舞衣ちゃんセンパイ(3)
◆登場人物◆
・岡本千夏:高校三年生、文芸部部長。一人称は「わたし」。ちょっと舌足らずな喋り方の小柄な女の子。お茶を淹れる腕は一級品。受験生だが、部の雑務の他、入学してきた新一年生の勧誘活動も行っている。
・那智しずる:文芸部所属の三年生で忍の姉。一人称は「あたし」。学業優秀の上、長身でスタイルも申し分のない美少女。基本的に人嫌いなのだが、忍を前にすると激甘になる極度のブラコン。数年前の事故が元で不眠症などの持病を抱えている。
・里見大作:大ちゃん。二年生で千夏の彼氏。一人称は「僕」。2mを越す巨漢だが、根は優しいのんびり屋さん。その見かけに反して細かい手仕事を器用にこなす。千夏に首ったけ。
・高橋舞衣:舞衣ちゃん。文芸部の二年生。身長138cmのロリータ体型。「文芸部の守銭奴ロリ」の二つ名を持つ。
・西条久美:久美ちゃん。高校二年生、双子の姉。髪の毛は左で結んでいる。
・西条美久:美久ちゃん。二年生、双子の妹。髪の毛は右で結んでいる。
・那智忍:弟クン。文芸部の新一年生。しずるの弟。しずる同様に背が高い美形男子。
・雨宮咲夜:サクヤ。一年生、しずるや忍の幼馴染み。吹奏楽部所属のトランペット奏者。
・望月泰平:泰平クン。忍のクラスメイトで、文芸部の新一年生。しずるを慕って入部した。
・藤岡淑子:国語教師で文芸部の顧問。じっとしていれば超のつく美人。しずるの事情を知っている数少ない人物の一人。
<パッパラパー♪ パパラーパッパー♫>
中庭の方から、金管楽器特有の高らかな音色が聞こえて来る。
(あーあ。何してるんだか……)
わたし、岡本千夏は、図書準備室の窓際で椅子に腰掛けていた。半分ほど開け放たれたガラスサッシの向こうに見えるのは、旧校舎の一部と緑豊かな中庭である。種々の草木が移植されている中庭を見渡し楽しめるように、屋根付きの渡り廊下から建物に沿ってコンクリートで舗装された通路が続いている。
わたしは、未だ葉が密集しきっていない木々の枝の隙間から、音源の様子を監視するように眺めていた。
今現在のわたしの憂鬱の種が、そこに有るからだ。
「はぁ……」
わたしは、深い溜息を吐くと、サッシの棧に引っ掛けた左腕に顎を乗せた。
そんな時、
<コンコン>
と、ノックの音が聞こえた。
「皆、居る? 入るわよ」
やや高音域であるにもかかわらず若干ハスキーな声が、扉の向こうから聞こえた。
「こんにちわ。あら、千夏、もう来てたのね」
そこから入って来たのは、端正な顔立ちをした美少女だった。頭髪は艷やかなストレートの黒髪。丸渕の眼鏡の奥からは涼し気な瞳が覗いている。続いて顔から下に目を移すと、まだ冬服だというのに、彼女の肢体の女らしい凹凸が、厚手の布地さえも持ち上げて柔らかな曲線を与えている。背中の半ばまでもある長い毛髪は、校則という理不尽な拘束事項の所為で、一本の三編みに編み込まれていた。味も素っ気もない濃紺の髪ゴムで縛られたものの、その穂先は彼女が歩く度にゆらゆらと揺れて、窓から差し込む春の光を乱反射させている。それは、まるで意思を備えた知的生命体か? と、わたしに思わすほどの動きだった。
少女マンガであれば、彼女の登場場面では、お決まりの華やかな花々が背景に咲き乱れていることだろう。
そうでなくとも、彼女から放たれている魅惑的な香りの効果で、男女問わず誰もが虜にされてしまうような幻想的な感覚に、わたしは捕らえられていた。
「どうしたの、千夏? 何をボウッとしてるの」
その言葉で、霞がかって痺れていたわたしの脳神経が覚醒した。
