102話 燃える犯行、燃え上がる正義
放火が発生した現場に向かうと消防隊員が鎮火活動を終えており一部が黒く焦げている場所がある。
目撃者の情報によるとジョギングをしている最中にこの公園に張ってあったテントが一気に燃えたとのこと。直ぐに119番通報して10分後に消防車が到着、鎮火活動をして救急車でテントの中にいた人を病院に運んでいったそうだ。
純也は燃えたテントの近くに行くと燃えカスが散らばっている……破片を見ておそらく新聞紙だと思われる。他にはタバコの吸い殻と思われる物や燃えた寝袋やペットボトルがあり、ペットボトルは下半分がなくなっている。
テントの中には焼死体があったらしく、身元特定のために搬送されている。
「おそらく寝タバコでもして燃えてしまったんでしょうね」
鈴木は事故と判断するが、燃えたカスが大量に散らばっているのは何だか不自然に見える。
それに目撃者の情報が言っていた「一気に燃えた」という言葉も気になる。それが本当なら被害者は何故テントからすぐに逃げなかったのか?
「わ~、すご~い」
「これじゃあ助からないね」
何処かで聞いたことがある声だと思って振り向くとミーア、ラルマ、ラーシャがテント周辺を調べている。
「ちょっ、何しているんだ君達は!?」
「あ、純也さん。こんにちは~」
「こんにちは……じゃなくて危ないからここから離れなさい!」
純也は三人を現場から離れさせると鑑定士が近づいてくる。どうやら身元が特定出来たみたいだ。
「被害者は小早川春奈、神田にあるケーキ屋の社員だそうです」
「小早川春奈だと?」
その名は1件目であった事件の須藤明楽の元恋人だという人物、つい先ほど彼女の家に訪問をしていたがこんな形で出会ってしまうとは……。
鑑定士に死因について聞くと一酸化炭素中毒で亡くなったとのこと。彼女の所持品について聞くと財布、腕時計、スマホ、化粧品が入ったカバンだそうだ。それを聞いたラーシャは不思議に思う。
「へ~じゃあどうやってこの人は火をつけたの?マッチ?それとも“別の何か”かしら?」
三人がいた世界にもタバコや葉巻は存在している。ラーシャはよく帝国軍人がタバコを吸っている光景を見ており、火をつけるにはマッチか炎の魔法が必要だった。しかしこの世界は魔法が存在しないはずだからそれが出来るということはその人物が異世界から来たと断定出来る証拠だ。
「この子は?」
「気にしないでください。それよりもこの子の言う通り、火元がタバコなら彼女のカバンにはタバコとライターはありましたか?」
「いいえ、ありませんでした」
鈴木はもう一度テントに入りライターやマッチ等の火元となる物を探すが見当たらない。そうなると彼女が寝タバコしたとは考えにくい、仮に本当にタバコを吸っていたならタバコとライターは何処に消えたのか?
純也は鑑定士にタバコと先ほど小早川の部屋で見つけた白い粉が入ったポリ袋を渡して鑑定を依頼した。
鈴木は周辺にいう人物に事件の聞き込みをすると言ってその場を離れる。そして純也は……。
「さて君達、家に帰りなさい」
「えーやだ~。もっと調べたい!」
「ここは危険だから駄目!」
「やーだやだやだやだやだやだ!!」
「駄々こねても駄目!」
「ケチ!!」
話をしているうちに玖珂が現場に到着し近くの警官に今回の事件の情報を聞く。テントの中を調べ鑑定士に依頼した物を確認、その後追加でテントの中で見つけた溶けかけの白い塊を調べてもらう。そして純也達を見て何をしているんだと警官に質問すると警官も首をかしげる。
「酒鬼巡査部長?」
「玖珂警視!?お疲れ様です!」
玖珂に気付くと敬礼をすると玖珂は三人の子供達について尋ねると純也はすぐに追い返しますと答える。しかし犯人がまだ近くにいる可能性があるので保護しなさいと指示を受ける。それを聞いた鈴木は寝タバコによる事故ではないのかと質問する。
