新入部員勧誘(8)
◆登場人物◆
・岡本千夏:高校三年生、文芸部部長。一人称は「わたし」。ちょっと舌足らずな喋り方の小柄な女の子。入学してきた新一年生の勧誘活動中。
・那智しずる:文芸部所属の三年生。一人称は「あたし」。人嫌いで有名だが、学業優秀の上、長身でスタイルも申し分のない美少女。本人は静かな生活を望んでいたが、舞衣の暗躍の所為で、今では学園のアイドル的存在に。
・高橋舞衣:舞衣ちゃん。文芸部の二年生。一人称は「あっし」。身長138cmの幼児体型。変態ヲタク少女にして守銭奴。毎度毎度、しずるをダシにしては金儲けを企んできた。しずるの平穏を乱す存在。
・里見大作:大ちゃん。二年生で千夏の彼氏。一人称は「僕」。2mを越す巨漢だが、根は優しいのんびり屋さん。千夏に首ったけ。
・西条久美:久美ちゃん。高校二年生、双子の姉。一人称は「私」。おっとりした喋り方の可愛らしい女の子。髪の毛は左で結んでいる。
・西条美久:美久ちゃん。二年生、双子の妹。一人称は「私」。おっとりした喋り方の可愛らしい女の子。髪の毛は右で結んでいる。
・那智忍:弟クン。文芸部に入部した一年生。しずるの弟。一人称は「ボク」。幼馴染み達からは「シノブ」と呼ばれている。しずると同様に背が高い美形男子。
・望月泰平:泰平クン。忍の同級生で那智姉弟の幼馴染み。一人称は「ぼく」。忍達からは「タイヘイ」と呼ばれている。しずるに憧れて入部した。ある意味、最も普通の人。
・雨宮咲夜:サクヤ。忍の同級生で那智姉弟の幼馴染み。一人称は「サクヤ」。吹奏楽部員。強烈な肺活量と漢前な言動が特徴の女子。文芸部へは忍の付添いでやってきた。
放課後の図書準備室。わたしは、テーブルの上を綺麗に片付けて、布巾で拭いていた。
これから、入部希望の一年生達が来る筈なのだ。綺麗にしておくに越したことはない。
しずるちゃんと舞衣ちゃんは、パソコンやさーばー?──実はこれが何なのか未だに理解できないんだけれど──の周辺の片付けをしている。
大ちゃんは、戸棚の上の整理や、カーテンレールの上の埃取りなんかをしてくれていた。しずるちゃんならまだしも、わたしを含めて他の部員では届かないからだ。
その代わり、低いところを久美ちゃんと美久ちゃんとで、協力して片付けてくれていた。
「さぁて、こんなところかな。部室、綺麗になったね。皆、ありがと」
わたしは、適当なところで片付けタイムを切り上げた。掃除の最中に入部希望者がやって来るなんて事があったら、恥ずかしいし。
「うぃー。頑張ったっす。千夏部長、一休みさせてもらうっすよ」
舞衣ちゃんも、部室の隅に鎮座している電子機器類のメンテが終わったのだろう。しずるちゃんと一緒にテーブルまでやって来ると、適当な椅子にドッカと腰を下ろした。
「一年生、いっぱい来てくれると良いですねぇ」
「そうだと良いですねぇ」
久美ちゃん達も片付けが一段落したのか、そろってテーブルまでやって来た。
その後に続くのが大ちゃんだ。
「あ、そだ。大ちゃん、お願いがあるんだけど。いかな?」
わたしは、身長二メートルオーバーの巨体に声をかけた。彼は、立ち止まり、その場でコクリと頷いた。
「あのね、ちょっと申し訳ないんだけど、部で作った文集を何冊か持って来てくれないかな? やって来た一年生に読んでもらおうと思って」
わたしの言葉を理解したのか、彼はもう一度頷くと、壁際の本棚へ向かった。その間に、わたしは洗い物を片付けようと、シンクの前へ移動した。
しばらくコップとかを洗っていると、
<コンコン>
と、扉を誰かがノックする音が聞こえた。お客さんだ。
「はぁーい。誰か応対してぇ」
シンクで洗い物をしていたわたしは、部員達に声をかけた。