「あっ、ごめん、ごめん、しずるちゃん。ちょっと、ボウッとしちゃってた。あははは」
と、わたしは笑ってその場を誤魔化した。
そんなわたしを、レンズの奥からキッと強い眼差しで睨めつけている女性こそ、那智しずる嬢。文芸部の最上級生の一人にして、我が校の三大女神の一角を担う美少女だ。
彼女は、怪訝な顔をしながらも、部室の中央のテーブルに近づくと手荷物をそこに置いた。いつもならば、その場で愛用のノートパソコンを取り出して執筆活動に入るのだが、今日は違っていた。
<パパ、パパパラー♬ パッパー♪ パパラー>
またしても、窓の外から甲高いラッパの音が聞こえてきたからだ。
「んー、もうっ。さっきから何なの? やけに騒がしいけれど」
しずるちゃんは、見るからに不機嫌そうにわたしの方──正確には開かれた窓の外を睨むと、つかつかと近づいて来た。
「あ、あはは。わたしも、そう思ってたところだったんだ。……なんだかねぇ」
わたしが明瞭な答えを出さないからなのか、彼女は窓から少し顔を出して、音の元凶の方を眺めようとしていた。
「え? 何あれ。……忍クンじゃない。舞衣さんも居るし。久美さんや美久さんまで。……あら、あのトランペットの娘は……、咲夜ちゃんっ。……え? へ? あの子達、一体、何やっているの?」
そうなのだ。
さっきから続いているペットの音は、しずるちゃんや弟クンの幼馴染みである雨宮咲夜ちゃんが演奏していたのだ。彼女は、この春に高校に入学して、吹奏楽部に所属している。
──で、何の為に?
「ああやって人の気を引いてね、ビラ配りや声掛けをしてんの。『新入部員をもっと増やすんだっ』、ていう舞衣ちゃんの提案でね」
わたしは、そう種明かしをすると、ガックリと肩を落とした。ついでに、「はぁ~~」と深い溜め息を追加する。
「は、はあぁ? 忍クンにまで? 何やらせてるのよ、千夏ったら」
弟クンを溺愛しているしずるちゃんから、当然言われるだろうと予想された言葉が、一字一句違わずに聞こえて来た。
「あ、あっと……、わたしは止めたんだよ。止めたんだけど……」
そこまで言って、わたしの口はモゴモゴとなった。
「皆まで言わなくてもいいわ。どうせ、舞衣さんが強引に引き連れて行ったんでしょう。あの娘のやりそうな事だわ」
そう言った彼女の整った顔には、余分な筋が何本か描かれていた。少し苛ついたように眉根に皺をよせ、眼鏡のレンズを通してでも、その目付きが悪くなっているのが分かる。
「それで、久美さんと美久さんも、『それは、なかなか良いアイディアですわぁ』なんてハモってたんでしょう。……ああ、その時の様子が、映画のシーンのように目に浮かぶわ」
頭の回転の早いしずるちゃんは、ちょっとした情報から完璧な解答を導き出していた。
「ご明答。全くその通りだよ。はぁー」
聡明な彼女にそう応えると、わたしはもう一度溜息を吐いた。
「ただでさえ慌ただしい時期なのに。舞衣さん達も、余分な問題を起こさないと、あたし的には嬉しいんだけれど。全く……、頭の痛い話ね」
お正月が開けた頃から、顧問の藤岡先生に『派手な活動は控えるように』と釘を刺されているのだ。その殆どは、『文芸部の守銭奴ロリ』の異名を持つ高橋舞衣ちゃんの経済活動に起因するものだ。部の為だとか言いながら、絶世の美少女であるしずるちゃんを最前面に立てたプロモーションで、文集という名の『写真集』を売りつけたり、文芸活動の一環という建前でイベントを開いたりして、大金をせしめているのだ。
最近までは、『本校創立以来の才女である那智しずるなら東大現役合格も確実』とされていたため、教職員も大目に見てくれていた。だが、それが最近はエスカレートしてきたので、とうとうイエローカードを喰らってしまったのだ。
