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Bad End

「アンタなんか死ねばいいのにねー」

いじめられるヒロイン。

「お前なんかいらねぇよ(笑)」

罵られるヒーロー。

でも、そこに現るは。

「やめなよ」

救世主様。

ほら、救われる主人公達。

「てめぇなんか誰も必要としてないんだよ」

嫌われる救われないモブ(僕)。

「…可哀想(笑)」

「ざまぁ(笑)」

誰も救ってはくれやしない。

ねぇ…そんなのズルいじゃん?

だから、全部壊そう?


「×××。何してるの、早く学校に行きなさい」

「…ごめん、今から行くよ」

痣だらけの体に鞭打って、学校へ向かう。

ドアを開けたすぐ目の前で見つけたのは、目の前の家の主人公ちゃん。

「あっ!桜!おはよう!」

「おはよう!」

誰だかわかりやしないモブの挨拶に答えて行く彼女が嫌いだ。

だって、今までやられてたのに救われたんだ。

そして、まるで僕が桜の代わりというように僕がやられるようになった。


「×××!」

「どしたの…?桜」

「じゃん!」

桜が見せてきたのは。

【題名:○○○ 主人公:桜】

そう書かれた紙。

僕はただただ恨みを持ったが

「おめでとう」

ただそう言って笑った。

「ありがとう!×××が親友で良かった!」

残念。僕はモブだ。

だから、本当の親友じゃなんかない。

そんな事言えやしないけど。


「なんでアンタがここにいんの(笑)」

なんも答えれない。

なんでいるのかな。

そう思うんだけど。

「早く答えなさいよ!」

そう言われ、鳩尾に入った蹴りを堪えながら、一つの答えを思いついた。

さぁ、ここから主人公のHappy Endを壊そう。なんて、格好つけた頭の中。

この言葉はきっと意味のない戯言にしか過ぎないんだろうけども。

「…嫌いだから」

それでも…救いを求めたいのだ。

「は?何が」

馬鹿ないじめっ子を傷つけたって僕はモブだから。

誰もわかりゃしない。

見ていたって、聞いてたって。

「あんたらが。親が。主人公が。大っ嫌いだから!」

満面の笑みでそう答えれば、殴りかかろうとしてきた。

でも、良いよね?だって、同じだろう?

思いっきり蹴ったって。

思いっきり殴ったって。

「…同じモブなら、同じ事したって同じ罪でしょ?」

そう言って見下したんだ。

桜がこっちを見てたけど知らない。

どうせ、嫌われ役って言う役が空いてるんだろう。

それなら、その席に座ってやる。

救われないモブなんかよりずっとずっとその方がいい。

だって、誰にも呼ばれないのは悲し過ぎる。

僕の存在証明である名前が呼ばれないなんてまるで死んでしまったみたいだから。

だから、嫌われ者になろう。

それすら叶わないなら…壊してしまおう。

そうしなきゃ…きっと、僕が壊れるから。

本当に、僕が死んでしまうから。

なんて、馬鹿げてる考えが頭の中に浮かんで嘲笑いそうだった。

そんな時に僕の手を握る誰かがいた。

「…×××。それ以上はやめろ」

「…光輝くん!」

モブは目を輝かして、僕を馬鹿にしたような目で見下して、走り去った。

あぁ、なんで僕だけ?

「…女の子がこんなに怪我するような殴り方しちゃダメだろ?」

「関係ない」

そう言って払おうとした手。

けれども、それは叶わないまま手を引いて歩いて行こうとする。

「何して…」

「保健室強制連行」

僕らと同学年の学園の会長様はそう言う。

誰にでも平等?

