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新入部員勧誘(6)

◆登場人物◆

・岡本千夏:高校三年生、文芸部部長。一人称は「わたし」。ちょっと舌足らずな喋り方の小柄な女の子。新入生の勧誘で大忙し。

・那智しずる:文芸部所属の三年生。一人称は「あたし」。人嫌いで有名だが、学業優秀の上、長身でスタイルも申し分のない美少女。本人は静かな生活を望んでいたが、舞衣の暗躍の所為で色々な意味で目立ってしまっている。

・高橋舞衣:舞衣ちゃん。文芸部の二年生。一人称は「あっし」。身長138cmの幼児体型。変態ヲタク少女にして守銭奴。毎度毎度、しずるをダシにしては金儲けを企んできた。


・里見大作:大ちゃん。高校二年生。文芸部にただ一人の男子で、千夏の彼氏。

・西条久美:久美ちゃん。高校二年生、双子の姉。髪の毛は左で結んでいる。

・西条美久:美久ちゃん。二年生、双子の妹。髪の毛は右で結んでいる。

・藤岡淑子:国語教師で文芸部の顧問。











<文芸部の部活動紹介でした。続いて、科学部の部活動紹介です>


 体育館での部活動紹介のスピーチが終わった。やっとこさだよ。


千夏(ちなつ)、お疲れ様」

「千夏部長、バッチリだったっすよ。さすがっすね」


 舞台の袖に戻って来たわたしに、しずるちゃん達が声をかけてくれた。

「いやあ、やっぱり、大勢の人の前で話すのって難しいよ。ライトは眩しいし、人、いっぱい居るし。汗かいちゃうし。まぁだ、ドキドキしてる」

 去年にも同じ事をした筈なのに、今回も同じような事を、わたしは言っていた。

「大丈夫よ、千夏。今回も上手に出来たから。きっと、入部希望者が来てくれるわ」

「だといんだけどねぇ。はぁ、シンドかった。……あ、ところで、ビラ配りの方は、どなった?」

 わたしは、自分の大役が一つ終わったものだから、任せてあったビラ配りについて訊いてみた。

「そっちは、大ちゃんと、久美(くみ)ちゃん・美久(みく)ちゃんで、やってもらってるっす。さっき訊いたら、順調に貰ってもらってるようっすよ」

 ふむ。ビラの方も、だいじょぶか。わたしも、後でお手伝いをしに行こうっと。

「袖で見ていたけれど、千夏のスピーチへの一年生達の反応、なかなか良かったわよ」

 舞台裏から体育館の端っこを通って出口へと向かう道すがら、しずるちゃんは、わたしにそんな事を話してくれた。

「いやあ、わたし、間違えないように原稿を読むので精一杯で、一年生の反応なんて全然分かんなかったよ。そんなに良かった?」

 実際の所、わたしは、自分のスピーチにちょっと自信がなかった。

「ほんとに良かったっすよ。少なくとも、今しゃべくってる科学部の兄ちゃんよりは、数十倍は上手かったっすからね」

 舞衣(まい)ちゃんも、口は悪いが、しずるちゃんと同様に誉めてくれた。

「だったらそれは、原稿が良かったからだよ。なんせ、女子高生プロ作家の清水(しみず)なちる先生の作だからね」

「そりゃそうっすね」

 わたしは舞衣ちゃんと顔を見合わすと、そう言って「アハハ」と笑っていた。だが、しずるちゃんは、ペンネームを出された為か、少しムッとしてこう言った。

「兎に角、やるべき事は何でもやりましょう。藤岡(ふじおか)先生の横槍で、プラカードを持って歩くのとかは禁止されちゃったしね」

「まぁ、そだね。そんなデモ行進みたいな戦術は、もう無理だね。サイン会も、図書室が騒がしくなるからって、司書の先生も難色を示してたし」

 この頃、文芸部──というよりも舞衣ちゃんのやる事なす事が派手だと言って、生徒指導からイエローカードが出ているのだ。まぁ実際、やりたい放題だったからなぁ。

 でも、わたしは、舞衣ちゃんお得意の力技が禁止されたことには、内心でホッとしていた。しずるちゃんじゃないけど、わたしも、あんまし目立つのはもう勘弁して欲しかったからだ。