しかし、それが舞衣ちゃんに正しく認識されているかというと……、甚だ怪しい限りである。
結局、昨日の今日で、弟クンに会いに押しかけた咲夜ちゃんを巻き込んで、新入部員の勧誘活動を派手におっ始めたのである。
そんな破天荒な舞衣ちゃんは、弟クンに自分を「センパイ」と呼ばせ、下僕のように従わせているのだ。弟クン想いなしずるちゃんでなくても、心配になってくる。
「で、千夏はここで何をしているの。特に受験勉強をしているようにも見えないけれど」
部長でありながら、下級生だけに活動をさせて窓際でボケ~っとそれを眺めているだけのわたしは、どう贔屓目に見ても、ただのサボりにしか見えないだろう。
「あーっと、……わたしはお留守番兼監視役だよ。あの子達が変なことをしないか、ここで見張ってるの」
まぁ、確かに間違ってはいない。
とは言うものの、本心は、
(今、大ちゃんがお茶の準備をしてるんだぁ。今日は、大ちゃんと二人っきりでティータイムを過ごそうと思ってたのに。まさか、しずるちゃんが、こんなに早くやって来るなんて……)
という、全く邪なものだった。
「ほうほう。やってる事は派手だけれど、ちゃんとビラも配っているわね。律儀に、声掛けもしているわ」
わたしの返事をどう思っているのだろう、彼女は窓の向こうに見える後輩達の活動を観察していた。そうするうちに、
「あら、そう言えば、泰平クンは?」
と、しずるちゃんは、部員が一人足りないことに気が付いた。
望月泰平クンは、弟クンや咲夜ちゃんと同じクラスの一年生だ。しずるちゃんや弟クンの幼馴染みでもある。
小さい頃から彼は、友人の素敵なお姉さんであるしずるちゃんを崇拝しているのだ。だから、昨日みたいに彼女が部活をお休みした時には、テンションが下がったり、部活に来なかったりする。そんな泰平クンには、わたしも少々手を焼いている。舞衣ちゃんに至っては、全く興味が無く、殆ど無視を決め込んでいる程だ。それで、今の所、誰も彼の面倒を見る人が居ない。
「泰平クンは、昨日、部活を休んだの。『しずるちゃんが来ない』って聞いて、サボったんだよ。だから、ペナルティーとして、お使いを頼んだんだ」
未だに部長業を続けているわたしは、泰平クンも立派な文芸部員にしようと頭を悩ませた結果、雑務をさせる事にしたのだ。
「ふぅーん。お使いねぇ」
しずるちゃんは、少し怪訝そうな顔をしていた。
「そだよ、お使い。A4のコピー用紙のセットを二箱分を購いに行ってもらってるんだ」
プリンタやパソコンを完備した結果、文芸部では印刷用のコピー用紙の消費が激しくなったのだ。ダンボール箱二つはキツイかもだが、男の子でしょう。泰平クン、頑張れ。
「へー。いつもみたいに、大作くんに頼めばいいのに。あの文房具屋さんって、けっこう遠いでしょうに」
とは言うものの、彼女にもあまり非難じみた様子は無かった。可哀想とは思うが、しずるちゃんも、泰平クンにはあまり関心がないようだ。
「ペナルティーだもん。当然だよ。それに……」
わたしが、そこまで話した時、部室の奥から声がした。
「千夏さぁーん。お茶の準備が出来たんだなぁー。今からティータイムなんだなぁー」
と、のほほ~んとしたのんびりした声が聞こえてきた。二年生部員の里見大作くん──大ちゃんだ。何を隠そう、わたしの愛しの背の君である。
「ははぁ~ん、そういうことね。なら、あたしはお邪魔だったかしら」
事情を察した彼女は、ニヤニヤしながらわたしの方を見ていた。
「い、いや。そんな事ないよ。折角、しずるちゃんが来てくれたんだから、……さ、三人でお茶にしようよ」
