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Paradise Gate   作者: UNDERSON
1章 ウェスタンブルー
7/20

闘技大会 予選

ーウェスタンブルー 闘技場ー


 ウェスタンブルー闘技場────その歴史は長く、戦乱の時代にまで遡る。この闘技場は元々訓練所として使用されており、要塞国家と呼ばれたグリーシア王国を攻め落とすために兵士を実戦形式で訓練する目的で造られたものである。老朽化によって所々改修はしているが現存する闘技場では最古のものである。


「うわあ、結構広いんですね!沢山強い人と戦えるのかあ!今からワクワクが止まりません!!」

「うん、よし。みんなよく聞いてくれ。今回の目的は経験を積むことだ。今まで俺達は騎士団の訓練の一環であった模擬戦しか経験していない。だが、この世界には俺達の知らない戦い方がある。それを自分の目で見て盗めるものは盗んで欲しい」


 俺は一同を見渡した。みんな程度は違えど緊張しているようだった。だが、それは悪い意味のものではなく、これから起こることに対しての高揚感によるものだろうと推測できた。


「よし、それでは悔いを残さぬようにベストを尽くそう!いくぞ!!」


 掛け声と共に拳を上に突き出した。旅が始まってから初めてメンバーが一体となった気がした。


 ────ルールは実戦形式で特に制限はない。闘技者のいずれかが戦闘不能、または棄権した場合に勝負を決する。


 この闘技場は闘技者が全力で戦えるように自身の分身体スペアボディで戦うことになっている。古代の魔術装置に闘技者が入り、魔術装置が闘技者をスキャンする。スキャンが完了すると分身体スペアボディが召喚され、自動的にそちらに意識が持っていかれる。そして、戦う。敗北した場合、分身体スペアボディは消え魔術装置の中で眠っていた本体が意識を取り戻す……という仕組みだ。ちなみに分身体スペアボディは闘技場内限定で動けるため闘技場の外に出ると自動的に消えて本体が目を覚ます。

 俺は魔術装置に入って分身体スペアボディへと体を変え、手を握ってみたり屈伸をしてみたりと体の状態を確認した。なるほど、ほとんど自分の体の時と感覚が変わらない。素晴らしい技術だなと思っているとクリスがこちらに向かって来た。


「レヴィン、出場者は闘技ホールに集合するみたいよ。対戦カードの発表みたい」

「分かった、すぐに行こう。…しかしこの分身体スペアボディ、どうやって作り出してるんだ?古代の技術とは末恐ろしいものだな」

「確かに違和感が全くないものね。古代の技術が現代に受け継がれていないのが残念だけど」


 他愛もない会話をしながら俺はクリスと共に闘技ホールへと向かった。



「無事1回戦は勝ったようだな」

「はい!とても楽しかったです!次は先輩の番ですよね?頑張ってくださいね!」


 対戦カードが発表された後、いよいよ闘技大会が始まった。1回戦目はエリーと剣士の対戦で見事にエリーが勝利を収めたようだった。

 闘技者は不正を防ぐために勝ち進んでいる間は直接自分の目で対戦を見ることが出来ない。そのため、ボードに表示される勝ち負けを見て次の対戦者を判断するのだ。エリーの様子を見るにあまり苦戦はしなかったのだろう。


「ああ。行ってくるよ」


 確か1回戦目は弓使いだったなと思いながら俺は戦場に向かった。



「しかしよりにもよってクリスとセリアが1回戦目で当たるとはな」

「ファンサービスみたいだよねー。双子の王女様による一戦!だなんて」


 俺が1回戦目の弓使いに勝利し戻ってくるとクリスとセリアの組み合わせについてシャナル達が話していた。クリスとセリアは1回戦目で当たっており、ある意味一番注目を集めている試合となっていた。その対戦カードをみてニヤリとしたクリスと重い溜息をついたセリアの2人の様子からして勝者は決まっていたようだった。確かに彼女らの戦闘スタイルからみても一目瞭然である。攻撃系魔法を主として使うクリスと援護系、回復系魔法を主として使うセリアとでは相性が悪い。

 それ以前にセリアは物理攻撃を繰り出してくる魔物に対抗する手段を得るために闘技大会に参加したのにこの状況である。勝ち負けよりも試したいことが出来なくなったということでげんなりしていた。


「レヴィンさん。この闘技大会が終わったら私の自主錬に付き合ってくださいね」


 今の彼女の心境を考えるとどうしても頷いてしまう。もう一度溜息をついてからセリアは試合へ向かった。


「…セリアも大変だなあ」

「レーくん他人の心配してていいのー?次の対戦相手は前回優勝者ディフェンディングチャンピオンなんでしょー?」

「ああ、まあなんとかなるさ。最悪の場合は()()



 結果はやはりクリスが勝利したようだったが、思ったよりもセリアが粘ったらしい。「魔法耐性上昇の魔法を覚えられたのは良かったですけど」とセリアは溜息をついていた。この様子だと自主錬に付き合わないと駄目なようだ。