「はぁい。私達が出ますぅ」
「入部希望者ですかねぇ。楽しみなのですぅ」
わたしの声に応えたのは、双子の西条姉妹──久美ちゃんと美久ちゃんだった。
二人して椅子から立ち上がると、タタタと出入り口の扉へと小走りで駆けて行った。鏡対象に結ったサイドポニーの房が、ぴょんぴょんと跳ねる。
「はぁい。どなたでしょうかぁ」
「文芸部にようこそなのですぅ」
扉を開けてそう言う久美ちゃんと美久ちゃんの前には、三人の男女が立っていた。
「あ、……えと」
最初、来訪者達は、同じ顔が二人並んでいるのに驚いているようだった。
「何のご用ですかぁ」
「入部の希望ですかぁ」
『仮入部も大歓迎ですぅ』
二人揃っての歓迎の挨拶に、彼等はますます困惑したようだった。
「ふ、双子だ」
「凄いな。おんなじ顔してる」
その声を聞いて、椅子から立ち上がった者がいた。
「あら、忍クン。遅かったのね。姉さん、いつ来るのかと思って、ドキドキしていたのよ」
いつもの彼女とは思えない朗らかな声に、入口の西条姉妹も驚いているようだった。いや、もしかしたら、彼女達を驚かしたのは、その内容だったのかも知れない。
「えっ。もしかして、しずる先輩の弟さんですかぁ?」
「そう言えば、美形さんなのですぅ」
「背も高いのですぅ」
『一年生なのに、カッコイイのですぅ』
口々に賞賛され、弟クンは困っているようだった。
「忍クン。何をしているの。さっさと入って来なさい」
図書準備室の入口で皆が塊っているので、しずるちゃんはそう声をかけた。
「あ、ごめんなさいなのですぅ」
「私達が入口を塞いでいましたわぁ」
久美ちゃんと美久ちゃんは、そう言って扉をいっぱいに開け放した。そして二人は、
「さぁ、どうぞ、文芸部へ」
「遠慮なく、中に入って下さいませぇ」
と、一年生達を部室に招き入れた。
「失礼します」
と、一言言って、弟クンを先頭にして三人は室内に足を踏み入れた。
えっ? 三人? 数が合わない。誰か一緒に着いて来たのかな。
わたしは、近くにかけてあったタオルで両手を拭くと、出入り口の方へと歩いて行った。そこに立っていた男女の中には、新校舎で会った事のある顔が二つあった。そうじゃない男子は誰だ?
疑問を持ちつつも、わたしは彼等のところへ近寄った。
「うわぁ、来てくれたんだ。嬉しいよ。文芸部へようこそ、弟クン。それから、あなたは確か……」
わたしが弟クンの隣にちょこんと立っている小柄な女の子の顔を見た。すると、
「サクヤだよ。サクヤは、シノブの幼馴染みでクラスメイトなんだ」
と、快活な少女は、自分の存在を主張するように応えた。
「そだったね。雨宮咲夜ちゃんだったよね。咲夜ちゃんも、文芸部に入る事にしたの?」
わたしは、弟クンに着いて来た彼女に、そう尋ねた。
「違うよ。サクヤは吹部に入るんだ。今日は、シノブの付き添いだよ」
何にでも興味を持ちそうなクリクリとした大きな瞳が、わたしを見返している。
「そなんだ。で、……えっとぉ、三人目の君は?」
ようやくわたしは本題に辿り着くと、三人目の男子に名前を訊いた。
彼は、ピシッと背筋を伸ばすと、こう言った。
「ぼくは、望月泰平と言います。ぼくも、シノブの幼馴染みで、クラスメイトです」
そっか。そなんだ。……と言う事は、
「それじゃあ、しずるちゃんとも幼馴染みなの?」
って事だよね。すると、中肉中背の泰平クンは、
「そうです。しずる姉さんには、小さい頃、よく遊んでもらってました。しずる姉さん、覚えてますか?」
と言って、彼はしずるちゃんの方を見ると、その頬を赤らめた。
問われたしずるちゃんは、近付いて来ると、丸淵眼鏡の奥からじっと泰平クンの顔を見つめていた。彼の顔がますます赤くなる。
