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 ミラーナさまを擁護する為声を上げたアル兄さまに、ユリウスさまも驚いた顔をなさっている。


「そうか……シェーラがきみをここに招いたのか。迂闊だった……」


 呟きは、傍に居た私とフリードさまにしか聞こえなかったと思う。


「あのっ、わたくしのせいで何か……?」

「いや、シェーラ、気にしないでおくれ。こういう事も考えておくべきだった」


 そう仰ると、ユリウスさまはアル兄さまに向き直られた。


「アルフレッド……きみの言いたい事は解る。わたしだって、ミラーナとは幼馴染なのだから、彼女の性格は知っている」

「では何故。伺っている限り、確定的な証拠はないようですし、そもそもそんな私事で婚約破棄など……いつも冷静でお心の広い殿下の仰る事とはとても思えません」


 アル兄さまは礼儀正しく理性的に見える。ミラーナさまの方でも婚約破棄したいなどと仰っていなければ、誰もが持つ疑問だとも思える。


「アルフレッド! ユリウスさまの仰る通りでわたくしはいいの! これ以上何も言わないで!」


 と何故だか焦った様子のミラーナさまがアル兄さまを止めようとなさっている。

 でも、人望を集めるアル兄さまの指摘に、勢いに流されて納得しかけていた皆は再びざわめき出す。

 どうしよう。私にとってどちらも大切な、ユリウスさまとアル兄さまが、私の受けた嫌がらせのせいなんかで対立してしまうなんて!


「アルフレッド、ミラーナさまの仰る通りにして貰えないか。ちょっと僕と一緒に来て欲しい、別室へ」


 とフリードさまが仰るけれど、アル兄さまは、


「ユリウス殿下に発言の撤回または保留を求めます。ミラーナさまのような高潔な御方の名誉が傷つけられたままだなんておかしい。もし私を無礼とお叱りならば、どのような罰も受けましょう。しかし、解って頂くのはユリウス殿下の御為でもあると私は信じます」


 と、頑として譲らない。高潔なアル兄さまらしいと思うけれど、将来を嘱望される騎士とはいえ、伯爵令息の諫言で、一度公言した事をあっさり王子さまが取り消せるとも思えない。


「アル兄さま。私もアル兄さまの仰る通りだとは思うけれど、ユリウスさまが仰った事を今この場で取り消すのは無理だわ。後できちんとお話しすれば、きっと誤解もとけるのでは?」


 私は思わず口を挟んだけれど、アル兄さまは私を見て、


「シェーラ。そもそも、きみがユリウス殿下に申し上げたのか? ミラーナさまに命に関わるような嫌がらせを受けたなど?」

「いいえ、そんな事は何も……」

「やはり。そんな筈ないと思ったよ」


 ああ、ああ、どうしよう。どちらの味方をしても、どちらかを陥れる事になってしまう。

 ユリウスさまとフリードさまは、苦い表情で視線を交わされている。

 でもこの時、ミラーナさまが、甲高い声で叫ばれた。


「アルフレッド! あなたは、わたくしよりも、わたくしの名誉が大事なのですか!」

「えっ……」


 初めて、アル兄さまのお顔に動揺が走ったのを私は見た。でもすぐにアル兄さまは気を取り直したように、


「私は、私自身よりも、ミラーナさまの名誉が大事なのです」


 と答えた。誠実な答えのように思えたけれども、ミラーナさまは気に入らなかった様子で、


「あなたは、馬鹿だわ!」


 と言い返された。

 誰にもこのやり取りの意味が判らない。ミラーナさまは、厳罰も覚悟の上で擁護に立ったアル兄さまを侮辱した……そんな風に皆は受け取った。はっきりとした言葉ではないけれど、ミラーナさまを批判する囁きがあちこちから漏れる。それを察したご様子のミラーナさまは、更に苛立ったように、


「……もういいわ! とにかく、ここには居たくない。さようなら、ユリウスさま!」


 と言い捨てられて、アル兄さまが何かを言う暇も与えず、セイラさまを伴って出て行かれてしまった。


 なんだかすっきりしない成り行きに、皆はざわめくばかり。ユリウスさまとフリードさまは溜息をつかれ、アル兄さまは茫然としているように見えた。

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