奇行
一時間目、中学生において最初の授業は睡魔で地獄だ。朝からなんで勉強しなければならないのか、と思ったことのある人もいるだろう。
「はい。じゃあ教科書開いて。23ページ、今日は平安時代について学びます」
皆が気だるそうにページを開く中、太一だけはキリッと素早くページを開く。
(あ〜あ、せっかく隣のいない席だったのになんでかな〜)
太一の隣にはあのあういえうがいる。今日の朝までは誰もいなかったのに。
突然担任が転校生を紹介してきた。名前は天使あういえう。すごく呼びづらいし見辛いのは仕方がない。
なんでこんな時期に転校してくるんだろうと疑問を抱いていたがそんなの知ったことではなかった。来週には期末テストが迫っていた。
(俺の迷惑かけなけりゃなんでもいいや。さ、勉強に集中)
自分に言い聞かせノートを取る。だがそんな太一をよそにあういえうは奇行を始める。
ーカプ…
(?なんか聞こえたな)
ーゴクッ
(おい、嘘だろ?嘘だろ?おい)
ーハムッハムッ
(こ、こいつ…)
ーゴクン
(早弁してやがる!!しかも一時間目に!いやツッコむところはそこじゃない!いや、そこもツッコむけども!た、玉子焼き!?黒すぎるだろ!!)
ーハムハムッ
太一の視線など気にせず自分で作ったであろうお弁当を頬張っていく。
(米!?米だよな!?なんであんな真っ黒くなんの!?墨汁で炊いたかのような米!!)
ーガツガツ
(む、無茶苦茶だ!こいつ!授業飯を食うのは百歩譲ってまだわかる、だがその謎の物体を食っていたら普通注目しちゃうだろ!つまり授業に集中できんのだぁぁ!)
まるで溝を見ているかのようだった。匂いはしないが黒。正に暗黒弁当だった。
「はい、じゃあこれまで、号令」
(な、なにぃぃぃ!!授業が終わっちまった!?ノートもとってない!)
「ごちそうさまでした」
ボソッと呟いた。あ、ごちそうさまでしたは言うのかと一瞬思ったがそんなことをどうでも良かった。
(後で先生に席変えてもらおう…。せめて普通の女子が隣でお願いしてもらおう…)
二時間目
ーく〜す〜す〜す〜
(寝てんのかい。こいつ学校舐めてんのか?弁当食って寝るって何しにここにきたんだよ…)
あういえうは寝ていた。机に屈服して腕を枕にして如何にもな寝方をしていた。
(ま、寝てんなら俺も邪魔にならんしいいか。イビキかくとかでもないだろ)
三時間目
ーく〜す〜
(…)
四時間目
ーく〜す〜す〜
(………)
昼休み
(…こいつは、三時間もぶっとうしで寝てやがった…。あれかな、初めての学校で緊張して夜も眠れなかったのかな)
「……ん」
ムクリ
あういえうは起きて時間を確認し、机を見ていた。
(起きた…)
ーグ〜〜
(えっ、まさか腹減ったのかよ。一時間目に飯食って寝てるだけなのに腹減ったのかよ)
太一は呆れた顔をして自分の弁当を食べようとしたその時だった。
「………」じ〜
あういえうは太一の弁当を見つめていた。食べたそうな目をしていた、例えるなら仲間になりたそうな目でこちらを見ているみたいな感じだ。
「う…なんだよ食べたいのか?」
「………」コクコク
あういえうはその言葉を待っていたかのように頷いた。
「っわかったよ、玉子焼きあげるからそんな目で見るな」
「……あーん」
(うわまじかよ、このご時世に恋人でもない女の子があーんしてるよ…なんか照れる)カプ
「………」もぐもぐ
一瞬顔を歪ませたが表情はすぐに柔らかくなった。
「……おいし」
あんな横暴で金髪アホ毛が人様のお弁当に美味しいと言ったことに太一は驚きを隠せなかった。
「そうか、そうか。それは良かった。じゃ、俺ご飯食べーー」ガッ
太一は手元にあったお弁当箱は消えていた。
「は?」
ーもぐもぐもぐもぐ
知らんぷりをしたあういえうが太一のお弁当を食べていた。よっぽどうまかったのだろう。
「お、おい!それ俺の弁当なんですけど!」
「…もぐもぐもぐもぐ」
「……」
「…ごち」
太一のお弁当箱の中には爪楊枝以外残っていなかった。ここまでいい食べっぷりを見たのは生まれて初めてである。
「お、俺の飯…」
「…」ガタッ
完食したお弁当と絶望している太一を残してあういえうは席を立って教室から出た。
「……トイレいこ…」グスッ
完全にやる気と午後の授業を集中する体力がなくなった太一がフラフラ歩いているとあういえうと三年生の先輩が話していた。
(あれ、儺仁八中のヤクザとまで言われた矢賀先輩じゃん。なんであいつと話してんだろ)
今の太一にはそんなこと考えてる余裕なんてなかった。早くトイレに行き、購買へ行かないと授業が集中できないとしか頭になかった。
「放課後、体育館裏で待ってるぞ」
「……」
(何会話してんのか知らんけどどーでもいいや)
何食っても太りません助けてください