新入部員勧誘(5)
◆登場人物◆
・岡本千夏:高校三年生、文芸部部長。一人称は「わたし」。ちょっと舌足らずな喋り方の小柄な女の子。入学式を前に新入生の勧誘を計画している。
・那智しずる:文芸部所属の三年生。一人称は「あたし」。人嫌いで有名だが、学業優秀の上、長身でスタイルも申し分のない美少女。学園のアイドル的存在。実は「清水なちる」の筆名で活躍する売れっ子小説家。今では色々な意味で目立ってしまっている。
・里見大作:大ちゃん。高校二年生。文芸部にただ一人の男子で、千夏の彼氏。一人称は「僕」。2mを越す巨漢だが、根は優しいのんびり屋さん。その見かけに反して、手先が器用。彼女の千夏に首ったけ。
・高橋舞衣:舞衣ちゃん。文芸部の二年生。一人称は「あっし」。身長138cmの幼児体型。変態ヲタク少女にして守銭奴。毎度毎度、しずるをダシにしては金儲けを企んできた。
・西条久美:久美ちゃん。高校二年生、双子の姉。一人称は「私」。おっとりした喋り方の可愛らしい女の子。髪の毛は左で結んでいる。かつて、大作に自分の気持ちを告白したことがある。
・西条美久:美久ちゃん。二年生、双子の妹。一人称は「私」。おっとりした喋り方の可愛らしい女の子。髪の毛は右で結んでいる。
週が明けて、新一年生が入学してきた。先週よりも、校内が活気に溢れているような気がする。
「当然よ、千夏。校内の総人口が約1.5倍になったんだから」
わたしの感覚的な反応に、しずるちゃんは科学者みたいな解答をした。
「もう、しずるちゃん。そんな言い方したら、身も蓋もないじゃない」
今、わたし達は、文芸部の部室である図書準備室で、お昼ご飯を摂ろうとしていたところだ。今日は、午前中の授業でお終い。それで早速、部室へやって来ていたのだった。
部室の窓から中庭を見下ろすと、サクラの花びらの舞う中に、初々しい新一年生達が、そこここに集っているのが見える。
わたしの隣で、同じ様に中庭を見下ろす美少女が、那智しずる嬢である。背中にかかるツヤツヤしたストレートの黒髪を、一本の三編みに編み込んでいる。
(そういや、しずるちゃんって、髪を切る前の髪形も編み込みの三つ編みだったよなぁ)
ぼんやりとそんな事を考えるわたしは、春の陽を受けて煌めく彼女から目が離せないでいた。
丸淵の眼鏡の奥から覗く眼差しは珍しく穏やかで、整った顔立ちや白い肌と共に、彼女の美しさを際立たせている。
淡い桜色の唇が、時折、何かを囁くように動いている。その艶めかしさが、わたしの心臓を掴んで離さない。自分でも、心拍数が上がるのが分かる。
「どうしたの、千夏。顔、赤いわよ。熱? でもあるのかしら」
しずるちゃんは、わたしの方へ顔を向けると、そう問いかけてきた。
でも、わたしは、すぐには応えることができなかった。窓際に佇む彼女の姿が映画のワンシーンの様で、わたしの心を釘付けにしていたからだ。
「千夏、どうしたの? しんどい? 保健室、行こうか」
そんなわたしを心配して、しずるちゃんはそう言うと、顔を近付けて来た。
彼女は、陽光を反射する眼鏡を取ると、片手をわたしの頬に当て、すぐ目の前まで迫ってきた。
潤んだ瞳に、わたしの目が映っている。それが、間近に近付いてきて……、静かな彼女の吐息がかかるまでになる。
そして……、顔と顔が重なる……。
「ひゃっ」
おでこに彼女の肌の温かみを感じて、わたしは思わず悲鳴を上げた。
彼女の顔が遠ざかる。
「ふむ。熱は、……無いようね」
わたしのすぐ鼻の先に、端正なしずるちゃんの顔があった。
(うひゃあ、キス……されるかと思ったぁ)
思いがけない彼女の行動で、わたしの頭は暴走しかけていた。
「やっぱり、調子悪いみたいね。……千夏、もしかして、あれの日? 少し時期が早いけど。やっぱり、念の為、保健室行こうか」
