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 私が目を覚ますと、枕元にフリードさまがいた。


(あ、悪夢の続きだわ。私、まだ目が覚めていないみたい)


 何も考えたくない、もう一度眠ろう、と思って布団をずり上げると、


「お目覚めか、シェーラ嬢」


 と声がかかる。


「……夢ではないのですね」

「夢? それは、僕に好かれて夢のよう、という意味ですか?」

「いえ、違います。悪夢の続きかと思ったのに、という意味です」


 いくら身分が上で好男子とはいえ、自惚れが過ぎるのでは、と思う。それにしても、気を失っている私の横に親しくもない男性が付き添っているってどういう事なの。私は部屋の隅にいる侍女のリーナを見る。私の世話係として付いて来ているリーナは、姉妹同然に離れず育っただけあって、視線だけで私の言いたい事を読み取る。


「申し訳ありません、お嬢様。フリードさまがどうしてもと仰るので……」

「どうしても、なに?」

「どうしても、恋する方が目覚めるまで傍にいたいと……」

「……フリードさま。私だけでなく、私の侍女まで揶揄うのは止めて頂けませんか?」


 溜息交じりの私の言葉にフリードさまは、


「揶揄ってなんかいない。おふざけであんな事が言える訳がない」

「おふざけでないのならば、もっと良くないですわ。私は明日にはここを出て行かなければならないでしょう。セイラさまにあんな恥をかかせてしまって……」

「セイラの事は貴女には関係ないでしょう」

「大ありですわ。解っておられるでしょう? ご自分で仰ったではないですか。私は汚点だと。そして見事に皆の前で証明なさいましたわね。本当はお芝居なのでしょう? 私を追い出す為の」

「貴女は誤解している。僕には貴女を追い出す気なんてありません」

「だって、私を学院に置いては殿下の名誉に傷がつくような事まで仰ったではありませんか。もし本当にそうならば、私は追い出される前に自分から出て行きます。お世話になった殿下にご迷惑をかけられませんもの」

「貴女が出ていく必要はありません」

「先ほど仰った事と違うではありませんか。全く訳がわかりませんわ」


 本当に訳が分からない。けれど、皆が注目するなかで私を散々に貶めておいてから、私に恋をしたなどと言われたって、誰が信じるだろう?


「今はわからなくていいのです。ただ、自棄になってここを飛び出して実家に帰ったりだけはしないで下さい」

「追放されるくらいなら、自分から出て行きたいのですけど」

「だから、そういう事はありません。僕を信じて下さい」

「とても、信じられませんわ」

「まあそうかも知れませんね。では、僕の殿下への忠誠、これを信じて待っては頂けませんか」


 フリードさまは、ユリウスさまが幼い頃からの親友。田舎で子どもだったユリウスさまと過ごした時にも、『一番信頼できる友人』としてお名前を聞いた覚えがある。そんな方が、私ごときの為に忠誠を捨てる訳がない。


「……わかりました。とりあえずは、お言葉に従いますわ」

「ありがとう。貴女は誠実な方だ」


 散々私を不誠実な女と罵ったのに? けれど、もうそれ以上追及する気力がなくて、フリードさまが部屋を出ていくのを起き上がって見送るのが精いっぱいだった。フリードさまがいなくなると、私はまたぐったりと寝台に倒れ込んだ。


(……ユリウスさまにどう思われたかしら)


 セイラさまからフリードさまを奪ったとんでもない女。そうとしか見えなかっただろう。折角昔のよしみを思い出して下さったのに、今頃はご立腹なさっているかも知れない。そう思うととても悲しくなった。一体何故私はこんな目に遭っているのだろう。身の程知らずにユリウスさまが差し出して下さったお手をとってしまったからだ。あのパーティで偶然出会わなければ、そもそも生涯会う事もなかった筈だったのに、なんだかんだ言っても私は、覚えられていたという事に浮かれていたのかも知れない。嫌な女と思われるくらいなら、子どもの頃の可愛い思い出として心の隅っこに置いて貰っていた方がどれだけ良かったか……。

 でも、ユリウスさまが好き。封印してしまう筈だった恋心は、間近でお話する機会を得てしまって、抑えられない。そうだ、笑わない理由をあれこれ他人にも自分にもこじつけていたけれど、本当は、ユリウスさまと同じ建物にいてもお傍にいられない、それが心に刺さって笑い方を忘れてしまったから……。


 布団に顔を埋めて泣いている私に、リーナが声をかけるかどうか迷っているみたい。

 でもその時、扉が叩かれた。リーナが応対したけれど、学院の御用係のようだった。


「まあ……お嬢様、こんな綺麗な大きな! どうしましょう、置き場は……」


 顔を上げると、見た事もないような立派な花が届いていた。


「……どうしたの、これ」

「お見舞い、とだけで、どなたからかは書かれていません」

「まあ……届けた者に聞かなかったの?」

「聞いたのですが、わからないと言われてしまって……」


 私はリーナが花を上手く飾り付けるのをぼうっと眺めていた。差出人がわからなくては御礼も言えない、困ったな……と思いながら。

 いったいどなた? フリードさま? 他の殿方? それとも、まさか……。

 私は溜息をついて、その想像を頭から追い払った。いま、ご立腹かも知れないと考えていたのに、私ったらどこまで図々しいのかしら、図々しい女という陰口は案外当たっているのかも、と自虐的に考えた。

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