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Paradise Gate   作者: UNDERSON
2章 地下に眠りしもの
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守るべきもの

「ようやく終わったのかー……」

「今回はほんとにしんどかったです……」


 シャナルとエリーがその場に倒れ込む。確かに相当重い一撃をくらい続けただろうから無理はない。あれが鎖鎌ではなく、斧や棍棒だったらと思うと…ゾッとする。


「流石にあれだけの火力だったらイチコロだったでしょ。」


 クリスが黒い塊に近づいた。その時、体の底から冷えつくような何かものすごく嫌な気がして、俺は咄嗟にクリスと黒い塊の間に飛び出した。


 ***


「……え?」


 その時、あたしは何が起きたのか理解が出来なかった。

 ほんの数秒の出来事だった。ものすごい速さで突き出して来た黒い塊が私とソレの間に入ったレヴィンと衝突し、レヴィン諸共後ろに吹っ飛ばされたのだ。

 幸い私に怪我は無かったが……。間に入ったレヴィンの状態は一体どうなっているのか。

 茫然自失しているこの間も黒い塊は私に向かってきており、今一度拳を振り上げようとしている。

 助けを求めようと周りを見渡したが、セリア、エリー、そしてシャナルさえも呆然としている。

 自分の膝元には倒れたレヴィンもいる。もうダメか…、そう思った時だった。


 ────我が斬撃は音さえも斬る。かつて誓ったものを守るために、護るべきものを護るために。思いが強ければ強いほど斬撃はより速くなり、光さえも斬り裂く。我が斬撃よ、全てを断て!!『電光石火 桜花おうか』!!


 眩き閃光と共にサムシンさんが飛び出し、目にも止まらぬ速さで黒い塊を斬り裂いた。

 カチンっとサムシンさんが太刀をしまうと同時に五芒星を描くように斬撃が走り、黒い塊を切断した。


「サムシンさん、ありがとう…その、助かったわ」

「クリス殿」


 お礼を言おうとサムシンさんにの声を掛けた私は、サムシンさんの怒気を帯びた声色にハッと立ちすくんだ。サムシンさんがこちらに振り向くと目を閉じ、そして……


「この大馬鹿者がぁぁっっ!!!」


 今までのサムシンさんからは想像出来ないほどの剣幕に私はポカンとするしか無かった。


「え、えっと……」

「そなた、一国の王女である自覚はあるのか!レヴィン殿が身代わりにならなければ今頃そなたは死んでおったのだぞ!」


 サムシンさんの一言にハッとした。そうだ、私はレヴィンに助けられて……


「レヴィン……」


 私は横たわるレヴィンを抱き寄せた。彼がいなければ今頃私は死んでいた…。サムシンさんの言葉を頭の中で反芻すると恐怖で身体の震えが止まらなかった。

 彼はそんな恐怖に耐えて私の身代わりとなったのだ。つい数日前に近衛騎士に任命されたばかりのわたしと年齢の変わらぬ少年が、だ。彼の強さがひしひしと伝わってきた。


「とりあえずあたいの部屋に運ぼう。早く手当てをしないと手遅れになる恐れがある」


 私とセリアはレヴィンを運んでオルガと共にオルガの部屋へと向かった。ちなみに他の2人は私の時よりもこっぴどく叱られていた。


 ***


「…?ここは……」

「あ…良かった!目を覚ました!」

「おいおい……」


 俺は起き上がるなりいきなり抱き着いてきたクリスをいなしながら、俺は説明を求めるように俺の周りにいたみんなの顔を見た。


「レヴィン殿、身体の方はもう大丈夫か?」

「え?……ああ、なんとかな」


 俺の一言にみんなが安堵の息を漏らす。続けてオルガが感心したように言った。


「ブレザーの下に魔鋼で作られた胸当てを仕込んでおくなんてな。しかもあの形をみるに急ごしらえで作ったんだろ?よく無事に耐え凌いだな」

「胸当て…?」


 確かに俺は巨大騎士の素材を持ち込んではいた。しかし、胸当てなど作った覚えはないし、そもそも胸当ての作り方が分からない。

 はてなと考えていた時、俺の胸に飛び込んで来るなりぐずっていたクリスが顔を上げた。


「本当に良かった…私のせいでレヴィンが死ぬのは嫌だもの……。でも、助けてくれてありがとう」

「い、いや…近衛騎士として当然の事をしただけで……その、どういたしまして」


 今まで近くにいたが、ここまで間近で見たことは無かった。なにせ顔が目と鼻の先なのだ。涙で潤んだ瞳が彼女の可憐な顔立ちをより引き立たせていて、心にグッと来るものがあったが、気恥ずかしさが勝り、俺は顔を背けた。

 当の本人はしばしの間ぽかんとしていたが、どうやらハッと我に返ったようで、まるで猫のように素早く身を戻した。チラリとそちらに目をやると俺でも見てわかるほど顔が真っ赤になって俯いていた。


「ほうほう、仲がよろしいようで〜。私達はお邪魔虫かなー?」

「茶化すなよ」「茶化さないでよ」


 シャナルがニヤニヤしながらそんな事を言ってのけるので俺達は反発したが、これまた息ぴったりで俺達は恥ずかしさから益々俯き、シャナルは益々ニヤニヤしだした。


「…コホン」


 丁度いいタイミング…もとい、話を戻すためにサムシンが咳払いをした。その行為に若干2名の肩がビクリとなった。俺が寝ている間に何があったのやら。


「それはさておき…レヴィン殿、身体の方はどうなのだ?」

「どうって…まだ身体のあちこちが痛いけど、もう少し休めば動けるようになるな」

「なるほど、そうなれば今夜はあたいらのところで休むといい。うちの者が世話になったからね。それも兼ねてもてなすとしよう」


 オルガが手をパンと叩くとそれで決まりとでも言うように使いの者を呼んだ。


「…良いのか?こないだこんな風にもてなしてひどい目にあったんじゃないか。反発する者が出てもおかしくないと思うんだが」


 俺の問いかけにオルガは当然というように腕を組んだ。


「何言ってんだい。お前達はあたいらの同胞の仇を討ってくれた。同じ人間だとしてもそれだけで信頼するに足りるさ。それに、お前達の人間性は一緒にいたあたいが保証するさ」

「…そこまで言ってくれるならお言葉に甘えさせて頂くよ。みんなもそれでいいだろ?」


 その場に反対の意を申し出る者はいなかった。オルガはそれを見てニッと笑うと、


「それじゃあ決まりだね。折角だ、派手にいこうじゃないか!」

「宴とは久しぶりだな」

「あ、私も手伝います!」

「あ、私も!」

「ふふ、美味いメシはこのお姉さんに任せときなー!」


 オルガの後に続いてサムシン、エリー、セリア、シャナルが部屋を出ていく。後に残された俺とクリスはしばらく彼らの出ていった先を眺めていた。


ー???ー


「ふうっ、なんとか間に合ったみたいだな」


 薄暗い空間の中、男は一人そう呟いた。


「本当にね。もう少し遅かったら取り返しのつかない事になっていたのだけど」


 男の声に対して応えたのは女性の声。しかし、どこにも姿は見当たらない。


「ったく。闘技場の時もそうだったけどよ。なんで能力が使えないんだよ」

「あら?先程魔鋼の錬金に能力を使っていたように見えたのは私の気のせいかしら?」


 姿は見えないのにまるで女がふふんと得意気に笑ったのが目に見える。男は小さく舌打ちすると、


「まあとにかくだ。これで少しは流れが変わるんだろ?早いとこ終わらせようじゃないか」


 この男の声には反応が無かった。やれやれ、と男はため息を一つついた。

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