106話 スノードロップの花言葉
時刻は0時、ワイン飲みながらスマホでネットニュースを見ると3つ目の放火事件の情報が載っている。
須藤明楽、松田聡、小早川春奈……この3人は実に惜しい存在だった。俺と協力関係になっていれば死なずに済んだというのに。原田は実に良い仕事をしてくれた。これで当分の間は我が社の利益は保証されるだろう。麻薬も売れており、このままいけば億万長者も夢ではない。
この世で金は力だ。たとえ人の命を奪ったとしても金さえあれば飛ぶ鳥も落ちる。
原田には褒美として、最近知り合った殺し屋に頼んで人生終了のプレゼントを送るつもりだ。
もし警察に犯行がバレたとしても3人を殺したのは原田で俺には関係ない話だ。
ワインを飲んだ所為か珍しく酔ってしまった。ベッドに入り部屋の電気を消す。暗闇の中、目をつぶろうとすると目の前には仮面の男が白い花を持って立っていた。
「おわっ!!」
思わずベッドから起き上がって電気を付けるがそこには誰もいない。妻は友人達と旅行に行っているからこの家には俺一人しかいない。
驚いた影響で急にトイレに行きたくなった。恐る恐るトイレに行き洗面所で手を洗うと鏡には先程の仮面の男が映っていた。思わず後ろを振り向くが、仮面の男はいない。
「酷い酔い方をしているみたいだ……」
酔いを覚ます為にリビングで水を飲もうと冷蔵庫からミネラルウォーターを飲む。そしてベッドに戻ろうと移動すると目の前に仮面の男が現れた。思わず尻餅をつく。
仮面の男は電気を付けて部屋を明るくした。これは酔いでも幻覚でもない、現実の出来事だ。
「だ、誰だ!?」
「こんばんは、オアシス製菓の社長……松本康平だな?」
何故かこの男は俺の名を知っている。いったい何者なんだ?
「お前が原田を使って3人を殺し事件を起こした元凶、黒幕って訳か」
「お前は……」
「なにただの殺人鬼だ。お前を殺す前にいろいろ聞きたい事がある。その回答次第では生かしてもいい」
直ぐに警察に連絡をしようとポケットからスマホを取り出すが、手に持った瞬間にスマホが消える。消えたスマホは何故か仮面の男が持っていた。
「あまり怒らせないでくれよ。お前はもう逃げられないし、質問の答えによっては死ぬしかない」
あまりにも訳が分からない状況に恐怖を抱き、逆にこっちが質問したいぐらいだ。だがこの男の質問に答えれば殺される。
「まず、あの3人を殺した理由を言え」
「あ、あいつらにはうちの会社に入らないかスカウトしようとしたんだ。あの3人の技術は戦力になると考えて……」
仮面の男は俺の首を掴んでバルコニーまで連れていく。
「噓だな。お前、表向きはオリナス製菓の社長をやっているが裏では合成麻薬を使って商売していたんだよな?そしてあの3人にその仲間にならないかスカウトしたんだろ」
「何故それを!?」
「ここに来る前、お前が知っている逃がし屋がペラペラと喋ってくれたよ。須藤以外の2人は断って殺したんだろう?何故須藤は話に乗ったのに殺した?」
バルコニーの柵から俺を宙吊りにすると「早く答えろ」と脅してくる。
「あ、あいつは合成麻薬を持って警察に行こうとしたんだよ。商売道具を台無しされる訳には行かなかったからな。金にもならない奴に生きている資格なんてない!」
「なるほど」
「な、なぁ。俺を助けてくれよ。金ならいくらでもだすからさ。いくら欲しい?望む金額を用意するよ」
少し沈黙すると仮面の男は宙吊りの俺をバルコニーに戻すと考え始める。
今がチャンスだと思った俺はバルコニーに置いていたゴルフクラブを掴んで後頭部を思いっきり叩き込んだ………しかし、何故か奴は無傷でゴルフクラブが曲がる。
「いい度胸しているな。気にいった」
「ば、化け物!」
「世界は広いんだぜ。俺が知っている限り、チェーンソーで斬り掛かっても斬れないチート野郎だっている」
仮面の男の笑い声が俺にさらなる恐怖を与える。俺の胸ぐらを掴むと再び宙吊りにされる。
「悪かった悪かった!俺の全ての財力をお前に捧げるから助けてくれ!!」
「最後の質問だ。小早川春奈を殺した本当の理由は何だ?」
「な、何を!?」
「とぼけるな。合成麻薬の商人としてスカウトして断った後も何度か会っていたそうだな、そしてここからは俺の予想だがお前は小早川に協力しなければ須藤を殺すとでも脅していたんじゃないか?」
しばらく黙る。これ以上こいつを騙し通すことは無理だと判断した俺は真実を話すことにした。だがタダでは済まさない。
「………お前の言う通りだ。あの女は我が社の戦力としても経営戦略としても優れた人物だった。殺すには実に惜しい程にな!しかしあの女は脅しには屈せずに警察に逃げ込もうとしたから捕まえて口を封じてやったんだ。もちろんたっぷりと楽しんだ後でなぁ!!」
ポケットからハンドガンを取り出して仮面の男に発砲する。発砲音が響くので、銃は使いたくはなかったが仕方ない!
ダンッ!!
銃弾は仮面に当たりすかさず柵に掴まってバルコニーに戻る。そして仮面の男をバルコニーの外へと投げた。ここは30階、落ちて助かる高さではない。
これで俺の勝ちだ!!
だが万が一奴が生きていたら厄介だ、確実に死んだ事を確認しなくては。
マンションから出てバルコニーの下に向かう。周辺を探索するが死体が見つからない、まさか……。
「ますます気にいった。殺すには惜しいな」
背後から声が聞こえ、振り向くと仮面の男が立っていた。仮面にはひびが割れており、右手には撃った弾丸を握っていた。
「忘れもんだぜ。返してやるよ」
弾丸を胸ポケットに入れて俺の肩を軽く叩く。
「この化け物がぁ!!」
今度こそ奴の顔面に目掛けてトリガーを引く。
カチッ、カチッ
ハンドガンから弾が出ない。マガジンを見ると弾がない。いつの間に弾を抜き取られたのか?
「いや~油断したわ。マガジンを抜いても最初の一発は装填されているんだっけか?だからさっきは喰らっちまったけど…………もうお前の反撃は終わりか?」
「くそ!くそ!くそ!」
「……じゃあ次は俺の番だ」
仮面の男は俺の首にスタンガンを当てる。
そして意識が遠のいていく……。
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皆さんはスノードロップの花言葉をご存知でしょうか?
スノードロップの花言葉には「希望」、「慰め」そして「あなたの死を望みます」という意味があるそうです。