 だが、当の本人は違うようだ。

「うううう。藤岡先生もヒドイっす。学生の自由な活動を制約するなんて。日本国憲法には、『結社の自由』と『言論の自由』が確約されてるっす」

 彼女は、そう言ってふくれっ面を作っていた。

「もう、そんな事言わない。でも、舞衣さんのお陰で、文集の入学特集号が間に合ったから、希望者には配布しましょうね。……んー、図書室以外で、どこか適当な場所があると良いんだけれど。後で、生徒会に相談に行きましょうか」

 しずるちゃんは、少し上を見ながら、そんな提案をしてくれた。体育館の窓から差し込む陽光を、彼女の丸淵の眼鏡がキラリと反射していた。背中で踊る艶やかな黒い三つ編みが、独自の意思を持って蠢いているようで、何故かわたしは奇妙な気分に捕らわれた。

「あっ、そうだ。千夏、あたし、帰りに写真部の部室に寄っていくのだけれど、良いかしら?」

 そんな時、しずるちゃんは、わたしの方へ振り向くと、そんな事を訊いてきた。

「良いけど、どしたの?」

 わたしは、ちょっとビックリして立ち止まると、そう訊き返した。

 すると、彼女は少し頬を赤らめて、こう付け加えた。

「……うん。あのね、例の『フォトアルバム』を分けてもらおうと。それから……」

 そこまで言って、しずるちゃんは言葉に詰まった。

「それから、ナンすか? 写真部に何か頼みごとがあるんなら、あっしが口利きするっすよ。今回も、散々恩を売っておいたっすからね。大概のことなら、聞いてもらえるっすよ」

 わたしの代わりに、舞衣ちゃんがそう応えた。


(あーと、それは、しずるちゃんが頑張ったからだよね。しかし、しずるちゃんのお願いって、何だろ? ちょっと気になる)


 わたしと舞衣ちゃんが、好奇心を隠せないでいると、彼女は、

「あ、いや。大した事ではないのよ。ちょっと受け取るもの(・・)があって……。それで、寄り道するだけだから」

 と言って、彼女は出口へ向き直ると、スタスタと先に立って歩き出した。

「ああ、先輩。しずる先輩ったら。待って下せいよぉ。あっしも行きますからぁ」

「あ、わたしも」

 残されたわたし達も、そう言って彼女の後を追った。



 目的の写真部の部室は、旧館の三階にあった。学校創立の早い時期から存在した由緒ある部であるそうだ。その所為か、暗室とか撮影用のスタジオとか、設備はかなり充実している。卒業生からの寄贈とかで、カラープリンタや編集用のパソコンとかも、高性能の最新型が揃い踏みだ。

