新入部員勧誘(7)
◆登場人物◆
・岡本千夏:高校三年生、文芸部部長。一人称は「わたし」。ちょっと舌足らずな喋り方の小柄な女の子。新入生の勧誘で大忙し。
・那智しずる:文芸部所属の三年生。一人称は「あたし」。人嫌いで有名だが、学業優秀の上、長身でスタイルも申し分のない美少女。本人は静かな生活を望んでいたが、舞衣の暗躍の所為で、今では学園のアイドル的存在に。
・高橋舞衣:舞衣ちゃん。文芸部の二年生。一人称は「あっし」。身長138cmの幼児体型。変態ヲタク少女にして守銭奴。毎度毎度、しずるをダシにしては金儲けを企んできた。
・里見大作:大ちゃん。高校二年生。文芸部にただ一人の男子で、千夏の彼氏。一人称は「僕」。2mを越す巨漢だが、根は優しいのんびり屋さん。
・西条久美:久美ちゃん。高校二年生、双子の姉。一人称は「私」。おっとりした喋り方の可愛らしい女の子。髪の毛は左で結んでいる。
・西条美久:美久ちゃん。二年生、双子の妹。一人称は「私」。おっとりした喋り方の可愛らしい女の子。髪の毛は右で結んでいる。
・藤岡淑子:国語教師で文芸部の顧問。
部活動紹介のスピーチをした翌日の昼休み、わたしは図書準備室に来ていた。
お食事をしながら、今後の部員集めのための作戦を練るためだ。
「食べながらでいいから、ちょっと聞いて。今日から一年生への直接の勧誘活動が解禁になるから、具体的な作戦を考えようと思うんだ。どかな」
わたしは、中央のテーブルでお昼を食べている皆に声をかけた。
「うーん。昨日は、ビラも配ったし、千夏部長のスピーチもカッコよかったし。文集の特別号も、体育館前で配ったし。掲示板のポスターも好評だし。……うーん、後は、待ってるくらいしか考えつかないっすよ」
二年生に進級した高橋舞衣ちゃんは、自分の顔ほどもある巨大な菓子パンを噛りながら、昨日までに実施した事を確認するように挙げてくれた。
「そうね。先生達に派手な活動は止められてるから……。本当に誰も来なかったら、また頑張って、ビラ配りをしましょう」
しずるちゃんも、特にこれといった案が無さそうだ。去年と同じような事を言っている。
「まあ、ここは、しずる先輩に一肌脱いでもらって……」
「イヤよ! 絶対、脱がないからね!!」
舞衣ちゃんが言いかけた言葉を、しずるちゃんの声がかき消した。彼女は、如何にも嫌そうな顔をして、舞衣ちゃんを睨んでいた。
「先輩、別に服を脱がすわけじゃ無いっすからぁ」
パンを左手に持ったままの舞衣ちゃんは、苦笑いを浮かべていた。
「でも、他に何か良い案があるかと言えばぁ」
「ありませんからねぇ」
と、双子の久美ちゃんと美久ちゃんも、困った顔をしていた。
「そんな事を言っても、あたしは、絶対に脱ぎませんからね」
服を脱がされるのがよっぽど嫌なのか、しずるちゃんはイライラを隠しもせずにそう言うと、サンドイッチを口に運んだ。
それを見た双子ちゃん達は、互いに顔を見合わせると、こちらも苦笑いをしていた。
(はぁ、困ったなぁ。仮入部でもいいから、誰か来てくれると良いなぁ)
部長であるわたしも、待つ事しか出来ないのは、出口のない迷路みたいで、ちょっと悩んでいた。仕方がなく、しずるちゃんの方を見ると、
「なによ、千夏も。あたしだって、毎回々々頼られても困るんだから」
と、丸淵眼鏡の奥から、キッとした鋭い眼差しをわたしに送っていた。
「アハハ、ごめんね」
わたしもそう言って、苦笑いをして仕舞った。それくらい、わたし達は、しずるちゃんを頼りにしていたのだ。
「本当に、もう。いくらあたしでも、何でも出来る訳でも無いんだから……、あっ。うん。一人でいいなら、新入部員のあてがあったわ」