三分ほど見つめていたしずるちゃんは、「ああ」という顔をして、右拳を手の平に打ち付けた。どうやら思い出したようだ。
「あなた……、泰平クン? いじめられっ子の。そう言えば、よく公園で泣かされていたわよねぇ」
何だかヒドイ思い出話だな。それは、彼にも同様だったらしい。
「しずる姉さん、それはヒドイなあ。ぼくは、もういじめられっ子じゃないですよ」
そう言って、不満げな顔をしたものの、彼は顔を赤らめたままだった。
「ああ、ごめん。ごめんなさい。でも、皆、大きくなったわよねぇ。昔はあんなに小さかったのに」
しずるちゃんはそう言って謝ると、懐かしさの所為か、彼等をまじまじと見ていた。
「しっかし、でっけぇなぁ、弟クンは。しずる先輩よりも、背ぇ高いっすね。身長何センチあるんすかあ?」
舞衣ちゃんもやって来て、値踏みするような目で弟クンを見上げていた。
「え……、えっと。百八十くらいかな」
彼がそう応えると、
「百七十八センチよ。去年の秋のデータだけど」
と、しずるちゃんが代わりに応えた。しかし、それを聞いた弟クンは、
「どうして、姉さんが知ってるんだよ」
と、驚いたように強い口調でしずるちゃんに訴えた。
「え、何でって……、中学校からの通知簿に書いてあったわよ」
と、しずるちゃんは何でもないように応えた。
「いや、だから、どうして姉さんが通知簿の内容を知ってるの」
先程の答えでは納得できなかったらしい。弟クンは、尚も姉につっかかっていた。
「どうしてって……、家、親が共働きじゃない。留守を預かる長姉としては、中学校からの連絡やプリントは、全て把握済みよ」
彼女は、さも当然という顔で、そう応えた。
(そなんだ。普段はしずるちゃんが最高権力者なんだな。それで、渋々だったけど、入部してくれたんだね。それに、脅迫もされてたし)
わたしがそんな事を考えている時、舞ちゃん達二年生が、一年生達を取り囲んでいた。
「身長が百八十もあるなんて、凄いですぅ」
「顔もイケメンですし、DNAの為せる技ですかねぇ」
西条姉妹は、興味深そうに弟クンを見上げていた。時々、ぴょんぴょんと飛び上がって、彼の頭頂部を触ってたりもしていた。
「髪の毛、サラサラァ」
「しずる先輩とおんなじ髪質なのですぅ」
「ええ。もういいでしょう。……先輩」
『もっと触らせて下さいませぇ』
西条姉妹も、弟クンを気に入ったようだ。
「まぁ、これであっしも、高いところにある物を入手しやすくなったっす。必要なところには、最適な物が与えられるんすねぇ」
当然これは舞衣ちゃん。もう、彼を下僕として利用する方法を考えているようだった。
皆が弟クンに夢中になっていた時、ぬぼぉーっとした低い声がした。
「で、泰平クンだったかなぁ。君は、どうして文芸部に入部したくなったのかなぁ」
高みから降って来たその声に、泰平クンは驚いたようで、
「うおっ、ビックリした。で、でけぇ」
と言って、後退りした。質問をしたのが、二メーターを越える大ちゃんだったからだ。
「大作くん。新入部員を驚かせてはダメよ。ゴメンねぇ、泰平クン。でも、入部したい理由は、姉さんも聞きたいなぁ」
と、しずるちゃんは大ちゃんに釘を刺すと、彼の返答を待った。
「え……、ええーっと。それはですね……。し、しずる姉さんと同じ部活に入りたかったからです」
(ああ、そなんだ……。彼の眼には、幼馴染みのお姉さんは、女神のように映っているに違いない。ま、実際、『K高三大女神』なんて言われてるもんな)
愛の告白にも似た彼の答えに、しずるちゃんは聖母のような笑顔を見せると、
「あら。泰平クンにそう言われて、姉さん、とっても嬉しいわ。仲良くやって行きましょうね」
と、神の声にも匹敵する言葉を彼に送ったのだ。それで、泰平クンも、
