⇒プレイ開始
≪影≫を、屋上で操作してみる。
適当な場所で○ボタンを押すが、≪屋上にいます≫ 以外のメッセージは出なかった。
さっさと屋上から出ればいいのかな。
そう思った私は、階下へ続くと思われるドアの前に立ち、○ボタンを押す。
≪鍵がかかっています≫
「えっ?」
どうやら、鍵を探すか他のルートで此処から出るらしい。
「なんか、脱出ゲームみたい……」
ひとりぼやきながら、さらっと眺めただけの屋上をもう少しじっくり見て回ることにした。
そして、手摺の一部が欠けていることに気付く。
今度はその欠けた手摺の前に立ち、○ボタンを押した。
≪手摺が欠けています。触りますか?≫
⇒はい
⇒いいえ
初めて、疑問形のメッセージが出る。
スティックボタンを上下に動かすと「はい」と「いいえ」の文字が交互に光った。
×ボタンを押すと、メッセージが消えた。
どうやら「いいえ」を選択する時は、スティックで下移動をして「いいえ」で決定するという方法の他に、×ボタンでキャンセルする方法があるようだ。
メッセージをキャンセルしたあともう一度屋上を一周したが、それ以外に気になるところはなかった。
「触らないと、先に進まないのかな?」
もしかしたら、触ったらそこで鍵を見つけるかもしれない。
そう思った私は、再度欠けた手摺の前に立ち、メッセージを出した。
≪手摺が欠けています。触りますか?≫
⇒はい
⇒いいえ
今度は、「はい」を選択する。
すると、その次にはメッセージは出ず、十人の顔写真がセレクトボタンを押した時のように明るくなり、私の顔写真が黄色い枠で囲まれていた。
「ああ、誰が触るのかってことかな」
何かが起きると期待していた私は、ちょっと肩透かしを食らった気分でイジメメンバーの中心人物を選んだ。
≪片岡菜々花・カタオカナナカが触りました≫
○ボタンでメッセージを流す。
≪手摺が壊れて
片岡菜々花・カタオカナナカ
が落下しました≫
メッセージを見た瞬間に、心臓がぎゅっと締め付けられた。
嫌な予感しか、しない。
≪片岡菜々花・カタオカナナカ≫
体力⇒0%
次に流れた映像は、身の毛がよだつモノだった。
**********
手摺を触った≪影≫がバランスを崩して、スローモーションで落ちていく。
落ちていく際に≪影≫の顔が、片岡さんの顔写真と入れ替わった。
地面に叩きつけられて血飛沫が舞い。
彼女の顔はひしゃげ。
足も手も、有り得ない方向へと曲がる。
最後に広がりをみせる、赤い液体。
思わず最後までしっかりと見てしまった私は、息をするのを忘れ、思考回路も寸断された。
ゲームなのに、あまりにリアルな、その、映像。
私が我に返ったのは、やけに陽気なトランペットのメロディーが鳴り響いた時だった。
≪片岡菜々花・カタオカナナカ
は死にました≫
≪復讐おめでとうございます≫
どうやら≪REVENGE†GAME≫とは、復讐したい相手をゲームの中で死においやるゲームだったらしい。
私は、呆気ない結末への驚きと、ゲーム上とはいえ知り合いを死なせた後味の悪さと、先程の映像の気持ち悪さを胸に抱いたまま画面に注目していたが、画面はそれ以上動かなかった。
≪復讐おめでとうございます≫
その文字が画面に固定されたまま、数分が経過する。
「……あれ? これで終わり?」
先程の真っ黒い説明書に、もう一度目を通した。
「ああ、そういうことか」
私は電源を切り、ゲーム機を机の引き出しにしまう。
時計を見ると、もう二十三時だった。
部屋にこもって宿題をし、二十二時頃からゲームを始めたから、何だかんだで一時間はこのゲームに触れていたことになる。
実際にプレイを開始してから片岡菜々花を転落させるまでは早かったが、名前の入力に手間取ったり、操作確認をしている間にそれくらいの時間は過ぎていたらしい。
「今日はもう寝よっと」
先程の映像を頭の中から排除するようにわざと明るく声をあげ、私は布団に潜り込んだ。
■説明書■
◆メンバーの誰かが死んだら、一旦そこでゲーム終了となります。