アロワナは天井につかまりシーラカンスは木を登る
ドックフードで悩んでいた。
最近、食い付きの悪いトイプードルがいる。
元々丸呑みする悪い癖があったので、ドライな物にかえてから、ふてくされたのか。
こちらの思った様な喰いつきをしなくなった。
それでも負けて、前のフードに戻したくない。
歯があるんだから、噛み砕いて喰えよ、と、思う。
「それ、水槽ですよ、中井店長。」
梨田くんの声に我にかえったが、もうドライの粒は、水の中に沈み出していた。
可愛い盛りのアロワナが、アーンと口を開けている。
お前、生き餌だけしか、喰わなかったんじゃないのかー、と、ビックリ眼で見てる間に、食べちゃった。
梨田くんが、あわてて網で、すくい取っているが、ふた粒は、アロワナのお腹の中だ。
「これ、先だって、水替えしたばかりなんですけど、どうします。」
そうか。
汚染されたのか、ドライフードで。
「いや、梨田くんの対処が早かったから、水質には問題ないと思うよ。」
梨田くんは、けげんな顔のまま、湿ったドライフードを近くのバケツに入れた。
「じゃ、このままで。」
汚水用シンクの方に、バケツと綱を洗いに行ってしまった。
その場にひとり残されて、マジマジとアロワナを見た。
嬉しそうに見えるのだが。
白銀のウロコが、煌めき優雅にターンをして、こちらに戻ってくる。
なんとも言えず美しい。
アロワナの、顎から下腹のラインの滑らかさは、魚類の中でも秀悦だと、思う。
結構、野暮ったいのもいる。
お客に売る立場としては、アーそれ、飼うなら、こっちでしょうとは、言えないが。
観賞用としては、最高の魚だと、思ってる。
ただ、デカくなりすぎる。
ウロコ1枚1枚、一緒にデカくなるし。
そう、ウロコの大きさも大事なのだ。
30センチ以下の頃が、1番可愛い。
で、その頃買われていってしまうのだ。
大きさも可愛さも美しさも際立ったある日、何処からともなく、飼いたいって、客があわられるのだった。
我にかえり、ドライフードを片付けに、バックヤードに入った。
開店前の雑用を済ませ、犬舎のシートを取り替え、なつきつつある、スコテッシュテリヤの目線を無視して、なんとか9時を、迎えた。
店内放送が入り、ショッピングモールが開店した。
開店早々、嫌な客が来た。
呼ばれるだろう、もう直ぐ。
バイトの広瀬さんが、泣きそうな顔で、走ってくる。
ベットシーツの前だししながら、彼女を待つ。
「お願いします、中井店長。
私では、納得してもらえません。」
大きな瞳が潤んで、今にも泣きそうだが、バグのこぼれんばかりの眼差しを受ける我が身では、まだまだだな、なんてドライな感想が出る。
それで、ツンとした魚類に惹かれるのかもしれない。
仔猫のマンチカンなんて、気を許したら骨抜きにされるだろう。
まあ、それで売れるのだが。
「クレームかな。」
広瀬さんが、眉を片方だけ釣り上げた。
彼女、こういった時は、かなり怒ってる。
「扱ってない品種を、出せ、なんて言ってくるんです。」
あーー、そりゃ駄目だな。
どれ、と、腰を上げ、ここを頼んで、その客の方に向かう。
何というか、成金っぽい。
色自体は地味なのだが、やたらクロムハーツをジャラジャラしてるのだ。
雷が落ちたら、あらゆる場所から、放電しそうだ。
「お待たせいたしました。
店長の中井です。」
軽く頭を下げる。
「そう、店長さんか。
あの子、バイト、話が通じないよ。」
広瀬さんをなめるな。
彼女が来ないと、鼻を鳴らす仔犬や仔猫の数は、とんでもないのだから。
「どう言った物を、お探しものでしょうか。」
家族に迎えようって人は、この『物』に、反応する。
だが、クロムハーツは、スルーだ。
