第2回 死神登場
今回は死神らしきものが登場します。
晴香に子供ができたと聞かされて初めての夜、僕は自分が父親になるということに緊張しながらベッドに寝ていた。
隣には、すやすやと寝息をたてる晴香。今、彼女の中にはもう1つの命がある。
「よしっ・・・!」
守りたいものがもう1つ増えた。これからもっと仕事を頑張らないといけない。きっと大変だろうが、嬉しさのほうが勝っているため、今ならどんなこともできる気がした。
そのためには早く寝ないといけない。
しかし、ようやくうとうとし始めたそのときだった。突然何かに顔を圧迫されるような感覚を味わって、息苦しさにばっと起き上がった。
「・・・・・っ!」
嫌な夢を見た気分だった。時刻は12時少し前。なんだ、まだ12時か・・と思って再度寝ようとしたとき、僕は気がついた。
足下に手のひらサイズの白い小鳥がいることに。
「え・・・なんで鳥が・・・?」
思わず声に出すと、その鳥が急にびくっと羽を動かして、ぐるりと僕を見てくるのがわかった。僕も無言で見返す。
「すっげぇ・・・俺の声が聞こえるんだね」
場にそぐわないような子供らしい声。小鳥が嬉しそうに僕の膝下までぴょんぴょんと跳ね上がってくる。夢かと思ったが、小鳥が跳ね上がるたびに僕の足に感じる感覚が、これは現実だと思い知らせる。
「こんなこと初めてだよ。俺の世界でもかなり珍しいらしいんだ!」
それに比べて、小鳥はずいぶん嬉しそうだ。
「えーっと・・・」
僕は混乱して目をぱちくりとさせる。
「おっと・・・お兄さんのことは知ってるよ!中西歩、25歳。ちゃんとターゲットのことは覚えなくちゃいけないからね」
「タ、ターゲット?」
僕の質問に、小鳥はこくんと頷いた。
「お兄さんはもうすぐ死ぬからね。迎えにきたんだよ!」
一瞬、何を言われているのかわからなかった。
小鳥の声は大きかったが、隣で寝ていた晴香が起きる形跡はなかった。少し安心して、僕は小鳥に向き直った。
「君は死神かなんかなの?」
「ん〜・・・そうじゃないんだけどな〜人間にはそう思ってくれたほうがわかりやすいかもね。でも、俺たちは人間の命を取ったりはしないよ。死ぬのは運命なんだ。俺たちはそれに従って迎えにきただけ」
「それを信じる証拠は?」
「今度見せてあげるよ」
何を見せてくれるのかわからないが、もし本当に証拠を見せられたらどうしようかなと他人事のように考えた。
「他に知りたいことは?最初に言っとくけど、どうやって死ぬかは教えられないよ」
「・・・いつ死ぬの?」
「あっ、それも教えられないや。ん〜・・・でも、これも何かの縁だからヒントをあげるよ。隣で寝ているお姉さんが子供を産む日の前日・・・かな?」
無邪気な声で意外に残酷なことを小鳥は言った。
僕はまだ自分が寝ぼけているんじゃないかと思うほど、実感が湧かなかった。
「そんなに気を落とさないでよ。本当のことを言うとね、この運命は本人の行動で変わることもあるんだ。だから、お兄さんは死ななくて済むかもしれない・・・そのときになってみないとわからないけどね」
僕を慰めるように小鳥は僕の肩に飛び乗る。
「一応、俺の名前、テンっていうんだ。長いつきあいになると思うから、よろしくね」
僕はよろしくできなかった。
ただ、なぜこの小鳥は喋っているのだろうかと、そんなことを考えていた。