しずるちゃんは、わたし達の無策にいつも以上にイライラを隠せないでいたが、急に何か思い出したようにそう言うと、食べかけのサンドイッチをテーブルに置いた。
「千夏、もし放課後に時間が取れるのなら、付き合ってくれる?」
彼女は、少し真面目な顔をすると、わたしに向かってそう言った。
「えっ、ホント! 新入部員、あてがあるんだ。やっぱり、しずるちゃんはスゴイや」
ただただ無策だったわたしは、彼女の提案に乗る事に決めた。
「当番のお仕事があるんだけれど、誰かに頼んで代わってもらうよ。是非々々紹介してよ」
わたしは、椅子から立ち上がると、躊躇なくそう応えた。
「やっぱり、しずる先輩は頼りになるのですぅ」
「さすがは、『高潔な知性の女神』なのですぅ」
久美ちゃん達も、ただただしずるちゃんを賞賛するばかりだった。
「なにそれ。変な二つ名を付けないでよね」
K高三大女神の一角は、ちょっと不満げにそう言うと、もう一度サンドイッチを口に運んだ。
「何にせよ、新しい部員が来るのは嬉しい事だよ。お礼と言っちゃなんだけど、お茶を淹れ直すね」
せっかく立ち上がったので、わたしはそう言ってシンクの方へ向かった。
「ありがとう、千夏。美味しいのを頼むわ」
背中にかけられた声に、
「任せて」
と、わたしは応えると、ポットの水を沸かし直し始めた。
「千夏部長、あっしにもお茶のお代わりを下せい」
「私もお願いしますぅ」
「お願いしますぅ」
三人娘の声に、
「了解。大ちゃんも飲むよね」
と、笑顔で応えると、
「お、お願いするんだなぁー」
と、いつもののほほんとした声を返して来た。
(うん、今日から本格的に部員集めだ)
わたしは、部長としての意気込みを再確認した。
午後の授業の終わった後、わたしとしずるちゃんは、新校舎への渡り廊下を歩いていた。一年生の教室は、新校舎にあるのだ。
「しずる先輩の知り合いって、どんな子なんすかね」
わたし達の後を着いて来た舞衣ちゃんが、ふてぶてしい態度でそう言った。彼女も、下級生と言う名の下僕が入ってくるのを楽しみにしているのだと言う。
「千夏部長、今から楽しみっすね」
言葉通り、本当に楽しそうだ。
そんな舞衣ちゃんに対して、しずるちゃんは鬱陶しそうにしていた。まさか、舞衣ちゃんまで着いて来るとは思わなかったのだろう。
「えっとぉ、確か三組だと聞いてるのだけれど。……こっちね」
しずるちゃんは先に立って建物に入ると、二階への階段を登った。わたし達も続く。
「……すっごい、キレイな人」
「あれって、確か……」
「マジ! 本物だ。……あれって、噂の……」
周りで囁く一年生達の声が、否応なしに聞こえてくる。
伝え聞くところに拠ると、しずるちゃんを目当てに無理をして受験に挑戦した者も少なくないとか。
わたしは、颯爽と歩く噂の美少女の後ろ姿に見惚れながらも、自分達が注目の的になっているのが少し恥ずかしかった。
「あ、あった。ここね。……えーと、どこかしら?」
しずるちゃんは目的の教室を見つけると、開いたままの教室の戸から中を覗いていた。
「あ、ちょっとよろしいかしら」
彼女は、手近な女子を見つけて、そう声をかけた。
「あ、はい。なんでし……」
お下げの彼女は、そこまで言って、「ほぅ」と頬を染めた。しずるちゃんに見惚れて仕舞ったのである。
「あ、……えーと、ちょっと、よろしいかしら」
再度、しずるちゃんは彼女に声をかけた。
「あ、はい。すいません。な、な、何でしょうか」
彼女は、上ずった声でようやっと返事をした。
「えっとぉ、忍クン、居るかしら。ちょっと呼んで欲しいのだけれど」
