巨大守護騎士討伐戦
ー地下迷宮 大広間ー
「サムシン殿!!」
「ん?ああ、レヴィンか。こいつ、攻撃が当たる前に軌道が変えられてワシの太刀が当たりやせんぞ」
「理由は分かっています。どうやらそいつは俺にしか倒せないようで」
「……よく分からんがまあ、元よりワシは時間稼ぎの為にここに残ったのだからいいがな。それじゃあ目的も果たしたようだし、さっさとずらかるとしようじゃないか」
こうして俺達は戦略的撤退を行い、周りの崩れた瓦礫を使って『錬金』で梯子を作り、地上へと戻ってきた。地上では穴の前でシャナルとエリーが俺達の帰りを今か今かと待っていてくれたようだった。
ー闘技ホールー
「あ、先輩!お帰りなさい!なかなか帰ってこないから心配しましたよ!」
「いやーまさか徹夜で魔物掃討するとは思わなかったよー」
彼女らの言う通り俺達は結構な間地下に潜っていたようで、既に陽の光が指していた。
「魔物の方はどうなったんだ?」
「無事に全滅はさせたよー。レーくん達が潜ってから2時間位したら魔物が急に出てこなくなったんだよー」
「はい。本当に突然出なくなるものですから何かの罠かと思っちゃいました」
俺達が潜ってから2時間と言うと、だいたい地図の石版を入手したところだろう。地図を入手してからはスイスイ進んだが、それまでは様々な罠に引っかかったり入口まで戻って来てしまったりと大変だったのだ。
「突然出なくなった……。興味深い話だな」
「私はてっきりレーくん達が敵の親玉倒しちゃったのかなー?とか思ってたんだけどねー」
「そういえばシャナル達が戦った魔物ってどんなのだったの?またこんな事が起きるかもしれないし、魔物の傾向を知っておきたいのだけれど」
そう言うと、シャナルとエリーは何故か顔を見合わせて首を傾げた。
「うーん。私達も魔物とは言っているんですけど、実は魔物っぽくなかったんです」
「えっと、それはどういうことですか?」
「まずねー。おかしいことに魔物が連携を取ってたんだよー。ただ群がってるだけじゃなくてね。そして、もう一つ不思議な点があって……」
「魔物って倒したら、残骸というか……死骸が残るじゃないですか。それが残らずに黒い霧みたいになって消えていったんです」
「それって……」
俺とクリスが目を合わせる。お互いにその正体が分かっているようだった。
「ああ。おそらく召喚体だろうな」
それを聞いたシャナル達は目を丸くする。彼らにとっても召喚体とは珍しいものではない。むしろ日常においてそれらを活用している産業すらあるのだ。だからこそ、その単語を聞いた時に驚きを隠せなかったのだろう。
「召喚体ですか?彼らを使った闘技場を見た事がありますけど、倒された時にあのような黒い霧は出ませんでしたよ?」
「それはテイムされている召喚体だからね。多分あなた達が戦ったのは魔物をそのまま封印したのでしょうね」
「どういうことー?テイムと封印の言葉の違いは分かるけどー、具体的に何が違うわけー?」
「テイムされた魔物の召喚体は知っての通りだな。テイムした者を主と認めた魔物で、一般的には倒された魔物の魂が倒した者を主と認めて魔力の繋がりを求め、それを受諾する事で成り立ち、テイマーの魔力を使って召喚が可能になる魔物のことだな。まあ、卵から孵化するなどといった例外もあるがな。これらが俺達が普段目にしていた召喚体だ」
「一方の封印された魔物は、主と認めていない魔物を催眠術をかけて、強大な魔力でその魔物の自我を封印、あるいは破壊した状態で倒して、魂を強引に封印して手駒にした魔物のことね。催眠をかけられているから、術者の能力が高いと統率して軍として起用する事も出来るの。ただ、テイムした召喚体と違って魂を封印しているだけだから、倒されると魂が黒い霧となって消えてしまうわ」
「という事は今回私達が戦ったのは……」