「────さあ続いての対戦カードは…前回優勝者ディフェンディングチャンピオン、ジョーンズ・マクウィリー!!そしてグリーシア王女近衛騎士、レヴィン・シーケイド!!」


 ものすごい歓声を浴びながら俺は闘技ホールに立っていた。対する相手、ジョーンズ・マクウィリーはファンサービスで四方八方に手を挙げて歓声に答えていた。かなりの余裕っぷりだ。


「へえ少年、そんなに若いのに王女様の近衛騎士やってるのか。どれ程強いか楽しみだねえ」

「そりゃどうも」

「では双方配置について……始め!」


 審判の掛け声と共にジョーンズが飛び出した。得物は大剣のようだ。雄叫びを上げながら振り下ろしてきた。俺はすかさず剣の腹で受け止める。重い一撃ではあるがギル程ではない…これならいけると思ったとき、拮抗点で変化が起きた。ジョーンズの剣が淡い光を放つと俺の剣が凍り始めたのだ。


精霊剣エレメントソードか…」

「ほう、すぐに見抜くとは。流石は近衛騎士を務めるだけのことはあるか。そう、俺は精霊剣エレメントソードの使い手なのさ。火、水、風、雷、氷。俺はこの五属性を扱える。これに対処するには…そうだな、魔力吸収の剣でなら対処出来るんじゃないか?」

「自分の能力チカラをそんなにベラベラ話していいのか?」


 するとジョーンズは鼻で笑って勝ち誇った顔で問いに答えた。


「話してもどうせ君には勝ち目はないだろう?」

「油断は禁物だぜ、おっさん」


 俺は剣を薙ぎ払ってジョーンズと距離を取った。刀身は半ば凍り付いてはいたがまだ健在であった。全く厄介な事をしてくれる。


「油断もなにも君に対抗する手段があるのかね?そんなものはないだろう?それ、『ヒートウェーブ』!」


 熱波が俺を襲う。俺はガードに専念することとなった。ジョーンズは追撃してきた。照準は俺ではなく()に。

 こ気味いい音を立てて俺の剣は砕け散った。温度差によって金属を脆くしてそれに物理的衝撃を当てることで砕く。武器破壊を行う方法の1つだ。

 またそれを見て観客はどよめく。スペアが効くのは体だけであって武器はスペアが効かないのだ。それを知った上で武器破壊を狙うというのは明らかに相手に対する侮辱であった。戦士にとって武器は己の誇り(プライド)なのだ。


「…てめえ。どういうつもりか知らんが武器破壊を狙ったということは…分かっているんだよな?」

「ふふ、俺はルールに反する事はしていない。そもそも実戦形式だから武器破壊されたのは俺ではなく君の責任だろう?」


 俺はこの瞬間決めた。遠慮なくこいつを叩きのめすと。幸いここには先程砕かれた俺の剣の欠片が山ほどある。


「そうかそうか。では今から俺がお前の全てを破壊しても文句はないな?」

「はっはっは。面白い事を言う。君は既にチェックメイトなのに」


 一般的に考えて闘技大会において戦士は自分の武器を破壊された時点で詰みである。余程格闘術に自信がないと戦闘を継続しようとは思わない。武器破壊が行われるのは実力差がはっきりしていてどうしても勝ちたい時に使われる事が多い。今回のケースも同様だろう。だが。


「だからその油断が身を滅ぼすって言ってんだよ」


 何かを悟ったジョーンズの表情が変わった。そして引き攣った笑みを浮かべて冷や汗をかなり噴き出していた。自分の身に何が起こるか想定出来たのだろう。だが、俺はそれに構うことなく砕かれた剣の欠片を媒介に剣を創り出していった。


「俺はな、錬金術師アルケミストなんだよ。剣の1本や2本、折られたところで痛くもなんともないのさ」


 ジョーンズの顔が絶望の色に染まっていた。理由は単純、彼の目が空中に無数の剣が浮いており、その全てが己に刃を向けているのを確認したからだ。そして両手を挙げて降参を告げようとした時。


「『攻刃の豪雨(エッジ・テンペスト)』!!」


 無数の剣がジョーンズに向かっていった。そして突き刺さり貫いた。砂煙が、上がらなかったらとても見ていられなかっただろう。


「『終焉フィナーレ』」


 指をパチンと鳴らし、最後の詠唱で剣が一斉に爆発を起こし、辺りにさらに砂煙が舞った。そしてそれが止んだ時、その中心であったところには何も残されていなかった。

 観客席が静まり返っていた。みんな口を開けたまま硬直していて、何が起きていたのか頭が必死に処理しているようだった。俺はバツが悪くなって頭を掻いた。


「えっと…やりすぎたか?」


 審判がハッと我に返り俺の勝利を宣告し、観客がそれによって我に返り、俺を称賛した。前回優勝者ディフェンディングチャンピオンに勝ったことを称賛しているというよりも何かに怯えているように思えた。何をやっても許される実戦形式も少し考えものだなと俺は思った。そしてやりすぎであった俺の行動に対しても。

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