地下迷宮の探索
「じゃあ行くぞ。チャンスは1回!それじゃあ作戦決行!!」
天井に飛び乗ってからの俺達の行動は速かった。30秒で生死が決まってしまうので無理もないが。
「『序』…『前奏、攻撃』、『追走』!『間奏、性能強化』、『速度上昇』!!」
「『魔法障壁』!」
俺に続いてセリアが『魔法障壁』を展開する。ここまでは計画通りである。そして、天井に『速度上昇』で更に加速している『追走』が辿りついたところで、第2ステージを開始する。
「『爆発』!」「『終焉』!」
『終焉』によって天井が爆破され瓦礫が落ちて来る。それを『爆発』で破壊し、前者で起きた爆風を後者の爆風で相殺する…、という作戦であった。瓦礫と爆風はどうやら上手く相殺出来たようだった。天井には狙い通り3人が通れるほどの穴が空いていて、乗っていた天井が着くと同時に四方に『火矢』を放った。壁に当たり燃え続けている間に中を見渡したがどうやら特に何もなさそうであった。俺達は床にしていた天井から天井であった床に移動した。石版の地図には何も書いていなかったから何もないと思っていたが、どうやらその認識は間違っていたようだった。サムシンが息を切らしながらこちらに走ってきた。
「レヴィン!そなた床から出てくるなんて聞いてないぞ!その部屋にもやはり仕掛けがあったようだな!」
「仕掛け?入った時に何も起きなかったわよ?」
「ワシの待機していた通路の壁が突然開いてそこから魔物が出てきたぞ!!」
「なるほどな。後ろからの追撃ってことか。サムシン殿、敵の数はどれくらいか分かるか?」
「おおよそ15といったところだろう。ほれ、来たぞ」
ガシャガシャと音を立てて魔物達がやってきた。否、それは魔物ではなく、
「守護騎士!?なんだ、ここ財宝とか眠っている場所なのか?」
「どうでもいいわよ!視界も悪いのに15体も強そうなのが出てくるし、もうなんなの!?」
「落ち着いて下さい姉様。レヴィンさん、状況打破の指示をお願いします」
今いるのは小部屋、敵の数はおよそ15。今このメンバーで出来る事は……。俺は考えを巡らせ、そして指示を出した。
「サムシン殿は俺達の詠唱時間を稼いで下さい。クリスは光源の確保を頼む。セリアはサムシン殿の援護。俺は『剣舞』で殲滅に入る」
数分後、俺達は無事に守護騎士達を殲滅することができた。クリスが光源の確保をしてくれたおかげでだいぶ楽な戦いとなった。
「で、どうするの?光源確保して分かったけど、この部屋行き止まりじゃない」
「いえ、そんなはずはないですよ姉様。地図を見るにもちゃんと道が載ってます」
「という事は誰かが意図的に道を隠したか」
「そのようですね。ならばやる事は1つ、だな」
俺はクリスをチラリと見ると、意図を察してくれたようで地図上には載っていて実際は壁となっている場所めがけて『爆発』を放った。砂煙と共に現れたのは案の定通路であった。隠し部屋で石版の地図を見つけてなかったら帰っていたところだったなと思いながら、俺達は先へ進むことにした。
「ねえ、セリア。この先って何があるの?」
「はい、この先は大きな広間があって、その先に最奥部があります」
「うむ。結局残党はいなかったということか」
「いや、それを結論づけるのは早いですよ。この先…更に気を引き締めて行ったほうが良さそうだ。嫌な空気に満ちている」
「そうね。さっきまでのと空気が別物のようだもの」
俺達はやや足早に通路を通っていく。先へ進むほどに嫌な空気が濃くなるのを感じ、奥に何かがいるのを確信するにまで至った。そして、大広間前に来た俺達はあるものを見て絶句することになった。
「な、なにこれ……」
「これは……守護騎士でしょうか……?で、でも…それにしても……」
「大きい…大きすぎるな……」
「ふむ。だが、まだ眠りから醒めてはおらぬようだな。眠りを醒まさぬうちに抜けてしまおう」
サムシンの意見に全員が賛成し、音を立てないように静かに、且つ迅速に行動した。だが、やはりというか近づいた途端に起動し、手に持っていた巨大な戦斧を振り下ろしてきた。全員避けたが、跡には粉々に砕かれた床があった。
「うわあ……これは喰らったらひとたまりもなさそうね」
「だが幸いにも動きは遅い。これは……」
「ここはワシに任せてお前らは先へ行け」
サムシンが俺達の前へ出て背中越しでそのように言い放ち、俺達に先へ進むように促す。カッコイイ事を言っているように思えるが、俺にはもう分かる。この爺さんとはまだ短い時間しか過ごしていない、だが分かってしまう。「この人、ただ単にこの巨大な守護騎士と戦いたいだけだな」と。ただの戦闘狂であったなと。
「分かった。サムシン殿にここは任せて俺達は先へ進ませてもらう」
「任せたまえ。邪魔になってもらっても困るからな。次の一撃を捌いたその瞬間に先へ進め!」
さらりとひどいことを言われた気もするが、弁解するのも惜しいので俺達は攻撃を見定めて次の最奥部への通路へと走り出した。
無事に全員通路へ移動が完了してから、俺達はもう一度大広間を見た。そこには意気揚々と巨大な守護騎士の斧を避けては攻撃を仕掛ける戦闘狂な爺さんの姿があった。なんだろう、あの人ものすごく生き生きしている……、普段の枯れた感じが全く無くなってる……。そう感じたのは俺だけではなかったとなぜだか分かった。