そんなわけなかったのにね。

僕を上手く使われた気分で嫌だ。

「主人公様と関わりたくないから関わんないで」

光輝から無理矢理離れて走った。

一緒に生徒会やってたのに、僕だけ無理矢理落とされて。


「×××」

「なに?光輝」

そう問えば無言で見せてくれた紙。

【題名:○○○ 主人公:光輝】

顔を上げてみれば少しだけ誇らしげで。

やっと報われるんだって顔で。

「そっか…おめでとう」

僕はただそう言うしか出来なかった。

なんだか、僕だけ取り残されたようで悲しかった。

桜の時にこみ上げた恨みや嫉妬は取り残された悲しみに変わっていた。

あぁ、僕はやっぱり意味の無いガラクタだったのか。


なんで?って。僕だけ?って。

皆なんも変わらなかったのに?って。

僕だけの世界が変わった…って。

ずっと考えてる。

生徒会で皆に好かれていてそんでいじめられてる子には手を差し伸べるそんなまるで“主人公”みたいな僕は主人公と言う存在が生まれた瞬間全て壊された。

なんでって思うだろう。

当たり前の感情すら許されないのか。

「主人公なんか消えちまえよ…!」

だって、主人公なんかいない世界の方が僕が見ていた世界は平和だった!

桜と親友としてちゃんと救えたのに!

光輝と生徒会仲間として支えていたのに!

神様仏様作者様、僕が何をしたって言うんだ。

「…独りはやだよ」

この程度で涙を流す僕自身がこの世で一番嫌いなんだ。

そんな事とっくの昔に知っていた。

ずっと昔から殺したかった。


「×××…!」

「桜ちゃん、俺らには何もできない。むしろ、嫌な思いさせるだけだ」

光輝くんはそう言って、私の手を掴んだ。

「なんで!私なんかよりずっと優しかった×××があんな思いを…!」

思わず、八つ当たりしてしまう。

大切な親友で。

大好きな幼なじみで。

優しい救世主で。

誰にとっても主人公みたいで。

それでも彼女はいつも

“主人公じゃなくていいからせめて大切な人を守りたい”

そう言っては皆を笑顔にしていたんだ。

それだけを考えていたんだ。

「俺だってどうにかしたいんだよ…!」

光輝くんは、静かにそう言って拳を握りしめていた。

「…助けたいんだよ…好きな人を」

あぁ、そっか。

光輝くんは×××が好きなんだ。

美男美女のいいカップル…。

私はそれを大喜びで祝福するだろう。

×××は、きっと照れて。

「馬鹿」

とだけ言って顔を背けて。

なんて、すぐに考えれるのに。

なんで、違うのだろう。

…あぁ、そんな日が早く来てくれないのだろうか。

そんな小さな幸せすら無意味な願いのだろうか。

「なんで、主人公なんかになっちゃったんだろう」

なんで、救われたいって願っちゃったんだろう。

あの時、救おうと抗っていた×××を傷つけてしまったのに。

なんで、主人公なんかになれたのだろう。

なんで、×××が主人公になれなかったのだろう。


「…どうしよう。鞄とか全部学校だ」

早まったな。

そんな冷静な考えだけが溢れた。

「ほら、鞄」

「え?」

マヌケな声が出た。

「マヌケな声」

そう言ったのは光輝で。

鞄を差し出すのは桜で。

二人共、優しげな笑顔で。

ただし、まだ学校は二時間目のはずだ。

「…主人公様方がこんな所でサボっちゃダメなんじゃないですか」

素直な恨みと怒り。

きっと最低な表情になっている。

「×××…」

桜が凄く悲しそうな顔をした。

罪悪感はあるけど、立ち去るしか方法はない。

鞄はちゃんと盗って。

脱兎のごとく早歩きで逃げた。

「×××。好きだよ」

光輝が何故かそう叫んできた。

何言ってんだ。

この物語は桜と光輝が結ばれる物語なんだ。

なんで?

