しずるとなちると弟クン(7)
◆登場人物◆
・岡本千夏:高校三年生、文芸部部長。一人称は「わたし」。ちょっと舌足らずな喋り方の小柄な女の子。入学してきた新一年生の勧誘活動中。親友のしずるに、時たまイケナイ感情を抱いてしまう。
・那智しずる:文芸部所属の三年生。一人称は「あたし」。学業優秀の上、長身でスタイルも申し分のない美少女。五年前の交通事故の後遺症で、感覚が過敏で不眠症を患っている。
・那智忍:弟クン。文芸部に入部した一年生。しずるの弟。一人称は「ボク」。しずると同様に背が高い美形男子。姉のことを異常に大事に想っている。
・藤岡淑子:国語教師で文芸部の顧問。喋らずにじっとしていさえすれば、超のつく美人。しずるの事情を知っている数少ない人物の一人。
・清水なちる:しずるのもう一つの人格。一人称は「アタシ」。
・瀬那真千留:なちる。事故で即死した運転手……のはずだが。未だもって正体不明の人物。
しずるちゃんのペンネーム『清水なちる』は、実在の人物──いや、人格だった。
しずるちゃんは、五年前に交通事故に遭って重症を負い、一度植物状態になって仕舞った。そして、半年後に目覚めた時に、自ら名乗った名前が『なちる』と言うのだ。
でも、その名前は……、
「事故で即死したトレーラーの運転手の名前じゃないかっ」
弟クンの悲鳴のような言葉に、とうとう藤岡先生は両手で耳を塞いで椅子に座り込んで仕舞った。
きっと、誰もがその事実を知りながら、「嘘だ、嘘だ」と呪文のように唱えてきたのだろう。
だが、弟クンの言った事は本当の事なのだろうか?
「ねえ、弟クン。『なちる』って言うのが死んだ運転手の名前だって言う事は、しずるちゃんは『なちる』って人に憑依されたって事? そんなオカルトみたいな話、信じられないよ」
文芸部のくせにオカルトやファンタジーっ気の無いわたしは、改めて弟クンに尋ねてみた。
「運転手の名前──というより、彼女の通称が『なちる』だったと言うのは本当だ。本名は、……本名は『瀬那真千留』と言うらしい。呼び難い所為だろう、仕事仲間の間では『なちる』で通っていたそうだ」
そう応えたのは、首を項垂れた藤岡先生だった。
「……そうだ……って、なんか曖昧ですね。何か、問題でもあるんですか?」
わたしが改めて先生の方へ顔を向けると、彼女は、一瞬、ビクッと身体を震わせた。
「け、警察の調査では『そういう事になっている』と聞かされた。しかし……」
そこまで言って、先生は再び黙り込んで仕舞った。
「でも、それは書類上『そういう事になっている』というだけなんですよ。『瀬那真千留』という名前も、運転免許証に記載されていただけで、これが本名かどうかも怪しいんです。しかも、彼女も、『事故の数年前に突然現れた』って事までしか分かっていません。そうでしたよね、先生」
弟クンの声は、逆に冷静だった。奇妙とは言え、事実を受け入れているからだろうか。
しかし、彼に確認を求められた藤岡先生は、未だ顔を上げることが出来なかった。
「そうだ。そうだよ。私も、警察でそう聞かされたからな。世界でも珍しいくらいの平和な日本の治安を支えている警察の捜査陣も、間違いなど起こりようのない電子システムも、『瀬那真千留』の過去を洗い出す事が出来なかったんだよ。彼女は突然に現れ、戸籍も住民票も、運転免許証やパスポートさえ偽造して、この世界の住人に紛れた。そして、事故の後、忽然と消えた。私の知っているのは、その程度の事さ」
そこまで応えると、先生はやっと顔を上げた。しかし、その表情には、諦めと自嘲が見て取れた。
藤岡先生は、なちる=しずるちゃんの、そういった過去を抱えて、高校に入学してから三年生になるまでの彼女を見守ってきたのだろう。しかし、そんな事って、本当にあるんだろうか?
