鬼ごっこ
視界がふさがれているせいか、いつもより音に敏感になっている。
それが男の足音と引きずられている金属バットの音を、鮮明に聞き取っていた。
すぐ後ろで、わざと外してバットを振り下ろしている。
私は慌てて頭にかぶせられた袋を外そうとした。すると、フェンスに思いっきりぶつかってしまった。
どのくらいのスピードで走っていたのかわからないが、遠慮なしにぶつかったため、頭がくらっとした。
「ぶす子、捕まえた」
後ろでバットが空を切る音がした。
そのとき私はおもった。なぜ、こいつらに殺されなければならないんだろうと。
逆の立場だったらよかったのに、と。
考えても仕方がないことはわかっていた。でも、そう思わざるを得なかった。
誰も助けてくれない。友だちも、教師も、親も、誰も・・・
せめて最期に1発ずつ殴っておけばよかった、とおもった。
そして、衝撃に耐えるために身を固くした。しかし、いつまで経っても衝撃は訪れなかった。それどころか、音が聞こえない。
いくらなんでもおかしいと思い、私は頭に被せられた袋をとった。
すると、後ろにはバットを振りかざした状態で止まっている男がいた。
周りのやつらも誰も動いていない。まるで、時間が止まっているかのようだった。
「・・・・・・え?」
空を見上げても、雲も鳥も動いていない。いったいどういうことなんだろうか。
もしかして、もう死後の世界なのだとか?
そんなことを考えていると、自分がぶつかったはずのフェンスに扉がついていた。
明らかにあやしい。どう考えても、扉をあけたら下に真っ逆さまだ。
でも、このおかしな状況に麻痺していたのか、自分の冷静な思考とは反対に、私の手はその扉を開いていた。