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昨日見た夢の話なんだけど  作者: 黒留ハガネ
四章 銀の黄昏
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03話 銀の黄昏

 ハズタトは物心ついた時から夢見人(ドリーマー)だったらしい。

 同じく夢見人(ドリーマー)の叔父さんに手ほどきを受け、毎晩夢世界(ドリームランド)では何の枷も無い普通の女の子として暮らしてきた。


 生まれつき目も手も封じられてる割に話していて感覚の齟齬が無かった理由が分かった。

 現実(リアル)では盲目でも夢世界(ドリームランド)では普通に物が見える。色も形もよく分かる。

 カラクリが分れば確かに思い当たる節は多かった。昔から空の青さや血の色については理解していた割に「夜」の概念がいまいちよく分かっていない様子だったのは夢世界(ドリームランド)につい最近まで「夜」が無かったからなのだ。


 夢世界(ドリームランド)の街、キングスポートの外れに丸太を妄創(イメージ)して俺達は並んで腰かけた。俺はニクス、ハズタトは叔父さん待ちだ。

 叔父さんは俺がハズタトをベッドに連れていった時にまだ親父と飲んでいたから、寝るのはもう少し後だろう。


「去年はこのあたり何にも無かったのにすごく変わったよね。夢世界(ドリームランド)で噂になってるよ」

「だろうな。ドラゴンと幻獣達が噂にならない訳がない」

「うん。それも噂になってるけど、新しい創造(クリエイト)の使い手が現れたって話の方が有名かな。銀の黄昏も……あ、分かんないかな、私とおとーさんがいる夢見人(ドリーマー)のグループなんだけど、そこも大騒ぎなんだよねぇ。二百年ぶりの新しい創造(クリエイト)使いだから」

「だろ? ドラゴンは強いんだ」

「おにーちゃん夢の中でも全然変わんないねー。ドラゴンの話しかしないじゃん」


 ハズタトは俺の膝に頭をぽすんと乗せ、楽しそうに笑った。

 俺だってドラゴン以外の話もするぞ。ちゃんと話は聞いている。

 アリスの『夢の国の支配社』以外にも夢見人(ドリーマー)グループがあるのは初耳のようでそうでもない。

 うっすらそんな話を聞いていたような気もする。どうでも良すぎて覚えていない。

 ……待てよ?


「その銀の黄昏ってのは幻獣乱獲系サークルじゃないだろうな」

「違うよ!? 銀の黄昏はね、夢世界(ドリームランド)に住みたい人達が集まってるの」

「もう住んでるだろ」

「こんなのホテル暮らしでしょ! 私はずっと住みたいの。永住したいの」


 夢世界(ドリームランド)に永住……?

 ずっと夢の中にいたいという事だろうか。

 それならもちろん俺も考えた事がある。というか夢見人(ドリーマー)で考えた事が無い奴はいないだろう。夢見人(ドリーマー)現実(リアル)で問題抱えた奴ばっかだしな。

 だが実際には問題が多すぎる。


「そりゃずっと寝てればずっと夢の中にいられるだろうが、睡眠薬で眠り続ければ体に負担がかかる。寿命が縮む。現実(リアル)で死んだら結局夢はそこで終わり。寝てる間に世話してくれる人と眠りっぱなしで生きていけるだけの金も必要だ。無理じゃないとしても厳しいな」


 睡眠薬飲んでずっと自宅に籠っているわけにはいかない。現実的ではない。

 それに俺の趣味ではない。

 夢の中に永住してドラゴンを崇拝し続けるより、夢の中のドラゴンを現実に呼び出してしまった方がずっと楽しいに決まっている。どうせ現実味にかける事をするならそれがいい。


 俺が夢の無い現実を突きつけると、ハズタトは得意げに解決策を語り出した。


「だと思うでしょ。でも夢無人(リアリスト)の限界で私達(ドリーマー)は縛れないんだよ。一人じゃ無理な事でも、夢見人(ドリーマー)がたくさん集まって頑張ればきっとできる!」

