116話 潜入捜査
控室で休憩していると会場では2回戦が始まっている。俺は外に出ようと扉を開けると近くには不自然に王立警視庁首都警備師団が立っている。どうやら俺を監視しているみたいだ。
「『鏡像分身』」
分身を作り、分身に注意の目が行っている間に部屋から抜け出すことに成功した。
まずはエビファイの部屋を調べる為に部屋の鍵を物理で壊す。
そして部屋に入り怪しい物がないかを調べる。資料を漁ると内容はレシピばかりで怪しい物はない。
正直言ってこの料理対決でエビファイが一番怪しいと思ったんだが、思い過ごしだったのか?
扉の鍵を魔法で直して次にマスルの控室に向かい、同じ手を使って入る。
マスルの部屋はレシピと鞄が置いてあり、鞄を開けると回復薬とエネルギードリンクが入っていた。
「なになに24時間戦える“マッスルパワー・D”……このシェフも苦労しているんだな」
エネルギードリンクを見ていると思わず元の世界の新人研修を思い出す。わからない事を調べ続けると頭がゲシュタルト崩壊して結局、わからないままに終わり、調べるにも気力がなくなるので飲もうと考えた事は何回かあった。
そして念の為に料理長の控室にも入ってみる。彼の部屋も異常は見られないが、机の上には薬が置いてある。紙袋には薬品名が書かれており、説明書を見るとどうやらこれは“胃薬”らしい。
「……今度マリー様にお願いして料理長に特別休暇をあげよう」
とりあえず、3人の部屋を調べたがこれといって怪しい物はなかった。次は観客達に怪しい人物がいないかを見る為に『フェイク・チェンジ』という魔法を使う。この魔法は特定の相手の姿になる事ができる。
俺は観客の姿に変装し観客席を見て回った。観客席ではシェフの料理を見てお腹を空かしている客達にスタッフが弁当やドリンクを販売している。
この姿だと他のスキルや魔法が使用できないので一通り見て回ったら元の姿に戻って魔力探知を始める。
しかし魔力が高い人物は周囲にはいない。一般人より高い魔力を持っているのはマリー様とアルメリアとモーレア、それにワタとその周辺で護衛している人達、そしてマスルとエビファイだ。
「てっきり会場にいると思ったんだけどなー」
俺は控室に戻ろうとしたら連絡石が反応した、アルメリアからだ。何かあったらしい。
「はい」
『あ、オゼット君?マリー様からのお願いで今のうちにお土産を買って来てほしいのだけど』
「え?今捜査中で……」
『マリー様のお願いを聞けないのであれば今すぐに凍らせにいくわ』
「……わかりました。今すぐ行ってきます。一応、会場をあらかた調べましたが怪しい物はありませんでしたよ」
『ありがとう。じゃあお土産よろしくね』
連絡石の反応が消える。皆俺の扱い酷くありませんかね?
俺はアルダート駅のデパートに向かいお土産を探す。子ども達のことを考えればクッキーやチョコ、フィナンシェが良いだろうか。この国の建物は元いた世界と同じような構造になっているのでとてもわかりやすく、初めて来たけど懐かしく感じる。
せっかくだから少しだけこの街を見て回ろうと思った俺は近くの電気屋に向かった。
店内では冷蔵庫、洗濯機、エアコン等の家電製品が置いてある。便利ではあるがこれを買ってもイスフェシア皇国で使えないのが残念だ。
次は隣にある雑貨屋に向かうと羽根ペンやインク等のこの世界の小道具が売っている。
いい機会なのでここまでお世話になった真理やウインチェル、ミーア達にプレゼント出来そうなものを探す。
「う~ん、何なら皆は喜びそうかな」
ミーア達には絵を描くノートやぬいぐるみが良いか?ウインチェルにはイスフェシア皇国でもあるがこの国の味のカレーのルウがあるのでこれにしよう。後は真理か……。
他を見て回るとおしゃれな砂時計がある、これにしようと俺は皆のプレゼントをレジに持っていく。
「お会計40メルです」
マリー様から頂いたこの国の金でプレゼントを購入した。後はお土産を購入するだけだがここのデパ地下で売っているクッキー、チョコ、フィナンシェを買って会場に戻る事にした。
お土産やプレゼントを控室に置こうとするとどうやら2回戦は終わって休憩中らしい。
戻る途中で料理長に会い結果を尋ねるとマスルとエビファイが決勝戦に進出し、料理長は敗退したとのことだ。
料理長は疲れたから控室で休み、休んだらマリー様と合流すると言って歩いて行く。
俺もお土産達を置いて再度捜査を開始するとトリックスとエビファイを見かける。声をかけようと近づこうとすると何か様子がおかしいので一旦隠れる。
「これで次に勝てば優勝すれば賞金とアーガイル・ブランドは我らのものだ。だが、本来の目的は忘れていまいな?」
「もちろんです。優勝した後にこの国の王と女王を殺し、その首を陛下に渡しますよ」
「どうしても毒を盛らない気か?その方が確実に穏便に任務を遂行できるのに」
「私のやり方に口を出さないでくださいと言ったはずです。もし私の料理やマスルの料理に毒を盛ったならあなたをモンスターにして私の料理の食材にしますよ」
「わ、わかったよ。そんな怖い目をするなって!」
これは思わぬ情報だ。民間人をモンスター化させて暴れさせたのはこいつらだったのか。
すぐにマリー様に伝えなければ!
「ダメですよ。盗み聞きしちゃ」
その時、俺の背後には黒いフードを被って仮面を付けた女性が立っていた。