「封印された魔物の集団ってことかー。しかも統率が取れていたという事はー…」
「術者の能力が高い……。ということですね姉様、レヴィンさん」
「ええ」
「そうなるな」
(俺達が入ってから2時間後っていうと……。だめだ、もう一度話を整理した方が良さそうだ)
「みんな、今日…じゃなくて昨日闘技大会があってずっと戦い詰めで身体を休めた方がいいと思う。魔力も回復していないしな。ひとまず宿に戻ろう。今日の昼頃に地下にあった地下迷宮に潜る」
「詳しい話はご飯を食べながらするとしましょう?晩御飯も食べてないし、そっちの方が時間が効率的でしょ?」
「そうだな。また潜る理由も説明しないといけないしな」
「そうだねー。詳しい話、聞かせてねー」
こうして俺達は宿へと戻り、晩御飯兼朝御飯を食べながら地下迷宮での出来事を話し(シャナルとエリーはダイアウルフの話を聞いた時にあの時の惨状を思い出したのか噎せていたが)、各自の部屋で身体を休めた。
そして太陽が最も高くなった頃。俺達は再び地下迷宮への入口へと立っていた。前回登る時に使った梯子を再利用して中に入った。
ー闘技場地下迷宮ー
「うわー、これまた凄いねー」
「何かいかにもって感じですね!」
初めてここに訪れた2人は物珍しそうに周りを見渡していた。ここで俺は今回の目的を皆に伝えることにした。
「シャナルとエリー以外はもう知っていると思うが、これより大広間の巨大な守護騎士討伐戦を行う」
「お?いいねー!面白そうじゃなーい?」
「ワクワクしますね!」
「あんた達ちゃんと話聞いてた…?」
「今回の敵はどうやら特殊な障壁が張られているようで俺にしか倒せないらしい」
「なにそれー、レーくんいつの間に勇者?」
「いや、12の神徒の能力持ちじゃないと倒せないみたいだ。それで作戦なんだが……」
俺は作戦を伝え、意見を求めたが異議を唱える者はいなかった。早速俺達は巨大な守護騎士のいる大広間へと向かった。ちなみに落ちてくる天井はエリーの『多重防御壁』で押さえつけながら進んだ。
大広間の前まで来るのに30分もかからなかった。天井の間をあんなに簡単に攻略出来るとは思っていなかった。
「さて、ヤツがいる広間の前に来たぞ。作戦通り頼んだぞ」
「ええ」
「はい!」
「分かったよー」
「了解です!」
「承知」
それぞれの返事を聞き、一斉に飛び出す。こうして討伐戦が開始された。
まず俺が『氷塊落下』を放ち先手を打った。攻撃は当たったが、ダメージが入った様子はなかった。続けてクリスが同じく『氷塊落下』を放つが、こちらは当たる直前で軌道をずらされ巨大守護騎士の足元へと落ちた。これで魔法に関しては俺の魔法以外は攻撃が通らないことが分かった。しかし、俺の魔法も効かないというのは少々意外ではあった。恐らく鎧本体に何か仕掛けがあるのだろう。
「む、効かないか。ならば、第2プラン決行する!」
俺は懐から3本のナイフを取り出す。これは闘技ホールに集合する前に購入しておいた物だ。このうち2本には俺の血が付着していて、1本をクリスに渡した。
「まず1本目付着無し、投擲する!」
俺は何もついていないナイフを投げた。ダメージこそ与えてはいないものの、鎧に攻撃を当てることが出来た。
「続いて2本目血液付着、投擲する!」
こちらも同様にコォーンという音を立てて当たった。
「3本目血液付着、投擲するわ!」
クリスが最後の1本を投げた。するとナイフはカチンと鎧に当たる音をさせ俺が投げたナイフ同様に地面へと落ちた。
「あ、当たった……?」
「よし、プランA改を決行する。前衛3人は武器に俺の血液を付着させて攻撃開始。セリア、フォロー頼んだぞ。俺の命はお前にかかっているからな」
「はい、任せてください!」