「先生、今、消えたって……。でも、『なちる』は、事故を起こした時に即死したんでしょう。そう言ってましたよね」
藤岡先生のおかしな表現に、わたしは何か引っかかるところがあった。
「…………」
だが、先生は、それ以上を応えようとはしなかった。
「文字通り、『消えた』んですよ。死体も何もかも、消えて無くなったんです」
代わりに弟クンが応えたが、わたしにはその意味がよく理解出来なかった。
「どゆことなの?」
確認するように、今度は彼の方に顔を向ける。
「検屍のために警察病院に保管されていた『なちる』の死体が、いつの間にか消失していたんです。気づいたのは、姉さんが──いえ、『なちる』が目を覚ました丁度翌日。そして、同時期に、県警に保管されていた、遺留品などの証拠物件も、消えて無くなっていたんだとか。後に残ったのは、紙に書かれた報告書と、関係者の曖昧な記憶だけでした」
弟クンの話は、とてもオカルトチックで、すぐには信じられないような話だった。
「ええっと、と言う事は……、『なちる』って名乗っていた女の人 (の死体だけど)が消えちゃって、代わりにしずるちゃんの身体で蘇った? ……って事なの。そんなの信じられないよ。だって、それじゃあ、今のしずるちゃんは誰? 『なちる』が、しずるちゃんの振りをしてるの? 弟クンの言ってるように、しずるちゃんは、『なちる』の生み出した疑似人格って事?」
わたしは、しずるちゃんと一緒のクラスで授業を受けたりしてきた先月までの高校生活を、夢や幻にしたく無かった。違うって、言って欲しかった。でも、弟クンの応えは非情だった。
「その通りですよ、岡本センパイ。本当の姉さんは、あの事故の時に死んで仕舞ったんだ。脳神経が壊死して仕舞って、自分では呼吸も出来なくて。それは、ただただ心臓が動いているだけの存在になって仕舞ったんだ。そんな姉さんが、元通りに脳細胞が修復されて生き返ったなんて、その方がおかしいでしょう。『なちる』が……、あの魔女がやったんだ。自分が復活する為に。だから、脳細胞の再生直後なら、記憶どころかシナプスの結合もリセットされていた筈なのに、ボクを見て、言葉を話せて……。それから、『なちる』って名乗って。それから、ボクを隸にしたんだ」
そう言った弟クンは、またさっきのような泣き笑いのような奇妙な表情を見せた。
「現代医学の常識しか知らない医者も、生きている人間しか裁けない司法も警察にも、ボク達の事なんて解る筈が無いんだ。ねっ、そう思いますよね、岡本センパイ」
弟クンの、吐き出すような言葉に、わたしは何を言ってあげればいいのか分からないでいた。
(弟クンは事故の当事者だし、しずるちゃんの弟だし、しずるちゃんが意識を取り戻した時の第一発見者だし。でも、当時は未だ小学生だった……。だから、きっと、ゲームやネットの世界と、現実とがゴッチャになってるんだ。そうに違いない。……藤岡先生!? 藤岡先生なら、もっと冷静に事実を理解出来ている筈。そうじゃなきゃ……)
「先生。藤岡先生は、そんな事、信じられるんですか? そんな小説の中みたいな事、有り得ませんよ。そうですよね」
わたしは、放心したように椅子に腰掛けた先生に、改めて訊き直した。しかし、ゆっくりと顔を上げてわたしの方を向いた彼女の顔は、すごく窶れたように見えた。そして、その口から漏れ出た言葉はというと、
「残っている限りの記録や証言、警察や医師,中学校の担当教諭から聞かされた事や、今日の那智の事を考えると、そう思うしか無いだろう。……ハハ。私も、最初は信じてなんかいなかったさ。そうだな……、そういえば、引き継ぎの時に会った中学の教諭は、幽霊のような顔をしていたっけ。……なぁ、千夏っちゃん。今、私はどんな風に見える。なぁ、千夏っちゃんよお」
それを聞いて、わたしが見えた通りの事を、藤岡先生に話せる筈も無かった。
藤岡先生が会ってきた中学校の先生も、きっと同じ顔をしていただろうことは、わたしにでも、容易に分かった。
でも、それじゃぁ、しずるちゃんは? わたしとお話したり、お茶飲んだり、……一緒に合コンに行ったり、文化祭に参加したしずるちゃんは、誰なの?
