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Paradise Gate   作者: UNDERSON
1章 ウェスタンブルー
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好敵手(ライバル)

ーグリーシア城 謁見の間ー


 数日後、俺はギル、シャナル、エリーと共に謁見の間に呼び出された。既に謁見の間にはクリスとセリアもおり、王はいつもの人懐こい笑みを浮かべて出迎えてくれた。王も昨日まで色々と対応に追われて大変であっただろうに、そのような事は微塵も感じさせなかった。それどころか笑みすら浮かべて出迎えてくれるのだから国を統べる者の凄さがよく分かる。


「先日の盗賊侵入の事件のことだが、まことに大義であった。レヴィン・シーケイド、ギルバート・アウルー、シャナル・リンドブルム、エリー・ルードヴィッヒ、そして我が愛娘よ。そなたらの働きによって再びこのグリーシアに安寧がもたらされた」


 盗賊侵入事件────そう呼んでもいいくらい悲惨なものだった。俺達がリビングデッドを倒してから王城へと向かう途中に何体ものリビングデッドと鉢合わせた。騎士団が討ち漏らした奴らが街中へと侵入していたのだ。

 後から聞いた話であるが、俺達が俺とそっくりな顔立ちをした魔術師と接触し、リビングデッドと戦い始めた頃、他のところでも盗賊の死体がリビングデッドとなり襲いかかってきたという。

 ゾンビと違いリビングデッドは怨念による疑似蘇生ではなく、術者によって与えられた魔力による疑似蘇生で生まれ、その術者の魔力供給で行動するアンデッドだ。そのため、リビングデッドに噛み付かれたりしても感染ウイルスを持っていないため感染しない。しかし、リビングデッドは先述の通り、魔力の供給によって活動している。その魔術師がその場から離れたらどうなるか。答えは動きが止まって死体に戻る…ではなく、ゾンビと化する、だ。コントロールが失われたことで怨念がまとわりつき、ゾンビとなるのだ。つまり、魔術師の離れたリビングデッドを街に放置しておくと大変なことになる。ゾンビの感染ウイルスは極めて厄介で噛まれることで感染し、感染者の抵抗力が落ちてくるとゾンビになってしまう。日頃鍛えている戦士などは治療を施すことで事なきを得るが、一般人はそうはいかない。そのため、街がゾンビの街と化する可能性が極めて高くなるわけだ。今回はこのケースに発展するところだったのだ。それを未然に食い止めたということで表彰されていた。


「またそなたらも知っていることと心得るが、あの事件の日から郊外に魔物が観測されるようになった。これは各国の王からの便りを見るに、世界規模で起こったものと考えている」


 その話は昨日の朝礼で聞いたことであった。魔物は普段森の奥や山の奥などといった人があまり立ち入らないところを住処としているため、人間と魔物が鉢合わせるというケースはこちらから魔物討伐などといったことがない限りまずない。

 かつて12の神徒が魔王を倒し、その後魔物と呼ばれる類を殲滅した。結果、魔物が人間に怯えるようになり、人間が立ち入らないようなところに生息するようになったからだ。

 しかし、魔物が自ら住処から出てきて平然と郊外を彷徨うろついているということな魔物が人間を怖がらなくなる要因があることになる。魔物の力を活性化させる要因があるとしたら、それは滅んだ魔王が復活しようとしているかもしれない、ということになる。

 また、今の段階で最も懸念されているのはやはり街の治安であった。かつてはまだ魔物と対峙することが多かったから一般兵でもやってこれた。しかし今は魔物と戦ったことがある人の方が少ないのだ。

 実際には攻めてこなくても、攻めてきたら滅ぼされるかもしれない、という恐怖が長く続けば、それだけ民衆に緊張と不安を与え続けることになる。そうなると暴動を起こす人が出てきかねない。実に厄介な話であった。


「街道に魔物が出るとなっては各国の物資調達がままならなくなるであろう。故に予定よりも早くなってしまったが、明朝、旅立ちの儀を執り行いたいと思う」


 王は言葉を切って一同を見渡した。俺も含めた一同が皆緊張し、張り詰めた空気を漂わせていたからであろうか、王は深呼吸をしてそれから言葉を続けた。


「護衛にはシャナル・リンドブルム、エリー・ルードヴィッヒ、そして、近衛騎士のレヴィン・シーケイド。そなたら3名に任せたい。ギルバート・アウルー。そなたはこの中で最も腕が立つと余は見込んでおる。この状況だ、そなたにはこの国の守護隊長を任せたい」


 場の空気が凍った。この宣告を受けた当人だけでなく、周りの文官が、彼と共に修練を積んできた皆が、予想しなかったことだった。本来ならば守護隊長に王直々に任命されるなんてことは子孫に代々語り継がれるほど名誉なことである。だが、彼の望みはそれではない。故に宣告を受けた当の本人は大きく見開いた目をさまよわせることしか出来ていなかった。


 ギルバート・アウルーは幼少の時からずっと王女の護衛として旅の供に行くことをずっと望んていた。それを実現するために必死で特訓もしたし、兵法書を読むなどして勉学も励んだ。誰よりも旅の供に相応しい、そう思われるために。だが、彼は裏切られたのだ。彼の努力と才能、そして、己の主君に。