「はいっ! 頑張ります」
と、赤くなりながらも、元気に応えたのだ。
「ところで忍クン。入部届けはもう出した?」
そんな彼から、しずるちゃんは弟クンに眼を移した。
「だ、出したよ。図書準備室に来る前に、職員室に寄ったんだ」
「ぼくも、シノブと一緒に提出して来ました」
ふむ。もう提出済みか。よろしい、よろしい。
「あら、二人共お利口さんね。姉さん嬉しいわ」
入部届けを提出し終わっている事を確認したしずるちゃんは、いつもの彼女とは思えないくらいの柔らかい声と表情で、そう言った。
「あっ、そだ。皆、いつまでも立ってないで座って。自己紹介とかしよ。……えと、咲夜ちゃんは時間いいのかな」
一年生達が入って来てから、ずっと立ちっぱなしだった事に気が付いたわたしは、皆に椅子を薦めた。
「そうよね。ほら、座って座って。咲夜さんも。でもほんと、大きくなったわね。姉さんびっくり」
しずるちゃんが優しい声で話しかけると、少女は少し赤くなって両手で胸を抱いた。
「そ、そんな。サクヤ、しずる姉さんほどおっきくないし。未だ、Cカップなんだ」
「…………」
えと……、そっちの大きさ?
「こら、サクヤ。胸の大きさじゃないよ。……てか、オマエ、いつの間にそんなに大きくなったんだよ」
「し、知らなかった。サクヤって、Cだったのか……」
顔を赤くしながらも、弟クンも泰平クンも、彼女の胸に見入っていた。
「あらあら、男の子ですわねぇ」
「一年生さんでも、女子の胸は気になるのですねぇ」
『私達もCですけどぉ』
これまで女子に偏っていた性比率の所為で、文芸部の会話は女子トークになりがちであった。その余波がコレか……。
話が変な方向へ流れそうになるのを、わたしは、
「ええーと、それはいいから、座って。お茶出すから。ねっ」
と言って、断ち切ろうとした。
「おっ、そうですねい。部長のお茶は、天下一品っすよ。さあさ、一年生共、座った座った」
お茶の一言で、舞衣ちゃんも頭が切り替わったのか、皆を座らせにかかった。
「あ、はい」
「ども」
彼女の発破に、一年生達も、二年生達もテーブルについてくれた。はぅ。これで、一息つける。
「ちょっと待っててね」
わたしはそう言うと、さっき用意していた取っときの茶葉で淹れた紅茶の用意を始めた。
「あたしも手伝うわ」
そう言って、しずるちゃんも着いて来た。手際よくトレイにソーサーとティーカップを並べている。わたしが、そこに良い香りのする熱い液体を注いでいった。
「お待ちどうさま」
程なく、わたし達は用意したお茶を持ってテーブルに戻った。
「この部では、三年生がお茶の用意をするんですか?」
泰平クンが不思議そうにそう訊いた。
これって、去年も似たような事を訊かれたっけ。
「そうよ。二年生さんにも修行させてるんだけれど、千夏の域にまでは到達しなくて。忍クン、千夏に教わって、美味しいお茶を淹れられるようになってね」
ティーカップを配りながら、しずるちゃんは弟クンにそう話しかけていた。
「あ、ああ。分かったよ、姉さん」
彼の返事に、
「ほんと! 姉さん、嬉しいわ」
と、いつもと違ってニッコリと笑うしずるちゃんに、わたしと舞衣ちゃんは顔を見合わせて苦笑いをしていた。
だいたい配り終えたのを見て、わたしは大ちゃんの隣に座ると、皆を眺めた。テーブルの窓側に上級生が、反対側に三人の一年生が座っている。
わたしは、新入生達をさっと見やると、話の口火を切った。
「ようこそ、文芸部へ。わたしが部長の三年、岡本千夏です。受験があるから、あんまし面倒は見られないかもだけれど、文化祭まではなんとかするから宜しくね。……じゃぁ、次、しずるちゃん。あっ、皆、知ってるか。ま、でも一応ね。しずるちゃん、お願い」
