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Paradise Gate   作者: UNDERSON
1章 ウェスタンブルー
9/20

闘技大会 準決勝戦

「あ、帰ってきたわね。…その様子だとエリーに随分苦戦したようね?」

「ん?何故分かった?」


 控え室に戻るとクリスがにこやかに話しかけてきたのに対し、俺は戸惑いながら返事をした。体の様子だけで見ると俺は無傷であるのに何故苦戦したと分かったのだろうか。


「…あなたの魔力の乱れを感じたわ」

「なるほど、流石だな」


 クリスは魔力察知能力が人よりも優れており、本人も並外れた魔力量を保有している。次の12の神徒に選ばれる者がいるとしたらそれは彼女ではないかと俺は考えている。深呼吸をしてにこやかに微笑んでいるクリスに手を差し出した。


「予定通りお前と戦えそうだな」

「そうね。あなたとの対戦の準備運動はバッチリよ」

「それは楽しみだな。お手柔らかに頼むぞ」

「それは無理な相談ね。本気でいかせてもらうわよ?」


 俺達は互いの手を取り握手を交わした。何よりも楽しみにしてくれていた試合だ、こいつをがっかりさせてしまうような真似はしたくないと心から思った。



「さて、いよいよか」

「ええ、あなたとは学園時代の模擬戦は五勝五敗だったわよね?この戦いでどちらが上か分からせてあげるわ!」

「双方配置について……始め!」


 こうして俺とクリスの対戦が始まったのだった。


ー???ー


「ふむ、どうやらあやつは能力チカラを使いこなせていないようだな」

「ああ。それにあいつが何の神徒かも判明したしな。どうせなら俺達で殺しちまえばいいんじゃないか?」

「待て待て、そう焦るなドライ。我らが王はそのような事を望んでいないぞ?」

「どうせ後で殺るんだ、今殺っても変わらないんじゃないのか?」

「そんなことはない。あやつの能力を限界まで上げてから殺れば、今より美味しい魔力がご馳走になれるんだぞ?」

「けっ、果たして俺達にまわってくるかな?」

「まわってくるさ。俺達は12の魔将。我らが王を含めて13人、共に数字ナンバーを宿した者だ。対等に扱われて当然だ」

「そうでなきゃやってらんねえよなあ?ああ、でもそうだ。ちょっかいくらいは出しても…いいよな?」

「ああ、それくらいなら我らが王もお許しになるだろうよ。くくく、レヴィン・シーケイド。お前がどんな顔するか楽しみだ」


 漆黒の闇の中。2人の男の声が響いていた。忍び寄る魔の手がすぐそこまで追ってきていた────


ーウェスタンブルー 闘技場 闘技ホールー


「『火柱フレイムピラー』!!」

「『水流盾アクアガード』!!」


 巨大な火の玉をこれまた巨大な水の盾で対処する。先程からこのような展開がずっと続いている。保有魔力量からするとこれは圧倒的に俺側の不利であるが、かといってこっちから反撃するにも出来ない状況にあり、完全にクリスのペースとなっていた。だが、俺も負けじと目の前の火の玉を抑え込んでいた。だがその矢先、クリスが追撃を開始した。


雷撃光線サンダーレイ!」

「なっ!?」


 まだ『火柱フレイムピラー』の対処をしていた 俺の『水流盾アクアガード』をその名の通り速度の速い雷撃が貫いた。水が霧散し雷撃が俺の体を走り激痛に顔を歪める。

 一方でクリスは更なる追い討ちをかけようと詠唱を開始していた。


「『火雨フレイムレイン』!」

「『水傘ウォータードーム』!」


 空から降り注がれる数多の火の玉を大きな傘の形をした水のドームで防ぐ。だが、徐々に傘の面積が少なくなっていく。火の玉との衝突で蒸発しているのだ。『水傘ウォータードーム』は普通、一般的な魔導師の『火雨フレイムレイン』程度ならば余裕で耐えられるものなのだ。これはクリスの魔法がいかに強力なものかを証明するものとなった。


「さあ、レヴィン!覚悟なさい!!それ、連発よ!!」


 クリスが『火雨フレイムレイン』を連発し勝負を決めにきた。


「くそ、ここまでか……」

「へへーん、後で何か甘いものを…」

「なんてな」

「奢り…え?」

「『錬金アルケミー』、この場の水素と酸素を結合させてさせる!『水素爆弾』!」


 ものすごい音とともに何も無かった空中で凄まじい爆発が起こった。


「今のは一体…?」

「空中にある水素と酸素を操作して結合させて爆発を起こしただけだが?」

「あんな爆発が起こる程の水素はこの空気中にあるはずが……あ、まさかさっきの雷撃で…」

「ご名答。俺の『水流盾アクアガード』とクリスの『雷撃光線サンダーレイ』の衝突によって水が水素と酸素に電気分解された。その水は俺の魔力によって生まれたものであり、そこから分解されて出来た水素と酸素は俺の魔力を含有していた。しかも空からはお前の『火雨フレイムレイン』が降り注いでいた。だから操作して爆発を起こすのは容易だったんだ」

