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魔法の国と異世界転移者  作者: 旅人サン
12章 ファンタジー・トップ・シェフ編
115/150

115話 敗北が前提となっているイベント

 

 1回戦目、審査員と観客の前には巨大な水晶玉が置かれており、そこから映像が出力される。そこにアルダート駅の近くにあるスーパーマーケットが映っていた。

 

 「では1回戦はここボーナスマーケットで行います!」


 3人のシェフと俺はスーパーマーケットの入り口で腕を組んで立っている。どうやらこの料理対決の為に貸し切りにしたみたいだ。

 

 「最初のお題は……“庶民の家庭料理一品”です!誰でも店で買える食材で作れる料理を作って頂きます!!皆さん自信はありますか?」

 「もちろんデース」

 「余裕ですね」

 「……」

 「え、えーと頑張ります!」

 

 4人はそれぞれの思いを抱き、入口の自動ドアが開かれる。


 「まずは1時間以内に各自食材を購入して料理を作ってください!購入したらここに戻って来て会場に向かいます。尚、制限時間に戻ってこなかったり、料理が未完成の場合はその時点で失格になりますのでご注意を、それではスタートです!!」


 トリックスの合図と共に4人は走り出した。


 「……この映像を見ている人達はスーパーで走ったりしないでくださいね!」

 

 野菜、魚、肉と食材が置かれているコーナーに行き各自買い物カゴに食材を入れていき、レジに向かっていく。そして購入してスタート地点に戻ると青く輝く魔法陣が展開されている。この魔法陣に入ると会場に転移する事が出来るみたいだ。

 

 「お先デース」

 

 マスルは魔法陣に入り会場のキッチンに転移すると早速、手を洗って買ってきた玉ねぎをみじん切りにしていく。

 一方、エビファイは包丁ではなくサバイバルナイフで食材を切っていく。そのサバイバルナイフ捌きはあまりにも速く観客達には見えていない。俺以外で見えているのはワタの周囲で護衛しているエレザと金髪のエルフ、モーレアだけらしい。

 トリックスがエビファイに質問をする。

 

 「何故包丁ではなく、サバイバルナイフを使用するんですか?」

 「サバイバルナイフは肉や野菜を切ったり、魚を捌いたりと料理をするときにも使用できます。食材を切るのは包丁というイメージがあるかもしれませんが包丁は食材を切る以外に用途がありません。料理以外でも食材を包んでいるビニール袋や料理糸等を切るときにキッチンバサミにいちいち切り替えるのがめんどいので、サバイバルナイフを使うのもおすすめです」

 「ほうほう!ありがとうございます」


 まさかサバイバルナイフを包丁の代わりに使うとは……こいついったい何者なんだ?


 そして料理長は(たい)を丁寧に薄切りにして皿に盛っていく。その後、オリーブ油とレモン汁と塩胡椒を掛ける。

 

 「おっと!料理長選手はもう完成しましたか!?」

 「はい、鯛のカルパッチョでございます」


 観客は驚いている。おそらく一番使用する食材と調味料が少なく短時間で完成するこの料理は文字通り誰でも作れる家庭料理とも言える。

 

 一方、俺はボウルに卵黄、生クリーム、粉チーズ、黒コショウを入れ混ぜフライパンに細かく刻んだ玉ねぎとベーコンを炒めている。

 次に中華鍋を取り出して先程炒めた具材とボウルに入ったソースをぶちまけ、ある程度熱したらご飯を強引に突っ込んで鍋を振り始めた。

 これを見た観客達と審査員は驚いている。

 




 制限時間を迎え4人ともお題の一品が完成する。この中で脱落するのは1人、まぁこれで俺が負けても文句は言えない。やるだけのことをやっただけだ。


 「皆さん、お疲れ様でしたー!!」

 

 トリックスの声と共に観客からの拍手が送られた。そして審査員に料理が運ばれる。

 まずはエビファイの料理が置かれた。見たところステーキのようだ。


 「オニオン・ランプステーキです」

 

 ランプとは腰からお尻、ももにかけての部位で肉質はキメが細かく、比較的に柔らかいらしい。しかも脂っこさが無いので他の肉と比べてカロリーは控えめだ。

 そしてエビファイはこの料理を作るときにすりおろした玉ねぎを塗って冷蔵庫で冷やし漬けていた。こうする事によって肉が更に柔らかくなる。

 

 ナイフを入れるとそんなに力も入れていないのにスッと肉が切れる。これは普通に焼いただけの肉では真似できないレベルの柔らかさだ。それを食べた審査員は幸せそうな顔をしている。


 「いいなー。俺もたべたい」

 

 食べたいのを我慢して審査は次に移る。次はマスルが作った料理で見た目は焼売なのだが、皮が生ハムで包まれている。


 「カニ焼売デース。メインディッシュにもお酒のつまみにもなりマース」


 このカニ焼売はカニ肉、豚ひき肉、みじん切りにした玉ねぎを練って通常の焼売の皮ではなく生ハムで包みフライパンで蒸し焼きにした料理だとマスルは言う。

 

 一口サイズで食べやすく、カニと生ハムが意外と相性が良い。これなら何個でも食べられる。

 

 次に料理長の一品、先程本人が言っていた鯛のカルパッチョ。口に入れると最初に塩胡椒によってパンチが効いていて後にレモン汁が後味をさっぱりしてこれもとても食べやすくなっているらしい。オリーブ油もただのオリーブ油ではなく、エクストラバージンオイルが使用されているみたいだ。このエクストラバージンオイルは生食と相性が良い。

 

 「やっぱりエルの料理は美味しいわ」


 マリー女皇はにっこりと微笑むと料理長は照れ隠しでコック帽を深くかぶった。

 

 そして最後に俺の料理、この料理を見たトリックスは質問する。

 

 「何ですかこれ?」

 「これは、名付けてカルボナーラチャーハンです」

 「何故、この料理にしたんですか?」

 「……両陛下が食べたことないと思いましてね。おそらくどこのレストランでも、どこの国でもこの料理はないと思います」

 

 意味深な発言をしてワタに向けて笑う。そしてワタはこの料理を一口食べると不思議な顔をした。

 まあ、元の世界でもこの料理を出している店はないだろうと俺はドヤ顔をした。

 

 

 そして全ての料理を食べ終えていよいよ審査を始める。まず三人意見一致したのはエビファイの料理だった。この料理はずば抜けて美味しかったらしい。

 そして次にマスルのカニ焼売は蒸し焼きにしているが肉のジューシーさがしっかりと残っている。流石プロが作る料理と言ってもいい。


 後は料理長と俺の料理だが……意外にも3人共悩んでいる。


 そして悩んだ末にまた食べたいという意味でメリアはこの料理を選んだ。


 「私は……料理長さんが作った鯛のカルパッチョがいいわ」


 この一言が決定打になる。それを聞いたトリックスは思わず叫んだ。


 「第1回戦の勝者はエビファイ選手、マスル選手、そして料理長だー!!」

 

 観客は盛大に拍手をすると俺は速やか且つ静かにステージから降りていった。

 今回は負けイベントなんだから変に期待するのは間違いだ。しかし、俺の本当の戦い(イベント)はこれからなのだ。


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