承
ーグリーシア城下町 街道ー
「どうしてあんなに大事な事を黙っていらしたのですか!」
「そうよ!あなたが12の神徒の1人だなんて聞いてないわよ!?」
「話す必要が無いと思ったからだが?それとも俺に隠し事されるのがそんなに嫌なのか?この歳になると周りには知られたくない事なんてたくさんあるぞ?」
冗談めかして言ってはみたが、2人が憤慨するのも無理はない。
自分が12の神徒であると明言すれば、俺はわざわざ供の選考会で勝ち抜かなくても近衛騎士となって、旅の供になることができたからだ。
だが、俺はどうしても自分の実力で旅の供になりたいと思っていた。いかに凄い能力を持っていても、それを使いこなせる技量が無ければ意味がないのだ。
それに、「それを理由にしたから旅の供になれたんだ、あいつの力じゃ王女を守れるわけがない」とか、「あいつは実力じゃなくて神から貰った能力で選ばれたんだ、実力ならば俺の方が断然上なのに」などという僻みを受けずに、自分自身の実力で勝ち取ったと証明したかったというのもある。結局、王によってその希望も潰えたが。
俺は改めて自分の中に眠る能力の根源である12の神徒について思案した。
12の神徒────かつて、神が人類を滅亡から守るためにこの地上に派遣した特殊な能力を持つ者達。人類は彼らを神の化身と崇めた。
しかし、この神徒の能力は子孫に受け継がれていくものではない。ある能力が生まれつき他人よりも秀でているなど、生まれ持つ才能が凄い者に能力が受け継がれ、覚醒するらしい。曖昧な言い方なのは確証が無いということもあるが、ある時突然12の神徒の力が目覚めた、というケースがほとんどだからだ。12の神徒の1人が死ぬと、また別の才覚ある者に能力が引き継がれる────という説が今のところは有力である。
「しかし、城下町に盗賊が攻め入って来たなんていったい何が起きているのでしょうか?」
セリアの言葉にみんなが辛辣な表情を浮かべる。
時は数時間前に遡る。
謁見の間で俺が12の神徒である事が告げられた直後、警備兵から城下町に賊が侵入したとの伝達が届いた。王は俺とクリス、セリアに賊を鎮圧せよと命令を下した。
どうやら間近に迫ってきた王女様方の旅の予行練習にしようとのお考えだそうだ。ともあれ、これは訓練ではなく実戦であるため、細心の注意を払うようにとのことであった。
西側は騎士団が、北側は学園にいる教師、教官が制圧に向かったため、東側を現在フリーである俺達3人が向かうこととなった。ちなみに南側は警備兵がなんとか抑えているらしい。
「そういえばレヴィン。たしか12の神徒って特殊な能力が使えるのよね?あなたは何が使えるの?」
「知りたいか?そうだな、お前の大事な秘密を教えてくれるってなら教えてやらんこともないぞ?」
「レヴィンさん、意地悪なこと言わないで教えて下さい。私も知りたいんです」
2人とも余程俺が12の神徒であることを隠していたことを根に持っているらしい。だが、これは安易に説明していいものではない。
「例えばの話だがセリア。きみが自分の国をより革新的に発展させる方法を持っていたとする。しかし、その方法は他国が使えば自分の国が滅亡の危機に陥ってしまうほどの危険なものだったとする。その方法をきみは他者に、仲の良い親友に話すことができるか?たとえそれが他国のスパイであったとしても」
俺の発言の意図を察してか、セリアはそれ以上のことは俺が口を開くまでは聞かないようにしようと決めたようだった。レヴィンさんの意地悪、と悪態をつかれはしたが。
「ちょっと前から思ってたんだけどあんたさ、私あたしとこの子とでまるっきり態度違うわよね?……べ、別に私もこの子みたいに優しく接して欲しいって言っているわけではないのよ?だから、その、ええっと……」
「ようするにお前は優しくもされたいけど、苛めても、もらいたいわけなんだな?」
「なっ!?あ、あなた何を言って……!」
「レヴィンさん、悪ふざけはそこまでにして下さいね?姉様もそういう態度をとるからレヴィンさんにいいようにされてしまうのですよ?」
セリアの双方に対する牽制によって場は収まり人気のしない静かな空気が俺達を包んだ。
しばらくして、ふとクリスが俺に聞いてきた。どうしても我慢が出来なかったらしい。
「でも、あなたは私達の近衛騎士になるのよね?だったら家臣の実力を知っておきたいっていうのもあるんだけど」
「ごもっともな意見だが、その話は後でな。敵さんがこちらに気づいたようだ」
俺が言うのとほとんど同時に矢が数本飛んできた。2人を背に装備していた訓練用の直剣で矢を弾いた。こうして2人の王女との戦友としての初陣が始まった。