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魔法の国と異世界転移者  作者: 旅人サン
11章 異世界とちびっこ三人組編
107/150

107話 少年少女達よ、お家に帰ろう。


 ここは何処だろう?さっきまでは家の外にいたはずなのに辺りは木しかない。森の中に連れ去られたみたいだが夜空がとても済んでいる。まるで田舎にでも来たみたいだ。両腕と両足は縛られており身動きが取れない。目の前には俺を襲った仮面の男と青髪の女性が立っていた。

 

 「ようこそ、デスニア帝国へ。お前はファンタジーな異世界に転移したって訳だ。おめでとう」

 「わ~パチパチパチパチ」


 何が何だか意味が分からない。デスニア帝国?異世界?何言っているんだ。こいつらは?

 

 「おい家に返せ!」

 「残念ながらもう家にも元の世界にも帰れない。ラピス、やれ」

 「承知いたしました」

 

 青髪の女性はバケツと刷毛(ハケ)を用意するとバケツに入った液体を俺の体に塗り始める。この香ばしさ……まるで焼き鳥のたれみたいだ。

 

 「こちらは兎とコボルトの肉汁、そして中佐殿の世界にある醬油という調味料で作ったソースです」

 「コボルト……は?」

 

 言っている意味は理解できないし何をしているのか見当もつかない。が、このたれを塗られて気持ちが悪い。

 

 「いったい何をしているんだ?」

 「いずれ分かる。楽しみにしてな」

 「お、お前は俺に何の恨みがある?」

 「別に恨みなんてない、けどお前さっき小早川にはたっぷりと楽しんでから口封じしたって言ったよな?俺も楽しんでからお前を殺すことにしただけさ」


 仮面越しだけど確実にこの男は笑っている。楽しむ?いったい何をする気なんだ?ふとバルコニーで宙吊りされた時の恐怖が甦る。


 「待って!待って!待ってくれ!!俺は人を殺してはいない、全部原田が殺った事だ!俺は麻薬の罪には問われるが殺人罪にはならない!!」

 「刑法第60条を知っているか?“2人以上共同して犯罪を実行した者は全て正犯とする”だそうだ。まぁこの世界と俺には関係ない刑法だがな……そうら来たぞ」

 

 ガサガサと林の中から何かが近づいてくる。1人、いや1匹……5匹以上はいる。何かの群れのようだ。

 その何かは林から姿を現す。狼のようだが目が赤く輝いている、普通の狼じゃない。

 

 「こいつは赤目の(レッドアイズ)飛狼フライウルフ)、基本的に群れで行動し獲物を複数で襲う習性がある。かまいたちなどの風の魔法を得意とする狼だ。因みにこの狼達はお前の部下が襲った少女のペットでもある」

 「まさか、お前!!」

 

 こいつが何をしたいのかを察した俺は必死に逃げようとするが縄で思うように動けない。狼達はよだれを垂らしながらゆっくりと近づいてくる。

 

 「待て!助けてくれたらいくらでも金をやる!!」

 「お前も自分勝手で3人も殺しただろう?」

 「無価値な人間はこの世にいても邪魔なゴミだ!!」

 「……いいセリフだ。だがお前がそれを言うのか」

 「え?」


 仮面の男はバケツに入ったソースを俺にぶちまける。狼達はその香りに耐え切れなくなって一斉に襲い始めた。狼達が雄叫びをあげるとかまいたちの様な烈風が俺の腕を切断し食べ始める。何匹か体中に噛み千切り激痛が走ると俺は思わず悲鳴をあげた。

 

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!!!!!


 ある程度肉を食いちぎられると青髪の女性は手をかざすと緑色に輝く、すると痛みは和らげて切断された腕や食いちぎられた筋肉が再生し始める。ありえない、こんな魔法が現実にある訳がない!


 「『速攻回復(クイック・ヒール)』、貴方が受けた傷を癒してあげます。当分死ぬことはないでしょう。因みに貴方が寝ている間に私達の仲間が作った薬品を投与しました。なんでも骨を砕こうが肉をちぎられようが絶対に気絶や失神をしない薬だそうです」

 「ショック死とかつまらない死に方したら、すぐに俺が時間を撒き戻してやるから安心して満喫しろ」


 青髪の女性が手を降ろすと再び激痛が襲い、狼達が俺の肉をかじり続ける。ある程度したらまた手をかざして癒す。これを繰り返した。


 「だ、ずけぇ……てくれぇ!」


 声にもならない声が響き渡る。が、それも虚しく林からは更に狼達が集まって来た。俺に塗られているソースの香りが狼達の食欲を増す。

 

 「薬は約30分で効果がなくなるそうなので、それまで頑張ってくださいね。あ、でも私の魔力が尽きれば回復魔法も使えなくなるのでそれでも良いかもしれませんね」


 その優しい微笑みは第三者から見れば天使か女神の微笑みに思えるのだろうが、俺には悪魔にしか見えない。

 もう死にたい早く楽にさせてほしい。そう思いながらこの痛みを耐え続けると彼女の手の輝きが段々と弱くなっていく。ようやく俺は死ねるのか?

