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守りたいもの  作者:
7/10

第7回 夫婦愛


家を出て行った歩が戻ってきて…



 明け方、ようやく僕は家に帰った。晴香がいるかどうかわからなかったが、玄関に彼女の靴があり、いることがわかった。

 妙に緊張する。最低な言葉で晴香を傷つけたのだ。

 静かだ。何の気配もない。

 晴香はどこだろうか。無意識に捜し、すぐにその異変に気づいた。

 晴香は、居間のテーブルに突っ伏して動かなくなっていた。

「晴香!」

 慌てて傍に駆け寄った。しかし、すぐにただ寝ているだけだということに気づく。一瞬、最悪な考えが浮かんできたのでほっとした。

 それでも、一目見てずっと泣いていたことがわかる。寝ながらも涙の痕がついていた。

 どうしようもない想いが込み上げてきた。僕は寝ている彼女に囁く。

「僕が晴香を嫌いになるはずがないよ」

 誰にも聞かれない言葉が続く。

「むしろ好きすぎてたまらない。もちろん、これから生まれてくる子供も・・・・・初めて赤ちゃんができたって聞いたとき、晴香が僕のプロポーズ受けてくれたときと同じくらい嬉しかったよ」

 僕は空を仰いだ。

「2人は僕の一生の宝だ・・・ずっと僕が守りたかった。だけど、僕じゃだめなんだ。僕じゃもう2人を守れないんだ・・・・・」



 そこまで言い終えて、僕は自分の身支度をするために部屋に行こうとする。

「なんで?」

 その声が聞こえるまではそうしようと思っていた。

 はっとして振り返ると、いつのまに起きていたのか、晴香が泣きはらした瞳でじっと僕を見ていた。僕は目をそらした。

「私のこと好きなら・・・なんで別れるって言うの?」

「・・・・・・・・」

「答えてよ」

 答えられなかった。自分は晴香の出産予定日の前日に死ぬからなんて言えなかった。

 晴香が一歩前に踏み出す。そのとき、彼女が急にバランスを崩して倒れこんでしまった。

「あっ・・・!」

 とっさに足が出て、気がついたら僕は彼女を支えていた。

「歩のバカ」

「え・・・」

「歩は嘘をつくとき、目が泳ぐ。普段目を見て話す人が急にそらすなんて、嘘言ってるに決まってるもん」

 そう言って、晴香は僕の頬をぎゅーっとつねった。結構痛かった。

「理由を話してよ。なんで別れるって言ったのか」

 もう完全に僕の嘘がバレている。でも、少しだけほっとしている自分に気づいていた。

 別れたくなかった。


          ∞


 いつのまに寝てしまったんだろうか。気がつくと、正午を過ぎていて窓から差し込む日差しがまぶしく感じられた。

 頭が痛い。いろいろなことが一気に体験したからだ。

「おはよー」

 そのとき、寝室のドアを開けてひょっこりと顔を出す晴香が見えた。

「昨日から寝てなかったもんね。よく眠れた?」

「あ、うん・・・」

 結局、あれから晴香は僕に何があったのか訊くことはしなかった。僕が言いたくなさそうだったから、あえて訊くことをやめたのだろう。

 今は、何事もなかったかのように接してくる。

「晴香・・・!あのさ」

 晴香は黙って振り返る。

「さっきはごめん!あんなこと言って、晴香も生まれてくる子供も傷つけた・・・・・・」

「・・・・・・」

「怖かったんだ・・・失うことが怖くて、先に自分から失うことを考えた・・・許してほしいなんて言えないけど・・・・・ごめん」

 僕は必死に頭を下げる。もう後先なんて考えていなかった。

「今回のことで晴香が僕に愛想つかしたのなら、そのときは僕は身を引く。もし・・・こんな僕でもまだ一緒にいてくれるんなら・・・・・」

「どうするー?」

 晴香はまだあまり目立たないお腹をさすって、中の子供に尋ねる。

「―うん、そうだね。お父さんを許すってさ」

「え・・・・・」

 顔がほころびかけたとき、急に彼女の腕が伸びてきて、僕のみぞおちに見事に入った。

「うぇっ」

「よーし!これですっきりした!」

 晴香は満面の笑みで、体をくの字に折る僕の頭をぽんぽんと叩く。

「こんないい女泣かせるなんて・・・・・私、自慢じゃないけど学生時代結構モテモテだったんだからね」


 失いたくない。

 このとき、僕は初めて死にたくないと思った。

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