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守りたいもの  作者:
6/10

第6回 崩壊の音


離婚を切り出した歩…



「別れてほしい」

 僕にそう言われた晴香はしばらく黙った後、ゆっくりとその唇を動かした。

「なんで・・・?」

「ごめん・・・他に好きな人ができた」

 シュミレーションどおり、淡々と言い放つ。

 こうするしかなかった。もし僕が死んだら、自分はずっと彼女を引きずってしまう原因になってしまう。

 それならいっそ嫌われたほうがいい。

「子供とかって苦手だし。できたって聞いたとき、正直めんどくさいなって思った」

 言ってはならない言葉を言う。直視して言えなかったから、あさっての方向を見る。

 ごめん・・・僕じゃ晴香と子供を守ることができないんだ・・・



 しばらく彼女は何も言わなかったが、少しして彼女の肩が震えていることに気づいた。

 泣いてる・・・そのことに気づいたとき、思わず晴香の肩を抱きそうになったが、なんとかそれを押し留めた。

 僕は黙って家の中に入っていく。

 しかし、そんな僕の腕を晴香ががしっと掴んできた。驚いて振り返ると、彼女は俯いていたが、涙を必死にこらえているのがわかった。

「なにが嫌だったの?もう私のこと嫌いになった?言って!直すから・・・私の悪いとこ全部直すから・・・!だから・・だから、嫌いにならないで・・・・・・!お願い・・・」

 彼女の悲痛な叫びに、僕は何も言えなくなってしまった。

 ぎゅっと握り締められる晴香の手が震えている。僕の言葉に傷つき、泣いている。

「こういうところもだめだってわかってる・・・だけど、私・・・やだぁ・・・」

 だけど、僕はその手を乱暴に振り払った。

 彼女がよろめくのがわかったが、僕は晴香を無視して、今度は玄関から外へ出て行った。


          ∞


 行くアテなんてない。実家に戻るわけにもいかなかったし、かと言って今からホテルに行こうとも思わなかった。

 無意味に歩き、たどり着いた公園のベンチに座り込む。

 頭が痛い。晴香に掴まれた腕が痛い。そして、なによりも心が痛かった。

 失いたくなかった。晴香と・・・僕らの子供だけは。1番の宝物だったんだ。

「夫婦って難しいんだね」

 いつもよりややトーンを落とした声で、僕についてきていたテンが話しかけてくる。

「俺にはわからないや。お兄さんの気持ちが」

「・・・そのほうが助かる」

 自分のこんな考えをわかってほしくない。僕は妻に対しても、これから生まれてくる子供に対しても、人間として最低なことをしてしまった。

 もう後戻りはできない。

「後戻りはできないんだ」

 自分に言い聞かせるように言うと、テンがパタパタと僕の肩にとまるのがわかった。

「テン、これで僕にはもう心残りがなくなったよ」

「でも、お兄さんは間違ってるよ」

 テンの言ったその一言が、僕の胸に突き刺さる。テンはまるでふてくされた子供のように足で宙を蹴っている。

「本当はお兄さんが死ななければ1番いいんだけど、俺にはそれができないんだ。ごめんね?」

「いや・・・こっちこそごめん。そんなつもりで言ったんじゃないんだ」

「大丈夫だよ!ちゃんとわかってる!」

 白い鳥の表情でにっこりと笑ってくれたのがわかった。

 そのとき、晴香の笑顔を思い出した。いつだってその笑顔は僕を幸せにしてくれた。だけど、僕は彼女から笑顔を取り去った。


 ごめん、晴香・・・・・・

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