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「お嬢様! お父上から許可が出ましたよ! 王都へ、王子殿下の婚約披露パーティに出席して良いって!」


 同い年の侍女リーナが、興奮気味に私の部屋に飛び込んで来たのはお昼前、刺繍をして過ごしている時だった。


「まあ、そう。良かったわね」

「お嬢様ったら、ひとごとみたいに! 貴族階級の方ならどなたでも出席出来るというこのパーティ、素敵な殿方に見初められる中々ない好機ですよ! 旦那様はお嬢様のお相手に、お金持ちのウェンティ氏を考えてらっしゃるけれど、あんな太った中年の後添いではお嬢様が可哀相、とお母さまが一生懸命説得して下さったというのに」

「別に、私は嫌だとも自分が可哀相だとも思っていないわ」

「そんなこと……麗しのシェーラ男爵令嬢は王都でどんな貴公子を射止めるか、って、もう屋敷の者たちは楽しみにしておりますよ!」

「誰だっていいわ。中年の商人でも、美男子の公爵令息でも、誰だって。こんな私を娶って下さって、家族の助けになって下さる方ならば」

「まああ、お嬢様ったら! そんなにお若くてお美しいのに!」


 リーナは自分の事みたいに怒ってみせる。でも、私は本当に興味がないのだ。私の望みをしいて挙げるならば、婚約披露パーティに行かない事だった。

 みんなが私を、美しく無欲で淑やかで非の打ちどころもない、と言ってくれる。でも私は無欲なのではない。大それた欲を持ってしまい、それが叶わないので自棄になっているだけだろうと思う。

 私が欲しいのは、ユリウス第三王子……二か月前に、公爵令嬢ミラーナさまとの婚約を発表され、今回婚約披露パーティの主役となるその人だ。


『シェーラ。おとなになったら、僕の妃になってくれる?』

『ユリウスさま……もちろんですわ。シェーラは、お迎えをずっと待っております』

『長くは待たせないよ、シェーラ』


 幼少の頃は病弱で、保養地として有名なうちの領地にいらした10歳の王子さまに、同い年だった私は恋をした。誰にも話さずに、ただ夢を見て待った。でも……それから5年も経つと流石に現実が見えてきた。王子さまが、田舎育ちの男爵令嬢を迎えに来る日なんて永遠に訪れる筈もないという現実が。

 ユリウスさまは、王都で暮らす令嬢たちの憧れの的であると、風の噂で聞いた。物腰柔らかでお優しく、笑うと周囲まで温かなふんわりした気持ちにさせられるので、『ふんわり王子さま』という呼び名もあるそうで。

 そんな優しい王子さまだから、幼い日にあどけなく一緒に遊んだ男爵令嬢に、つい夢をくれてしまったのだろう。

 諦めながらも、どこかでまだ夢を捨て切れていなかった時に、王子さまの婚約の報がもたらされた。それで、私は自分の為の夢をすべて捨てて、家族の為にだけ生きようと決意したのだった。まあ、自分は興味はないけれど、お父さまが、格上の貴族家との婚姻を望まれるのであれば、それに添うのもいいかも知れない。もしも伯爵家の子息なんかに見初められたら、きっと喜ばれるだろう。

 婚約を祝福されるユリウスさまを見たくはなかったけれど、両親が行けと言うのなら……と私は重い腰を上げ、旅の支度にとりかかった。



「シェーラ……本当にきみなのか。僕は……」

「ユリウスさま。どう、なさったのです」


 パーティは盛大に盛り上がり、私は幾人もの貴公子に声をかけられ、ダンスの誘いに応じてみせた。田舎育ちではあるけれど、母が伯爵家の出であるので、礼儀作法はきちんと仕込まれている。初めての王都、初めての盛大なパーティでも、臆するのも面倒で、身に叩き込まれていた作法通りに振る舞っていたら、たちまち、


「あの美しい令嬢はどなただ? 初めてお見受けするが」


 と噂になってしまったらしい。私にとってはかなり長い時間を、退屈な社交に費やしたけれど、遂に疲れ果てて、人波をかいくぐって、夜更けの中庭に抜け出した。

 そして……そこで、同じように、パーティから息抜きに出て来られたらしいユリウス王子と出くわしたのだ。いったいどういうこと? ご自分の婚約披露なのに。

 月明かりの下で私の姿をみとめた王子さまは、くしゃりと端正なお顔を歪められた。泣き笑い……ふんわりするという、噂の笑顔ではないみたい。


「シェーラ。きみは亡くなったと聞かされていたんだ。だから僕は……!」


 とユリウスさまは苦し気に仰ったかと思うと、溢れる涙を拭う事もなさらずに私の手をとられた。


「生きて……また会えるなんて。でも、僕は……」

「ユリウスさま。わたくしの事を覚えていて下さったなんて、光栄です」


 ユリウスさまのお言葉に、天にも昇る幸福を味わった。ユリウスさまは約束を忘れた訳でも捨てた訳でもなかった。それだけで私は充分に、待った月日を報われた。


「わたくしは、ユリウスさまとミラーナさまを祝福しに参ったのですわ。どうか、お幸せに」

「シェーラ?! 待ってくれ、どこへ行く?!」


 私は失礼にならない程度に丁寧に王子さまの手を振りほどき、そのまま待たせていた馬車のところへ走り、王都の小さな借り屋敷へ帰った。もう、二度と会わなくていい。私は幸せ。だって忘れられていなかったのだもの。自分にそう言い聞かせ……。


 だけれど、翌朝届いたのは、王立学院へ編入の手続きが済んだ、との知らせだった。ユリウスさまと、婚約者の公爵令嬢が通われている、学院。


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