今回立てた作戦は3種類あった。1つは魔法による攻撃での撃退。しかしこれは先程試した通り、全くダメージが入らなかった。もう1つは俺以外の人物でも攻撃を当てることが可能であるとしたら決行する予定の作戦で、俺とクリスでの対照実験を通して発見を試みるというものだった。もしかしたら12の神徒の能力を持つ人物の魔力を付着させたらいけるのでは……?という発想の元、実行された。
ちなみに、直接魔力を宿すのではなく血液を付着させた理由についてだが、俺が意図的に魔力を宿した物を人に渡すと、その人物の魔力と混ざり合い、暴発する恐れがあるからだ。これは俺が意図的に魔力を宿すという行程に問題があり、つまるところ魔法となってしまうのである。それ以外の方法で魔力を宿すには血液を使う必要がある。血液にはその人物の魔力が込められているが、これはまだ魔法となっていない純粋な魔力なので、他人が扱っても問題は無いのだ。3つ目は最終手段で俺自身が武器を持って戦うというものだが、これはさっきのナイフで見た通り、鎧が相当堅いため見送ることにしていた。
「承知した。少々痛いのは我慢したまえ」
「オーケー。グッサリいくけど堪忍してねー」
「なるべく気をつけますが我慢して下さいね!」
それぞれの返事を聞きながら、俺は味方の刃に斬られ突かれ刺された。俺の血液で得物をコーティングした3人は守護騎士と戦うべく向かっていった。俺はクリスに身体を支えてもらいながらセリアに治癒魔法で治療して貰っている。
「どうやら有効みたいね。攻撃が当たっているし効いてもいるわ」
「流石です、レヴィンさん!己の身を犠牲にして勝利へと導こうとするなんて。自己犠牲者の鑑ですね!」
「…それ褒め言葉じゃないよな?」
俺はこの作戦じゃなくてもう一つの俺のワンマンショーの方がはるかに楽だったのでは?と思わずにはいられなかった。コーティングが無くなる度に味方の刃に身体を斬られ突かれ刺されるのはちょっと精神的に来るものがあった。
「……あとどれくらいで終わるかな」
「レヴィンさん気をしっかり持ってください。身体自体は全快していますので気に病むことなどありませよ」
ようやく出番が来たからなのか妙にセリアが張り切っていた。シャナルなんかも何か俺を突く時に愉しそうな表情を浮かべるようになってきているしやっぱりこの作戦しかなかったとはいえ、決行するのは失敗だったなと俺は深く反省した。
俺の身体が元に戻ること7回。ようやく相手が動きを止めた。ただ倒すだけならもっと早く片付いたのだろうが、この守護騎士に使われている素材がなかなかの物であまり傷をつけたくないと言った結果ここまで長引いた。その甲斐あってか素材自体には傷はあまりついていない。
「よし……。終わった……。終わったぞ……!」
「お、お疲れレヴィン」
「ふふふ、こういう作戦も悪くないですね」
「もう二度と決行致しません」
セリアの不気味な提案を即座に切り捨てると、若干むくれていたが、俺が既に3人が開始している素材集めを手伝うことを伝えると黙ってそれに従った。なんか怖いものに目覚めさせてしまったのでは…?という俺の疑念が渦巻くこととなった。
素材回収を開始してしばらくした時だった。何やらキラッと光るものが見えた。
「……ん?なんだろうこれ。コアか何かか?」
俺は光り輝く球体を手に取った。力強く光り輝くソレは太陽を思わせた。と、俺が球体を見つけた付近にもう一つ球体があり、こちらは前回戦った守護騎士の心臓部にあったコアのラージサイズ版であった。じゃあこれは一体なんだろうと考えながら、これは別でとっておこうと懐に入れた。
素材の回収を終わらせた俺達は最奥部に来ていた。この先に俺達の行くべき場所がある……。そう思うとグッと引き締まる感じがした。そして俺達は装置の中に入った。ぐにゃりぐにゃりと空間が歪む感じがして転移の準備が開始された。突如視界が暗闇に覆われ転移が開始された事が分かった。俺達は何処へ行くのだろう、そう思いながら俺達は新天地へと転移した。