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[chapter:3]

[chapter:3]


「バカですね」

 車の荷台に荷物を入れる羽柴に、シンは容赦なく言い放った。

「自分が何をしているのか、分かっているんですか」

 容赦のない言葉に、羽柴はぐ、と言葉につまる。

「でも、放っておけないよ」

 シンはふん、と鼻を鳴らした。

「そこじゃありませんよ」

「――そこ?」

「死神の事情を、あなたがあの人間に話すことをバカだと言っています」

「……どういうここと?」

 話が見えない、という様子の羽柴に、シンは嘆息まじりに説明する。

「あの人間に死神の事情を話すということは、あなたがあの人間に死を宣告するということです。憎まれ役を自分からかって出たんですよ。ババと分かっていてカードを引くバカをしてどうするんです」

「……でも、ここで放置したらあの子は不安なままだ」

「事実を教えることは残酷でもあります。嘘だと泣き叫ばれでもしなさい、面倒なことこの上ない」

「――……都合のいい嘘はつけない」

 はっきりと羽柴が言いきった。その言葉にシンも言い返す。

「同感です。ですが、あなたが責任を負いきれないでしょう。それは、無責任と言うのですよ」

 その言葉に、羽柴は黙った。

 違う。とシンは額に手を当て、ため息をつく。言い負かしたいわけではない。

「――すみません。あなたを責めたいわけじゃないんです。言葉が過ぎました」

「……いいよ、本当のことだよね」

 肩を落として羽柴がうなずく。

「あの子の状況をあの子に伝えるっていうことは、そういうことだよね。伝えて終わりって訳にはいかないと思うんだ」

「ですから」

「探せない? どこかにはいるんでしょ?」

 関わるのをやめましょう。そう言おうとするシンの言葉を遮り、羽柴がこれ以上ないくらい死神不在の人間に関わろうとする言葉に、言葉を打ち止めて空を仰ぐ。薄暗い夜空には星がまたたいていた。

「あの子の死神を見つけて連れ戻したい。そうすれば迷子にもならなくて済む。死ぬことが避けられなくても、できることはしたいよ」

「なんでですか」

 なんでそこまでしようとするんですか。上を向いてそれだけつぶやくシンに、羽柴は胸を張った。

「俺も死ぬから」

「それは理由にすらなっていません」

 顔を戻したシンに、羽柴は笑う。

「俺にとっては十分過ぎる理由かな」

 この人間の行動理念は、もはや理屈ではないのかもしれない、と思いながら、シンは「わかりました」と小さく答えた。

 協力を約束する言葉に、羽柴の顔も明るくなる。

「お願いですから、自分が予定外に死ぬようなヘマだけはしないで下さいよ……」

 せめて皮肉のひとつも言わなければやっていられない。そんな言葉にも、

「うん、気をつけるね」

 と羽柴は皮肉を皮肉として受け取らなかった。全くダメージを受けていないその口調にがっくりと肩を落とす。

「心配してくれてありがとう」

 そうじゃないんですが。

 逆にダメージを受けながら、シンは車の鍵を閉める羽柴の背中をながめて、ため息をつくしかなかった。



「まず、この人間が事実を知りたがっているか確認して下さい」

 応接室に案内され、リカが運んできたお茶を飲む羽柴にシンが声をかけた。

 こうなったらヤケだ、という心境で、シンは死神の作法をレクチャーをする。

「事実を知りたくない、となれば交渉決裂です。教える必要はありません。知りたいと言うなら、――……一から教えてあげなさい」

 羽柴はシンを横目で見て、正面のソファーに座ってお盆を膝の上に乗せたままのリカに「ええと」と声をかける。

「君が知りたいっていう、その幽霊のこととか、俺が知ってることを伝えることはできるんだけど。君の命にもかかわる話になるんだ。正直あまり聞きたくない話になると思う。君はそれでも、知りたい?」

 リカは羽柴を見上げ、真剣な表情でうなずいた。

 ま、そう言うでしょうね。とシンは二人のやり取りをながめる。

 恐らく話を聞いても取り乱しはしないだろう。そんなタイプに見える。

 羽柴から向けられた視線に、シンは小さくうなずく。

「どうぞ」

 シンは全てを羽柴にゆだねて、話をするように促した。

 そもそも、話自体はそう難しいことではない。リカに死期が迫っていて、本来は死神がいて、魂を回収するはずが、その死神が見当たらない。幽霊が見えるのは死期が違いせいだからだ。