「空中分解の隠語か? 夢見人(ドリーマー)は群れ作るのに向いた生態してねぇぞ」


 アリスがボス猿の地位を占有する夢の国の支配者は夢見人(ドリーマー)集団としてはまあまあ上手くやっているのではないかと思う。が、アリスは死にかけたし今の形になるまでに相当衝突してモメにモメた。それに緩くまとまっていはいるものの決して同じ目標に向かって力を合わせて頑張ろうという仲良しグループでもない。


「そう! そこなんだよ。そこなんだよね。夢見人(ドリーマー)ってみんな頭おかしくて我が強いから協力なんてできなさそうでしょ。でもおとーさんと私とか、おにーちゃんと私とか、夢見人(ドリーマー)同士でも仲良くできる事あるじゃない? 夢見人(ドリーマー)も人間なんだから、たくさんいれば何人かは仲良くなれる人もいるよね」

「まあそうだな」

「だから銀の黄昏は夢見人(ドリーマー)同士で結婚するの」

「は?」


 急に話の雲行きが怪しくなったぞ。


夢見人(ドリーマー)からは夢見人(ドリーマー)が生まれやすいの。そうすれば夢見人(ドリーマー)の数が増えてやれる事増えるよね? 夢見人(ドリーマー)の家系みたいなやつもあるんだよ! ウチとかね」

「えあ……?」


 そ、そうなのか?

 それは初耳だ。

 いやしかし数十万から百万人に一人と言われる夢見人(ドリーマー)が日富野家の家系だけで叔父さん、ハズタト、俺の三人もいる事を考えればそうじゃない方がむしろおかしいか。

 夢見人(ドリーマー)婚とは妙な事やってるな。尾羽の色が鮮やかな雄を選ぶとかそういう結婚とは少し違う気がする。


夢世界(ドリームランド)で強い人はだいたい現実(リアル)で生き辛くて苦労してるから、銀の黄昏はそこの支援もしてるんだよ! おにーちゃんもどう? 入らない?」

「いや俺はいい」

「えー、入ろーよー」


 非常に魅力的な提案だが、俺はもうアリスの夢の国の支配社に所属している。群れを裏切る事はできない。


 駄々っ子ハズタトをあやしているいると、少し離れた場所に遮光器土偶が現れた。出土したてといった感じの土がこびりつきあちこち欠けたその遮光器土偶は人間の大人サイズで、周りを見回し俺達に気付いて近づいてくる。ずんぐりした見た目に反して歩き方は普通だった。

 誰だコイツ、なんてすっとぼける事はしない。ここにこの距離でやってくる夢見人(ドリーマー)はどう考えても叔父さんだ。


「おとーさん、これおにーちゃん! おにーちゃんだよ!」


 ハズタトが遮光器土偶に嬉しそうに駆け寄って袖のあたりを引っ張り、俺を指さして報告する。遮光器土偶は屈んでハズタトの話を聞いて二言三言言ってから俺に叔父さんの声で話しかけてきた。


「あー、そうだな。君が一番好きな生き物は龍で合ってるかい?」

「ドラゴンだ二度と間違えんな龍じゃなくてドラゴンだ」

「おお……悪かった。間違いなく俺の甥っ子だ。離してくれるか」


 やんわり言われてはじめて俺は叔父さんに詰め寄って胸倉を掴んでいた事に気付いた。

 なんだよもう。本人確認するならもっと他に何か無かったのか? キレそうだ。


「そう怒るなまた今度恐竜の化石贈ってやるから。驚いたし歓迎もしてやりたい所だが、悪いな。俺は今から人に会いに行く。ちょっと深酒しちまって遅れてるから急がにゃならん。アザトースと……?」

「ヒプノス」

「ヒプノスはどうする? ついて来るか」


 問われて俺とハズタトは顔を見合わせた。


「私はおにーちゃんと一緒にいる」

「どうすっかな、ニクスなかなか来ないし……行くか。一応叔父さんがこっちで使ってる名前聞いといていいか」

「アラハバキだ」

「アラハバキ……妖怪だっけ? 夢見人(ドリーマー)()()系の名前じゃないといけない法則でもあんの」


 ヒプノスは夢の神。ニクスは夜の神。タナトスは死の神だし、ナイトメアは悪夢。アリスは夢の国と結び付けられ、アラハバキも妖怪だったか神だったか。アザトースも夢見る邪神だ。