図星を突かれてしまったわたしは、少しドギマギしながらも、彼女をお茶に誘った。
「無理しなくてもいいのよ、千夏。あたしも、勧誘のお手伝いに行こうかしら」
ちょっと顎を上げ気味にして、座っているわたしを斜め上からの目線で見下ろすような彼女の表情は、ほんの少し意地悪なものに見えた。
わたしは、急いで椅子から立ち上がると、
「そんな意地悪なこと言わないでよ。それに、ただでさえ弟クンと舞衣ちゃんと咲夜ちゃんが居て騒々しいのに、しずるちゃんまでが出てったら、凄いことになっちゃう。お願いだから、ここで大人しくしていてよ」
結構派手なパフォーマンスで人が集まっているのに、三大女神の一角であるしずるちゃんまでもが出て行ったら、那智姉弟揃い踏みで大混乱になりかねない。本人達は解っていないようだけど、二人共超のつく美形なだけに、姉弟になると破壊力が倍増──いや、自乗になるのだ。それを身振り手振りで説明すると、
「あら、そうなの? じゃあ、お言葉に甘えて、お茶をごちそうになるわね」
と、件の美少女はそれ以上詮索することはなく、素直に主是するとテーブルに向かった。いや、向かってくれた。
「ふぅー……。去年以上に気ぃ使うわぁ」
わたしは、もう一度深い息を吐くと、彼女の後に続いてテーブルに戻った。
ちょうどその時、大ちゃんは、ティーセットを乗せたお盆を両手に持って、テーブルに戻って来ていた。
「あ、やっぱり、しずる先輩が来てたんだなぁー。よくは聞こえなかったけれど話し声がしたから、もしかしてって思ったんだなぁー。余分にティーカップを用意して、正解だったんだなぁー」
テーブルまでやって来た大ちゃんは、そう言ってお盆を置いた。そして、淹れたての紅茶を、温めた三人分のカップに注ぎ始めた。
「ごめんなさいね、大作くん。折角、二人っきりのお茶会だったのに、お邪魔しちゃって」
しずるちゃんはそう言って、荷物をテーブルの脇に置き直すと、椅子に座った。わざとなのかどうか、テーブルを挟んで反対側である。そして、熱いお茶の入ったカップを運んでいる大ちゃんに、しきりに目配せをしていた。
その真意を理解したのかどうか、大ちゃんは、まずしずるちゃんの傍らにカップを置いた。
そして、テーブルを回ってわたしの方へやって来た。そのまま、わたしの前にカップを置くと、左隣にもう一組のティーカップを置いた。
「お砂糖は、お好みでお願いしまぁーす」
のんびりと間延びした声が、わたしのすぐ隣から再び聞こえる。
「ありがとう、大作くん。いただくわ」
それに応えたしずるちゃんは、ソーサーの上のカップを握ると、口元に近づけた。
「うーん、良い香り。さすがは、千夏直伝。美味しくてよ」
淹れたての紅茶を一口含んだ美少女は、そう言ってニッコリと微笑んだ。
(これだよ、これ。これこそが、文芸部の本来の姿なんだよ)
少女マンガの一ページを切り取ったようなしずるちゃんの立ち居振る舞いに、わたしは、一種の感動すら覚えていた。後でよく考えたら、文芸部の本来の姿は、文芸活動なのだけれど……。
ただ、この時のわたしは、久し振りに静かにお茶が出来る図書準備室の雰囲気に酔っていたんだと思う。
「で、部員は入ってくれそう?」
しばらくは落ち着いた部室の空気に浸っていたわたしは、しずるちゃんのその問に、急には応えられなかった。
「え? えーっと、何?」
慌てたわたしからは、そんな言葉しか出て来なかった。
「もう、千夏ったら。折角、文芸部の明日を担う後輩達が頑張っているんでしょう。成果はあがっているの? って訊いたのよ」