混乱した頭は足を止めた。

「本気で×××が好きなんだ」

続きは聞いちゃダメだ。

そう思って走った。

「×××!待って!」

桜の声も無視して。

昔なら有り得ない行動に僕も変わったんだな。

昔なら有り得ないよなって、自分を嘲笑って。

「絶対、お前のこと救ってみせるから!だから…待ってて!」

出来るわけない!とか。

助けてほしい…とか。

ほっておいて!とか。

待ってる…とか。

色んな言葉が脳裏をよぎった。

思わず、背後を向いた時には遅くて。

遠くから聞こえてたはずの声はいつの間にかかなり近くに来ていて。

腕を引かれ、抱きしめられたのに気づくまで時間がかかって。

そして、突き放したことを理解するまで数秒。

「アンタらなんかになんも分かんないくせに関わんな!」

意味もわからず、そう叫んだ。そして、逃げた。

僕自身に僕がついていけてなかったけど。

二人からも。僕自身からも。

逃げようとしている。

僕自身を殺してきたことを理解していた。

だからこそ、あの言葉は凶器だったわけで。

皆が知っている僕は綺麗に取り繕った者で。

僕自身は本当は穢い者だ。

だから、純粋な桜が主人公に選ばれたのも。

頑張り屋の光輝が主人公に選ばれたのも。

当たり前だと思ってた。

心の底から祝いたかった。

けど、こんな風に僕が墜されたから。

まるで、“本当のお前なんか必要としてない”って作者に言われた気がして。

だから、逃げたくなった。

だって、それで、みんな、救われたんだよ。

救えてたんだよ!

だったら!僕は僕を殺すしかなかったんだ!

言い訳でもなんとでも思えばいい。

でも、それで幸せだったんだよ…

「…救われないなんてそんなの辛いことないんだから…だから誰もそんな思いして欲しくなかった…僕と同じにはなって欲しくなかった」

ただの自己満足。

けど、それで良かった。

だって、それが本当の僕の想いだから。

桜と光輝が笑えるなら救えるならそれでいいと思った。

純粋な想いが穢されるのも。

頑張り屋が罵られるのも。

間違ってると思ったから。

僕がそれで傷つけられて悲しかったから。

きっと、僕は成長していない。

子どものままで。

「大切な人を守れるヒーローになりたかったんだ…」

“主人公じゃなくていいからせめて大切な人を守りたい”

そんな言葉はもう言えない。

あぁ、もう馬鹿げてる。

溢れた涙を拭えばもう僕は僕じゃない。

また演じよう。二人が笑えるまで。

ヒーローなんかになれやしないなら…せめて願わせて。

せめて、二人から僕を嫌って。二人から僕を忘れさせて。


「なんで、お前なんかが生まれたんだ。俺の子どもならもっと上手く生きていけただろうに…!」

父さんは、嘆くかのように叫び散らした。

決して、僕が母の愛人の娘とかではない。

ただ、この人が馬鹿な僕を子どもと認めたくないと言う我儘。

「なんで、貴方なんかを生んだのだろう。あの人も愛してくれない…!」

母さんは、得れなかった愛に飢えた。

だから、僕に当たり散らす。

ただ、この人が上手く生きれなかっただけなんだろう、実際は。

僕は、愛されなかった。

だからこそ、笑う。

表向きは皆の理想像だったから。

今じゃ、ただの可哀想なモブなのだが。

笑えば笑い返してくれる。

誰かが救われるような言葉を吐いて、綺麗事に埋もれていた。

そうやって、僕は穢れた醜い人ならず者となったのだろう。

僕と言う人間は何故…産まれたのだろう?

何故、彼らは好いてくれるのだろう?

もう、少しの希望もない…けれども、どうしてかそれを知って、僕は安堵した。

あともう少しで僕は頑張らなくていいと思った。

多分…もうすぐそこにある結末に気づいたから。

過去も未来もどうでも良くなる小さな絶望が目の前に迫っている。

それが、僕にとっては初めての希望だった。


「…光輝くん。ありがとう」

何故か桜ちゃんはそう言った。

「×××に本当のこと言ってくれてありがとう!」

涙が溜まった目でありながらも満面の笑みで言う。

「…でも、結局傷つけた」

「でも、あれは本当の×××だった」

昔の不器用ながらも人を思いやれる彼女だった。

と。幼なじみでしか知り得ない桜ちゃんがそう言った。

少なくとも、それで救われる気がした。

「そっか。あんな顔をさしちゃって凄く怖かったけど…×××を取り戻せるといいな」

「きっと、私たちならできるよ!」

だって、主人公だもん!

前向きな桜ちゃんの声は心の底まで届いた気がして。

本当に出来る気がした。

ついでに、×××への想いも強くしてくれた気がしたんだ。

…やっと伝えた感情は伝わっただろうか?


