110話 二つのレストラン(前編)
翌日、宿屋の店主からある噂話を聞く。それはガンダルシア駅の近くに珍しい飲食店が開店してその店は”世界中の料理”を食べることができ、そしてもう一つイルダという場所にある店でその料理を食べると“全てが上手くいく”と噂されているらしい。
俺達5人はその二つ店舗が気になったので二手に分かれてその店舗に向かうことにした。
料理長は世界中の料理が食べられる店が気になったので是非そこに行きたいと言う。残りのメンバーはくじ引きをする事になったのだが……。
「え、俺は留守番なの?」
「正確に言えば貴方はもしものことがあったらすぐに駆け付けられる護衛役ね。この国でもイスフェシアの勇者はそれなりに噂されていたからもし貴方がイスフェシアの勇者だって気付かれたら何かと面倒になるじゃない。だから貴方はここでお留守番よ」
「それにIMSPを起動して誰かに魔力探知でもされたら、俺はここにいますよって言っているようなもんだからな。極力は魔法の使用も控えないとダメだ」
「それだったらマリー様だって……」
「マリー様の変装は完璧だから大丈夫!」
いったい何処からそんな自信があるのかは分からないが、俺以外の皆はくじ引きを引いて料理長とアルメリアはガンダルシア駅近くにある店。マリー様とモーレアはイルダにある店に行く事が決まった。
「俺も行きたかったな……」
俺の声は誰にも聞こえず、4人は早速店に向かうのだった。
ガンダルシア駅の近くにある目的の店に向かうとこの国での騎士みたいな役職を持つ王立警視庁首都警備師団が目に付く。
「何か事件があったのでしょうか?」
「さあ、でもこんなにたくさん警備が巡回されていると“私はここにいます”って言っているようなものね」
「誰のことですか?」
料理長は首を傾げているがアルメリアは元暗殺部隊にいた事もあって経験上、この近くにある人物がいる事は察した。しかしその人物の顔は見たことはないし、会ったところで何かするわけではないので気にせずに行列に並んで目的の店である“ヴェルト”に入った。
「いらっしゃいませ!」
約15分待ってウエイトレスが席を案内する。
メニュー表を見ると皆は目を輝かせてどの料理にしようか悩む。このメニュー表は料理名にその料理の絵とどういう料理かが説明文が書かれているのでわかりやすい。
見たとこない料理が多いがイスフェシア皇国にあった料理もある。
「これは凄いですね。是非レシピとか調理しているところをみたいですよ」
「このメニューを城に持って帰ったら食堂のメニューも増えるかしら?」
「持って帰っちゃダメですよ。でも少しでも覚えたいですね。最近はミーアちゃん達がオゼットさんのいた世界の料理を教えていただけているおかげでいい勉強になっています」
料理長はメニュー表にある料理名と説明をメモしながらイスフェシア城でも作れそうな料理を選ぶ。
「おい!この料理に髪の毛が入ってんぞ!!この店は客に髪の毛を食わせるのか!?」
奥から怒鳴り声が聞こえる。声の方に目を向けると金髪の男性がウエイトレスの胸ぐらを掴んで怒鳴っている。よく見ると彼が食べているラーメンに入っていたみたいだ。
金髪の男は店長を呼べと周りに聞こえる様に叫んだ。ウエイトレスは渋々と店長を呼ぶと厨房から筋肉ムキムキな大男が出てきた。その男は料理人というより軍人みたいな肉体をした大男で料理長は彼を見た瞬間に只者ではない料理人だと感じた。
どこからかはわからないが殺気を感じる。アルメリアは念の為に持っていたメスを忍ばせ、いつでも反撃できる様に態勢をとる。
店長と思われる大男は金髪の男に頭を下げて謝罪していた。しかしその目はなんというか人に謝る目ではなく。金髪の男を疑っているような目をしていた。
「ご確認させて頂きマスガ、お客様の料理に髪の毛が入っていたとの事デシタガ……」
「お、おう、そうだよ!」
「ふーむ、見たところ髪の色が金色みたいデスネ……この料理を作ったのはワタシデスが、ワタシはこの通り髪の毛はアリマセン。ウエイトレスには全員バンダナを着けることを徹底してイマスし、そちらの料理を提供させて頂いたこちらのウエイトレスの髪は黒色デス。この髪の毛は本当に料理が運ばれた時点で入ってイマシタカ?」
カタゴトに喋る店長は鋭い目で金髪の男を見る。十中八九あの髪の毛は怒鳴った男のものだろう。
金髪の男が「俺を疑うのか!!」と怒鳴っていると近くの席に座っていた一人の女性が立ち上がる。
「私その男の人が自分の毛を引っこ抜いて料理に入れているところを見ました!」
「はぁ!?てめえぶっ飛ばされてぇのか!!」
金髪の男が女性に殴ろうとすると店長が男の拳を受け止めた。
「……ここは料理を美味しく食べ楽しむ場所デス。ここで暴力を振るうならアナタはお客様ではアリマセン。お帰りクダサイ」
「う、うるせえ!」
金髪の男が店長に殴る。しかしその強靭な肉体を殴って男は痛がってうずくまった。
そして店の外からサイレンが聞こえてくる……。
「動くな、手を上げてゆっくりとしゃがめ!」
どうやら何者かが王立警視庁に連絡をしていたみたいだ。武装した彼らに為す術もなく金髪の男は拘束された。
「離しやがれぇ!!」
「おとなしくしろ!」
抵抗する男をパトカーに乗せて連行していく……。
店長は店にいるお客にご迷惑をお掛けしましたと謝罪しに回る。
「どうやら終わったみたいね」
「こ、怖かったですぅ」
料理長は緊張が途切れたのか椅子に深く座り込む。アルメリアは気を取り直してメニュー表から料理を選んでウエイトレスにボンゴレビアンコとコーヒーを注文するのであった。




