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「ユリウス殿下。とにかく、あんな状態のまま婚約破棄だなど……ミラーナさまのご将来をお考え下さらなかったのですか? 例え行き違いがあったとしても、ユリウスさまとミラーナさまは元々、気心の知れた幼馴染であられた筈。なのに何故、公の場で突然あんな事を……!!」


 華やいだ気分もすっかり削がれたパーティが終わった後、アル兄さまと私は、密かにユリウスさまの私室に呼び出されていた。あんな騒動があったので、アル兄さまとお近づきになろうと意気込んでいた令嬢たちも、パーティの間、何だか気まずそうに遠巻きにしていた。

 でもいま、ここにはユリウスさま、フリードさまと、アル兄さまと私しかいない。アル兄さまはまたミラーナさまの為に何とかしたい、という意気を取り戻したようだった。

 けれど。


「アルフレッド。きみは本気でミラーナとわたしがよりを戻せばいいと思っているのか?」


 なんだか冷静な様子でユリウスさまはアル兄さまを見てらっしゃる。


「勿論です。ユリウス殿下はお優しく聡いおかた。殿下の妃になられる事は、ミラーナさまの幸せですから」

「そうか。今の言葉を聞いたら、ミラーナは不幸になるだろうな」

「え?」


 アル兄さまのお顔に動揺が見られた。ユリウスさまは畳みかけるように、


「何故、わたしが作ったこの機会を、好機だと思わないのか? わたしの妃になる事がミラーナの幸せ? そうでない事を知っている癖に」

「……」

「ど、どういう事ですの? ユリウスさま、アル兄さま?」


 ユリウスさまのお言葉の意味が解らなさ過ぎて、私は思わず口を挟んだけれど、


「後で説明しますから、シェーラ嬢。僕もアルフレッドの答えを聞きたい。ここで彼が尻込みするようなら、ユリウスさまのお気持ちも、協力した僕とセイラの働きも半分無駄になってしまうから」


 とこれまた意味不明なフリードさまの言葉に押しとどめられてしまう。


「……私は、ミラーナさまがお幸せになればと。ユリウス殿下がミラーナさまを幸せにして下さると、ただ、そればかりを……」

「わたしと結婚しても彼女は幸せにはなれない。わたしたちの間には、友情しかないのだから。互いに他の人を愛していて、夫婦になって、幸せになれる筈がない」


 えっ。ミラーナさまはユリウスさまの婚約者だったのに、他に好きな男性がいるという事?! そんな事……しかもユリウスさまはそれを知っていらっしゃる。もしかして、婚約破棄宣言は、その事にお怒りになって?


「……王族や高位貴族の家柄の方の結婚とは、そんなもので……けれど夫婦として過ごしていくうちにきっと幸せは見つかると……お相手はユリウス殿下なのですし……私はそう、思っていました」

「しかしいま、婚約破棄によってミラーナに相手はいなくなった。王子から不徳を理由に婚約破棄されるなど、不名誉極まりない。もう彼女は、親の望むような王族との結婚は出来まい。今まできみがどう忍んで来たかを聞いている訳ではない。今きみがどうしたいのかを聞きたいのだ。ミラーナは、待っている。きみは彼女が、心を殺して王子の妃となり、愛がなくともちやほやされればやがて過去はどうでもよくなる、そんな女性だと思っていたのか?」


 ミラーナさまの想い人。それは、目の前にいる……?


「……まさか、ユリウス殿下は、ミラーナさまと私の為に?」

「発案したのはミラーナだ。わたしも、彼女は大切な友人ではあっても、妃に望む相手ではなかったし。さあ、きみの覚悟はどうなのだ?」


 ユリウスさまの問いかけに、アル兄さまは、もう迷いのない口調で答えた。


「本当はずっと、ミラーナさまを攫って逃げたいくらいでした。殿下との婚約が決まってから、ミラーナさまからの密かなお便りも途絶えてしまったので、もう私をお忘れなのだろうとは思っていましたが……それでも、ミラーナさまが私に下さった思い出は偽りではない筈だし、私自身がミラーナさまを幸せに出来る道があるならば、この命を投げ打ってでも、と。けれど実際、王家の方と婚約なされたミラーナさまを、一介の騎士である私が幸せに出来る道はない。仮にミラーナさまが駆け落ちに同意して下さった所で、見つかれば私は極刑になりミラーナさまを苦しめるだけだし、見つからなかった所で苦しい暮らしになってしまうと」

「で、今はどう思っているのか?」

「どちらにせよ公爵殿下からは反対されるかも知れませんが……ミラーナさまに求婚しに参りたいと思います」


 ユリウスさまは微笑して頷かれた。

 つまりは、ユリウスさまとミラーナさまが仕組まれたお芝居だったのね。


「ユリウス殿下、ありがとうございます。このご恩にはいずれ命に代えても報います」

「礼はまだ早いよ。公爵は難物だ。わたしも一旦はどうしても婚約を受けざるを得ないように追い込まれたのだから。でも、きみたちの未来を信じている。子どもが生まれたら、名付け親にならせて欲しい」

「……」


 アル兄さまの瞳が潤んでる。将来の騎士団長と目されている強い騎士なのに。


「良かった……アル兄さま。わたくし、なんにも知らなくて」


 私は思わずそう言ったけれど、フリードさまがアル兄さまより早く応えられた。


「シェーラ嬢。これは、ミラーナさまとアルフレッドの為だけではないのです。ユリウスさまは……」

「やめてくれ、フリード。それは僕が言う」

「あっ、申し訳ありません」


 なんだろう。ユリウスさまが私になにか……?

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