キツネの嫁入り
恋愛の話しを書きました
佐野島 誠二は驚いていた。
彼には6年間付き合っている彼女がいた。
彼女は落ち着いていて神秘的な雰囲気の女性である。
彼は彼女に惚れ込み何度も交際を申し込みようやく付き合える事になったのが6年前の話しである。
そしてついに彼は彼女に結婚を申し込み、今日彼女の両親に会いに行くことになった。
彼女曰くまずは、両親に相談してから結婚を決めたいとの事だった。
彼はそれに無理言って着いて行こうとした。
直接彼女の両親に結婚の事を報告したかったのと彼女の両親に会ってみたいのだ。
彼は彼女の両親に一度も会わせてもらった事がなかった。
会ったことがないのは、彼女にいつもなにかしら理由を付けて断られてきたからだ。
だから今回は絶対に会いたいと思い、彼女に何度もしつこく頼み込んだ。
そしてついに彼女は渋々折れてくれた。
いつかは言わなければならない事ですしねと
彼女が最後に言った言葉をもう少し考えておけば良かったと
後悔したのは彼女の両親に会った後だった。
「お父さん、お母さん、こちらが今お付き合いしている佐野島 誠二さんです」
雲井 涼子さんが俺を両親に紹介してくれる。
お母さんは彼女に目元がそっくりで、優しそうなおっとりしてそうな普通の母親なのだが、
驚かされたのは彼女がお父さんと呼んだ方だった。
彼女の父親は、やや細長い身体に、口が突き出ており、顔は面長で尖っていて、煙草を吹かして背筋を伸ばし綺麗に座ってる。
そして、細長い目に、身体は毛深く、毛はいわゆる狐色で全身に生えている。
さらに先っぽが黒い尻尾が後ろに見える。
そう、どう見ても狐にしか見えないのだ。
――――――――
彼女の家は田舎にあると聞かされていたので、どんな所かと思っていた。
来てみたら本当に過疎地域で森の中に何軒か集まっている家の一軒がそうだという。
森の中にあるせいか、少し怪しい雰囲気で夜中に外出したら何かよくない物でも見てしまいそうだ。
こんな町に住んでる人が本当にいるのかと少し失礼な事を考えながら、緊張しつつ彼女の家に上がらしてもらう。
彼女の家は見た目は少し古びているが、縁側もあり中はこざっぱりした印象を受けた。
そして、彼女の母親に寒かったでしょ早く入りなと案内され、通された部屋には、座布団の上に狐の置物があった。
田舎の風習かと思ったが、よく見ると煙草を吹かしてるので唖然とした。
立ちつくしていると彼女にとりあえず座ってと促され、言われるまま座り先ほどの紹介をされたのだ。
「あらあら、よろしくね~ほらあなた涼子の彼氏よ」
「…ああ、そうだな」
と狐ことお父さんは煙草を吹かしながら渋い声で母親に返事をする。
俺はと言えば狐が喋った事に驚いて、声も出ないでいた。
「あら~、狐に抓まれたみたいな顔してどうしたの~」
「…おい涼子、彼…誠二くんと言ったか、驚いているように見えるがきちんと説明をしたのか?」
「本当ね~、誠二くんあなたの格好良さに驚いているみたいよ~」
「…それが、実はまだ説明してなくて、ずっとしようとは思ってたんだけど」
俺はその会話を夢でも見てるのかと言う気分で聞いていた。
そして、狐ことお父さんは煙草を溜息のように吐き
「…馬鹿野郎、てっきり説明してると思って普段の姿で出てしまったではないか」
「ごめんなさい、でもいいの、ちゃんと説明しなきゃと思ってたし」
「お父さんの格好良さの説明なら得意よ~、任せなさ~い」
涼子は申し訳なさそうな顔をこちらに向けた。
母親が華麗に無視されているが、それどころではない。
ようやく状況に頭が追いつき、ドッキリでも仕掛けられてるのではと思ってカメラを探していた。
「…仕方ない、この姿では話しもしにくかろう」
と狐が言った瞬間、ボンっと言う音とともに、身なりを整えた精悍な顔つきをした男がさっきまで狐のいた位置に座っていた。
あり得ない光景を目のあたりにしたため、もうカメラを探す気になれなくなった。
後は夢という可能性にかけるしかない。
「涼子、ちょっと頬を抓ってくれない?」
と小声で涼子に話しかける。
頬を思いっきり抓られた。
どうやら現実のようだ。
