11話 IMSPの弱点
気が付いたらオゼットは黒い景色、白い地面の空間にいる。近くにはテーブルと椅子があり、女性が一人座って紅茶を飲んでいる。どこかで見たことがある光景だ。
「お久しぶりです」
「お疲れ様です。そしてお久しぶりです」
目の前にいる女神はフェリシア。ミーアの召喚に応じて俺をこの異世界に呼び、ウインチェルにIMSPを作る様に依頼した張本人である。
「異世界の生活には慣れましたか?」
「まだ2日しか経ってないから分からないですね」
「そうですか、明日の戦争は間違いなくこの世界の歴史に残る戦いとなるでしょう。勝つ自信はありますか?」
「皆の協力とこいつがあれば大丈夫です」
オゼットはIMSPをテーブルの上に出す。
「それは良かったです。今回はそのIMSPについて話をしたかったのです。その端末は強力な能力を得られますが弱点があります」
「それは所持者のスタミナが能力についていけないことですか?」
「それもありますね。貴方がやっていたゲームにはスタミナという概念がなかった為、そこだけ反映されず通常の貴方と変わらないスタミナになります。……そしてその端末は長時間の使用はできないのです」
長時間の使用が出来ない?この端末はウインチェルに修理してもらい、起動してから山に潜んでいたテレンの騎士を倒すまで2時間ぐらい使えていたはずだが?
「その端末は2つの特殊な魔石を使って1つ目の魔石は貴方がやっていたゲームのアカウントデータをその魔石に入れ、そのデータからキャラクターのステータスを貴方に投影し具現化する。……という話はウインチェルに聞きましたね?そして2つ目の魔石は人間の魔力を無尽蔵にして魔法を打ち放題にする役割と魔力で投影した能力を維持する役割があります」
「どういう仕組みなのかはウインチェルに聞きましたがそれと長時間使うことができないのと関係があるのですか?」
「今回の戦いでわかったのですがどうやら長時間使用し続けると肉体が膨大な魔力に耐えられなくなり、神経や細胞、肉体がボロボロになるみたいです……というか死にます」
今この女神、さらっと恐ろしい事を言わなかったか?しかし2時間も使えるのなら充分だと思うが…
「……って待てよ。今俺ってIMSPを起動したまま寝ているよね?これってかなりマズイよね!?」
「それは安心してください。私がウインチェルに事情を説明しIMSPの機能を停止させる方法を教えておきましたので」
「あれって一度起動したら自分の意志で解除しないと端末に戻らないよね?どうやるの?」
フェリシアは紅茶を飲み、その後にテーブルの上に青色の魔石を置く。
「先程も言いましたが人間の魔力を無尽蔵にする魔石には投影した能力を維持する役割があります。その魔石の機能を停止する事ができれば能力の維持は出来なくエラー状態になり元の端末に戻す事ができます。この青い魔石には他の魔石の効果を一時的に無効化する事ができるのです」
「つまり、それを使えば自分の意思に関係なく変身を解除できるんですね。…助かりました」
オゼットはホッと息をつく。これで永遠の眠りにつく心配はいらなさそうだ。
「話が逸れましたがとにかく、IMSPの長時間の使用は控えてくださいね」
フェリシアの話を信じ、肝に銘じる。戦闘に時間制限があるとはまるで特撮番組のヒーローみたいだ。
「それと、連続での使用も控えてください。体に負担が掛かった状態で使用すれば命の危険性がありますので」
「…いっそのこと魔力の無尽蔵化をなくせばいいんじゃないですか?」
「そうすれば起動して1分も持たずに魔力切れになり、強制解除されますよ」
なるほど、MP無限の能力を持った魔石は外す事はできないみたいだ。どうやらこのIMSPは思った以上に危険な品物らしい。
「さて、まだ話すことはありますが今宵はここまでですね」
「待ってくださいよ。あれから真理の情報は何か分かりましたか?」
「それに関しては生きているとしか言えないですね……そしてあの仮面の男も何やら活動しているみたいです」
「教えてはくれないんですか?」
「それ以上の事は…今は言えません。最近、私以外の神が私とこの世界の監視をしているみたいで迂闊に動けないんですよね、ですので翼様には自力で頑張って頂きたいのです」
「そうですか……分かりました。今日はありがとうございました」
オゼットが礼を言い、頭を下げるとフェリシアは少し驚いた。
「あら、今回は前回と比べて素直ですね。その方がかわいいですよ。ではまた機会がありましたらお呼びしますのでゆっくり休んでください」
フェリシアは微笑んで別れを告げる。空間が歪み始めていき、段々と意識が遠のいていく……
目が覚めたらグリフォンに乗って空を飛んでいた。辺りを見渡すとモンスター達がテレンの騎士を大きい木箱に詰めて運んでいる。どうやら城まで向かっているみたいだ。
自分の後ろにウインチェルが乗っていて、落ちないように抱えてくれている。そのせいか彼女の胸が背中にあたっている。オゼットが目を覚ましたのに気付き、ウインチェルは事情を説明する。彼女が山に向かっている最中にフェリシアから脳にテレパシーが伝わってきてIMSPの機能を停止させて欲しいと頼まれ、青色の魔石を転送された。それを使ってIMSPの電源を落とし、元の端末状態に戻ったという。
「ありがとう。助かったよ」
「こちらこそ、この国を守って頂きありがとうございます。明日は皆で一緒に頑張りましょうね」
「ああ、戦争に勝ってこの国の平和を守ろう!」
しばらくしてイスフェシア城に着き、モンスター達は騎士達を牢屋まで運んでいく。
「今日はありがとう。明日はよろしくね!」
「少し質問をしてもいいですか?」
「なんだい?」
「この戦争が終わったらオゼットさんはどうするのですか?旅に出るのですか?」
テレン聖教皇国との戦争が終わったら…か。本当ならすぐにでも真理を探したいが……
「そうだな、俺はある人を探していて、その人を見つけたら元の世界に帰ろうと思っているんだ。だけど俺はこの国と人々を守りたいとも思っている。だからすぐには旅には出ないかな」
「そうですか。…その探している人は恋人ですか?」
ウインチェルの発言にオゼットは動揺する。真理が恋人?いきなり何を言い出すんだよこの人は。
「い、いやいや彼女は幼馴染であって恋人じゃ…」
「なら……私にもチャンスがあるかもしれませんね」
ウインチェルはボソッと呟き、少し恥ずかしそうに帽子を深くかぶる。オゼットは動揺した所為か彼女が呟いた言葉を聞き逃した。
「へ、変な事を聞いてすみませんでした。ではまた明日、頑張りましょうね」
ウインチェルは素早く立ち去っていった。最後に彼女は何を言いたかったのだろうと考えるも先程の戦闘の疲れが出て睡魔が襲ってくる。明日は人生初の戦争だしもう寝るかとオゼットは自分の部屋に戻るのであった。
―テレン聖教皇国との戦争開始まで後12時間―