 

 「ほらよ、ラピス」

 「ありがとうございます。中佐殿」


 仮面の男が紫色の液体が入った小瓶を女性に渡した。彼女がそれを飲むと緑色の輝きが強くなっていく。

 どうやら俺はまだまだ死ぬことはできないらしい。この激痛と苦しみから逃れることは不可能だろう。もう俺は考えることをやめた…………。

 

 

 

 

 一方レイブン達が松本を処刑している中、ミーア、ラルマ、ラーシャはウインチェル達の転移魔法によって酒鬼家にたどり着いた。インターフォンを鳴らすと真由美が扉を開ける。


 「あら、ミーアちゃんお帰り……ってそちらの方々は?」


 真由美は研究員みたいな服装と魔女の格好した女性達に目を疑った。ラルマとラーシャは二人の女性の背中で寝ている。

 

 「初めまして、私はこの子達の保護者です。今までこの子達を保護してくださり本当にありがとうございます」

 

 ウインチェルは真由美の手に小さな箱を渡す。開けてみてくださいと言われて真由美は箱を開けるとダイヤモンドが入っていた。

 

 「売ればそれなりに価値が出ます。この子達をお世話してくれたお礼です」

 「え、えっと……」

 「あのね、真由美さん。私達元の世界に帰らなくちゃいけないの」

 

 真由美はウインチェルに少し待ってと言い家に戻る。そして直美と一緒に出ると手には袋を持って来た。

 

 「これを持っていって、ミーアちゃん達の物よ」

 「ありがとうございます」

 「また……会える?」


 直美が問いを掛けるとミーアはウインチェルに顔を向ける。ウインチェルはルールを守り、たまにならいいでしょうと呟くように言った。

 ミーアは涙目になりながら直美に抱きつく。

 

 「また遊びに来るね!!」

 「うん、いつでも来てね」

 

 直美から離れ涙を拭いた後、ミーアはバイバイと大きく手を振った。それを返すように直美と真由美は手を振り返す。ミーア達の地面に魔法陣が浮かび上がると段々と身体が薄く消えていく。

 

 「ミーアちゃん!!」

 

 直美が近づくとミーアは笑顔で微笑む、そしてまるで幻だったかのように消えていった。

 

 

 

 

 転移魔法はイスフェシア城の王宮の間に現れる。魔法の輝きでラルマとラーシャは目を覚ましミーアに状況を聞く。酒鬼家に別れの挨拶が出来なかったのを残念がるがいつかまた遊びに行こうと励ます。

 そして三人を待っていた皆は言葉を合わせた。

 

 「「「おかえり!!」」」


 皆の言葉に対して三人も元気に返事する。


 「「「ただいま!!」」」

 「まったく心配してたんだぜ」

 「もーちゃん、苦しいよー」


 モーレアは三人を抱きしめるとコホンッとウインチェルが咳払いをする。そして彼女達の後ろにはルアールもいた。


 「やぁラーシャちゃんおかえり。元気してた?」

 「ルアールさん、心配かけてごめんなさい」

 「なあに、元気してたなら大丈夫だよ」


 ルアールの言葉にモーレアが突っ込む。


 「なーにが「元気してたなら大丈夫」だよ。突然城の門を爆破して「ラーシャちゃんを何処にやった?」ってキレてきやがったじゃねぇか」

 「いやだって夜遅くまで帰って来なかったからてっきりイスフェシアの連中が何かしたんだろうと思ってさ。連絡石を使ってもでなかったし」

 「だからって門を爆破しなくてもいいだろうよ!お前だけでも牢屋にぶち込むぞ!」


 モーレアがルアールに剣を向けるがウインチェルが止める。ルアール達とは敵同士ではあるが今回の三人が行方不明になった事で一時休戦し、オゼットの『タキオンソニック』で国中を探し回ったのである。そしてウインチェルの部屋で秋葉原の書の鍵が開いている事から三人はオゼット達がいた世界に迷い込んだと考えた。


 そこで転移魔法が使えるウインチェルと三人にもしもの事があった時の為に医療魔術が使えるアルメリアをオゼット達の世界に転移させたのだ。

 一応、ルアールはこの事をレイブンに伝えると彼も元の世界で探して来ると言い転移して捜索していたらしい。


 「まあ、一週間もいなかったから皆心配したんだよね。さて……三人共、ウインチェルさんから伝えたいことがあるそうです」


 オゼットと真理が「どうぞ」とウインチェルに手の平を上に向けて差し出すと彼女は息を思いっきり吸う。


 「この大馬鹿者!!人の部屋に勝手に入った挙句、異世界に迷い込むとはどういう事ですか!!皆どれだけ心配したかわかっています!?妖精の泉での出来事をもう忘れてしまったのですか!?」

 「ご……ごめんなさい」

 「でも……良くあの世界で生き延びることが出来ましたね。そこは凄いとは思っています…………しかし!今回のような事がない様にきっちりと反省して頂きますからね!!ラーシャちゃんもルアールさんとラピスさんに許可は取ってありますので明日中に反省文を書いてもらいますよ。後三人共、当分は城から出ることを禁止します!」

 「ま、そういうことだからラーシャちゃん当分はこの子達と遊んでいてね」


 ルアールはラーシャの肩をポンポンと叩き「じゃあね」と王宮の間の窓から飛び降りて帰っていった。

 今日はもう遅いから休んでとマリーが言うとウインチェルは怒りを静めて部屋に連れて行った。


 三人は部屋に入ると大きなベッドに一緒に入り反省はしているが、それでも異世界を冒険したことは楽しかったと語り眠りにつくのであった。


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