わたしを気遣ってくれるその言葉で、何とか我に返る事が出来た。
「あっと、何でもないよ。ちょっとボーッとしただけ」
しずるちゃんに見惚れていた、なんて言える訳がない。
わたしは、苦笑いを浮かべて、否定した。
「本当かしら。一年生は、今日一日は、学校のオリエンテーション中心だから、部活の勧誘は出来ないのよ。だから千夏、ゆっくり休んでていいのよ」
わたしを心配そうに見つめる彼女の瞳は、涙で潤んでいるように見えた。もしかしたら、いつもかけている眼鏡を外しているからかも知れない。
再び、わたしの意識が、霧に取り込まれそうになる。
しかし、「何かイケナイ事をしそうになっている」という背徳感が、わたしを現実に引き戻した。
「だ、だいじょぶ。ホントにだいじょぶだから」
そう言って、わたしは彼女の呪縛から逃れようとした。
「本当? 辛かったら言ってね」
そう言いながら、しずるちゃんは眼鏡をかけ直した。
そんな時、両手で眼鏡の位置を整えている彼女の向こうから、不審な声が聞こえてきた。
「フヒヒヒヒ。ようやく集まってきたな、我が下僕達よ」
「なーに中二病みたいな事、言っているのよ」
しずるちゃんにそう言われて頭を叩かれたのは、ボブカットの小柄な少女であった。
「痛いっすよ、しずる先輩」
窓際で頭を押さえながら不平を訴えたのは、高橋舞衣ちゃんであった。
「あっしらは二年生。あそこに居るのは、ヒヨッコの一年生どもっす。一年生は、先輩の言う事を聞くもんすよ」
そう言う舞衣ちゃんの口の端には、赤いジャムがこびり付いている。
「そんな事言ってるけど、舞衣さんがあたし達の言う事なんて聞いた事があったかしら。……ああ、もう。ジャムが付いているわよ。ちょっと見せなさい」
しずるちゃんは、そう言って舞衣ちゃんを嗜めると、強引に彼女の顔を捻じ曲げて、口の周りに付いているジャムをハンカチで擦り取ろうとしていた。
「ひゅやはははゃ。ふぇんぱい……、ひたいっす。もっほ、やさひく……、ふひぃぃぃ」
高校二年生とは思えぬ子供っぽい舞衣ちゃんを押さえつけて、しずるちゃんはハンカチを握る手に力を込めていた。
「ん、もう。取れないわね。……はぁー、これでどうだ」
頑強にこびり付いたジャムを溶かすために、しずるちゃんはハンカチを唾液で湿らすと、再び舞衣ちゃんの頬を擦り始めた。
「一体どんな食べ方をしているのかしら。舞衣さんも女の子でしょう。もう少し、お行儀よく出来ないものかしらね」
愚痴をこぼしながらも、しずるちゃんは、甲斐甲斐しく舞衣ちゃんの顔を拭いていた。
「しずるちゃんて、結構面倒見が良いよね。いつもツンツンしてるから、それで損してるよねぇ」
わたしは、二人のやり取りを見て、そんな事を口走った。
「なぁに、千夏。酷い言いようね。あたし、下に弟達がいるから、世話は焼く方なのよ。最近になって作家業を始めたから、今は放りっぱなしだけれど」
しずるちゃんは、顔を一旦わたしの方へ向けると、そう反論した。
「そうだったね。しずるちゃんて、お姉さんだったね」
わたしは、そう言って、「ヘヘヘ」と頭を掻いた。彼女は再び舞衣ちゃんの顔を拭きながら、
「お料理とか家事とかだって、しないだけで、出来ないわけじゃないわ」
と言った。少し強いその口調から、若干お冠である事が分かる。
そういや、しずるちゃんて、家庭科の時も、最初はわたし達がお料理を作るのをじっと見てたっけ。その後の最後の十五分で、完璧なお味噌汁を完成させてたよなぁ。
(しずるちゃんて、やろうと思えば、何でも出来る娘なんだ。いいなぁ。すごいよなぁ)
美人で、背が高くてモデルさんみたいで、プロの小説家で。その上、やろうと思えば家事だって何だって出来るなんて、ズルイな。
