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Paradise Gate   作者: UNDERSON
1章 ウェスタンブルー
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闘技大会 決勝戦 前編

「……え?」

「シャナルが負けた……?」


 場内アナウンスで勝者を告げられた瞬間、俺とクリスは言葉を失った。シャナルは速さを活かした槍術の使い手であり、繰り出される突きは鋭く、対戦相手は防戦を強いられるため滅多な事ではダメージを受けないのだ。かつて彼女から勝利を掴んだことがあるのはグリーシア王国最強と言われたギルと騎士団長のみであり、いずれも堅い装甲を身に付けたタンクタイプであった。


「シャナルが負ける場合は堅いかタフか…そのどちらかよね?」

「もしくはシャナルよりも素早い攻撃を仕掛けられるかだな。…考えたくもないが」


 クリスが挙げたタイプの場合は主に物理攻撃に強い傾向があり、その分魔法攻撃に弱い傾向がある。そのため俺との相性は最悪となる。逆に俺の挙げたタイプの場合は俺の詠唱時間が無くなるため俺が不利となる。戦術を頭の中で構成していると場内アナウンスが再び鳴り響き、俺と対戦相手の招集がかかった。


「じゃあ行ってくる。出来たらシャナルと合流してからセリア達の所に向かってくれ」

「ええ。それではご武運を祈ってるわ」



「ふむ、そなたがワシの最後の対戦相手か」

「…レヴィン・シーケイドだ」

「ワシはサムシンと申す者。ここまで這い上がってきたそなたの実力、この目にしっかり焼き付けさせてもらうぞ」


 こうやって話し合っているだけでもどれほどの実力者なのか、ひしひしと感じた。放たれているオーラが全く違う。これはギル以上の難敵と心得た方が良さそうだ。


「それでは双方配置について……始め!」


 審判の合図が鳴っても俺もサムシンも動かなかった。両者出方を伺っているといった感じだろう。だが、俺は既に行動を起こしていた。そして準備が整い、攻撃を開始した。


「『石鋭突ストーンヘッジ』!」


 サムシンの周りの地面から鋭い石の槍が突き出した。これをまるで赤子をあやすかのように綺麗に捌いていった。


「大方空へ跳ばせてそこを追撃しようとしたのだろうが甘かったな。この程度の攻撃、躱すにも値せん」

「言ってくれるじゃないか」


 確かに可能ならば追撃をしようとは思っていた。だが、俺があえて『石鋭突ストーンヘッジ』を用いたのには理由がある。それはシャナルを超えるであろう速さを持つ者の実力を測るためだ。サムシンの装備からしてタンクタイプではない。であるとすると俺が最も危惧していたシャナル以上のスピードタイプという事になる。現に一つの石の槍を無力化してから次の石の槍を無力化するのにかかった時間はおよそ0.5秒。速さはシャナルの上をいくことが確定した。


「『火矢フレイムアロー』!」


 俺は続けて攻撃を行った。サムシンは『火矢フレイムアロー』を剣を一振りして剣圧だけで消し去った。これで彼自身が速いだけなく斬撃も速いことが分かった。


「先程からこのような攻撃をしてくるなど…そなたはワシを舐めておるのか?」

「それはもう余すことなくペロペロ舐めてるよ」


 挑発を挑発で返す。この程度の挑発に乗るほど甘くはないとこちらも向こうも分かっている。サムシンがあえて挑発してきたのは無駄な勘繰りはせずに向かってこいと言いたいからだろう。だがサムシンは俺の意図を理解したのだろう、唇の端を上げると持っていた小太刀をしまい、腰に掛けていた太刀を抜き放った。


「そうか、ならば少ししつけが必要であるな!!」


 今度はサムシンの攻撃を捌く番になった。俺は『錬金アルケミー』で両手にナイフを作り出して応戦したが、シャナルのそれより速い斬撃を俺が捌き切ることが出来るはずもなく徐々にダメージを負っていった。


「ふむ。捌き切れる自信があったから挑発してきたのではないのか?自身の実力を見切れぬとは憐れな。すぐに終わらせてやろう」


 サムシンは間合いを詰めると勝負を決めるために一気に踏み込んできた。それこそが俺の狙いだと気づかずに。


「『錬金アルケミー』、『液状化リキューファクション』!」


 今まさにサムシンが踏み込んだ足元に魔法陣が浮かび上がり、液状化を開始した。サムシンの態勢が崩れ、俺はその隙を突いて追撃をする……予定だった。

 しかしサムシンは態勢が崩れ始まった瞬間に空いていた左手で小太刀を抜き、それを俺に向かって投擲してきた。どうやらサムシンは何かあると最初から疑っていて、その上であえて罠に引っかかりに来たようだった。小太刀が俺の左脚に突き刺さり、俺は詠唱キャンセルを喰らうハメになった。


「ふむ、なかなか良い誘導ではあったが生憎とその手の誘導は嫌という程されてきておるからな。これも経験の差だ」


 サムシンが悠然と歩いて向かって来る。その距離およそ槍2本分。流石に2発目を警戒しているのか一気に踏み込むということはしてこなかったが、俺がやられるのも時間の問題だ。俺は俯き、必死で打開策を考える。


(どうする…?後少しで彼の間合いに到達する。今の俺では勝てない。ここで負けるのか?いや負けたくない……。でも手は有るのか……?)