「淡水魚のアリゲーターガーを探してるんだよ、カッコ良いしョ、あれ。」
あ〜遅れてきた、きわどいペット思考か。
アリゲーターガーは、顔つきがワニそっくりで、一時期変な人気があったが、いかんせん、巨大化する。
詰まるとこ、手にあまるし、悪い事に淡水魚で、川に離したりしたら、そこで定着しちゃう、厄介者なのだ。
2メートル超えたら、そりゃぁ、見た目はワニだって、大騒ぎになる。
丁寧に、ああいった危険な物は扱ってない事を伝える。
関西で池に放置して、騒ぎになった例をだして、反応を見た。
「飼いきれない人が出てきて、不法投棄してしまったようなのです。
想像以上に育つ、巨大魚ですから。
魚にも、不幸な事ですよね。」
クロムハーツ、鼻先でフンと笑った。
「強そうなのが、良いんだけど、中々飼えるのが、いないんだよ。
これは、ってのは、ないかな。」
おいおい、怪獣映画か、秘境の珍獣探しのテレビの見過ぎか、こいつ。
それでも、お客様。
広瀬さんなら、このあたり、ブチ切れてるかも。
あの子、意外と短気なのだ。
「あれは、なんて魚。」
あちゃー、シルバーが、見つかった。
その上、優雅に、ターンして見せてる。
「アロワナです。
人気ありますが、1メートルは、越えるので、生き餌とか、水槽代とか、結構かかりますよ。」
「えー、生き餌、金魚食うの。」
駄目だ。
取り憑かれた。
アロワナの銀のウロコが、キラキラと照明を反射させて、柔らかなヒレが、水の中で、オイデオイデしてる。
お買い上げされてからも、アロワナは、直ぐには、飼えない。
まず、先方に水槽のセッテングと水質の安定
を、ちゃんとしなくちゃ。
pHを測り、水温も良し、となれば、引っ越し。
アロワナの視界に入らない場所に、生き餌の水槽も完備。
しっかり、蓋もした。
生き餌に、小魚だけでなく、昆虫を狙うアロワナは、ハエやゴキブリにも反応して、あの巨大な身体で、水槽から飛び出してしまうのだ。
蓋は、大事なのだ。
ようやく、マンションの居間に、アロワナが、落ち着いた。
照明に、凝ったので、水槽自体が美しく、泳ぐアロワナが、古代魚のフォルムを、余す事なく見せてくれる。
こちらの勧めるまま、大きめの水槽を、入れたので、空間を埋めるために、水草を入れたが、梨田くんのチョイスは的確だった。
1本入れた流木が、場を引き締めてる。
こういったセンスは、あいかわらず凄い。
後は、トラブルが、起きない事を祈るだけ。
冷たいかもしれないが、次のアロワナを探さなくちゃ。
店に帰ると、広瀬さんの機嫌が悪い。
「店長、変な客が、変な事言ってますが。」
森くんが、嫌な顔をする。
レジの前に、見た事もない客が立っている。
レジの中の広瀬さんと睨み合っているのだ。
森くんが社員なのに、相変わらず、腰がひける接客してるんだな。
「梨田くんは、休憩入って、森くんと。」
ヨークシャテリアみたいな、森くんも、行かせる。
テリアって、大抵は体力有り余って、騒ぐし、遊ぶし、走るし、ソファの脚まで喰う。
が、ヨークシャテリアは、真逆。
ありえないくらいテリアの概念から外れていた。
まあ、女性や子供には飼いやすいから、人気はあるが、悪戯をビシッとしつけられたなら、テリア系は、これはこれで中々の犬なのだ。
勇猛果敢で恐れを知らず、女の尻には隠れないだろう。
さり気なく、2人の睨み合いの間に入る。
「店長の中井です。
アロワナの搬入で、留守にしていまして、失礼いたしました。
本日は、どういったご用件でしょうか。」
首だけこっちに向けて、ジロッと見てきた。
睨み合いにすきが出来たので、広瀬さんは、スッとその場を離れた。
汚れたシーツの交換をしに行ってくれた。
「あんた、店長さんか。」