「そんなのって、分かんないよ。しずるちゃんは、しずるちゃんだよ。脳みそが作り直されたって言うかも知れないけれど、少なくともわたしが友達として接してきた彼女は、確かに心を持ったしずるちゃんだったよ。それを今更、『アレは幻影に過ぎない』なんて言われても、わたしには理解んないよ」
わたしは、医学的な事や、生物学的な事なんて、よく知らない。心や自我がどうだとか、哲学的な事も、難しくてよく分からない。でも、絶対、しずるちゃんはしずるちゃんだ。
わたしの考えは、小さな子供のようなモノなのかも知れない。でも、現実がどうあれ、わたしの心が受け付けられない。
そんなわたしの思いに、弟クンは冷淡にこう問い掛けてきたのだ
「岡本センパイ。『チューリングテスト』って、知ってますか」
その言葉には、わたしを値踏みするような、そんな雰囲気が感じられた。
「ちゅ、ちゅーり……りん、ぐぅ? 何なのそれ、いきなり」
わたしには解らない、どこか遠くの国の単語だ。それでだろう、答えは藤岡先生の口から出て来た。
「アラン・チューリングの事だな」
(アラン・チュ……。って、人の名前なんだ。唐突に何言い出すんだよ、弟クンは)
わたしが、憮然としていると、先生は続きを話し始めた。
「チューリングってのは、近代的なコンピュータの基礎理論の発展に貢献した人物の一人さ。チューリングテストは、彼の考えた『人工知能に関する実験問題』だよ」
さっきまで俯きがちだった藤岡先生は、少し真面目な顔に戻ると、わたしの方を向いた。
「ある機械と会話して、それが人間なのか、人工知能なのか区別出来るかどうか? っていう実験を考えたのがアラン・チューリングってヤツさ。はぁ、頭の良い人間は、色々と難しい事を考えてくれるよ。お陰で、私等のような凡人は、苦労しっぱなしだよな」
そう言って、彼女は肩をすくめた。
「そうです。厳密には、色々と実験条件がありますけれど。……岡本センパイ」
弟クンはそう言って、わたしに再度話し掛けた。
「な、なに? 弟クン」
何を訊かれるのか分からないが、わたしは彼に対して身構えた。
「岡本センパイは、姉さんと、スマホでメールのやり取りやチャットしたりしていましたよね」
弟クンに訊かれたのは、そんな何でも無いような事だった。
「うん。やった事あるよ、何回も。LINEのチャットだけじゃなくって、お電話でお話した事もあるよ」
彼は、わたしとしずるちゃんの親密さを秤にでもかけようとしてるのだろうか? そんなんで、しずるちゃんとの仲を崩せると思うなよ。
そんな事を思っていたわたしだが、弟クンはビックリするような事を言い始めた。
「電話でもLINEでも構いません。スマホの向こうで岡本センパイに応えている『姉さん』が、『本当に姉さんかどうか』を、センパイは確実に判断出来ますか?」
「え……?」
彼にそんな事を言われて、わたしは咄嗟には返す言葉が無かった。
「そう言う事だよ、千夏っちゃん。チューリングテストっていうのは、そんな風に相手の顔が見えない状態で、スマホやパソコン越しに会話しているのが人間なのか、それとも機械知性なのかを判別出来るか? って言う問題さ。勿論、会話する機械は、可能な限り人間らしく応える事が出来るようにプログラミングされているけどね」
国語教師である筈の藤岡先生にしてはやけに詳しいな、とわたしは思った。それに呼応するように、弟クンが続きを喋りだした。
