第3回 テンの証拠
テンの言っていたことが本当かもしれない
ということが今回わかります。
翌朝、目を覚まして最初に思ったことは、『やけにリアルな夢だな』だった。
夜中に会話していた・・・テン?とかいう鳥は今はもう姿が見えない。ついでに隣にいるはずの晴香の姿もないが、台所のほうから鼻歌が聞こえてくるので、少しだけ安心した。
昨日のは悪い夢だったんだ。そう思うことにして、着ていたパジャマを脱いでタンスを開けたときだった。
「むー・・・もう朝なの?」
無邪気な子供の声が聞こえてきて、僕は思わずタンスを閉めた。
いた・・・昨日の死神のテンが、自分の服の上で寝てた・・・夢じゃなかったんだ。
朝から頭が痛くなるのを感じた。
「おはよー!そろそろ起こしに行こうかなって思ってたの」
「おはよう」
台所に行くと、エプロン姿の晴香が作り終えたオムレツを皿に載せているところだった。
「体のほうは大丈夫なの?」
「まだつわりとかはないみたい・・・・・・歩、調子悪いの?なんか顔色悪くない?」
心配そうな顔をして、晴香が僕の顔を覗き込んできた。そのことに驚いて、僕は苦笑してしまった。
彼女に心配かけるわけにはいかない。そう思ってご飯を食べようと食卓につこうとしたときだ。晴香がチョコチョコと走ってきて、僕の首に抱きついてきた。
「晴香?」
「ねぇ、チューしようよ」
「えっ?今から?」
「今がいい」
耳元で感じる吐息と晴香の言葉に、僕はダブルの意味でどきどきしながらゆっくりと振り返る。
それから、晴香と唇を合わせた。別に初めてのことじゃないのに、この瞬間はいつも緊張してしまう。
お互いに離れると、晴香がにっこりと笑った。
「風邪って人にうつすと治りが早いんだって」
「えっ・・?」
僕の顔色が悪いのは風邪をひいているからだと思ったらしい。でも、例えそうだったとしても晴香にだけはうつしたくない。
「だめだよ!晴香にうつっちゃったらどうするの!?」
「大丈夫。風邪菌が入ってもすぐに治るから」
「今は晴香だけの体じゃないんだから・・・うわー・・なんか急に心配になってきた」
1人ごとのように呟いたとき、昨日のテンの言葉を思い出した。
もし、彼の言うことが本当になってしまったら、一体彼女と生まれてくる子供はどうなるのだろうか。
しかし、ありえないことだとすぐに考えることをやめた。
∞
勤め先の高校で、晴香が妊娠したことをこっそりと佐藤先生にだけ話してみた。
「おめでとう!いや〜昨日中西先生が奥さんから電話をもらったとき、ひょっとしたらそうなんじゃないかと思ったんだよ」
「そうなんですか?」
「うん。早く知らせたくて、なるべく早く帰ってくるように電話したんじゃないかって」
「僕なんて全く予想してませんでした。妻からその話を聞いて、嬉しい反面、驚きも大きくて・・・」
今では嬉しさのほうが勝っているが、なぜか心の中に妙なひっかかりを覚えていた。たぶん、昨夜現れたテンの言葉のせいだろう。
「これから大変だと思うが、今以上に奥さんとの時間を大切にしなよ」
「はい」
佐藤先生の言葉に、素直に頷いて僕は職員室に戻っていった。
いつものように仕事を終えて職員駐車場に戻ると、自分の車の近くに白い小鳥が飛んでいることに気づいた。
見ただけでうんざりしてしまった。
「なんか用?」
僕はぶっきらぼうに言い放つと、まるで動じないテンはこくこくと頷いた。
「そうだよ。昨日俺の話を信じる証拠は?って訊いてきたよね。それ今見せてあげるよ」
「は・・・?」
一瞬、何を言われているのかわからなかった。しかし、テンはお構いなしにパタパタとはばたいて、ある方向を指差す。
そこには、1台の車が走ってくる。
「あの車の運転手さん、もうすぐ・・・・・・」
聞こえるのは大きな音。
信じられなかった。
次の瞬間、車が横転したなんて・・・