本当に、デジャブの様なセリフが、毎回別人の口からよく出てくるものだ。
「これを引き取って欲しいだけなんだ。」
湿った汚いプラスチックの飼育箱に、黒い木の枝が刺さってるのが、カウターに置いてある。
「こちらで、お買いになったのでしょうか。」
ものが何なのかも、ここからでは見えないし、察しもつかない。
昆虫だろうか。
「だから、変だからさ。
飼えないんだよ。
気持ち悪くてさ。」
そりゃぁないだろう。
今時は、変わってればゴキブリの仲間だって、飼いたいって、時代なのに。
「俺は、こいつと、居られない。
駄目なら、捨ててくれ。」
男は、1万円をバンとカウターに置いた。
「迷惑賃だ。」
万引きならぬ、置き逃げ。
そう、走って逃げた。
他の皆は休憩。
広瀬さんは、バックヤード。
店を空っぽにも出来ず、変な物と残された。
こんなのマニュアルにあったか。
シゲシゲと箱の中を覗いたが、黒くてグチャグチャでよくわからない。
昆虫だとしても、姿が見えなければ話にならない。
まあ、1万円で、養子に来たのかな。
広瀬さんが、シーツ交換を済ませて、やって来た。
「えーっ。
引き取ったんですか。」
「いや、置き逃げ。」
こんな日本語あったかな。
カウターの一万円が、安いのか高いのか。
「魚って、言ってましたが、居ます、中に。」
予想外。
どんな、魚なんだ、中身は。
「魚、昆虫じゃなくて。」
2人でジーっと見たが、箱の中身に生き物の気配は無い。
「死んでます。」
怖い事を言う。
正体もわからず死亡宣告かい。
「様子を見る事にするよ。
帰ってくるかもしれないしね。」
「ありえません。」
広瀬さんが、キッパリ言い切ると正にその通りなのだが。
「これ、どうします。」
お札も迷惑だろう。
地べたのガムぐらいの嫌さ加減で、指差されている。
「魚の種類がわかったら、餌代とかに、当てよう。
レジ見てて。
これ、後ろに置いてくるよ。」
物置の横にスペースを見つけて、飼育箱を置いた。
何だかわからないが、小蝿とかは発生してない様だ。
そっと蓋を開けると、生臭い匂いがする。
霧吹きに、水を入れて、2、3回吹きかけておいた。
何の音も姿もない。
蓋をした。
犬のカットやグルーミングをする鹿島さんと佐藤さんが、休憩から帰って来た。
広瀬さんと何やら話している。
あの飼育箱の事だろう。
やがて、愛犬のシャンプーやカットを、頼んでいた飼い主が、引き取りに現れ、アレヤコレヤと、忙しかったから、飼育箱の姿の無い魚は、わすれてしまっていた。
さて、困った。
客から貰った金を入れる項目が、無い。
まさか、上納金でもないだろう。
店長権限で、懐に。
あのクロムハーツに、シルバーアロワナを売ってから、気持ちがモヤモヤしてるのに、なんだ、この一万円って。
結局、不明金って、とこで手を打った。
上から、突っ込まれるだろうけど、売り上げが良いし、まあプラス金だしな。
テレビの力は凄い。
ポメラニアンが、急速に売れている。
二大双璧のダックスフンドとトイプードルに、迫る勢いだ。
人気犬種は、小さいまま売れていくから、情がうつる事もない。
空っぽのアロワナの水槽にも、次がやって来る。
可愛く人に懐かせ、売る。
そんな商売なんだから。
あの飼育箱を忘れて、3ヶ月がたち、カブトムシやクワガタの幼虫が大量に搬入されてきた。
これから、虫が売れる時期だ。
それにしても、最近は、小蝿やゴキブリに悩まされない。
どんなに気をつけても、こいつらは湧く。
広瀬さんも今年、蚊に刺されてないって、不思議がってた。
思ったより、搬入に手こずり、残業になってしまった。
森くんが、幼虫用のおがくず入りの土を蹴飛ばしたから、大惨事だ。
中に幼虫が、いなかったのが幸い。