「顔が見えていても同じです。画面に映っていればCG画像を、対面しているなら人造人間の表情を人間そっくりに変化させるようなプログラムを追加するだけですから。岡本センパイは、話している相手が、本当に心を持った姉さんなのか、心を持たない人工知能が姉さんの振りをしているだけなのか、確実に判別出来るって言うんですか? 因みに、チューリングテストについては、彼が論文を発表した後も研究が進められ、機械知性が人間を騙せる事が、結果で示されています。センパイ、岡本センパイは、どう思いますか?」
「っぐ…………」
挑むような彼の言葉に、わたしは息を詰まらせた。
(LINEだと、スマホの向こうからしずるちゃんの打った文字が返ってくるだけだよね。わたしも、それに言葉を入力して応えているし。文字だけのやり取りで、相手がしずるちゃんか機械かだなんて……。いいえ、もしかしたら、しずるちゃんじゃない別の人が、相手なのかも知れないけど……)
「でも、……スマホ越しでも、しずるちゃんはしずるちゃんだったよ。わたしとしずるちゃんしか知らない筈の秘密や話題だってあったんだから」
わたしは、少し自信が無かったが、何とか彼に負けないようにと、そう応えた。
「でも、岡本センパイ。センパイが姉さんと会った最初から、『ソレ』が偽物だったとしたらどうです。秘密も何もかも、『ソレ』は最初から知っていたんだとしたら。どうですか、センパイ」
「…………」
またしても、わたしは沈黙して仕舞った。
(そうか……。最初から偽物だったとしたら……か。そ、そんなの判んないよぉ)
「わ、わたし、バカだから……っ、だ、騙されちゃうかも知れない。スマホ越しどころか、目の前でお話していても、それが本物のしずるちゃんなのか、弟クンの言うように、『なちる』がしずるちゃんの振りをしているだけなのか、区別出来ないかも知れない……」
わたしには、彼に反論出来るだけの知識も智慧も持ち合わせていなかった。
たかが高校に入りたての一年坊主に、良いように言われている。
「ですよね。ボク達がよく知っている大好きだった姉さんは、本当はもうこの世に居ないんです。ここにいるのは、姉さんの肉体を使って蘇った『なちる』なんです。アレは、『なちる』がボク達を騙すために創り上げた姉さんのように振る舞う『疑似人格』に過ぎないんですよ。解りましたか、岡本センパイ。アレは、本物の那智しずるじゃ無いんです」
皮肉にも、しずるちゃんそっくりのキッという強い眼差しで、彼はそうわたしに言い下した。
(でも……。でも、それでも)
「確かに、わたしは騙されているのかも知れない。わたしが最初に出会ったのは、弟クンの知っている交通事故に遭う前までのしずるちゃんじゃ無くって、それからずっと後──高校生になってからのしずるちゃんだもの。だ、だから……、それが擬物だったとしても、区別する方法なんて無い……よ」
わたしは、目の前の弟クンに、力無くそう応えることしか出来なかった。
「そうでしょうね。岡本センパイには、高校に上がってからの付き合いしか無いんですから。でも、ボク等は違う。ボクは、『せめて姉さんの身体だけでも守れれば』と思っています。それは、姉さんが遺してくれた数少ない遺産の一つだから……。ボクは、そのためなら何でもしますよ。岡本センパイが姉さんを傷つけるのなら、全力で排除します。例の『あの男』だって……。姉さんを守れるのは、ボクだけなんだから……」
そう言う弟クンの顔は、またしても、あの奇妙な表情を見せた。
(うう……。そなのかな? ホントに、そなの? しずるちゃんには、ホントはしずるちゃんの意識や心なんて無くって。……『なちる』っていう得体の知れない存在の創り出した、見せかけの人格なの? それって……、それって……。それでも。それでも!)