わたしには、あまり取り柄がないので、少しだけ彼女が羨ましかった。
そんな事を考えていた時、部室の扉が開いた。
「ただいまですぅ」
「校内を見てきましたぁ」
そう言いながら入ってきたのは、双子の西条姉妹である。後には、大ちゃんの巨体が見えている。
「あっ、ありがと。ポスターとか、どだった?」
わたしは、三人に校内の様子を尋ねてみた。彼女達は、掲示板のポスターや、体育館の掲示を確かめに行ってもらってたのだ。
「なんか、うちの部のポスター、受けてそうでしたぁ」
「他の部よりも、目立ってましたよぉ」
二人はそう言うと、ぱたぱたと中央のテーブルに近づいて、手近の席に並んで腰掛けた。
「体育館の方も、部活紹介のプログラムを一年生達が見てたんだなぁー。メモを録っている人も居たんだなー」
ヌボォーとした声で、高みから話し掛けてきたのは、里見大作──大ちゃんだ。
彼は、テーブルへは行かずに、窓際のわたしのところにやってくると、
「ち、千夏さん、……お、お昼、一緒にどーかなー……なんて……」
と、オドオドした感じで話し掛けてきた。そういや、わたし、未だお昼ごはん食べてなかったよ。
「うん。わたしも未だなんだ。一緒に食べよ。しずるちゃんも、食べるよね」
わたしは、大ちゃんからしずるちゃん達の方へ顔を向けると、そう訊いた。
「ええ。食べるわよ。午後からも、やる事があるものね。……ほら、キレイになった。舞衣さんは、もう少しお淑やかにしなくちゃね。そうすれば、可愛くてよ」
舞衣ちゃんの口を拭き終えたしずるちゃんは、そう言って彼女を嗜めた。
「カワイイ? あっしがっすか。あっしなんかに寄って来るのは、ロリコンの変態オタクだけっすよ」
と、彼女は口元を左手の袖で擦りながら、自嘲じみた事を言っていた。
「変にスネない。それより、配布物とかはどうしたの。準備は出来ているかしら?」
しずるちゃんは、そんな舞衣ちゃんに、明日の確認をしていた。本来は、部長のわたしの役目なんだけど、ついつい流れでこうなってしまう。
「大丈夫っす。お昼喰ったら、確認するっすよ」
そう言いながら、舞衣ちゃんはテーブルに戻ると、置いてあったレジ袋から、購買部特性の『ジャンボメロンパン』を引っ張り出していた。しかも、二個も。
「はぁ。未だ食べる気? 一体、その身体のどこに入っていくのかしら。ある意味、興味深いわね」
しずるちゃんは、そんな舞衣ちゃんに呆れながらも、作家根性からなのか、彼女の食欲に興味を示していた。
「まぁまぁ、しずるちゃんもそんな事言わずに。お食事くらい、和やかに食べようよ。えと、あったかい玄米茶を用意してるから、皆、飲んでねぇ」
少しツンケンした部室の空気を変えようと、わたしはそう言って、お盆に大きめの急須と湯呑茶碗を乗せると、テーブルに戻った。
それで、各自で昼食となった。わたしや久美ちゃん達は、おべんと。大ちゃんも、大きなお弁当箱を目の前に置いていた。しずるちゃんはというと、購買のサンドウィッチ。
一方の舞衣ちゃんは、レジ袋から更に五個くらいの大きな菓子パンを取り出すとテーブルに広げていた。
「よく、それだけ食べられるわね。でも、菓子パンばかりじゃ栄養が偏ってよ、舞衣さん。どうせなら、惣菜パンも食べなさいな」
しずるちゃんは、尚も舞衣ちゃんのお昼にケチをつけていた。自分も、購買のサンドウィッチなのに。
「しずる先輩こそ、買ってきた物じゃないっすか。しかも、そんなにチョッピリ。お腹空いて倒れるっすよ」
舞衣ちゃんも負けてはいなかった。菓子パンをモゴモゴしながらも、サンドウィッチに物申した。
「あたしはいいの。これ以上、背丈を伸ばしたくないし。座り仕事ばかりだから、ちょっとウエストも気になっているのよ」
と、しずるちゃんは、片手でお腹の辺りを触りながら、そう言っていた。