梨田くんと3人で、大掃除になった。
「店長、これ、雨漏りですかねー。」
能天気な間延びした声で、森くんが床を指差す。
ほんの2滴ぐらいの少量の水が落ちている。
「エッ、どれどれ。」
天井を見るが、何もない。
雨漏りしてる様な、シミも汚れもなく、綺麗なもんだ。
「どこか、漏ってるるんでしょうか。
カードマンの田中さんが、時々水が落ちる音がするって、言ってましたよ。」
そんな話、聞いてないよ。
店の天井に雨漏りがあったら大変だ。
「でも、2滴3滴って、雨漏りにしては、変ですね。」
冷静な梨田くんのおかげで、しばらく様子を見る事にした。
掃除もあらかた終わり、3人でこのまま呑みに行く話になった。
明日からの昆虫フェアーの為、鋭気を養うのだ。
灯りを落とし、店を後にする。
水槽のポコポコと言う音と、カリカリとそこらを掻く小さな音が聞こえる。
ピシャリと、水音がした様で、振り返るが、何も見えなかった。
裏の搬入口用シャッターの脇の従業員用の扉から出て、鍵をかける。
ノブに手を伸ばし、開かないことを確かめていると、森くんが、ニヤニヤして見ている。
その後特に何もなく、居酒屋に行った。
昆虫フェアーは、にんきだ。
餌の改良により、甲虫類の寿命が画期的に延びたし、虫好き女子も増えている。
蛇やトカゲやイグアナに向かっていた流行りが、虫にも来ていた。
南米原産の大型の甲虫なんかも、手に入りやすいし、幼虫から育てるマニアも、増えた。
が、ここでも、小蝿の発生が無い。
いや、なくは無い。
だが、駆除する前に、消える。
虫を扱うから、これは助かる。
殺虫剤で、汚染しなくてよいのだから。
珍種を、探すマニアから、初心者の母子まで、甲虫まみれな日々が続いた。
ぷりぷりのカブトムシの幼虫が、どんどん売れていった。
1人で残業になった夜、天井に違和感を覚えた。
視線を感じる。
犬からではないのは、すぐにわかるし、天井って。
生き物を扱うと、その視線からは逃れられない。
ましてや、幼い仔犬や仔猫だ。
もちろん、魚類だって、虫達だって、目線を送る場合がある。
体調の悪い場合なら、素早く気づいてやらなければ、訴える言葉なのない彼らを、無駄に長く苦しめてしまうだろう。
そんな折半詰まった視線ではないので、気がつかなかったのだが。
思いきって、天井を見た。
ありえない。
あの背中は、アロワナだ。
これは幻覚。
仕事にのめり込みすぎたか。
いや、でかいだろう、あれは。
店のアロワナは、まだまだ小さい。
もう一度、天井をみた。
1メートルは、超えてる。
腹を天井をつけて、優雅に泳いでる。
その時、店の観葉植物の葉陰から、ヒレが出た。
これは、悪夢だ。
シーラカンスと目があう。
馬鹿じゃないか、おれ。
ここは、古代の海か。
海水魚と淡水魚だ。
いや、そんな事じゃない。
アロワナが、スルスルと壁づたいに降りてきて、チャポンと、小さなアロワナの水槽に入った。
あ、それで、水滴。
なんて、納得できるか。
シーラカンスが、木から床に飛び降り、素早くゴキブリを喰った。
なるほど、じゃなくて。
気がつくと、アロワナもシーラカンスも消えていた。
懐中電灯まで持って、あちこち照らしてさがしたが、小さな水の跡とゴキブリの足が1本見つかっただけだった。
翌日から、俺は連休に入った。
前々からの沖縄旅行だ。
いくら、店が気になってても、2年付き合ってる彼女との旅行だから、キャンセルなんて出来ない。
俺に合わせて、水族館や動物園巡りしてくれる。
寝不足なんだねと、優しくされながら、昨夜の天井のアロワナと木登りシーラカンスに、心を奪われたまま、飛行機に乗った。
つけば、南国。
レンタカーを借り、一路観光に。