 入り口から室内を覗くと、歴代の部員が撮ったと思しき写真が、額に入れられて飾ってある。

 しずるちゃんは、入口のところで少し躊躇していたが、意を決したように戸を引き開けた。

「こんにちわ。中里(なかさと)くん、居ますか?」

 彼女はそう言って、室内に少し首を差し込んだ。

「はぁーい。何か用っすか?」

 入口付近でデジカメをいじくっていた男子が、そう言って振り向いた。

「あ、えーと。文芸部の那智(なち)です。部長の中里くんは、いらっしゃいますか?」

 しずるちゃんは、澄んだよく通る声で、再度、そう訊いた。

「え? あっ、し、しずる先輩! お、お世話様です。せ、せ、先日は、お疲れ様でした」

 (くだん)の男子は、声をかけてきたのがしずるちゃんだと気が付くと、驚いてそう応えた。若干だが、声が裏返っている。

 何度か撮影で会っているとは言っても、学園のアイドルに声をかけられるのには、慣れていないらしい。まだ、赤い顔をしている。

 そんな彼に、しずるちゃんはにっこりと微笑むと、

「ごめんなさい、お仕事中に。中里くんは居るかしら。ちょっと用事があって」

 と問いかけた。これで三度目である。

「あ、ああ。部長っすか。えーっと、暗室の方に居た筈ですけれど。……ちょっと待ってて下さい。今、呼んで来ますんで」

 彼は少し慌てたようで、ぎこちなく立ち上がると、そそくさと部室の奥へと向かった。

「ういっす。繁盛してるっすかぁ」

 そんな間に、舞衣ちゃんは勝手に室内に入り込むと、馴染みの写真部員に声をかけていた。

「おう、高橋(たかはし)か。順調順調。今回も良い出来だよ。見るか」

「うんうん。見る見る」

「これだよぉ。昨日、届いたばかりなんだ。未だインクの匂いが新しいぜ。僕はこの匂いが好きなんだな。……えっ。那智先輩じゃん。き、来てんなら、早く言ってくれよ。ヒドイなぁ。……あっと、那智先輩、お疲れっす」

 話の途中でわたし達に気が付いた彼は、赤くなってこちらに向かって頭を下げていた。

「こんにちは。悪いわね、お邪魔しちゃって」

 しずるちゃんは営業スマイルで以って応えると、左手を少し持ち上げて手を振っていた。

「そんな、邪魔だなんて。ゆっくりしていって下さい。その辺、適当に座ってて下さい」

 彼は恐縮して、未だ入口で立っているわたし達に、中へ入るように促した。

「そおっすよ。適当に座って下せい」

 これは舞衣ちゃん。勝手知ったる写真部の部室である。きっと、深い癒着関係にあるのだろう。

 わたしとしずるちゃんは、折角なので座らせてもらう事にした。ふぅ。やっぱり、他の部の部室は落ち着かないな。しずるちゃんのご用って、何だろ?


 そうこうする内に、奥のドアが開いて、男子が二人出て来た。一方は、さっきの彼。もう一方の少し小柄な男子が、写真部の中里部長だ。

「ごめんごめん。お待たせしちゃって」

 そう言いながら、中里部長は長い紙筒を持って、こちらに近付いて来た。

「いえ、こちらこそ、忙しいところをお邪魔しちゃって」

 そう言って、しずるちゃんは立ち上がると、軽くお辞儀をした。わたしも、座ったまま会釈をする。

「那智さん、これ。例のフォトアルバムだよ。那智さん達が頑張ってくれたお陰で、素晴らしい物が出来たよ。荒木部長にも、胸を張って自慢できるレベルに達していると思うな」

 そう言って、中里部長は、一冊の冊子を差し出した。

 表紙は、三人の美少女が飾っている。

「なんたって、K高三大女神が揃い踏みだからね」

 やや興奮気味に、中里部長はそう言った。

「そんな変な肩書きなんか、要りませんから」

 しずるちゃんは冊子を受け取りながら、恥ずかしそうに顔を赤らめていた。

「K高三大女神って?」

 わたしは、一人キョトンとして、そう訊き返した。

「知らないんですかっ。高潔な知性の女神──文芸部の那智しずる。気品高き大和姫神(やまとのひめがみ)──生徒会副会長の和泉(いずみ)静香(しずか)。そして、猛々しい戦女神(いくさめがみ)──テニス部の野崎(のざき)智恵(ともえ)。我が校の誇る、三柱(さんはしら)美神(びじん)ですよっ」

 中里部長を連れて来た二年生の男子は、興奮気味にそう言った。

 言われてみれば、そだよね。

 表紙の和泉副会長は、落ち着いた和装。野崎さんは、ラケットを構えたテニスウェア。そして、制服のしずるちゃんは、本を胸に抱いていた。ベクトルこそ違えども、三人とも超のつく美少女である。

 しずるちゃんは、そんなフォトブックを見つめながら、

「別に、あたし以外のところは、要らないんだけどな……」

 と、小さく呟いていた。

「え? 何、しずるちゃん」

 その言葉に気がついて、わたしはそう問いかけた。

「えっ。な、何でもないわ。……こうやって表紙を見ると、やっぱり恥ずかしくって」

 と、彼女は慌てて、そう言い直した。

「何言ってるんですか。しずる先輩、すっごく綺麗ですよ」

「そうそう。今更恥ずかしがっても……。あっと、忘れるところだった。那智さんのお目当ては、これ(・・)でしょう。依頼通りに仕上がってますよ。ちゃんと、ラミネートコートも済ませてありますから。……んーと、念の為、ここで確認しましょうか」