玖珂が殺人事件と判断したのはまず鑑定士に依頼したタバコのフィルター、タバコのフィルターは燃焼によって発生するタールを濾過するとフィルターの吸い口が茶色になる。しかしこの吸い殻はフィルターの吸い口が白いままである。一見シガレットペーパーがある程度燃えているから小早川がタバコを吸ってテントに引火させてしまったと思えるが小早川のカバンにタバコやライターがない事から犯人がタバコに火をつけて小早川に吸わせた様に偽装工作したのではないかと考えた。
そしてテントが燃えた火元は別にあると玖珂は言う。それは何かと純也は尋ねるとまだ断定出来ていないので鑑定の結果を待ってからにしようと答えた。
「さて、酒鬼巡査部長」
「は、はい!」
「その子達は君の知り合いかな?」
「はい」
「ではその子達を家に送ってあげてください」
「わかりました」
純也が三人を連れてミーアの腕を引っ張るとミーアは純也の手を叩いて三人は逃げる。
「あ、こら待て!」
「じゃあね純也さん。夕方までにはお家に戻るからね!」
追いかけようと走るが三人の逃げ足はとても速く捕まえる事ができない。やがて三人の姿は見えなくなった。
しばらく逃げ続けてミーア達は別の公園で一息ついてラーシャが召喚した眷属から情報を手に入れようとする。
「ふぃ~、伊達にうーちゃんやもーちゃんと追いかけっこしてないもんね」
「あの程度ならすぐに逃げ切れるよ。それよりも犯人の手掛かりは?」
「ちょっと待って」
純也達に忍ばした蜘蛛型の眷属から彼らの声を拾う。
『先程は失礼いたしました』
『いや、仕方ないさ。彼女達はとても好奇心で元気で良いことだ。さて、鑑定士から依頼の返答が来たよ。まずはこの白い粉だがこれはとんでもない代物だ』
『というと……もしかして麻薬ですか?』
『ああ、しかもコカイン、ヘロイン、マリファナ、MDA等さまざまな種類がブレンドされているとても危険な薬だ。ここからはマトリ(麻薬取締官)にも協力してもらうようにするよ』
『では、小早川はこれを使用して錯乱し火事を起こした?』
『いいや、小早川を司法解剖した結果、彼女の体にはその合成麻薬のほかにもエスタゾラム……つまり睡眠薬が検出された』
『エスタゾラム……またあの薬か』
『次にこの溶けかけの白い塊を見てほしい。これはロウソクだった物だ。おそらくこれが火元の原因だろう。まず犯人はこのロウソクと新聞紙を使ってテントが燃えるように仕向けた。目撃者の情報ではジョギングをしている最中に公園に張ってあったテントが“一気に燃えた”との事なのでおそらくガソリンかエタノールでも使用している可能性はある』
『そのロウソクでテントを燃やした……でも火が消えてしまえば失敗に終わりますよね?あまりにも無謀な犯行に思えます』
『ではこの2ℓのペットボトルを見てほしい、このボトルは半分より下がなくなっておりテントが燃えてからすぐに通報があり10分後に消防車が到着して消化したという。そんな短時間で半分以下まで燃えたのは不自然だと私は考えている』
『つまり始めから半分より下はなかった?何のために?』
『このペットボトルを半分に切断してキャップを外した状態でロウソクを被せるように設置すれば風の影響を受けにくく途中で火が消えない様にしたのだろう。この2ℓのペットボトルを半分以下に切断した場合、直径は15cmだからその長さのロウソクを設置すれば約1時間後には燃え尽きて新聞紙に火が移るだろう』
『ということはテントが発火した1時間前にあの公園で犯人がいて、その1時間でアリバイがあっても成立しないと?』
『まぁそういうことだ。では二人共、引き続き聞き込みを頼む。これ以上犯人の好きにさせてはならない』
『『わかりました!』』
玖珂が言っていた情報を聞いて正直混乱する三人、この世界しか存在しない物と単語が多過ぎるのである。
ここは二手に別れて情報を集めようとラーシャは一度家に戻ってパソコンで先程の情報で得た単語や物について調べることにした。
ミーアとラルマはエスタゾラムについて詳しい五十嵐龍騎がいる妖精食堂に向かうことにした。