「…っ!」

時間を潰して帰ってきた瞬間だ。

殴られたのだと思う。

それはえぐい所に入ってる気がした。

不意打ち過ぎて変なとこに入ったんじゃないか?

「何してるの?早く学校に行きなさい」

とっくにそんな時間じゃないし、学校なんか終わってる。

けど、反論は許されない。

だって、絶対なんだ。昔から。

従わないのなら従わす。

矛盾してる気もする事を言ったけど、本当そう言う人達なのだ。

「早く行きなさい」

動こうとした…でも、動けない。

本格的にやばい事だけわかった。

目の前の人が持っていたのは包丁だった。

その包丁から滴る赤は確実に僕自身のだろう。

そりゃ、えぐい所に入っている。

動けるわけがない。

腹から溢れる血は止まることを知らない。

「…今出たら、母さんは犯罪者になるけど?」

死んでもいい。

今は強気でいなきゃ。

ドアの外に桜と光輝の声が聞こえたから。

あぁ、もう…なんでこんな時に。

僕だけが苦しいのならまだいい…二人にはバレたくない…

「知らないわ。あんたはモブなの。誰も何も感じやしないわ」

…そっか。

それなら、いいや。

もう一度振り下ろそうとする刃から逃げるように外に出た。

案の定、二人がいた。

けど、逃げないと…死んじゃう。

まだ、死にたくない。

今日は逃げてばっかだ。

「×××?!」

桜が叫んだ。

光輝が手を伸ばして僕を捕まえる。

そして、そのまま抱きしめて。

僕を守るかのように光輝と桜が母さんの前に立っていた。

「あら、桜ちゃん?その子は彼氏くんかしら?元気にしている?」

「おばさん…なんでこんなこと」

桜の純粋が穢される寸前のような気がして悲しくなった。

また、守れなかった…そう思った。

「×××…痛いか?」

光輝がこっそりそう聞いてきた。

答えるのも億劫に感じたがとりあえず頷いた。

「ごめんな、ちょっと我慢しててくれよ」

まるでお姫様にするかのように王子様は僕の額にキスをした。

それは僕には似合わない役だ。

「光輝くん!後はよろしくね!」

桜がそう笑った瞬間。

光輝は立ち上がって走り出した。

「桜?!」

思わず叫んだが見えたものは、あまりにも残酷で。

もう一度桜の名を呼ぼうとしたらむせた。

それでも、呼ぶ。

「やだ!下ろして!桜!」

痛みとかどうでも良くなって。

叫んで、暴れた。

僕なんかよりも救うべき人(主人公)がいるのに!

「桜ちゃん!大丈夫かい?!」

近所の人達が僕の悲痛な叫び声に反応したのか集まってきていた。

それでもう見えなかった。

「やだよ…」

「大丈夫だから」

光輝はそう言って走り続けた。

「どこにいくの…」

「…病院」

そうしないと×××が死んじゃうから。

光輝はそう話しながら人目のつかない道を走り続けた。

流れ続けるものが光輝の足元に落ちて道しるべみたいなもののようになっていた。

「…なんで、主人公を望んじゃったんだろう」

思わず溢れた本音は、馬鹿げていた。

「×××は優しいからね」

返ってきた言葉は噛み合っていない。

どうしてそうなるんだろう?

でも、聞いちゃダメ。

だって、わからないのはダメだから。

僕は完璧にはなれないけど求めなくてはならないから…

「…×××は優しいから、救えるヒーローになりたかったんだろ?きっと、×××が主人公だったらそんな物語だったんだろうな」

わからない。

どうしてそう思うの?