 ────だったら俺にその身体を貸せ。負けたくないんだろ?早くしろ。


「……え?」


 唐突に誰かの声が響いた。それも()。危険な要求ではあったが、でも他に手がないならばと俺は要求を飲むことにした。



「ふむ、腹は決まったかな?もう少し期待していたが残念だ。先程の娘の方がまだ手応えがあったぞ」


 サムシンは勝利を確信していた。万全の状態ですら彼の動きについてこれなかった相手が脚を負傷し、その上詠唱キャンセルまで成功した。負ける要因が無かった。だからこそ彼は一瞬だけ相手の変化に気づくことに遅れた。


「っな!?」


 サムシンは急いで後ろに跳んだが、肩から腰にかけて斜めに斬りつけられた。あと一瞬気づくのに遅れていたら両断されていたところだったと彼は戦慄した。彼は改めて対戦相手を見た。そして、驚愕した。


「おいおい、爺さん。ちょいと余裕をかましすぎなんじゃないのかい?ったく、もう少し早く俺に身体を渡せばここまで追い込まれなかったのによ」


 先刻までそこにいた少年とは全く違う人物がそこにはいた。といっても容姿は全く同じなのだが、明らかに異なる点が髪と瞳の色、そして中身()だ。髪は綺麗な緑色から燃え盛るような紅色に、瞳の色は鮮やかな緑色から空を思わせる済んだ空色に、中身()は冷静な分析タイプから戦士のような熱血タイプへと変化しているのが見て取れた。


「……ほほう、これは驚いた。まさか二重人格で戦闘タイプが変わるはな」

「それは違うな爺さん。戦闘タイプが変わるのは認めるが二重人格って訳じゃねえ。そうだな、分かりやすくいえばこいつに憑依して身体を操ってるって表現がしっくりくるかな?」


 サムシンは唸った。今まで彼は数多の強者と戦ってきた。だが、ここまでの覇気を持った者は1人としていなかった。自身の手が震えているのを見て、自分が今対峙している相手に気圧されている事を知った。薄ら笑いを浮かべ、構えを再びとった。


「行くぞ……!レヴィン・シーケイド!!」


 彼は地を蹴り宿敵に迫ろうとしたその時、得体の知れぬ悪寒を感じ、バックステップで戻る。


 その瞬間、先程までサムシンがいたところに突如として大きな穴が空き、巨大な大蛇、バジリスクが顔を覗かせた。


「ほう…貴様、魔物まで使役できるとはな」

「いや、これは俺じゃない……。どうやら俺達の戦いに茶々入れたい奴がいるようだな」


 言うが早いかバジリスクが穴から飛び出し、2人に向けて毒のブレスを吐き出した。


「毒のブレスと来たか…『風裂刃』!!」


 サムシンが目にも止まらぬ速さで空を斬りつけると、真空波が巻き起こり、毒のブレスを払った。


「では、レヴィン・シーケイド!このバジリスクは一体…?」

「…さあな。この時代に知り合いはいないんでな。あと言っておくが俺の名はアルス・シーケイドだ」

「む…?レヴィン・シーケイドは偽名であったと?」

「そうじゃないさ。この身体はレヴィンのものだ。さっきまで爺さんと戦っていたのがレヴィンの方さ。まあこれ以上は極秘事項ということでよろしく頼むぜ」


 アルスが手負いとは思えない速度で走り出し、バジリスク討伐を開始した。


ー???ー


「なんだ…あれは?」


 闘技場内の様子を使い魔を使って監視していた男が悲鳴のような声を上げた。本当ならばどちらかが倒れた時点で突入させる予定だったのだが、連れの我慢が限界を迎えたらしく、バジリスクを解放してしまった。しかし、男の誤算はそこではなかった。レヴィン・シーケイドと名乗っていた男が突如豹変し、恐ろしい斬撃の嵐をバジリスクに放っているからだ。流石に焦りを感じた男は連れの男に次なる指示を出した。


「…ドライ、聞こえてるか?奴ら想像以上にやばいぞ。このままお前はこちらに戻って……」

「はん、おめえはそこで黙って見とれ。腰抜けが偉そうに指図しよって。このドライ様にかかればあのような小僧とジジイを屠るくらい朝飯前よ」


 男は豪快に笑うとインカムを投げ捨て、バジリスクが通った道を行き闘技場を目指した始めた。


「……あのバカが…!勝てる訳が無かろうに……。よし、こっちは撤退するとしよう。足がつくと困るしな」


 男は証拠インカムを隠滅すると霧のようなものに包まれ、やがて消えていった。そこに男達がいたであろう形跡は跡形もなく消え失せていた。


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