「そんな……」

「さて、今度はこちらからいかせてもらうぞ」


 言うが早いか俺はクリスに反撃した。先程の爆発によって生まれた水を操作して剣を作り、それを凍らせ、最後に『錬金アルケミー』で鉄化する。簡易的な剣だが、魔導師であるクリスには充分過ぎる代物だった。

 2発目の『火雨フレイムレイン』の詠唱キャンセルによって本来放出される予定だった魔力が停滞したクリスは、魔力のバランスが崩れたことによってバランスが戻るまでは魔法が撃てない。この間に決着をつける必要があった。俺の斬撃をクリスは必死に避け続けたが、柄を鳩尾に打ち付けると咳き込みながら突っ伏した。勝負あったと剣先をクリスに向ける。


「やっぱりお前との戦闘は苦労するよ」

「はあ…また負けちゃったか〜。……次こそはあたしが勝つんだからぁ〜!」


 こうしてクリスが降参したことにより、俺は決勝へと駒を進めた。クリスが降参したことにより分身体スペアボディから本体へと戻るべくその場で消滅したため俺は1人で控え室へと向かった。

 控え室に戻ると、俺はその場に倒れ込んだ。神経をすり減らす壮絶な戦いを繰り広げた後だ。安心した瞬間、抑え込んでいた疲労がどっと押し寄せてきた。今回は負けてもおかしくない戦いだった。クリスは魔力察知能力が非常に高いおかげで俺がどんな魔法を使おうとしているのか詠唱前の段階で分かるらしい。既に行動が読まれている相手との戦いは本当に大変なのだ。俺は目を閉じて先程の戦いを頭の中で回想しながら、クリスが一皮剥けたら果たして俺は勝てるのかと疑問に思った。


「うん…」

「あ、起きたのね。全くこんな固い地面で寝てても体は休まらないわよ?」


 気がつくと俺はクリスに膝枕されていた。なるほど、途中から夢心地が良くなったように感じたのは膝枕のおかげだったのか。


「ああすまない…。それでシャナルの結果は出たのか?」

「まだ戦っているみたい。……えっとレヴィン、自分からやっといて何だけど恥ずかしくなってきたから起きてもらってもいい…?」


 名残惜しかったが俺は体を起こし自身の体調をチェックすることにした。疲れは抜けきってはいないがだいぶ回復したようだった。


「ありがとなクリス。これで決勝でシャナルとの戦いも頑張れそうだ」

「そう?ならいいんだけど…」

「ん?何か言いたげだな?」

「えっと…今日の戦いであんたはあたしにトドメを刺さなかったじゃない?」

「そうだな」

「だからその……ありがとうって言いたくて」

「痛いのは嫌だろ?それにたとえ闘技者同士であってもお前にはトドメを刺したくなかったからな」

「え?」

「いい試合だった。また機会があったらまた戦おう」

「ええ。そうね。次はあたしが勝つからね!」


 俺達は互いの健闘を称え合い固く握手を交わした。今までけなしあっていたクリスと初めてお互いを認めあった瞬間であった。



「…そんなっ……こんな…ところで……!」


 俺達が控え室で握手を交わしていた頃、闘技ホールではシャナルが地に伏していた。相手はサムシンという年老いた侍で体力の面からしてシャナルが勝つだろうと誰もが思っていた。だが、結果はこの通りサムシンが危なげなく勝利を収めようとしていた。


「……小娘よ。今まで戦ってきた者の中でそなたが一番強かった。誇って良いぞ。このワシに本気を出させたのだから」

「へへっ、そう…ですかい…爺さん一体何者っすか……?」

「うむ。ここまでやりあった強者だ、名乗るくらいしても良いだろう。ワシは元サクラノ王国軍元帥サムシンだ。ワシの名よりも『電光石火』の名の方が聞き覚えがあるのではないかな?」

「なっ…あの最速の剣撃を誇る『電光石火』殿とは…はは、そりゃ勝ち目が無いですわー…」


 そう言い残しシャナルは力尽きた。この瞬間に俺の最後の対戦相手が決まったのだった。

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