(いいなぁ、しずるちゃんは。今でもスタイル良いのに、未だ向上する伸びしろがあるんだ。わたしなんか、ちっこくて、コロコロしてるし。お腹とかフクロハギはいいから、身長が欲しいなぁ)
わたしは、自分の分のおべんとを食べながら、そんな事を考えていた。
「そういや、部長も先輩も、今年は別々のクラスになったんすよねぇ」
各自が食事をする中、舞衣ちゃんが唐突に、そんなことを訊いてきた。
「そうよ。進路別のコースになっているの。この前、話したでしょう」
しずるちゃんは、渋い色の湯呑を両手で支えて口元につけていた。ただの玄米茶も、彼女が飲むと、絵になってしまう。
わたしが、しばし彼女に見惚れていると、
「でも、どこが変わるんすか? 来年は、あっしらが三年生になるっすから、参考にしたいっす」
と、舞衣ちゃんが珍しくまともな事を訊いてきた。
「そうね……。まず、クラスやコースによってカリキュラムが違うわね。あたしの選んだ『文系Ⅰ』のコースは、難関国立私立大学の文系学部の入試向けなの。千夏は、『文系Ⅱ』のコース。中堅大学への入学が目標よ」
彼女の問に、しずるちゃんはそう応えた。
「ⅠとⅡで、何か変わるんすか? どっちも、文学部とか経済学部への合格を目指すんすよね」
舞衣ちゃんは、未だ納得しないのか、しずるちゃんにそう質問した。
「そうねぇ……、一番違うのは、科学・数学と小論文かしら。『文系Ⅰ』じゃ、数Ⅲまでやるわね。解析数学の初歩とか、統計学を少し。『文系Ⅱ』は、せいぜい数ⅡBまでだったかしら。それに、英語や、国語・古文、歴史なんかの範囲も違うのよ」
しずるちゃんの説明は、やっぱりしずるちゃんだった。
「先輩、難しくって分かんないっすよぉ」
舞衣ちゃんが顔を顰めると、しずるちゃんは、
「えっと、微分とか積分とか、難しい数学もやるの。科学は自由選択だけれど、あたしは、物理と化学を選んだわ。確実に点が取れるから。生物とかにすると、覚えることが多いし」
と、補足をした。だが、
「余計、分かんないっす。どーして、文系の学部を受験するのに、理系並みの科学や数学なんてやるんすか」
舞衣ちゃんは、菓子パンの欠片を口に放り込むと、少し不満げにそう言った。
「数学は大事なのよ。経済学は統計出来ないとマクロな動きとか理解んないし。文学や古典の研究だって、語句の出現頻度を解析したり、品詞の揺れを分析して傾向を特定する論文も出ているのよ。歴史だって、考古学では同位体法や熱ルミネッセンス法とかで年代測定するし。法律だって、丸覚えじゃなくて、AIを使って過去の似たような判決例を類似パターンで抽出するツールも使われ出そうとしているわ。数学も科学も、計算機学も、理系だけじゃなくって最先端の文系の学問にも必須なの。分かって?」
しずるちゃんの長い説明が……終わった。
(そ、そうだったんだ……。ぜんっぜんっ知らなかった)
「……まぁーったく分かんないっす」
舞衣ちゃんの応えは簡潔だった。
「んー、……じゃぁ、舞衣さん、FXって知ってるでしょう。為替とか、先物商品や株の上がり下がりは、統計を使って数学的に先読みする手法がいくつかあるの。それに加えて、ビッグデータを用いて世界情勢の動きを読んで、為替変動の傾向から売り買いを判断したりもするわね。農産物の先物だったら季節変動や気象条件が影響してくるから、過去データや地球規模の気象を解析するのは重要なのよ。それに、もし他人が知らない法則性を発見しても、プログラミングが分からなければ、予測分析の計算が出来ないでしょう。つまり、科学や数学を知っていると、『お金儲け』がしやすくなるの」
これまた長いしずるちゃんの説明だった。彼女は、「これでどうだ!」という顔をしていた。