 彼は王の前であるということも忘れ、ただひたすら叫んだ。誰かに助けを求めるかのように。


「嘘だ……嘘だ嘘だ嘘だ!!何故俺が護衛に入れない!最も腕が立つから守護隊長?そんなの求めてなどいない!俺は…俺は護衛として旅の供になるために!この日まで頑張ってきたというのに!」


 王を含むその場にいた皆が唖然としていた。彼の気持ちが分からんでもないがここまでギルが取り乱すとは考えもしなかったのだ。しかし、彼は怒りの矛先を俺へと変えてきた。


「それに!レヴィン!!貴様が近衛騎士に任命される?武器もろくに扱えなかったお前が?近衛騎士に?有り得ない!!俺の方がお前よりも強い!何倍も!それなのになぜ、お前が…!」

「…落ち着けギル。これは王直々の任命だったんだ。断れるはずもない」

「黙れ黙れ黙れ!俺とお前の実力差なら絶対に俺が選ばれるはずなんだ!そうだ!それを証明してやる!!正々堂々、今ここで俺と勝負をしやがれ!!」



ーグリーシア騎士団訓練所ー


 王の計らいによって騎士団の訓練所でギルと勝負をすることになった。トップレベルの戦いが見られるとたくさんの騎士が集まって観戦してるのが気になるが。


「ルールはどちらかが戦闘不能、またはリタイアすることによって勝敗を決めるデスマッチ方式で行う!では双方、配置につけ」


 審判を務める騎士の掛け声によって俺達は配置についた。ふとギルを見るともの凄く怖い顔で睨みつけてきた。怖い。怖過ぎる。


「では…始め!!」


 合図と同時にギルは突進してきた。斜めの薙ぎ払いを先程、近衛騎士就任祝いで騎士団長に戴いた剣で受け止める。流石は騎士団長と互角と言われる実力の持ち主。剣で受け止められたとみると打ち合ったまま体を回転させて左脚で後ろ回し蹴りを放ってきた。俺はそれを後ろに体を逃がしながら受け流す。


「どうしたレヴィン!!逃げてばかりじゃないか!そんなんで近衛騎士を名乗る…な!!」


 再び強烈な斬撃が襲いかかってくる。再び剣で受け止める。2発目は腰を入れてスイングしていたためもの凄く重い一撃だった。思わず俺の手から剣が離れた。


「隙あり!」


 ギルはスイングを利用して体を回転させて横に薙ぎ払ってきた。ギルは勝利を確信したのであろう、唇の端を持ち上げた。

 しかし次の瞬間、その顔から笑みが無くなった。あと少しで俺に届こうとしていた斧が不可視の障壁に阻まれたからだ。間一髪で障壁が間に合ったと俺は密かに安堵した。


「おのれレヴィン!!騎士なら騎士らしく武器で戦え!!」

「俺は俺の武器が剣だけとは言っていない。それに本気を出せと吹っかけてきたのはお前のはずだが?」

「貴様ァァァァッ!!」


 ギルが更に怒り狂う。どうやらは成功したようだ。俺は更なる術式を組み上げた。


「よし。『幻想結界』発動!」


 辺りが濃い霧に包まれる。観戦していた騎士からどよめきが聞こえた。俺は対戦者を見た。彼は自身の周りを見渡していた。


「くそ!なんだこれは!なんでレヴィンが沢山いるんだ!!」


 幻想結界はあるヘイト値が溜まった相手に非常に有効な術式で、ギルのように我を忘れた状態の敵は術者が分身したかのように見え、攻撃が全く当てられなくなるのだ。今も彼は斧を誰もいないところに振り続けている。


「『ブレイドダンス』……『オーヴァーチュア』!!続けて『前奏プレリュード状態異常付与デバッファー』!!」


 リビングデッド戦の時と同じように俺の周りに剣が出現した。今回はギルが苦手とする水属性の剣だ。そして、ギルは斧を振り回し続けていたため顔には疲労の色が浮かんでいた。


「『夜想ノクターン』!!」


 俺の詠唱が終わると剣が一斉にギルへ向かい、彼の周りで回り始めた。すると。


「な、なんだこれは……戦いの途中…なのに……。ね、眠気が……」


 ギルが倒れ、寝息を立て始めた。夜想ノクターン状態異常付与デバッファーで発動すると相手に催眠効果を施す。相手の疲労が高くなるにつれて効果は増していく。彼は幻想に向かって我を忘れて全力で斧を振り回していたため相当疲れが溜まっていたはずだ。効果は抜群であった。


「それまで!!勝者、レヴィン・シーケイド!!」


 こうしておおやけの場で一騎打ちをし、勝利を収めたことによって正式に近衛騎士就任を果たしたのだった。

 悪いな、ギル。相手を物理的に倒すことが戦闘での勝利ではないんだよ。眠り続ける好敵手ライバルに向かって誰にも聞こえないくらいの声で俺は呟いた。

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