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 ユリウスさまの突然の宣告に、華やかなパーティ会場は騒然となる。ミラーナさまは、


「な……何を仰っているのかわかりませんわ!」


 と眉を吊り上げて叫ばれる。傍らのセイラさまも信じられないという表情でユリウスさまを見つめておられる。


「とぼけても無駄だ。そなたは、わたしがシェーラ嬢の後ろ盾となった事に嫉妬していた。初めは黙っていたけれど、彼女が人望を得ていく様子を見て我慢が出来なくなり、あのか弱い女性を階段から突き落とそうとしたり、持ち物を傷つけたりした。一歩間違えれば、彼女は大変な怪我を負っていたかも知れない!」

「待って、待ってください! わたくしは何も存じません。あんな娘には何の興味もありません。田舎の男爵令嬢が、わたくしにとってどうして嫉妬の対象になんかなるでしょう? わたくしは、子どもの頃の友情に義理堅いユリウスさまは素晴らしい、と申し上げたではありませんか」


 この日の為に日頃より一層美しく装われたミラーナさま……大きく見開かれたひとみから、金色の睫毛をつたって涙が零れ落ちた。紫のサテンのドレスのスカートをぎゅっと握りしめて切々と無実を訴える姿に私の胸は熱くなる。ユリウスさまは勘違いなさっているのだわ。ミラーナさまがあんな事をなさる訳がないわ。


「恐れながらユリウスさま、あれはミラーナさまがなさった事ではないと思いますわ!」


 否定すればユリウスさまの体面を傷つけてしまう。でも、間違っている事は間違っていると私が言わなければ、ユリウスさまが後悔なさる事になってしまう。ユリウスさまは話せば解って下さる筈!


 だけどユリウスさまはなんだか奇妙な笑顔で私を振り返られて、


「きみは何も言わなくていいんだ。……ミラーナ、彼女にこんな事を言わせるよう、裏で手を回したのか? だが、今の言葉で逆に、彼女が被害に遭っていた事は証明されたぞ」

「その娘ひとりの言葉がなんの証明になるでしょう。それに、あの階段ではフリードが助けて、その娘はなんの怪我もしなかったではありませんか」

「おや。フリードが助けた事は、シェーラとフリード、フリードから報告を受けたわたし以外には知らない筈だが?」

「……あ」


 ミラーナさまは手で口を押えられた。え? まさか、本当にミラーナさまなの?


「馬脚を現したな。きみとの婚約はこれでおしまいだ!」


 ユリウスさまは強張ったお声でそう宣言される。怖い……なんだか、いつものふんわり王子さまとは別人みたい。


「ユリウスさま。どうかミラーナさまとお二人でもう一度お話なさって下さい。ユリウスさまはフリードに良からぬ考えを吹き込まれたに相違ありませんわ」


 と、倒れそうなミラーナさまを支えながらセイラさまが仰る。けれど、場の雰囲気は、ミラーナさまが悪い、という方へ流れているようだ。セイラさま以外にミラーナさまを擁護しようと立つ者はいない。


「シェーラ嬢が優れた心映えの方だとは僕が保証する。セイラ、きみは逆恨みして話を聞いてもくれないが」


 とフリードさま。

 ああ、どうしてこんな事に? でも、すっかりミラーナさまは悪役扱いになっている。私は責任を感じて、


「ユリウスさま。こんななされようはあんまりではないでしょうか。わたくしはミラーナさまではないと感じていました。どうか、もう一度きちんとお調べになって……仮に本当でも、わたくしなんかのせいで婚約破棄だなんて、申し訳なさ過ぎます」

「きみはなんと優しいのだ、シェーラ。でも、もう決めたことだから」


 今度はいつものふんわり笑顔。いったい何が起こっているの。『明日嫌な思いをさせるかも知れない』とは言われていたけど、まさかこんな事って……。


 ざわめきの中、ミラーナさまは涙を拭って顔を上げられた。怒りの表情で、


「もういいわ! ユリウスさまがこんなに愚かな方だったなんて! わたくしの方こそ、もう愛想が尽きました。そんな田舎者に騙されて! わたくしの方こそ、婚約はなかった事にして頂きたいわ!」


 と言い放たれる。

 えええっ。こんなあやふやな事で、そんな大事なことを感情的に決めてしまっていいの?!

 でも、ミラーナさまはセイラさまを従えて、ひそひそ話をしている皆を押しのけて退席なさろうとしている。

 こんな。こんな不名誉な婚約破棄をされては、ミラーナさまはもう良い結婚は望めないのではないだろうか……私のせいで? そんな、ことって……。


 ミラーナさまは私の傍に来られた。つんとして足早に通り過ぎようとなさっていたけれど、すれ違いざまに、


「貴女は何も気に病まなくていいの。ありがたいくらいよ」


 と囁かれた。


「は?」


 と問い返そうとしたけれど、もうミラーナさまは離れてしまっている。まったく解らない。ありがたい?? ミラーナさまはユリウスさまがまさかお嫌いなの?? でも、だったら嫉妬なんて……。


 ユリウスさまを振り返ると、なんだか複雑な表情で、でもほっとしたようにも見える様子で、ミラーナさまを見つめておられる。なんだか、お二人にとってはこれで良かったのだ、と思っておられるみたい。


 でも。

 真相は解らないままにこの騒ぎの幕が下りようとしていたその時。

 大きな声で制止したひとがいた。


「お待ちください、ユリウス殿下!! ミラーナさまは、決してそのような嫌がらせをなさる方ではありません!」


 皆が大きくざわめいた。

 その声の主を見て、ミラーナさまは、さっきよりずっと蒼ざめて慌てた様子で叫ばれた。


「アルフレッド!! どうして貴方がここに!!」


 私の従兄、騎士のアルフレッドは、私と親しくなった大勢の令嬢の頼みで私が声をかけて、学院の卒業生でもあるしたまたまこの日は空いているしと、パーティに飛び入り参加していたのだ。

 ミラーナさまとアル兄さまは知り合いの様子。でも、どうしてミラーナさまはあんなに慌てていらっしゃるのだろう。

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