「なる程! 理解したっす。数学は超大事っすね。これからは、あっしも統計学とビッグデータを勉強するっすっ! それから、プログラムも。他人任せじゃ、業績を奪われる可能性もあるっすからねっ!」
舞衣ちゃんは、如何にも納得したって顔をしていた。
はぁ、そうだった。舞衣ちゃんて、こういう娘だったよ。こと『お金儲け』という事となると、飛躍的に頭の回転が早くなるんだ。
「わたしの『文系Ⅱ』だったら、科学や数学はそれ程勉強しなくってもいんだよ。わたしは、生物と、地学──天文を選んだんだ。センター試験対策だけれどね。わたし、化学反応の理屈とか、よく理解んないし。その代わり、英語と、古典や近代文学は力を入れるよ。要は、①センター試験で出る範囲。②希望の大学の入試問題の範囲。この二つで、おおまかにカリキュラムが区別されてるんだ」
わたしは、念の為、自分のコースについても説明した。
「後、やっぱり、英語は超重要ね。論文読む時は、基本、全部英語だから」
しずるちゃん、それ、大学に入ってからの話だよね。わたしなんか、センター試験で足切りされない事の方が心配なのに。
「なる程、なる程。でもまぁ、センター試験の方は楽勝っすよ。偏差値の上から下まで一斉に受けられるような問題が出るんでしょ。そうっすねぇ……、目標は八百点くらいっすかね」
と言いながらも、舞衣ちゃんは美味しそうに次の菓子パンを囓っていた。
(そんなに簡単だったら、苦労して受験勉強なんてしてないよ。舞衣ちゃん、来年になって困っても知らないよぉ)
わたしは、何だかバカにされたみたいに感じて、心の中でそう思っていた。
「でも、大丈夫だわ。文芸部にくれば、いつでも皆に会えるし。卒業しても、大学が別になっても、千夏はあたしの大事な友人よ」
そう言うしずるちゃんの目は純粋で、ついさっきまで心の中で僻んでいたわたしは、ちょっと恥ずかしくなった。
「も、モチロンだよ。わたしだって、しずるちゃんの事、親友だって思ってるよ」
わたしは敢えてそういう事で、自分の僻み根性を振り払おうとした。
「しずる先輩に、勉強教えてもらえるっすもんねぇ」
「もうっ、舞衣ちゃん。わたし、そんな事で友達してるんじゃないもんっ」
舞衣ちゃんのチャチャに、わたしは激しく反応した。
「もうっ、舞衣ちゃんったら。そんな言い方ないよ」
わたしは、ふくれっ面を作ると、そっぽを向いてしまった。そんなわたしを、しずるちゃんは優しい目で見つめてくれているように思えた。
「クスッ。それより舞衣さん、お昼が終わったら明日の準備をするわよ。ええーっと、あたしは、制服着て図書準備室で座っていればいいのかしら。急に水着になれって言われても、絶対に脱がないからねっ」
最後の一言は、念押しだろう。よっぽど脱がされるのが嫌だったらしい。
「分かってますっすよぉ。しずる先輩には、期待度大ですんで。笑顔。笑顔で接客っすよ」
舞衣ちゃんからの念押しに、しずるちゃんも、
「分かっています。お渡し会とか、サイン会とかは、編集部に依頼されて何度もやってきたから」
と言い返していた。
「んんんー、……っぷはぁ。うー、美味かったっす。さぁて、準備するっすよぉ。久美ちゃんも美久ちゃんも、ヨロシク」
舞衣ちゃんは、最後に湯呑のお茶を飲み干すと、席から立ち上がって西条姉妹に声をかけた。
「ああん、もうちょっと待って下さいませぇ」
「まだ、お弁当を食べきっていませんのよぉ」
久美ちゃん達は、そう悲鳴を上げると、お昼ご飯の残りを急いで口に運んでいた。
そっか、明日は本格的に新入生の勧誘だ。
「大ちゃんも、しずるちゃんも、舞衣ちゃんに負けずに頑張ってもらうよ」
わたしが二人にそう話しかけると、
「勿論よ」
「分かってるんだなぁー。あ、明日は、千夏さんと、い、一年生を勧誘するんだなぁー」
と、力強い返事が返ってきた。
よし、ガンバ、だ。