母の実家の蔵 side 鬼
どうぞ
私は鬼である。名は・・・あるにはあるが、他人に教えるものではないので、名乗らん。
まあ、人間たちからは悪鬼などと呼ばれてはおるがな。
自分達の住処にいきなり攻めてこられればそうもなるじゃろうな。
当時の私、いやわっちは、男の鬼にまたしても振られたところだったので、むしゃくしゃしてそこらへんの都に喧嘩を売りに行ったのじゃ。
しかし、意外と抵抗が強く、油断して封印されるところじゃった。
じゃが、本能にも近い感覚。もしくはその時に振られたばっかりの頃だったというのもあったのか、相手側の家系に男が生まれないという呪いをかけてしまったのじゃ。
一応そのあとに落ち着いたらとんでもないことをしたというのを自覚したので、わっちの分割された体を基点とする結界を張ってその都の守護をしたりしたのじゃがな。
うん?呪いを解かなかったのかじゃと?
ほぼ衝動的に掛けた複雑かつ、でたらめな呪いじゃったから自力で解くことが出来んかった。
じゃから代わりに結界を張り、ついでに呪いを解くためにはわっちを越える力の持ち主が必要だと教えたわけじゃ。
まあ、男児である必要はないのじゃがそこは、まあ、わっちにも利益をな。
言ってなかったが、鬼の世界も基本男が極少数じゃ。じゃから男は非常に大事であり、男を持つ鬼は王の器を持つなどと言われておる。
が、そんなことはどうでもよいのじゃ。
わっち以上の力の持ち主なぞ、それこそ大鬼か神のみじゃ。
大鬼は力が強く、そこそこ歳を取らねばなれぬ。ゆえに男児であるはずがない。
となるとあとは神の御子しかおらぬというわけじゃ。
そして、神の御子となれば、鬼と子供を設けることも不可能ではないのじゃ。
つまり、子供の頃からわっちと交流し、好感度を上げて結婚まで行かぬとも子供を作るまで行ければ良いということじゃ。
しっかし、数百年経ってもそんな子供は現れん。
掃除に来るばばぁとかしか見ておらんのぅ・・・。
そんなある日、強い力を僅かながら感じたのじゃ。
・・・やっと来たのか?
「それじゃあ、光くん。触ってみて。」
「うん。」
おお!これはこれは!完全な神の御子!それも普通の神ではないのう!
うーん。なんの神の力なんだかまったくわからんのう・・・。まあ、とりあえず良いか。これだけの力があれば確実に呪いを取っ払えるじゃろ。
「・・うん?ここは?」
「よく来たのじゃ。」
「・・・?だれ?」
「わっちは鬼じゃ。はじめましてじゃの、光よ。」
「おに。」
「そうじゃ。昔は悪鬼などと呼ばれてはおったが今はもう違う。これからはお主を守ってやろう!」
「まもる?」
「そうじゃ!お主はとてつもなく強い力を持っておるが、扱いをまったくわかっておらん。そして、強い力は時に厄災を呼び寄せることもある。そんな害からお主をこのわっちが守ってやろう!」
「・・・?遊んでくれるの?」
うむぅ。やはりまだ子供じゃから理解は出来ぬか。まあ、わっちとしてはこやつに付いていければ良いのじゃから遊び相手としても 今は 構わんじゃろ。
「そうじゃな。遊び相手にもなれるぞ。」
「わーい!鬼さん、よろしくね!ぼくは光だよ!」
「う、うむ。こちらこそよろしくじゃ。」
男児とはいえ、男と手を繋ぐとこんなに幸せな気持ちになれるのじゃな・・・。
「鬼じゃと!?」
「つまり、鬼が光の守護霊として憑いたということかの?」
「そういうことよ。」
「!?」
「!?誰だ!」
「その子に取りついた鬼よ。」
「つまり、かの名高き悪鬼というわけか・・・。」
「今すぐ私の子から出ていって!」
ふむ、この女が将来わっちの義理の母になるかも知れぬ女か。
「・・?鬼さん、どうしたの?」
「なにがだ?」
「しゃべり方おかしいよ?」
むっ。威厳が出るかと思い改めてみたが・・・。
「・・そうじゃな。元に戻すか。」
「・・・私と少し被りそうじゃのう。」
「お主、作ってるだけじゃろ。」
「ギクッ」
「・・鬼さん。だったかしら。どんな事情があるのか知らないけど、今すぐ私の光から離れてちょうだい。」
ふむ。
「良いのか?わっちが離れても、また別のやつが憑くだけじゃぞ?」
「え?」
「どういうことかしら。」
「この子は強い魂と力を持っておる。わっちの呪いを吹き飛ばす程じゃ。しかし、扱い方と制御方法をまったく知らぬ。故に、わっちたちのような存在からすると、そうじゃな・・・。人間風に言うなら目の前に1兆円が落ちてるようなものかのう?」
「・・・」
「・・・」
ポカーンとしとるの。
「というわけで、ある意味ここからは取引じゃ。わっちがこの光を他の異形から守ってやろう。その代わりにわっちが光の近くにいることを許すのじゃ。戦闘能力は折り紙つきじゃ。」
「・・・???」
「光は特に関係ない話じゃよー」
「う、ん。」
可愛いのう・・・。
「・・・光は普通の子とは違う力を持ってるって思ってたけど・・・。」
「本当にあったとはな・・・。」
「でも、いままでの光の周辺効果を考えればすごく自然だわ。」
「・・・我が娘ながら中々にやばいねぇ。」
とりあえず決まったようじゃな?
「決まったようじゃな?」
「完全に信じるわけではないけど、光への危険を考えると一応取引には応じるわ。」
「それはよかったのじゃ。ならこれからよろ・」
「ただし。もしあなたが光に対して危害を加えたり、いかがわしいことをしたりしたら・・・」
したら?
「そのネックレスを清められた塩の壺に埋めて、空に飛ばすわ。」
・・・なんじゃと?
「空じゃと?」
「ええ。この星の外まで飛ばされれば流石に光に憑けないでしょう?」
・・・なんと剛毅な性格じゃ。そんなこと考えるやつなぞ、ほとんどおらぬぞ。
「娘の教育をどこで間違えたのかしら・・・?」
「という条件を呑み込めるなら取引に応じるわ。」
「・・・わかったのじゃ。」
つまり、わっちからではなく、光から手を出させれば良いのじゃ。簡単な話じゃ。
「おはなしおわったー?」
「ええ、終わったわよ。光、お腹すいたでしょ?」
「うん!」
「じゃあ、母さん。久々に母さんの料理ちょうだい」
「わ、分かったわ。」
とりあえず、これからの日常はこれまでの数百年より楽しくなりそうで楽しみじゃな!
キャラがちょっと固まる。