運転しながら、昨夜の怪異を話す。
彼女の行きたかったカフェ巡りをしてから、水族館に。
ジンベエザメが、御目当てだ。
それにしても、ヤッパリ大きい。
彼女もすっかり、ジンベエザメのファンだ。
売店で、ぬいぐるみやお土産を見ていると、あのひとだ。
ここの売店の人だったのだ。
「こんにちは、覚えてますか。」
サッと顔色が変わった。
「あと、三十分で休憩です。
その時に。」
と、言うと、後ろを向いてしまった。
仕方ない。
買い物を済ませ、そこらを歩き、もう一度、売店を、訪れた。
「ここでは、なんなんで。」
と、言いながら、後ろの彼女を気にした。
「あ、話してあります、全部。」
3人で、あまりひとの来ない、階段の脇に行った。
従業員が、チョッと休めるように、うまい具合に、小さな丸いテーブルと、椅子が置いてある。
その上、日陰で風が抜けていて、気持ちの良い場所だった。
脇の自販機で、飲み物を、買い、腰を落ち着けた。
飼育箱を押し付け逃走した男は、伊那和真と、名乗った。
シーラカンスは、彼が昔いた水族館展示物で、ある時、子供を産んだというのだ。
「もちろん、展示物は、剥製です。
子供は、たぶん霊です。」
あれを見てなければ、もう失笑もんだよ。
夜な夜な、それは水族館のゴキブリを喰い、ハエを喰った。
迷い込んだ蛾も、飛び上がり喰い付いたのだ。
俺は、天井をアロワナが、這いずり回ってるのを教えた。
「たぶん、それもそうなんじゃないですか。」
伊那さんは、ノイローゼになり、あの日、シーラカンスを俺の店に持ってきて、逃げたのだが、どうしてそんなことをしたのか、本人にも説明がつかないそうだ。
そして、逃げるように、ここに来たのだ。
それでも水族館の仕事がしたくて、今は売店にいるのだと言う。
休憩時間は短く、伊那さんは仕事に帰って行った。
「アロワナは、あなたの店のアロワナが産んだ子なのかしら。」
「たぶん。」
クロムハーツに売ったアロワナを思い出したが、それこそまさかだ。
もっと前に売ったアロワナだろう。
でも、なんだって、天井に。
そして、風呂に入るみたいに、水槽を泳ぐんだ。
旅行中にその答えは出ないだろう。
「よし、切り換えよう。
さて、今夜のホテルに行こう。
お腹も空いたし。」
嬉しそうな彼女を、乗せてホテルに。
奮発したから、リゾートらしいリゾートホテルだ。
料理も口に合い、酒も美味い。
軽く日に焼けた彼女の肩も綺麗だ。
あちこち見ていたら、3泊4日が終わった。
お土産を持って、出勤。
観葉植物を見たが、松の肌の様な、シーラカンスは、隠れていなかった。
「何を見てるんです、中井店長。」
冷静な梨田くんに注意を受ける。
「いや、虫が付いてないかと、ね。」
「最近、小蝿も出ませんよ、この店。
なんの殺虫剤も使ってないのに、不思議ですよね。」
「そうそう。
それだから、変なところに湧いてちゃ困るからね。
チェックしてたんだよ。」
我ながら、ヘンテコな答え。
「そうですね。
出ないから、いないって、言えませんよね。
皆に言って、気をつけ合いましょう。」
まあまあ、真っ当な答えだな。
「よろしく。」
開店準備も終わり、賑やかな1日が始まる。
あのクロムハーツは、アロワナの餌を買いに時々来るが、幽霊の子供を、産みましたか、とは、聞かれない。
害虫駆除が常駐しているので、店内がなんとなくさわやかだ。
忘れていた黒い木の入った飼育箱は、捨てられない様に、物置の奥に隠した。
情が移ってしまったのだ。
害虫は喰うが、何故か生き餌用の小魚やコオロギなんかには、手を出さない。
そして、今夜もこの店では、シーラカンスが木に登り、アロワナが天井を這いずり、時々水槽で泳ぐのだった。
今は、ここまで。