 もっとこう、セグロカモメとかタカアシガニとかそのあたりの普通の偽名使ってる夢見人(ドリーマー)はいないんですかね。


「あるらしいな、そういう法則が」

「あんの!?」


 アラハバキの叔父さんは遮光器土偶ボディのゴーグルに地図のような物を表示させて首を捻りながら語る。


「あるが与太話だ。適当に聞き流しとけ。

 俺は偽名が必要になった時に思い浮かんだ言葉をそのまま使っただけで、現実(リアル)で語られる荒脛巾神(アラハバキ)を知ったのはその後なんだが、そういう例は相当多い。適当につけた名前がなぜか夢だの妖怪だの神だのとそっくりになるって例はな。

 銀の黄昏にいると他の夢見人(ドリーマー)と会う事が多いし昔話も聞ける。大昔からずっとそうだったらしい。逆に神話の由来が夢見人(ドリーマー)って説もあるな。遥か大昔、神話の時代から夢見人(ドリーマー)夢世界(ドリームランド)に来て初めて自分の真の名を知り、それが神話や昔語りに使われたって説だ」

「はあ……?」


 そんな一気に言われてもピンと来ない。難しい話をするならせめて鴉語かチンパンジー語で話してくれませんかね。


「よく分からんか。例えばそうだな、大昔の夢見人(ドリーマー)の誰かが夢世界(ドリームランド)で直感的に『自分の名前はヒプノスだ』と思ったとしよう。夢世界(ドリームランド)でそう名乗り、現実でもそう名乗って、夢の神として崇められた。それが現代まで語り継がれて、今お前がまたヒプノスの名前を長い年月を超えて受け継いでる。そう考えるとロマンがあるだろう?」

「人間の話されてもな。その話にドラゴンはいつ出てくるんだ?」


 叔父さんの顔は遮光器土偶のヘルメット(?)に隠れて分からないが、苦笑したのは雰囲気で分かった。


「お前夢の中でも全然変わらんな。ドラゴンの話しかしない――――OK、方角よし、距離よし。あき……ヒプノス、幻創(ヴィジョン)は使えるか? 一気に移動したいんだが」

「光速で? いける。ちなみに誰に会いに行くんだ?」


 光速移動が可能なら地球上どこにいてもすぐ会いに行ける。夢世界(ドリームランド)上の場所が分かっていれば。

 叔父さんは一年中旅している関係上、世界中に知り合いが多い。夢世界(ドリームランド)での光速移動はそういった人達に会いに行く時に役立っているに違いない。

 俺が尋ねると、叔父さんは気まずそうに顔を逸らした。

 

「……元婚約者だ」

「ほー。なんでそんな気まずそうなんだよ」


 別に変な事でもないだろ。

 雌に死なれた雄が別のつがいを求めるのは自然界でよくある事だ。

 求愛行動をして首尾よく雌を巣に誘導した後、雌の気分が変わってどこかへ行ってしまう、というのも魚界では日常茶飯事。

 俺が首を傾げているとハズタトが背伸びして耳元に口を寄せ、こそこそ言った。


「お義母さんとおとーさんは婚約解消の時すっごく話がこじれたんだよね。現実(リアル)じゃ会って貰えないからこっちで会う事になったんだって」

「なのに遅刻してるのか。ヤバそう。名前は?」


 俺が聞くと、ハズタトは手招きする叔父さんに気付き、てってこ寄って行って背中によじ登り光速移動の準備に入りながら明るく言った。


「アリスさん!」


※ハズタトちゃんの名前はクトゥルフ神話に登場する盲目白痴の神アザトースのアナグラムです。かわいいですね。


azathothアザトース

↓↑

hazhtatoハズタト

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― 新着の感想 ―
[良い点] 怪しいけどなんかありえそうな伝説すこ。 [気になる点] ハズタトちゃんは片鱗があったように見えたけど叔父さんは普通の人だと思ってた。この人もドリーマーなのか…。 [一言] かわいい(かわい…
[一言] 更新うれぴい
[良い点] かわいい(おめめグルグル) [気になる点] さすがに偽名というか夢名なんだしアリス被りやろ おじさんとは年齢差がありすぎるしね 違うよね?
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