「それでも、しずるちゃんは、しずるちゃんだよ。確かに、わたしは小さい頃のしずるちゃんを知らない。わたしの出会ったしずるちゃんは、最初から偽物だったのかも知れない。……でも、……でも、やっぱり、しずるちゃんには、しずるちゃんの心が在るんだと思う。しずるちゃんの意識が──人格が在るんだと思って仕舞う。わたし、バカだから。そういう風に見えちゃったら、そう信じちゃうから」
論理的には、学問的には、きっと弟クンの言っている事が正しいんだろう。
でも、わたしには、しずるちゃんが──わたしの大事な友達が、笑ったり、怒ったり、一緒にお話したり。……それから、好きな男性にドキドキしたりしていたのが、見せかけのモノなんて理解出来ない。いいえ、そんなの理解したくない。
「やっぱり、わたしは、しずるちゃんには心が在るって思う。だって、しずるちゃんの姿をして、しずるちゃんの言葉で泣いたり笑ったりしているのに、そこに心が無いなんて悲し過ぎるよ。バカだって思われてもいい。見せかけに騙されてるって言われてもいいよ。そこにしずるちゃんの心が在るようにわたしが感じるなら、きっとそれは在るんだよ。やっぱり、わたしにとっては、しずるちゃんは生きてそこに居る紛れもない一人の女の子なんだ。他の誰が──たとえ血の繋がった弟クンが違うって言っても、わたしは、そう信じたい。……だ、だって……、だって、しずるちゃんは、わたしの大事な親友だから」
そう言い切ったわたしは、大きく肩で息をしていた。でも、今度こそは負けたりなんかしないように、瞬きも忘れてジッと弟クンを睨みつけていた。
すると、どうだろう。今まで奇妙な表情を見せていた弟クンの顔が、急にほころんだのだ。
「全く、岡本センパイったら……。本当に姉さんが言ってた通りの人だ。安心しましたよ」
そう言った彼は、今まで背負っていた重い荷物を降ろして、肩が軽くなっているかのように見えた。
「え? えっとぉ……、それって、どゆこと? かなぁ」
この展開に、頭の回転がニブイわたしは、着いていけなかった。
「つまり、合格って事だな」
呆けているわたしに、藤岡先生はそう声をかけてくれた。
「合格? って、わたし、今まで試されてたの?」
言葉通りに受け取れば、そう言う事になる。むぅ。
「そうだな。所謂、『しずるテスト』とでも言うのかな」
椅子に座っている先生は、ベッドの端で頬杖をついていた。
「うう。もうっ、二人して、わたしの事をからかってたんですね。ヒドイよ、むぅぅぅ」
あまりの仕打ちに、わたしは頬を膨らませていた。
「ごめんなさい、岡本センパイ。でも、センパイを試すつもりなんて無かったんですよ。ここでボクの話した事は、紛れもない事実です。でも、姉さんの存在が見せかけのモノであっても、ボクだって姉さんには姉さんの自我意識がちゃんと存在してるんだって思いたかった。姉さんは死んでなんかいないって信じたい。小さい頃に遊んでくれた姉さんが、今も生き続けているんだって。でも、そのたんびに『なちる』が現れて、ボクは現実を思い知らされて来ました」
そう言って、彼は大きな溜息を吐いた。
「ボクは勘違いをしてたんです。今、やっと分かりました。今の姉さんが、子供の頃の姉さんじゃ無かったとしても、その女性は、紛れもなくボクの姉さんなんだ。それで良いんだ。そう思って良いんだって。……なんだ、こんなにも簡単な事だったなんて……。ボクは、今まで一体何をしてきたんだろう……」
弟クンは、何か重苦しいモノが吹っ切れたような、そんな感じだった。身体から力みが消えて、リラックスしているように見えた。
そんな彼は、未だ静かに寝息を立てている姉の顔を、さっきとは違う、優しい目で見守っているように思えた。