彼女はティーカップを静かにソーサーに置くと、改めてそう言い直した。
「あっ、ああ。それね……。う〜ん、順調と言えば順調なんだけど」
わたしは、さっき舞衣ちゃんから聞いた話を思い返しながら、そう応えた。
「何よ。煮え切らないわね」
しずるちゃんから、いつものキッとした鋭い視線が飛んでくる。
「い、言い難いんだけど……。入部希望者は、けっこうな人数が居るんだ。でもね、しずるちゃんや弟クン狙いだったりの人が多いんだ。後は、舞衣ちゃんの方針が問題でね……」
わたしの返事に、彼女の目付きは更に悪くなった。
「前半部分は理解したわ。で、何なのよ。その『舞衣さんの方針』って」
(ううー、困ったな。どしよう。これ言っちゃったら、しずるちゃん、絶対に怒るよね)
わたしには、眼前の美少女の反応が想像できて、返答に窮していた。
「どうしたの、千夏。いいから教えなさい」
駄目だ。これ以上は、黙ってても意味がない。わたしは、思い切って話すことにした。
「えっとね……。舞衣ちゃんね、「自分が食指が惹かれるような『愛らしい美少女』じゃないと入部させたくない」、なんて言っててね……。こ、困ったモンだよね。……あ、あははは」
最後は笑って誤魔化したものの、これが紛うこと無き舞衣ちゃんの考えなのだ。
「えーと、……しずるちゃん?」
まともに前を見ることが出来ずにずっと俯いていたので、彼女がどんな様子なのか分からなかったのだが、何も返事が無いため、わたしはそう言って顔を上げた。
「っ…………」
彼女は左手で額を押えていた。
だよねー。こんな事、聞かされたら、頭が痛くなるよねぇ。
「なるほど。よーく解ったわ。要するに、「あたしが卒業しても充分戦力になる『美形の商材』しか欲しくない」、って事ね」
肝が冷えるような低い声を発したしずるちゃんは、目を瞑って頭を抱えた。
「舞衣さんったら……、舞衣さんったら。これからも写真集事業を継続したい訳ね。安定した収入源として」
「あ……、あーと。……そーらしーねー」
(すぐに爆発せずに、内に怒りを押し込めているだけに、今のしずるちゃんは怖い。これは、相当に怒っているぞ)
彼女は、しばらくはそうしていたが、不意に頭を起こして首を左右に振った。そして、何事もなかったような顔をして上半身を折り曲げると、足元の学生鞄からノートと白い封筒を取り出した。最後に筆入れを取り出してテーブルに置くと、大ちゃんの方を見てこう言った。
「ごめんなさい、大作くん。ちょっと頼まれてくれる?」
そう言われた大ちゃんは、首を縦に振った。
「ありがとう。お水を一杯、汲んでもらえるかしら」
「ああ、お水ですねー。分かったんだなぁー」
さっきから黙ってわたし達のやり取りを聞いていた彼は、しずるちゃんの頼み事を聞いて席を立った。
「どしたの?」
わたしが、そう尋ねると、
「お薬を飲もうと思って。頓服よ……」
と言うと、しずるちゃんは、封筒から何種類もの薬のパッケージを取り出していた。この前、保健室で見せてもらったのとは少し違うようにも見えるが、門外漢のわたしにはよく分からない。
「しずる先輩、お水を持ってきたんだなぁー」
大ちゃんの持ってきたガラスコップを受け取ると、彼女は手の平に乗せた十数粒ほどの錠剤を口に放り込んだ。続いてコップの水を口に含むと、胃に流し込む。
「ふぅー、これでよし。ありがとう、大作くん。……千夏、あたしはここで勉強させてもらうわね。舞衣さんが戻ってくるまで」
少しドスの効いた声に、わたしは背筋に冷や汗が伝うのが分かった。
あー、神様。居るのならお願いします。どうか血の海になりませんように。