しずるちゃんは、そう言って誰かを呼び出そうとしていた。
「え? しのぶくん? えーっとぉ、そんな人、居たっけ? ……えっと、どうしよう」
質問をされた少女が困っていると、それを見かねたのか、もう一人の女子が近付いて来て、声をかけて来た。
「しずる姉さんじゃないですか。しばらく振りです」
小柄な少女は、パッツンに切り揃えた前髪を揺らしながら、そう言っていた。何にでも好奇心を持ちそうな、クリクリした大きな瞳が特徴的だった。
「あ、えーと、……あなたは? 誰でしたっけ?」
自分でやって来ておいて、しずるちゃんは、そんなあやふやな返事をした。
「サクヤの事、忘れちゃったんですか。小学校の時、よく遊んでもらってた、サクヤですよ」
快活そうな少女は、両手の拳を上げ下げしながら、そう訴えていた。
「あっ。確か……、公園隣の団地の咲夜ちゃん! わぁ、大っきくなったわね。お久し振り」
しずるちゃんは、やっと彼女のことを思い出したのか、そう言って少女に近付いた。
「雨宮さん、……この人、知ってるの?」
先程の女子が、少し驚いたように、突然表れたクラスメイトに質問をしていた。
「うん、しずる姉さんはサクヤの幼馴染だよ。ね、しずる姉さん」
サクヤと称する娘は、ハキハキとそう応えていた。
「咲夜ちゃんも、うちの高校に入ったんだ。へえ、そうなんだ。懐かしいわね」
「はい。入っちゃいました。で、しずる姉さんは、サクヤに何のご用ですか?」
彼女は、しずるちゃんが自分に会いに来たのだと思ったようだ。長身のしずるちゃんを見上げて、その返事をワクワクして待っているように見える。
「えっと、そうだ。忍クン、呼んでくれないかしら。確か、三組だって聞いていたんだけれど」
しずるちゃんの言葉を聞いて、サクヤはちょっと首を傾げると、
「シノブ? ああ、居るよ。サクヤが呼んで来てあげる」
と言って、クルリと半回転すると、澄んだ声でこう言った。
「シノブー! お呼びだよー。こっち来てぇー」
「う、うわぁ……」
わたしは、その声量の大きさに脳みそが揺さぶられた様に感じて、思わず耳を押さえた。
それは、先程のお下げの一年生も同じだった様で、わたしと同様に耳を塞いでいた。
「何やってんだよー! シノブー、早く来いよぉー」
またしても、サクヤのよく通る声が教室に響いた。
「何だよ、大きな声で。ちゃんと聞こえているよ」
すると、教室の一番後ろから、そんな返事があった。声変わりを終えたものの、男性としては少し高めの音程だった。
「おー、シノブ。早く来いよ。お客さんだよー」
「うるっせーよ。分かったよ。ちょっと待ってよ。今、行くから」
迷惑そうなその声の主は、教室の中央を通って、こっちに向かって来るところだった。
背の高い彼は、黒い詰襟のホックをキチンと止めていた。整った顔立ちは、イケメンと言うか、やや中性的で、凄く魅力的と言えた。言葉遣いや性格は分からないが、外見だけなら、女子が放っておかないだろう。
教室の前までやって来た彼は、教卓の前で何気なくこちらを向くと、一瞬、動きを止めた。
「何してるんだよ、シノブ。こっち来いよ」
それを見たサクヤは、ズカズカと彼に近づくと、その手を捕まえた。
「何するんだよ、サクヤ」
抵抗する彼に、
「折角、サクヤが呼んでやったんだ。さっさと来いよ、シノブ」
と言って、彼女は、彼を無理矢理に引きずって来ようとしていた。
「やだよ。なんで、姉さんが一年生の教室になんて居るんだよ」
シノブと呼ばれた男子は、明らかに嫌がっていた。
「あら、お言葉ね、忍クン。折角、姉さんが来てあげたのに、それは無いでしょう」