その言葉は首元まで出かけたが溢れたのは咳とそれに混じった血だった。

「…もう着いたから。ごめんな?小さい所だけど」

自動ドアが開く音が聞こえたが、視界は既に暗くなっていた。

「光輝?!その子は!」

「…母さん、お願い助けてあげて」

頬に落ちてきた温かいものが光輝の涙だってわかった。

それがどうしてか悲しく感じた。

「光輝。着いてきて。早くしないと」

ここは多分、一度だけ訪れた事のある光輝の家の小さな病院だ。

両親の二人と成人済みの姉と兄で営んでいる。

確か、そう聞いた気がする。

そんな事を思い出していたら色々な感情が溢れそうになった。

「光輝、今日はもう閉めるからシャッターを下ろしてきてくれ」

まだ若い男性の声。

多分、光輝のお兄さんの声が聞こえた。

「…わかった」

心配させてしまっているんだなぁ。

そう思うような光輝の声が聞こえた。

「…×××ちゃん。こんな時に言う事じゃないけど久しぶりね」

お久しぶりです。

その言葉はやはり咳と血でかき消された。

「ちょっとだけ寝てもらうね?」

多分、お姉さんの声。

と、それと共に注射の刺さる感覚と途切れ始めた意識。

…桜、大丈夫かな?

…光輝には迷惑かけちゃってるし。

嫌われないかなぁ…

何でもない、ただのモブなのに。

助けようとしてくれる二人がどうしても恨めないんだ。ずっと。

出来れば、突き放して欲しかった。

その手で思いっきり崖の下まで突き放してくれたら良かったのに。


「光輝!×××ちゃんが目ぇ覚ました!」

起きて早々にそんな大声が聞こえて驚いた。

多分、お兄さんかな?

驚いた拍子に身体が跳ねたのか痛みとかが襲ってきたからか、小さなうめき声を上げてしまった。

「×××。驚かしてごめんな?痛いか?」

心配そうな顔で覗き込んできた光輝とお姉さん。

お兄さんは申し訳なさそうにしている。

「…ちょっと痛いけど大丈夫…です」

どう言えば正解か。

その迷いがあったせいで少し遅れて出た敬語は、何故か笑いを誘った。

「さっき連絡が来てな。桜ちゃんも無事らしい。と言うかむしろ今から来る」

「…桜どんだけ回復早いの」

思わず出た言葉はよく分からないツッコミだった。

「×××が寝過ぎなだけ。一週間経ったからな?」

初めて知った事実だったが、そりゃ痛みとかもこれだけで済むわけだ。

桜は軽傷だったのか。

もしくは、主人公だからなんでもありなのかも知れない。

「…×××ちゃん。一つ聞いていいかな?」

「…はい?何でしょう?」

お姉さんが真剣な顔で尋ねてきた。

「体の傷は何時から付けられてるのかな?」

…そうだよね。

バレるか、流石に。

「わかんないです。少なくとも、主人公が決まる前からですけど」

主人公が決まった時からいじめは始まったが。

「…なんで助けを求めなかったの?光輝だって桜ちゃんだって先生でも友達でもいたでしょう」

「…やっぱりこれって異常ですかね?」

慣れていたせいで異常と思っていなかった。

…思いたくなかっただけかも知れないが。

「異常だよ」

「そんなのはっきり言っていいのか…?」

お兄さんの方は気を使ったと言うより、医師としてそう言ったように思う。

光輝と言えば、既に固まっている。

多分、近くにいたのに気づかなかった事を気にしてしまっているんだろう。

「…×××ちゃんには笑って欲しいの。だって、前来た時も笑ってくれなかったもの」

「桜ちゃんがそろそろ来るみたいだよ。今、車止まったから。迎えに行ってくるね」

光輝が言葉を遮るかのように、そう言って出ていった。

その時、光輝が悲しげな表情をしているように見えた。

悪いことしたなぁ…多分。

「…父さんが昔母さんと僕に暴力を奮ってたんです。で、その腹いせに母さんも僕に暴力を奮いました。だから、傷とか痣とかがいっぱいあるのはしょうがないんです」

それだけ、告げた。

お姉さんもお兄さんも何も言わなかった。

「×××!」

「桜、大丈夫?」

心配そうな顔をして桜が現れた。

「普通桜ちゃんが大丈夫って聞くんじゃないかな…?」

間違ってはいないけど、確かに今は桜が言うのが正しいだろう。

お見舞いに来たのは桜だし。

「×××はよく私の言いたい事先に言っちゃうもん」

でも、それが×××だから!