ー地下迷宮 最奥部ー
「ようやく着いたか」
「そうみたいね。でもここは一体……」
クリスが言うように最奥部に着いてから、俺達は不思議なものを目撃していた。巨大な宮殿を模した建物があったが、これが見た目通りのものでない事は門を見れば分かった。門のすぐ先から漏れてくる光を辿ってみると、そこにあったのはなにやら不思議な装置であった。そして何故かそれが起動しているのだ。
「…どうやらここに少し前まで誰かがいたのは確かみたいだな」
「……魔力の残骸が漂っているのも証拠の一つね」
「で、どうします?レヴィンさん。あの装置の中に入ってみますか?」
「帰って来られる保証は無いぞ?あそこが敵の根城だったら俺達出てきた瞬間に殺されるかもしれないしな」
「悔しいですけど今回は敵を逃がしてしまった…ということですね」
「だが、気になることも多いんだ。さっきの広間の守護騎士もそうだし、天井の罠もそうだ。ウェスタンブルーが出来てから結構年月も経っているし、普通ならどこかしら錆び付いたりして機能しなさそうなもんだが」
「それを決めつけるのは早いんじゃないかい?抜け殻」
突然声がして俺達が振り向くと、いつの間にかそこにヤツがいた。城下町でのリビングデッドの事件。その時の出来事がフラッシュバックされる。俺は臨戦状態に入ると男に尋ねた。
「……何故お前がここにいる」
「そんな怖い顔しなさんな。今日はお前達と遊ぶつもりで来たんじゃないんだからさ。そうだな、言うならば助言というところかな」
「お前からの言葉が信じられると思うか?」
「おお怖い怖い。まあ信じるかどうかまでは知ったこっちゃねぇわな」
「聞いた後に殺すとかはないでしょうね?」
「ははは、そんなだまし討ちみたいなことしねぇよ。それとも本気でするとでも思ったのか?」
「思わなかったら言いませんよ」
「おうおう、双子の王女殿下まで怖い怖い。そんなにあの一件が刺激的だったか?」
「茶化しに来たんなら帰れ。信じるか信じないかは聞いてから判断させてもらう。で、内容は?」
謎の男はニヤッと笑うと話しを始めた。
「そうこなくっちゃな。まず、お前達に教える事は2つ。お前達の後ろにあるソレとこれからお前達が行くべきところだ」
「ほう。まずコレについて聞こうか」
「オーケー、オーケー。まずソレについてだが、どうやら古代に作られた転送装置みたいだな」
「何故それが分かる?」
「俺のダチが使ったからだよ」
「ダチ?…やはりバジリスクの件はお前も関与していたのか!」
「はぁ?バジリスク?なんだそれ?俺はそんなもん使わねぇぞ?あんな雑魚使って何が楽しいんだか」
呆れたような口調で謎の男が言った。
「まあいいや。ソッチの件についてはお前らが片付けたんだろ?しっかしバジリスクねえ。そんなのどっから連れてきたんだか」
「お前のダチなんじゃなかったか?それくらい知ってると思ったんだが」
「いやいや、お前らが処理したヤツのこたぁ知らねぇよ」
「…お前は一体何者なんだ……?たしかあいつは『12の魔将』とか名乗ってたがお前もその1人なのか?」
『12の魔将』の話を出した途端に男の顔色が変わった。どうやら俺達がその単語を知っている事に驚いたらしい。
「あ?アイツ『12の魔将』の事話したのか?ったく秘密主義もクソもねえな…。で、俺が何者かって言ってたな。俺は…そうだな、ダイアウルフとでも名乗っておこう。これでお前の質問には答えたと思うが満足か?」
(やっぱり知ってるんだな。この事についてはもうこいつからは聞き出せそうにないし、こいつの話を聞くだけにするか)
俺はそう考え、ダイアウルフと名乗った男の話を黙って聞くことにした。
「ああ。話の腰を折って悪かったな。続きを話してくれ」
「おうよ。で、その装置の向かう先とお前達が向かうべき場所が一致してるって話だ」
「私達が向かうべき場所に繋がってる……?それってどういう……」
「さあな。それは自分達で考えな。まあヒントをくれてやるとすれば抜け殻。お前の同士のようなやつがいる」
「っ!まさか……」
「さあて、これで俺の助言タイムは終了だ。次に会う時はまた敵同士だろうからそん時はせいぜい楽しませてくれよな」
ダイアウルフはそう言い残すと立ち去っていった。広間から出たところでダイアウルフは後ろを振り向き「あ、そうそう」と付け足した。
「あの守護騎士だが。抜け殻、お前の持ってる能力じゃないと倒せないぜ。あれはそういうモンだ。早く行かないとあの爺さんくたばっちまうぜ?」
「なに……!?」
「ま、そういうわけで。ほなさいならー」
ダイアウルフは以前と同じように消えていった。次に俺達が起こすべき行動は決まっていた。
「サムシン殿のところに向かうぞ。あの人なら負けはしないはず…。だが倒せないとなると話は別だ。急ぐぞ」
「あ、レヴィンさん!ちょっと待って下さい!」
「セリア、装置の事は一旦置いておきましょ。いずれにしても地上で戦っているシャナル達にもこの話をしないといけないし」
「……分かりました。行きましょう」
俺達は次への足がかりを得て、救援へと向かった。装置の行く先には何が待っているのか…。俺達はまだまだ知る由もなかった。