わたしは、自己紹介をすると、バトンをしずるちゃんに渡した。
「良いわよ。あたしは、那智しずる。三年生よ。卒業式まで宜しくね」
いつになく機嫌の良いしずるちゃんの言葉に、泰平クンは少し肯いて顔を赤らめた。分かり易いなぁ、君は。
「じゃ、二年生の番ね。久美ちゃんから順番にお願い」
泰平クンの事は一旦置いといて、わたしは順番を二年生に渡した。
「えと、私は西条久美でぇす。見ての通り、妹の美久とは双子なのですぅ。普段は、分かり易いように、左側で髪を纏めてるのですぅ。宜しくですぅ」
おっとりとした久美ちゃんの自己紹介に、一年生はふんふんと頷いていた。
「私が双子の妹、西条美久ですぅ。久美とは反対側のサイドテールにしていますぅ。美久の『み』は右側の『み』で覚えて下さいねぇ」
そう、確かに去年もそう教わったよ。だけど、その『普段は』というところが曲者なんだよな。
「それで、あっしが二年生筆頭の高橋舞衣でござんす。文芸部の事で、分からないところがあったら、遠慮なく『センパイ』と呼んで教わりに来るっすよ」
舞衣ちゃんは、テーブルに両手を突いて椅子から半分立ち上がりながら、そう挨拶した。さっき新館で、中学生に間違われたのを根に持っているようだ。やけに、『センパイ』というところを強調している。
だからだろう、その事を知らない泰平クンは、弟クンと何やらボソボソとやっていた。
その時、声にならない低周波が伝わった気がした。それに気圧された一年生達は、一瞬、ピクリと肩を震わせた。
「僕は、里見大作。今年は男子が二人も増えて、嬉しいんだなぁ。……あ、それと、部長の千夏さんは僕の彼女だから、手を出しちゃダメ! なんだなぁ。君達、分かったかなぁ」
わわ、大ちゃん、こんなところで皆に話すような内容じゃないよ。わたしは、顔を赤くすると、
「大ちゃん、こんなところで……。恥ずかしいよ」
と、少し彼に抗議した。すると、
「いや、最初にちゃんと言っておかないと。だって、……だって、千夏さんはとってもカワイイから、間違って恋心を抱かれるのは、こ、困るんだなぁ。……この世から抹殺しなくちゃならなくなるんだなぁ」
さり気なく恐ろしい事を言った大ちゃんの表情は、いつもと一緒だった。しかし、その内容は伝わったようだ。弟クンも泰平クンも、蒼い顔をして何度も首を縦に振っていた。
「あ、えと。……あはは、気にしないでね。じゃ、一年生の方、自己紹介して。えと、弟クンから」
わたしは、場の空気を切り替えようと、次に進める事にした。
「えっと、ボクは一年三組の那智忍です。三年の那智しずるの弟です。どうか宜しくお願いします」
そう言って、弟クンはペコリとお辞儀をした。
「ぼくは、望月泰平です。シノブとは幼馴染で、同じクラスです。宜しくお願いしますっ」
そう言って、彼は、テーブルに額がぶつかりそうなくらいのお辞儀をした。
「サクヤはシノブの付き添いだよ。フルネームは雨宮咲夜って言うんだ。サクヤは吹部だけれど、時々遊びに来るよ。ヨロシクな」
しずるちゃんとは違った意味で鮮やかな花が咲いたような小柄な少女は、そう言ってニッコリと笑った。
「勿論だよ。皆、ここに来てくれてありがと。これから仲良くやって行こうね。……あ、そだ。お茶、冷めないうちに飲んでね」
わたしの締めの言葉が終わると、一年生もお茶に手を付け始めた。久美ちゃん達は早速立ち上がると、弟クン達の方へ行って彼の頭を触り始めた。よっぽど気に入ったらしい。
そんな中、何を考えているのか、怪しい眼差しを新入部員達に送っているのは、自称『二年生筆頭』の舞衣ちゃんだった。
何となく不安、……がわたしの胸を包んでいたが……。
まぁ、気のせいだろう。