超痛い。
「…残念ながら夢ではないぞ、今から説明してやる。…だから逃げようとせずに聞いておけ」
「そっちの姿もやっぱり格好いいわ~、さすがあなた、目が覚める格好良さだわ~」
「誠二くん、ごめんね、ちゃんと全部説明するから」
「…すみません、お願いします」
もうどうにでもなれだ。
開き直ってとりあえず話しを聞こう。
自称肝っ玉が太いのが取り柄なんだからまずは落ち着かなきゃ。
「…まず、儂は元々は狐だが。長生きしているうちに妖狐になり、それで話すことが出来る。
…そして長い間一匹で生きてきたが色々あって、母さんと会い…人間と妖狐のハーフとして涼子が生まれた」
「え~、お母さんとのなれそめ飛ばされちゃった~」
「…その変の話しは別の機会でいいだろう。…そして涼子は普通に育ち街に住みたいと言い。
普通の人らしく街ですごしていたというわけだ。…一応変化は出来るらしいがな」
「涼子の変化も見事なものよね~」
「かなり簡潔に話し纏めてるけど、簡単に言うとそういう事だから、分かった?」
「えっと、はい、あの、分かりました、ありがとうございます…」
話しは分かった。ただ、理解は追いついていない。
だが、これ以上聞きたいことも咄嗟に思い付かないし、更に説明してもらうのも申し訳なくなってくる。
それに、父親も今は普通の人間の姿をしてるから、少し落ち着いてきた。
「…ふー、説明し終えたし、いつもの格好に戻ってもよいか」
と厳格な男が言った瞬間、ボンっと言う音とともに先ほどの狐がそこにいた。
二度見ても慣れない。まさに種も仕掛けもございません~って感じだ。
しかし再度変化を見たことで、先ほどの話しを納得せざる負えない気がしてきた。
「…さて、どうする。…儂はまだ何の話しも聞いてないぞ」
煙草をぷかぷかやりながら、まるで挑発するかのように言ってくる。
今ならまだ、結婚の話しをなかった事にしてやるぞと聞いているよのだ。
冗談ではない、俺はずっと涼子の事が好きだったのだ。
確かに驚いたが、ここで引くわけにはいかない!
「娘さんを僕にください!必ず幸せにします!」
いきなりの土下座にいきなりの挨拶だ。
せっかく挨拶の定型文とか必死に考えてきたのにそれらを全て端折った。
「あらあら、直球ね~」
「…ふん、まずは挨拶から始めるのが普通だがな」
「それで、あなたはなんて言うの~?」
「…そうだな、答える前に酒でも酌み交わしていいか?」
「ふふ、飲み過ぎちゃ駄目よ~」
どうやら先にお酒を飲むことになったようだ。
えっ?返事は?酒飲んだ後に言われるの?
俺は渾身の土下座を無視されておろおろしていた所。
「誠二くん、ごめんちょっといい?」
涼子に呼ばれ、服を引っ張られそのまま縁側に出る。
もう秋も終わりに近づいているせいか、少し肌寒い。
縁側に隣同士で座る。
「本当にごめんなさい!!」
謝られた。
普段は落ち着いてる涼子が少し取り乱しているようだ。
さっきまでの落ち着きようが嘘のようだ。
「ずっと言おう言おう思ってたの、けどなかなか言えなくて
こうでもしないとまた誤魔化してしまいそうで、それでも直前になっても言えなかった」
彼女はいつもの取り澄ましたような口調ではなく、焦ったように言葉を紡いでくる。
まるでため込んでいた物を吐き出すように。
「やっぱり、普通じゃないもの、…知られたらあなたが離れてしまうと思ったの」
少し寂しそうな顔を見たとき、初めて彼女の側に来れた気がした。
涼子のことがずっと好きで、何度となく振られても諦めきれず彼女の側に行きたかった時も
付き合うようになって、仲良くなって、どれだけ一緒にいても側に来れた気がしなかった。
「最初はね、付き合う気なんてなかったの、…だって無理じゃない。
狐の人間の子なんて、ああ、もちろんお父さんもお母さんも大好きよ
けどやっぱり私は人間じゃないの、普通にはなれないの」
泣きそうな彼女、もしかしたら無表情な顔の下は、こうなっていたのかもしれないと普段の顔がちらつく。
俺は彼女の何を見てきたのだろう、彼女の嘘は彼女を神秘に染めていたが、何色か判断しようともしなかった。
彼女は真っ直ぐにこちらを見る。