 そう言って、写真部の中里部長は、手に持っていた紙筒を持ち上げると、それを開こうとしていた。

 しかし、どういう訳か、しずるちゃんは慌ててそれを制した。

「ちょ、ちょっと待って。大丈夫。確認しなくても良いから」

 彼女は耳を赤くして、紙筒を強引に取り上げようとしていた。

「何を恥ずかしがってるんですか。すっごく良く仕上がってますから。約束が無かったら、僕が貰ってコンクールに応募したいくらいですよ」

 中里部長は、そう言ってしずるちゃんから逃げると、紙筒の中身を広げた。それは……、


──窓辺に佇む美少女だった


 その大判のポスターには、白シャツ姿のしずるちゃんが、逆光の中、窓辺に膝立ちで写っていた。シャツの薄い布は、彼女の肢体(からだ)のシルエットを赤裸々に浮かび上がらせている。誰もが気になる布の向こうは、きっと生まれたままの素肌に違いない。だが、それ以上に、物憂げな美少女の表情が、光の陰影に浮かび上がって、堪らないエロティックな雰囲気を醸し出している。

「やだ、恥ずかしい。み、見ないで下さい」

 しずるちゃんは、白日の下に曝された自分の写し身を隠そうと、身を乗り出していた。しかし、机や椅子が邪魔になって、なんとも上手くいかない。

「きれい……」

 そのポスターに見惚れて、わたしは思わずそう呟いて仕舞った。

「うん、キレイだ……」

「…………」

 皆、写真の美少女に、それ以上の言葉が言えずにいた。

「もうっ、千夏まで。すっごい恥ずかしい」

 しずるちゃんは、そう言って両手で顔を隠すと、その場に踞ってしまった。


 うん、そだね。

 わたしが、同じ事されたら、羞恥で憤死してしまうよ。

 でも、すんごくキレイ。キレイだ……。


 わたしも、しばらくは、ぼぅとして何も言えなかった。身体が熱く火照っているのが分かる。

 そんな妖しい空間を切り裂いたのは、舞衣ちゃんの叫び声であった。

「な、なんすか、これわ。一体いつの間に、こんな途轍もないモノを作ったっすか!」

 いつやって来たのか、小柄な少女は、ポスターに喰い付くように、それに見入っていた。

「あ、高橋さん。来てたんだ」

 中里部長は、呑気にそんな返事をしていた。

「いや、それより、これはなんすか! さいっこうほーのお宝っすよ。量産して売る……、いや、五枚限定で高値で売り抜け……、いやいやいや、今すぐ競りにかけるっす。途方もない値が付くに違いないっす!」

