再び
その日は普通に家に帰った。古いアパートの1室、電気の消えている部屋は“今は”誰もいない。
ついこの前まで母親がお酒を飲んで待っていた。でも、私のバイト代が入った瞬間、振り込まれた通帳をもって去っていった。
もう2週間はかえってきていない。おそらくまたどこかでギャンブルにお金をすり減らしているのか、各地にいる愛人の下に転がり込んでいるのだろう。
私には関係ないことだ。
親が持ち去っていった通帳はバイト代が振り込まれる通帳だが、バイトは掛け持ちをしているので、もうひとつの通帳で生活はできる。
バイトの掛け持ちのことは親は知らないし、こちらがどうやって生活しているのか気にもかけていないようだからばれることもない。
私は大人しく働いて、親にバイト代の一部を持っていかれるだけ。ただそれだけだ。
贅沢はできないが、苦しいというほどでもない。
部屋で制服を脱ぎ、Tシャツとジーンズに着替えて再び家を出た。これからバイトに向かう。
「おはよう。今日は傷は?」
「おはようございます、店長。膝と手のひらだけなので今日はホールも入れます」
「あっそ。ならホールで頼むわ」
この店の店長は私がいじめられてることを知っていて、新しいけがをつくってきたときは店の奥で働かせてくれる。
店長は学生時代にかなりやんちゃをしていたらしい。怪我をしてくることに対してなんとも思わないらしい。
でもお客さんが怖がるので、怪我ができたときは一応裏に隠す。私も接客にやってきた人の腕が、生傷だらけだったら嫌だ。
そんなことをぼんやり考えながら1日のバイトを終え、裏口から外へ出るとそこにはもう1つ扉があった。
こんなところに扉があっただろうか。
もしかして、いま裏口のドアを開けたとおもっていたが、勘違いだったのかもしれない。
なんの疑いもなく扉を開いた。でも、私は勘違いをしていたわけではなかったとすぐに悟った。
そこには、あの本棚のならんだ部屋があったのだった・・・