 しかし、そんな簡単なことではあるが、あなたはもうすぐ死ぬ、という事実が話を混乱させる。

 とはいえ、納得など必要ない話でもあるが。

 一方的に押し付けられる近い未来の話を、少し手前で教えるだけだ。その事実はもはや変えようがない。

 あとはこの人間次第だ。とシンはふたりのやりとりをぼんやりとながめる。

 一連の話を静かに聞いていたリカは、羽柴の説明を聞いてうつむいた。

 そして、沈黙が落ちた。

「私は――死ぬんですか」

 暗くて重い言葉に、羽柴はゆっくりとうなずく。

「終わってしまうんですか」

 将来も未来も、死をもって容赦なく断絶される。

 羽柴は、うつむいて、両手で抱えるようにして持っていた湯飲みを見つめる。

 揺らめく水面を見て、そして顔を上げた。

「残念ながら、そうだよ」

「ひどいですね」

 その言葉に、羽柴が言葉につまる。

 幽霊が見えるようになって、死神の話を信じたらしい。面倒がなくていいですね、と場違いな感想を抱きつつ、羽柴に言い放つ。

「だから言ったでしょう」

 シンの冷徹な言葉に、羽柴はシンを見て、唇を引き結んだ。

「――羽柴さんは」

 再びの沈黙ののち、ぽつりと、リカが言った。

 羽柴は、はっとしながら視線を戻す。

「羽柴さんは、なんでそれを知ってるんですか」

 その言葉に、羽柴は表情を曇らせた。

「――俺の担当の死神が、教えてくれたんだ」

 リカが驚いた表情で羽柴を見た。

「じ、じゃあ……」

 言いかけたリカが口を閉ざした。羽柴は小さく苦笑して、「うん」とその言葉の続きを口にする。

「俺ももう少しで死ぬ――のかな? あんまり実感ないんだけど」

「そう、なんですか……」

「だから、まだどうしたらいいのかわからないだろうけど、君の担当死神を探そうと思う。近くに誰かいるだけで違うよ。きっと何かあったんだよ」

 突然の話に思考が追いつかないらしいリカが、「そうなんですか」とどこかぼんやりした相づちを繰り返した。

「それで、俺からもいくつか質問がある。申し訳ないんだけど、教えて欲しい。――手紙は届いた?」

 羽柴が本題の質問をすれば、ぽかんとしたリカが首を左右に振った。

「手紙……って、なんですか?」

「俺の手紙には、死期が近いことが書いてあった。そういう手紙」

「……ええと」

 リカが眉をひそめ、視線を迷わせてから「あ」と声をあげた。

「家の机に封筒があったのは見ました」

「届いてたんだ」

 羽柴の言葉に、リカは「でも……」と困ったように言葉を続けた。

「気が付いたらなかったんです。だから、気のせいだったと思ってて……さっきまで忘れてました。なので、その手紙かどうか、自信がありません」

「――……なくなった……?」

 シンが繰り返す。羽柴は、

「ええと、ちょっとごめんね」

 とリカに断って、シンがよりかかる壁際を見た。

「そんなことあるの?」

「いいえ」

 シンは首を左右に振って即答した。

「死の宣告は絶対です。一度届いて消えるなどということは、誰かが何かをしない限りありえません」

「――じゃあ、誰かが何かしたってことだよね」

「それしか考えられません。その手紙が死の宣告の手紙ではなかったという可能性もありますが、状況的には、一度死の宣告の手紙が届き、誰かが持ち去った、と考えて良いと思います」

 うーん、とうなりながら視線を戻す。

 そして、リカに非礼を詫びる。リカにして見れば、突然何もない空間でひとりで会話をするようにしか見えなかったはずだ。

「ごめんね」

「いいんです。ここにいるんですか?」

 その言葉に羽柴はうなずく。

「いる。ずっと近くにいる。ああ、さっき教室のすみの幽霊を消したのもシ……俺の担当死神」

「そうなんですか」

「それより、その手紙以降は何かあったの?」

 リカは「いいえ」とうつむいた。

「ただ、学校で変なものが見えるようになりました。最初はぼんやりとしか見えなかったんですが、日に日にはっきり見えるようになって……不安で不安で」

「――ごめん」

 過ぎたことを蒸し返してしまったことに、羽柴が謝り、その言葉にリカは苦笑する。

「羽柴さんのせいじゃありません。理由がわかってよかったです……あんまり嬉しくないけど」

「――……そうだよね」

 羽柴も小さく返事をする。

 それを見たリカが無理矢理笑顔を浮かべた。

「それで、いつ死ぬかとかわからないんですか?」

「いや、それが……」

 羽柴は半笑いを浮かべると、横目でシンを見る。

「俺の担当死神、そのへんあんまりやる気がなくて、わかんないんだよね……」

「……やる気ないんですか……?」

「やる気がある死神の方が良かったですか?」

 同時に聞かれて羽柴は沈黙する。

 積極的に死期と死因を教えてくれて、魂回収する気満々の死神がいたとしたら。

「……やる気があり過ぎるのもなんか嫌だけど」

「確かに」

「でしょう」

 会話は聞こえていないはずなのに、リカとシンの言葉がかぶる。

「でもよかったです。変なのが見えるから学校もあんまりいたくないし――あ、あの、正門の方に旧校舎が出てくるんで気をつけて下さい」

「旧校舎が出てくる?」

 羽柴が聞き返す。

 シンは、「ああ、そんなのありましたね」と平然と言い放った。

「時間によって『出てくる』んです。友達には見えないから、多分幽霊っぽい何かだと思います。中に入ってゆく幽霊みたいな人や影を見たことがあるんですが、誰かが出てくるのを見たことがありません。あんまりよくないものだと思います」

 気をつけて下さい。と言うリカを見て、ふむ、とシンが感心しながら、真顔で羽柴を見た。

「むつきよりセンスがありますね」

「ちょっと、それどういう意味!?」

「ど、どうしたんですか」

「いや、なんかシンが俺よりリカちゃんの方がセンスあるって言うから……!」

 シンを指さして、真顔で主張をする羽柴をぽかんとして見るリカに申し訳なくなりながらも、羽柴が口を尖らせる。

「前々から思ってたけど、シン俺にちょっと冷たいよね」

 その言葉に、シンは首をかたむける。

「かわいい子には旅をさせろと言うじゃありませんか」

「ひどい」

 シンの姿が見えず、声も聞こえないはずなのだが、リカはふたりのやり取りをみてから、わずかに吹き出した。

 ふたりは顔を見合わせ、それから気まずそうにお互いに顔をそらして、羽柴は「リカちゃんの死神はいいひとだといいね」と拗ねたような口調になる羽目になり、余計にリカの笑いを誘ってしまうこととなった。


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