100話 最悪の誕生日パーティー ~解決編~
犯人は別にいる……その一言で会場の空気は重くなったように感じる。
直美の言葉に対して鈴木は意見を述べる。
「しかし、証拠の毒は小谷さんの椅子の隙間にあったんですよ?どうやって飯田さんを毒殺したのですか?」
「他の人の椅子は調べましたか?」
「はい?」
直美は飯田、大下、原田が座っていた椅子の座面と背板の付け根との間に手を突っ込むと小谷の椅子にあった物と同じ小瓶が見つかった。
「凶器となる証拠が一つでも見つかれば、その近くにいた人が犯人だと思うのも無理はないでしょう。しかしこれなら飯田さんがどの席に座ったとしても誰でも殺害は可能になるんですよ」
確かにこれなら小谷以外でも殺人はできる。
この会場を予約してテーブル席を選んだ人物が一人いる。
「原田、お前か!?なんでお前が俺を貶める様な真似を!!」
「ち、違う!僕じゃない!!」
「いいえ小谷さん、この小瓶達をよく見てください。どの小瓶も小谷さんの椅子で発見された小瓶と同じ量なんですよ。もし小瓶の毒を使ったならいずれかの小瓶の量が減っていないとおかしいと思いませんか?」
直美は全ての小瓶を並べて見ると、確かに中に入っている毒液の量が同じである。
「つまり、凶器で使われた毒は別にあります」
「それじゃあその凶器は何処にあるんだ?」
純也は直美に問いかけるとミーアが「はい!」とおしぼりを渡す。何でおしぼりを渡させたのか意味がわからないでいるとミーアは「これ、毒だよ!」と元気に言った。純也は驚いて思わずおしぼりを落とす。
「そのおしぼりは料理が並んでいるテーブルの下に落ちており、毒がしみ込んでいます。そしてこのおしぼりを飯田さんに渡すことができたのは一人しかいない」
直美はある人物に指をさす。その人物こそ飯田さんを殺害した真犯人である。
「そうですよね…………大下小百合さん!!」
直美の発言で大下は驚くが、フッと笑う。
「探偵気取りもいいところですね。私が犯人だというのならどうやって飯田さんを毒殺したっていうの?」
何で推理小説やドラマ、アニメ等の犯人って特定されると全力で否定しないで余裕がある態度をとるんだろう?
まぁ、おかげでこいつが犯人だと確信を持てたけど……。
「まず、あなたは飯田さんが料理を取って来てほしいというタイミングで全員分のおしぼりを取ってくる。この時、予め用意した毒入りおしぼりをポケットから取り出す。そして配る時に飯田さんに毒入りのおしぼりを渡したんです。飯田さんはサンドイッチが好物でそのことは全員が知っているとお聞きしてします。頼まれた人は高確率でサンドイッチを持ってくるでしょう。そしてタイミングを見て毒のおしぼりと毒のないおしぼりをすり替えれば、飯田さんが毒の着いた手でサンドイッチを食べるのを待つだけです」
「馬鹿馬鹿しい。もしサンドイッチを持って来なかったらその犯行は無理ですよね?」
「そうしたらあなた自身が持って来るか誰かにサンドイッチを持って来てほしいと言えば良いだけの話です。そしてあなたが犯人だとわかる証拠がもう一つあります」
直美がそう言うとラルマは純也にハンカチで包まれた二つのおしぼりが入っていたビニール袋を渡す。
「この二つのビニール袋、一つ目は飯田さんがいたテーブルにあったもので大下さんの指紋が、そして二つ目はゴミ箱から発見し大下さんの指紋と飯田さんの指紋、毒が検出されるはずです。鑑識に頼んでみてください。ここまでで質問はありますか?」
「そのビニール袋に毒があるって何でわかるのかしら?」
「もちろん、それを見た人がいたからです。ね、ラーシャちゃん」
「ええ、貴方がそれを捨てるところを私は見たわ」
ラーシャは大下に指をさす。因みにラーシャが見たというのは噓……つまりハッタリである。
しかし大下から反論はなく、数秒後に崩れる様に地面に座った。純也と鈴木は大下に近づき署で話を聞けないかを任意同行を求めると彼女はボソッと喋る。
「最初は頼りになるリーダーだったよ。でもあいつが誰かの電話しているのを聞いてしまってその内容はとんでもないことだった。あいつはスパイだったのよ、この会社の利益と引き換えに情報と技術を本職に密告していた。私はそれが許せなかった……」
彼女は憎しみを込めながらこぶしを握り締める。鈴木は大下を立ち上がらせてパトカーへと乗せていった。
事件は無事に解決した。速水は純也の肩を叩きながら褒める。
「君の娘さんは大したものじゃないか、まさに名探偵みたいな推理だったよ。そして娘さん、我々のご協力感謝します」
速水が直美に敬礼すると部下達も続けて敬礼する。直美は恥ずかしくて髪をいじりながら返事をする。
「お~い、純也~」
「松本さん、今日は災難でしたね。せっかくの誕生日パーティーだったのに……」
「まさか俺の誕生日パーティーで殺人事件が起きるなんて誰も予想出来なかったよ。しかし飯田さんがスパイだったとはな……」
「その件につきましては我々警察が調べ、その会社には営業秘密侵害罪で捜査します」
「ああ、よろしく頼むよ」
康平は敦子とともにタクシーで家に帰る。清司と龍騎も明日の仕事に備えて帰って寝るとそれぞれの車に乗って帰っていく。
「じゃあ、俺達も帰りますか」
「そうね、何か今日は疲れたよ」
純也は鈴木に後を任せて家族と一緒に家まで車を運転する。
家について真由美は風呂を沸かす為に準備をする。直美はミーア達に問いかける。いったいどうやって毒の小瓶が他にもある事がわかったのか。毒のおしぼりの存在とそのおしぼりが入っていたビニール袋をどうやって見つけたのか。ミーアが「それはね、ラーシャちゃんがけんぞ……」と口を開いた瞬間にラルマが口を塞ぎ、ラーシャは「私達三人はよく宝探しの遊びをしていてそれで他に何かないか探したら見つけただけよ」といって三人は部屋に戻った。
部屋に戻ったらラルマはミーアの口に手を放すとミーアはどうして直美に本当の事を言わないのかを聞く。
「それは僕たちが魔法や能力を使えるのを話しても信じてくれないと思うよ」
「仮に魔法を使うところを見せたところであの人達が今まで通りに接してくれるかわからないわ。もしかしたら私達の小隊みたいに軽蔑される可能性だってあるもの」
「何か寂しいよね。同じ人なのに本当のことを言えないなんて」
「人間は自分より強すぎる者は化け物と呼んで軽蔑する生き物だからね。だからこの世界の人達と平和に過ごすには力を隠すのも必要なんだよ」
ラルマは下に俯く。彼とラーシャは能力者だった為に嫌な経験をした事がある。それ故にあまり人を信じない様にしている。
「あたしは例え全ての人がそうだったとしても助ける為にこの召喚魔法を出し惜しみはしないよ。そして直美姉ちゃんがそういう人じゃないって信じるもん!」
ミーアはラルマの顔に近づいて言うとラルマは顔を赤くしながらミーアから離れる。
「わかったよ。でも魔法を使っているところを他の人に見られるのはまずいから極力ばれないようにしてね」
「うん!」
話をしているとコンコンと真由美がドアノックする。ドアを開けると風呂の準備が出来たから入ってとのことだった。最初にミーアとラーシャで入ってとラルマは後で入ると言って布団を敷いて寝る準備をした。