 舞衣ちゃんは、半ば金切り声になりながら、そう叫んでいた。前代未聞のお宝に対して、まともな反応が出来ないようだった。

「絶対、やめて!」

 そんな舞衣ちゃんの言葉にいち早く反応したのは、しずるちゃんだった。

 真っ赤な顔をしてはいたものの、すっくと立ち上がって机の上からポスターをかっさらうと、素早く元通りに巻いてしまったのだ。

「まったく、油断も隙もありゃしない……。もうっ」

 彼女は、ポスターを紙筒にしまうと、小冊子と共に大事そうに胸に抱えこんだ。

「さ、もう用は済んだわ。中里くん、ありがとうね。このお礼は、必ずするから。さ、千夏。行きましょう」

 しずるちゃんはそう言うと、そそくさとその場を立ち去ろうとしていた。

「う〜、しずる先輩。ヒドイっすよ。……中里先輩。今のデータ、残ってるんでしょ。もう一枚。もう一枚、作りましょう!」

 舞衣ちゃんは、中里部長の袖を引っ張ると、おねだりをする駄々っ子のように、そう言っていた。

「いや……、それが、そのう。……那智さんとの約束でね。アレは一枚きりなんだよ」

 中里さんは、そう言って頭を掻いていた。

「約束って……。そんなん反故にして、作っちゃいましょうよ。すんごい高値で売れるっすよ」

 舞衣ちゃんの目が、狂気を孕んで妖しく光っていた。

「ダメだよ、高橋さん。これは、部長も荒木先輩も含めて、写真部の皆と那智さんとの約束なんだ。それが、あの写真を撮る時の条件。破る訳にはいかないんだ」

 中里部長と一緒に居た二年生が、真面目な顔をしてそう言った。

「ええー、なんでぇ~。あんなにキレイでエロいのに。誰もが欲しがるっすよ」

 尚も喰い下がる舞衣ちゃんに、

「だからだよ。ああいうのは、一番大事な(ひと)にしか、持っていてもらいたくないんだろうね」

 と、中里部長は諭すように言って聞かせた。

「高橋さんも、ああいう写真()が欲しいんなら、自分がモデルになってみたら? キレイに撮ってあげるよ」

 中里部長の言葉に、舞衣ちゃんは、

「むぅー。先輩のイケズ」

 と言って、黙り込んで仕舞った。


 あのポスターとフォトブックは、きっと彼氏さんにあげるんだろう。

 あんなの持たされちゃ、おちおち浮気も出来ないだろうしね。

 しずるちゃんらしいや。


(あっ、それでか)


 わたしは、さっきしずるちゃんの呟いた、「別にあたし以外のところは、要らないんだけどな」って言葉を思い出した。


(フォトブックには、他に二人の美人さんが写ってるもんね。しずるちゃんて、意外にヤキモチ焼きだから)


「二人共、何してるの。部室に帰ったら、文集のチェックして配りに行くわよ」

 入口の方から、いつものイラッとした調子の声が聞こえた。

「はぁーい。ほら、舞衣ちゃんも、もう行こう。中里部長、お邪魔しました」

 わたしは、未だ彼の袖を握っている舞衣ちゃんの襟首を引っ掴むと、入口へと引っ張った。

「やん、部長。あっしには、重大な使命がっ」

 わたしは、嫌がる舞衣ちゃんを引きずって、しずるちゃんのところまで連れて行くと、

「失礼しました。舞衣ちゃん、行くよ」

 と言って、写真部の部室から舞衣ちゃんを無理矢理引きずり出した。

「もう、二人共。ほら、行くわよ」

 しずるちゃんは、非難するように強い口調でそう言うと、廊下を先に立って歩き出した。

「あーん、千夏部長。あっしは、あっしには、未だやり残した事がぁ」

 未練がましい舞衣ちゃんに、しずるちゃんは、

「いい加減にしなさいっ。ほんっとうに、怒るわよっ」

 とキツイ目をして、刺すように言葉を放った。

「うぃー。先輩、もう怒ってるっす」

 如何にも残念そうな舞衣ちゃんであったが、しずるちゃんは、

「当たり前です。もうあんなのは、金輪際しないからねっ。どうしても儲けたいなら、千夏にでもモデルをお願いしたら」

「ええっ。千夏部長にっすか。そんな事したら、大ちゃんがアングリーモードになっちゃうっす。生命がいくつあっても足りないっすよぉ」

「なら、久美(くみ)ちゃんとか美久(みく)ちゃんに頼むのね。それか、いっその事、舞衣さんがモデルになればいいのよ」

「先輩。それは、きっつい冗談すよ。それより、アレのデータ、持ってるんでしょ。ちょっとだけ……」

「ダメ! 絶対イヤ! もうっ、恥ずかしいったらありゃしない」


 歩きながら、尚も口論を続ける二人だった。その後を、トコトコ追いかけるわたしは、


「彼氏さん喜ぶよ。きっと大事な宝物にするよ」


 と、前を歩く長身の女神に声をかけた。


「っむ」


 そこにあったのは、頬を染めて振り返った普通の美少女の顔だった。




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