しずるちゃんは、そんな彼に涼し気な声でそう言うと、教室の中に入り込んだ。そのまま、教卓の前まで進むと、彼と対峙した。二人が並ぶと、彼の方が背が高い。女子の中では長身のしずるちゃんを越すほどなので、身長180センチほどにはなろう。
「何しに来たんだよ、姉さん。恥ずかしいだろ」
サクヤに捕まったままの彼は、逃げ場を失って、しずるちゃんから顔を背けていた。
今一度、二人を見ると、どことなく雰囲気と言うか、面影が似ている。
「しずるちゃん。もしかして、その男の子……」
わたしがそう言いかけると、
「そうよ。この子は那智忍。あたしの弟よ」
と、さらりと応えた。
「えー! 弟っ!」
その言葉に、わたしはビックリした。確かに弟さんが居るとは聞いていたけれど、今年高校進学だとは聞いていたけれど、うちの高校だったとは。
「へー、しずる先輩の弟クンなんだ。道理で、美形でイケメンな筈っす」
舞衣ちゃんも興味深そうに、件の弟クンを値踏みするように見つめていた。
「何なんだよ。何の用なんだよ。用が無いなら帰ってよ」
彼は、そっぽを向いたまま、そう言っていた。
「んーとね、勧誘よ。忍クン、文芸部に入りなさい」
一見優しいが、否を言わせない絶対的な命令。そんな感じで、しずるちゃんは弟クンにそう言った。
「え? ええ! 文芸部に入れって……、やだよ、ボク。部活くらい、自分で決めるよ」
弟クンは、しずるちゃんの命令に驚くと、こっちの方を見た。
「大丈夫よ、忍クン。ほら、入部届けだって、もう書いてあるし」
しずるちゃんはそう言って、左手を上げた。指の間には紙切れが挟まっている。
「何、勝手に書いているんだよ。姉さんだからって、横暴だよ」
それを見た弟クンは、当然の如くそう反駁した。
「ふーん。シノブは文芸部に入るんだ。良いなぁ」
そんな弟クンの気持ちを全く汲み取ることもなく、サクヤは羨望の眼差しで彼を見上げていた。
「入らないよ、ボクは。そんなに言うんだったら、サクヤが文芸部に入れば良いじゃないか」
当然の反論に、彼女は不思議そうな顔をして、こう応えた。
「え? なんで? サクヤは吹部に入るから、文芸部には入れないよ」
サクヤは、「弟クンの言う事が理解できない」という顔をしていた。
ある意味、この娘も奇妙ではあった。
「そうなんだ。咲夜ちゃんは、吹奏楽部に入るのね」
しずるちゃんが、彼女に親しみを込めた声でそう言った。
「はい。トランペットを吹くんですよ」
サクヤは、これ以上無いくらいの満面の笑みを浮かべると、しずるちゃんに応えていた。
吹奏楽かぁ。それであの声──肺活量なんだな。何となくわたしは納得してしまった。
「まぁ、そういう事だから。この入部届けは、忍クンに渡しておくから。後で職員室に寄って、先生に提出しなさい」
しずるちゃんは、恐ろしいくらいの笑顔を浮かべると、弟クンの手に入部届けを渡そうとした。
「だから、ボク、入らないって言ってるだろう。要らないよ、こんなの」
思春期の美少年は、顔を赤らめながら精一杯の虚勢を張っていた。
「あら、忍クン。姉さんの言う事が聞けないっていうの……」
そんな彼に、しずるちゃんはそう言って近付くと、耳元でヒソヒソと何かを囁いた。
眼鏡の奥の目が、ゾッとするような冷たい光を放っている。
「……っ。卑怯だぞ、姉さん。そんな事……」
弟クンの顔が真っ赤になった。
「忍クン。姉さんのお願いよ。文芸部に入ってくれるわよね」
しずるちゃんの顔は相変わらずにこやかであったが、弟に『お願い』をする姉の顔では無かった。
「っ。分かったよ。入ればいいんだろ、文芸部に」