純粋な心が穢されることはなかったようだ。

そして、あの母は完全な犯罪者となったか。

「そろそろ帰らないと」

あの家にはまだあの人がいる。

ならば、帰らなければ。

何も失いたくないから。

今なら間に合うはずだ。

「×××?」

「まだそんな状態じゃないわよ…それに」

お姉さんはあの家には誰もいないと言うつもりだったのだろう。

けれど、一つの可能性に気づいた。

だからこそ、僕に驚いているのだろうか?

それとも呆れている?

「…×××ちゃん。お願いだから、ここにいて」

あなたは救われるべきよ。

お姉さんはそう断言した。

「姉さん、何の話して…」

「だって、この世界はもうすぐ終わりになるもの」

お姉さんは、笑って言った。

気づいてはいけないこと。

それが暗黙の了解だった。

終わりを悟ってはならない。

言ってはいけない。

それを平然と言ったのだ。

しかも、何故そう言いきれるのだろう?

「…なんで」

「だって、この物語は成立しなくなったもの。光輝が相手間違えたから」

…まぁ、確かにあの発言からすると間違えている。

けど、それだけで?

「言い方が悪い…しかも、主人公決まる前からなのに…」

「え?じゃあ、光輝くんと×××の結婚式見れないの?!」

桜は桜で何言ってるんだろう…。

「桜ちゃんって、たまになんか凄いこと言い始めるよね…」

光輝と同意見だよ。幼馴染みとしてでも全く話が見えない。

「…それとも、×××ちゃんにはこの世界を救える?」

…救えるとは思う。

ただ、それは単なる軌道修正でしかないのかもしれない。

僕自身が死ぬしかないのだろう。

既に作者が軌道修正をしようとして、あの人は僕を殺そうとしたのかも知れない。

もしそうならば…

「×××ちゃん。あなたにも誰にももう戻せないのよ。だから…ここにいて」

最後くらい我が儘でいいんだよ。

お姉さんは綺麗な顔で微笑んだ。

女神様みたいで…だからこそ、本音を言った。

女神様に嘘はつけない。そう感じたから。

「…僕は、壊れていいと思います」

この世界が壊れてもいいと思う。

だって…誰も救われない世界なら、いっそ一から…零からやり直した方がいい。

「×××…」

桜の何も言えないまま呼んだ声が最後の声となった。

いつからか、自分の名前が聞こえなくなった。

いつからか、自分の顔がわからなくなった。

いつからか、桜と光輝…二人だけがこの世界にしかいなくなった。

いつからか、僕らは消えていた。

けれども、誰も言わなかった。

言えなかった。

与えられた台詞だけを言い続けた。

きっと、今だって。

「僕は…もうこんな世界にいたくない…」

まだ、皆と普通に過ごしたい。

台詞なんかなくていいから。

僕らを自由にしてよ…作者様。

「…なにこれ」

桜が再び声を出した。

「白紙…?」

光輝は突然降ってきた紙を手に取った。

「待て!めっちゃ降ってきてる外にも!」

「何が起きたの?」

お兄さんとお姉さんは窓の外を見ていた。

「これは…」

「どう言う事かしら…」

おじさんとおばさんは目を合わせては答えを出せずにいた。

「…白音、なんで笑ってるんだ?」

光輝が僕にそう問う。

「…壊れたんだよ。物語が」

一枚の白紙にそっと触れた。

そこには。


ーBADEND 存在しない役者ー


そんな文字が浮かんでいた。

「…白音と光輝くんの結婚式ちゃんと見れる?」

「いつまで、それ言ってるつもりなの…」

桜が未だに混乱しているのか、本気で思っているのかわからないがさっきの話をもう一度聞いてきた。

思わず、ツッコミを入れていた。

「そうね、見れると期待してるわよ。光輝」

お姉さんも悪ノリをして光輝をつついていた。

「うるさいなぁ…白音はそう言うのに全く気づかないんだよ…」

そう言うのってなんだろう?

「確かに鈍感だもん」

「鈍感…?」

鈍感…なのか?