「それでもあなたが側に来たがるから、ついつい一緒にいてしまったの
いつかは離れよう、離れようと思ってた、けど難しくなっていったの」
彼女の目を直視するしかなかった。
いつも一定の距離を保ちたがっていた彼女の瞳を。
「このまま言わずに済まそうかと考えた事もあったわ、私の事言わなければ言いだけだしね。
あなたは優しいもの、ずっと騙そうと思えば騙せてしまうわ。…でもそんなのは嫌なの
嫌になってしまったの、だから、知って欲しくなったの、私の事、どうしてもあなたに!」
…たぶん、彼女はここに来るまでずっと色々考えていたのだろう。
もしかしたら俺がすぐ帰ると言い出すかも
もしかしたら俺から罵倒されるかも
もしかしたら俺に別れると言われるかも
もしかしたら俺と一緒にいられるのは今が最後かもしれないと
頭の良い彼女のことだ。俺が思いもつかないあらゆる最悪を想像したはずだ。
それでも彼女はここに来るまでいつもと変わらなかった。
いや、少しは違った所もあったかもしれない。
しかし、6年間も付き合っていた俺に知られないようにしていたに違いない。
そして彼女は俺が何を言うのか、待っている。
ここで何故言ってくれなかったと彼女を責めるのは簡単だ。
俺にずっと嘘をついていたのかと詰る権利もある。
そんなに俺の事を信じていなかったのかと追求する事も可能だ。
だから、俺は、
「涼子、俺っつ!?」
自分の気持ちを言おうとしたとき、急に雪が視界を覆う。
まさに横殴りの雪に言葉を攫われてしまう。
「ふっふっふっふっふっふ」
雪の中から笑い声が聞こえてきた。
ここから急にバトル展開になりそうな笑い声だ。
「…お久しぶりですね、雪神様」
どこから出てきたのか涼子のお父さんがいた。
いつからいたんだろう。
そして急に出てくる神様、狐だけでもお手上げの状態なのに。
「そこの小僧がそうなのか?」
「…ええ、そうです」
「お前達よりはまともそうだな」
「…娘が選びましたからね」
「そう邪険にするな、今日は祝いに来ただけだ」
「…ありがとうございます」
「お前達の時のようにちょっかい出したりせんわ」
「お早めにお帰りください」
「ふっふっふ、そうするわい、それ祝いじゃ」
雪が降り始め、ふわふわと飛び回る。
それは雪が踊ってるようだった。
右に左に上手にステップを踏んでいく。
全ての雪がここに集まり祝ってくれてるようだった。
まるで雪の中で竜が笑いながらのたうってるように、綺麗に幻想的な景色が出来ていく。
俺と涼子はその幻想的な景色に見入っていた。
「…ふん、相変わらずむかつくやつじゃ」
昔何があったのか分からないが涼子の父親が笑ってるように見えた。
聞きたかったが、先ほどの雪神の説明は面倒だからなしだと言われてしまった。
「…さてもう冷えるだろう。…中で酒でも飲みながら語ろうか」
そうして狐事父親がしずしずと部屋に戻っていこうとした。
「お父さん…、会話勝手に聞いてたでしょ!!」
涼子のきつい声が、父親を叱咤する。
娘としてはあれを聞かれるの恥ずかしいだろうなと同情する。
「…すまんすまん、心配でな、誠二くんにさっき言い過ぎたと思っての」
「もう子どもじゃないんだから、そんなに心配することないでしょ!」
父親と接しているときの彼女は年相応に見え、彼女がもう笑顔でいることに安心した。
彼女にはちゃんと居場所があり、自分でいられる所を持っていたのだなと嬉しくなる。
全くしょうがないんだからと言いながら父親を部屋に追い返し楽しそうに彼女は戻ってきた。
「ねえ、誠二くんも中に入りろう?」
「…先にさっきの続きを言わしてくれ」
は、はいっと言いながら彼女は姿勢を正しながらこちらを向く。
緊張のためか少し顔が強ばってる。
そんな年相応な彼女はとても可愛く見えた。
「涼子、俺は君との距離を保つよ、君から近づけるまで、君を少しでも知るために、…一生待ち続けるよ」
ボンっと言う音が聞こえたと思ったらそこには、顔を真っ赤にした狐が嬉しそうに笑っていた。
読んでいただきありがとうございます。
たぶん恋愛になってたと思います。
雪神様は出したかっただけです。




