
マリー様はアルメリアの頬にキスをして眠りにつく。アルメリアは部屋から出ると無言で自分の部屋に戻る。途中で警備をしている騎士がアルメリアの顔を見て「大丈夫ですか!?鼻血が!」と驚くがアルメリアは「気にしないでちょうだい」と言って通り過ぎていった。