「…白音はそれでいいよ、俺が勇気ないだけだし」

「きっと、そういう所もまとめてってやつね」

お姉さんがそう言うと光輝は頬を薄く染めていた。

周りはいつの間にかうるさいくらいに盛り上がっていた。

「…僕は生きててもいいのかな」

小さな疑問で大きな感情だ。

もう誰も答えてくれないだろう。

母さんと父さんが。

僕を消そうと企んだ二人が。

「「お前は生きていてはダメだ」」

と答えてくれることはない。

でも、何故か答えてくれたんだ。

桜と光輝が。

僕を救おうと抗ってくれた二人が。

「「白音は生きててくれなきゃダメだ」」

僕の存在を肯定してくれた。

「白音!外に出てみようよ!」

「ほら…手。外に行ってみよう」

無邪気に笑う桜を追って、

優しく手を差し伸べる光輝の手を取って、

僕は前に進みたい。

“主人公じゃなくていいからせめて大切な人を守りたい”

そんな綺麗事は要らない。

“大切な人を守れるヒーローになりたかったんだ…”

あんな後悔はもうしなくていい。

「桜!光輝!」

二人に誓う。

「なぁに?」

純粋な彼女に。

「どうした?」

努力家の彼に。

「僕は…二人と皆と一緒に笑ってたい!皆が一人一人がこの世界の主人公で…そんな世界を見たい!」

僕は誓うよ。

だって…それが一番ヒーローっぽいじゃん?

「…いいね!私も頑張る!」

「俺も大賛成」

笑ってくれる人がいるから。


「そういや、白音!忘れたとは言わせないよ?!」

桜が突然そう叫んだ。

物語が壊れてから数日たった今突然。

あの白紙はいつの間にか雪のように溶けて消え、いつの間にか平穏が続いていたのに。

「…桜、大丈夫?」

あまりにも急だったから思わずそう聞いていた。

「まだ掘り返さないでくれ…」

光輝は察知したのか頬を赤らめた。

桜は、ニヤリと笑ったかと思うと

「先に行ってるねー!」

と言って行ってしまった。

「桜?ちょっと待ってよ!」

僕は叫んだのだが、隣の光輝は髪をぐしゃりとあげたかのが横目で見えた。

その仕草を何となく見ていたら。

「…まだ好きだから。」

光輝がそう言った。

あの時言っていた言葉をもう一度言った。

「え?」

上手く反応出来ない。

光輝が歩き出した。

僕はただ見ていた。

「白音にとってはただ救おうとしてくれただけでなんの感情もなかったかもしれないけど…俺はあの時から好きだよ」

今まで前を向いていた光輝が僕の方へ向いて。

「…白音、何回でも言うよ。俺は白音の事が好きだから…だから、白音は生きててくれなきゃダメだ」

爽やかに笑って前を向いたかと思うと桜を責めに走っていってしまった。

「…待ってても待ってなくても…こんな簡単に救われちゃうなんて」

と言うか…こんな僕を好きになってしまうのはどうなのだろうか?

でも…一緒にいたいって感情じゃダメかな?

考えれば考えるほど顔に熱が溜まっていく…

「白音!早く行くぞ!」

桜にからかわれたのか顔が赤い光輝。

「白音!行こう!」

そんな状況を一番喜んでるような桜。

やっぱり一緒にいたいって思う。

桜とは、ただ幼馴染とか友達とか親友とかそういう感情で。

光輝は…やっぱりそういう感情ではなさそうだ。

「あぁ、もう…桜!光輝!ほっていかないでよ!」

でも…少しだけ待ってほしいかも。

だって、やっぱり考えてたらわかんないんだ。

それに…二人がいるならなんとでもなる気がしてしまったんだ。

「「白音!」」

そう呼んでくれるだけで嬉しくなれるんだ。

きっと…二人が主人公だったあの物語はとても優しい世界だっただろう。

もしかしたら、待っていたら助けてくれたのかもしれない。

だけど、二人には助けてなんて欲しくない。

最初から最後まで一緒に笑っていたい。

助けてなんかより一緒に笑いたい。

あぁ、なんで主人公なんで望んだのだろう?

だって…主人公じゃなくたって僕らは幸せじゃないか。

僕らは一緒に笑い合えるんだ。


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