姉の脅迫に完敗した弟は、そう言って入部届けを引ったくった。
「ありがとう、忍クン。姉さん嬉しいわ、忍クンが入部してくれて。じゃぁ、紹介しておくわね。こちら、文芸部の部長の岡本千夏さんよ」
しずるちゃんの紹介に、わたしはちょっとオドオドしたものの、弟クンに名乗った。
「あ、部長の岡本です。宜しくね、弟クン」
わたしは、そう言って右手を出した。それに対して彼は、照れているのか、赤くなってそっぽを向いていた。
「コラ! 上級生に対して失礼でしょう。ほら忍クン、ちゃんとご挨拶なさい」
如何にもお姉さんという調子で、しずるちゃんは弟クンを嗜めた。
「あ、那智……忍です」
彼は小さな声でそう言っただけだった。
「もう、シノブは恥ずかしがり屋だな。すいません、岡本先輩。シノブは昔から人見知りだったんです」
快活にそう言ったサクヤは、カッカッカと笑っていた。
よくよく見るとかなりの美少女なのに、サクヤは残念なくらい漢前であった。
「っ、サクヤ。変な事、言うなよ。ボクは人見知りじゃ無い。っつ」
防戦一方の弟クンは、反駁をしたものの、しずるちゃんの手刀で頭を叩かれていた。
「何するんだよ、姉さん」
「女の子には優しくする事。姉さん、いつも、そう言っているわよね」
「サクヤは、ボクの女の子のカテゴリーには入ってない」
「そうだな。サクヤは誰でもないサクヤだ。女の子という言葉では一括には出来ないのだ」
サクヤは、如何にも元気一杯という声でそう言うと、またしてもアハハと笑い飛ばしていた。
(変わった子達だなぁ)
わたしが呆れていると、
「先輩方、誰かぁ忘れちゃあいませんかい」
と、声をかける者が居た。舞衣ちゃんである。さすがの彼女も、姉弟の対決と、個性の強いサクヤに霞んで、出る幕が無かったのだ。
「あっ、ごめんね。えっと、こっちが高橋舞衣ちゃん。おんなじ文芸部だよ」
わたしが紹介すると、弟クンは、
「え? ここって、中高一貫じゃ無いよね。何で中学生が居るの?」
と不躾に言った。それ、言っちゃイケナイ事だよ。
「ちがーう。先輩に対して失礼な一年生っすね。あっしは、文芸部二年生の高橋舞衣っす。これからキリキリ働いてもらうっすからね、弟クン」
「えー! 先輩って、二年生って、……中学二年生じゃなくてぇ。ったぁ」
またしても、しずるちゃんのチョップが弟クンに振り下ろされた。
「忍クン。先輩に対して、態度悪いわよ。姉さんに恥をかかせないで」
「そおっす、そおっす。あっしの事は、ちゃんと『先輩』って呼ぶっすよ。分かったっすね、弟クン」
そう言って精一杯平らな胸を張っている舞衣ちゃんを見下ろしながら、
「わ、分かったよ。えーと、センパイ」
と、彼は渋々と応えていた。
「よく出来たわね、忍クン。姉さん嬉しいわ。文芸部の部室は図書準備室なのよ。姉さん達、先に行くから、後で顔を出してね」
しずるちゃんは、にっこりと微笑みながら、少し背伸びをして弟クンの頭をいい子いい子していた。
(はぁ……。今年も縁故採用かぁ。まっ、部員一人確保できたけどね)
気が付くと、教室の内外で人だかりが出来て、そこここでヒソヒソと囁きあっていた。文芸部の文集や、例のフォトブックを持っている者も散見される。
(嗚呼、結局はこうなるんだ。本人達には自覚が無いんだからしょうがないけれど)
こんな大騒ぎを起こして大注目を浴びる事になった弟クンを残して去ってゆくのに、わたしは後ろ髪を引かれる思いだった。
(スマン、弟クン。これも、K高三大女神の弟に生まれた宿命なのだ)
この先に起こり得るであろう様々な騒動を想像して、わたしは、ちょっと頭が痛くなるような気がしていた。