105話 放火魔と殺人鬼
回復魔法をかけ続けてラルマとラーシャは一命を取り留めた。いったいどうやってここに来たのか、どうやって見つけたのかはわからないがそんなことよりも嬉しさが爆発し、ミーアは泣き叫ぶ。
「うーちゃん!!あーちゃん!!」
ウインチェルに抱きつくとウインチェルはミーアの頭を撫でる。
「理由はどうあれ三人共よくここまで頑張りましたね」
「……うわ~ん!!」
「よしよしもう大丈夫よ………ところでさっきの奴はどうする?私としては奴を氷漬けにしないと気が済まないのだけど」
「いえ、ここは引き揚げましょう。それにあの人が逃げた先には私達より手強い人がいるみたいですね」
原田が逃げた方向に魔力を探ろうとするとウインチェルの言っていた事を理解したアルメリアはフッと笑い、ラルマとラーシャを抱き上げた。
「ねぇうーちゃん。このまま帰るの?」
「そうですよ」
「ならお願いがあるの……」
ミーアは頼みをウインチェル達に伝えるとウインチェルは詠唱を唱えて転移魔法を発動させてある場所へと転移した。
一方、子供達から逃げ切った原田は息を整えながら森を進む。今自分が何処にいるかは不明だが進み続ければ道路にたどり着くだろう。
今日は散々な一日だった。警察がここに来る前に逃がし屋と合流して船に乗ればこの火炎放射器を手に入れた密輸ルートを使って海外に逃げ切る事ができる。
森の奥で車が走る音が聞こえる。どうやらもう少しでこの森を抜けだすことができるみたいだ。
「海外に行ったら浴びるように酒を飲んで、女といっぱい種付けしてやる」
「ほう、それは精が出るな」
「誰だ!?」
後ろを振り向いたら一瞬光って首元に電撃をくらう。朦朧としている中、目に映ったのは黒いフード付きのマントを羽織った仮面の男だった。
……あれから何時間経ったのか?目が覚めると暗い部屋にいた。腕と足は椅子に縄で縛られて動けない。周りを見るとどうやらここはテントの中らしい。
部屋のドアが開くと仮面を被った男がポリタンクを持って入って来た。
「こんばんは、よく眠れたか?」
「お前は誰だ!何故私の邪魔をする!?」
「質問に答えろ、そうすればお前は助けてやる」
仮面の男はポリタンクに入っている液体を原田にぶちまける、液体からは灯油の臭いがした。
「まず一つ目、お前が持っていた火炎放射器や大量のガソリンは何処で手に入れた?お前がそれらを購入できる程の財力があるとは思えなくてな」
「……」
原田が沈黙するとレイブンは原田の右手中指を折った。痛みに耐えきれずに叫びながら原田は答える。
「私に依頼してきた奴が1千万を渡してくれたんだよ!「この金である3人を殺せ、そうすれば更に9千万をやる」て電話が来てその後口座に振り込まれたからそれで私は火炎放射器やガソリンを買ったんだ!!」
「その依頼主は誰だ?」
「知らない、ボイスチェンジャーみたいな何かで声が分からなくて……本当だ!」
原田の目を見て噓を言っているようには思えない。多額の金額を振り込める人物か、それが出来て身近にいる人物を考えると一人思いつく。レイブンは質問を続ける。
「何故、お前は放火による犯行をした?」
「炎を見るのが好きなんだ。とても綺麗で心が癒されるんだ」
レイブンは原田の目の前にキャンプ等に使われる複数のOD缶と2つのポリタンクを置く。
「では問題だ。このガソリン、灯油、ブタンガス、プロパンガスの中で一番爆発しやすい物は何だと思う?」
「は!? 質問に答えれば助けてくれるんじゃ!?」
「なら答えろ。どれが一番爆発すると思う?」
原田が沈黙して考えるとレイブンは灯油が入ったポリタンクを地面にぶちまけてマッチに火をつけて近づけた。
「おい!!」
「安心しろ。まず灯油だが、引火点が40℃以上必要であるため、こうやってマッチを近づけてもすぐには火は付かない。因みに引火点とは液体の温度が引火点に達したとき、火元があると引火する温度のことだ」
仮面越しでも笑っているように楽しげな声をする彼を見て原田は恐怖し始める。
レイブンは早くしろと急かすと原田はガソリンと答える。
「確かにガソリンの引火点は-40℃でマッチの火でも引火はするし酸素の量によっては爆発もする。しかし一番爆発するのはガソリンじゃない」
レイブンはガソリンが入ったポリタンクを原田の傍に置く。
「さぁ、残り2択だ。10、9、8、7……」
カウントダウンが始まって原田はかなり焦る。
プロパンガスかブタンガスがどっちだ?
「プロパンだ!答えはプロパンガスだ!!」
答えを叫ぶと数秒間、時間が止まったかの様に静まった。そして段々我慢が出来なかったのかレイブンは笑い始めた。
「くくくく、ははははは!!!」
「何がおかしい!」
「はははははは!………あー、炎が見るのが好きとか言いながら全然知らないんだな。残念だわ」
レイブンはプロパンガスとブタンガスが入ったOD缶を原田の傍において栓を開ける。
「お前にはがっかりだ。正解出来なかった罰ゲームと俺の妹分に手を出したお礼として身をもって知ってもらおうか」
段々とガスが充満していく中でレイブンは目覚まし時計を置いた。とても身に覚えのある時計……原田が須藤を放火したときに使った点火する時計だ。
「お前が使用した物と同じとまでは行かなかったが、ボタンを押すと1分後に火花が出る様に改造してみた」
「何で私にこんな事をするんだ!何か恨みでもあるのか!?」
「別に、俺とお前は同じ穴のムジナって奴だ。お前は人を殺すのに理由がいるのかもしれないが俺にはいちいち理由なんていらないんでね…………炎を見るのが好きなんだろう?間近で見せてやるよ」
レイブンは目覚まし時計のボタンを押すと秒針が動き始めた。バイバイと手を振りながらレイブンはテントを出る。
カチッカチッカチッカチッ
原田は必死で縄をほどこうとするが、反動で椅子ごと横に倒れた。
もう時間がない。何とか椅子を引っ張って外に出ようとするが………。
「誰か、助け」
カチッカチッカチッバチッ!
目覚まし時計から火花が出たと同時にテントは四方八方と散って大爆発した。
レイブンは原田が「海外に行ったら」と言っていたからおそらく船で逃げようとしたと予想し、奴が逃げようとした場所に行って黒幕の情報を聞き出すことにした。




